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第三章 Hello, my friend
第64話 GT
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そんなわたしの心配を他所に、相手のランサーと先生の運転するルノーの咆哮がお互いに山道にこだまする。
カーブが来る度に訪れる甲高いエンジン音と鋭い減速。その度に体が前方に放り出されるようになるが、先生が四点式と呼んでいたレーシングドライバーが絞めているようなごっついシートベルトはしっかりと体を捉えて離さない。
続け様に訪れる強烈な横Gに、今度は内臓ごとぶっ飛んで行きそうな気分だが、先生ご自慢のレカロ製フルバケットシートが体をまるごとすっぽりホールドして支えてくれる。
次第に二車の追いかけっこは白熱したカーバトルの様相を呈し、勢いタイヤは軋み、悲鳴を上げる。コーナーの頂点近づくに連れその音は最高潮となり、強烈な横Gから解放される頃にはエンジン音の高まりと強烈な縦Gがそれに取って代わる。
「くそぉ~、向こうもなかなかの腕前だな。生徒乗せてあまり本気出すわけにもいかんしな……。取り敢えず付いていくだけ付いて行ってみるか」
あれ、まだ本気出してなかったの? 意外と凄いんだなこの車……。
付いて行くだけと言いながらも、相変わらずのハイペースは変わらない。向こうの車もかなりのペースで逃げている。
九十九折れの峠道をどんどんと進むと、やがて頂上極まって道は下り始めた。
「国産四駆の性能もここまで進化しているのか。だがダウンヒルじゃこっちも負けてないぞ! ミッドシップの底力を見せてやる!」
あぁ、完全に目的が変わってきちゃってるな……。
しかし先生は自分の言葉に違わず、下りに入ってからペースはより一層上がったように感じる。軋むボディを受け止めるサスペンションは、しっかりとタイヤを路面に押し付け、四本のタイヤはあたかも食らい付くかのようように路面を捉えて離さない。
先生の駆るルノーは、ブラインドコーナーを抜ける度にじわじわと相手の車をとの距離を詰めて行く。
そうこうしているうちに、ついに相手の車がもう目と鼻の先まで近づいてきた。
「さあ追い詰めたぞ。ミッドシップ舐めんな!」
「先生、追い付いたのはいいけどどうするんですか?」
「んん? いや、特に考えてない!」
「えぇっ?」
まじかよ、勘弁してくれよ、ホント。
「取り敢えず付いてく! って、うわっ!」
先生が何かに驚いて奇声を発した。
その直後のことだ。猛烈なスピードで横滑りしながら、ルノーの横を追い越していく車があった。もうもうとタイヤの白煙を上げながら、その車は前のランサーまで追い抜いて先頭に出た。
「なんじゃー、あのインプレッサ? こっちだって結構なスピードで攻めてるのに派手なドリフト極めてあっさり追い抜いていきやがって!」
黒塗りのインプレッサは先頭に立つと少し速度を落とし、ランサーの行く手を阻むような動きをしている。
「今度はあのインプ、走行の邪魔をし始めたぞ? 何だか質の悪い走り屋に絡まれたかな……」
こちらもスピードを落とさざるを得なくなって、わたしとしては少しホッとしたが、先生はバトルが中断されてしまったことに少し不満そうだ。この人本懐を遂げる気なんて更々なかったんじゃなかろうな。
それからちょっとして、聖連ちゃんからメッセージが入った。
少し離れるようにという指示だ。
そうではないかと思っていたが、ド派手に追い抜いていったあの黒い車は、やはり十一夜君だったのだな。
この先に道幅が広くなっている急カーブがあり、そこで十一夜君は、敵の車をスピンさせるつもりだそうだ。
そんなことができるのかというのがまず驚きだが、それ以上に驚きなのが丹代さんも乗っているあの車をスピンさせようというその発想だ。
何と言ってもこの峠道。少し道を外れれば崖を真っ逆さま。かと言って反対側に待ち受けているのもそそり立つ壁。道を外せばどの道大事故。怪我は免れまい。
ところがそれを敢えてやろうという十一夜君。恐らく彼がやると言うからには完璧にやり遂げる目算が立っているということだろう。
「先生、何か危ないですよね。ちょっと距離を取った方がよくないですか?」
「おぉ、そうだな。何か向こうは危ない奴に絡まれてるようだ。巻き添え食ってちゃ本末転倒だ」
そう言うと先生はアクセルを緩め、あれよあれよという間に前方の車との距離が開いた。
それからブラインドコーナーを幾つか抜けると、正に十一夜君の思惑通り、敵の車がスピンして漸く収束しようかというところだった。
「うわっ!」
流石に驚いた様子の先生だが、車の操作は意外に冷静で、速度を緩めていたこともあり、スピンしている相手の車を巧く躱して路肩に寄せて停車した。
前に十一夜君が被っていたのと同じような目出し帽を被った聖連ちゃんが降りてきて、恐らく中はパニック状態であろう敵の車に近づいていった。
聖連ちゃんの手にはまた怪しげな機械が握られており、ドアの方にそれを向けると、恐らくドアロックが外されたのだろう。素早くドアを開けた聖連ちゃんはスプレーを車中に振り撒いてまたすぐにドアを締めたかと思うと、持っていた機械を再びドアに向けた。
「こいつ何者だ? こっちに来ないだろうな、おい」
先生は不安を口にしながらも、丹代さんのことがあるので目を離せないでいるようだ。
聖連ちゃんは車の中を覗いて様子を確認してから、今度はこちらに近づいてきた。
慌てて先生はエンジンを始動して逃げようとする。
「待って、先生! この人は大丈夫だから、多分」
「え? だってなぁ、お前! あの……」
先生がまごまごしているうちに聖連ちゃんは既にここまで来ており、運転席側の窓をノックしている。
驚いた先生が固まっていると、聖連ちゃんは両手を上げてぶらぶら振って攻撃の意志がないことを示している。
「ほら、先生。大丈夫だって!」
先生は恐る恐ると言った感じで窓を開けた。体にかなり力が入っているようで強張っている。
「NPO法人オンズィエム・ニュイの聖連と申します」
目出し帽を脱いだ聖連ちゃんが、名刺を差し出して挨拶してきた。
今日の聖連ちゃんはメガネを外してメイクもしており、いつもより少し大人びた印象を受ける。
先生は取り敢えず名刺は受け取ったものの、相変わらず固まったままだ。
わたしが名刺を覗いたところ、『聖連明美』という偽名になっていた。こんなものまで用意しているとは手が込んでいる。
「実は華名咲様よりご連絡をいただきまして、駆け付けた次第です」
聖連ちゃんは至って真面目な顔をしてもっともらしく先生に説明しているが、なるほど、華名咲の名を使えばある意味何でもありだ。突飛なことでもそんなこともあり得るんじゃないかと思わせてしまう説得力がある。
「え、あ、はぁ~。そうですか……」
先生は助手席のわたしの方を向いて、そうなの? と目で訊ねている。その向こう側では聖連ちゃんがおちゃめにウィンクしている。
「先生、この人たちは華名咲の手の物です。ご心配なく。警察より頼りになりますから安心してください」
わたしとしてもアドリブで返すしかない。聖連ちゃんは先生の向こうで人の悪そうな笑みを浮かべている。
「丹代花澄さんの身柄はこちらで責任持って保護させていただきます」
「……あの車の連中は……?」
先生も恐る恐るという感じで聖連ちゃんに質問する。
「今一時的に眠らせてあります。暫くは起きないと思いますが、どういった素性の者たちなのか気に掛かりますので、取り調べの上しかるべき処置を取りたいと思います」
「丹代花澄は、これからどうなるんですか?」
「ご両親は国内にいらっしゃらないと伺っておりますので、一旦はわたくしどもの保有する保護施設で預からせていただきますが、他に身寄りの方がいらっしゃるようでしたらそちらに受け入れを打診させていただこうと思います。もっともまずはご本人のお話を伺ってからになりますがね」
先生は完全に呆気に取られた状態だったので、聖連ちゃんのもっともらしい説明に特に異議を唱えることもなかった。
お陰で聖連ちゃんもサクサクと仕事を進めることができたようで、丹代さんを拉致した連中の車を路側帯に寄せて、中で眠っている男どもを次々と縛り上げていった。それから一人ずつインプレッサの方へと男たちを運んでいたが、聖連ちゃんはさして苦労している様子もなく仕事を終えた。
その一連の手際の良さときたら、流石は十一夜君の妹と言わざるを得ない。やはり彼女も相当の鍛錬を積んでいるのだろう。
担任の細野先生がいる手前、流石に十一夜君は姿を現わさなかったが、インプレッサの運転手は彼だろう。聖連ちゃんはそのまま丹代さんを乗せた敵の車の運転席に乗り込み、やがて二台の車は去って行った。
一連のできごとの途中、何台かの車両が通り過ぎて行ったが、特に誰にも気に留められることはなかったようで、速度を緩めるような車はなかった。
茫然自失としていた先生がわれに返るには、それから暫く時間を要したが、気を取り戻すと、今見てきたことは夢じゃないよなと、二度ほどわたしに確認してきた。
「夢じゃありませんよ。丹代さんは救出されました」
先生の気持ちも分かる。突然、まさかいるはずのない丹代さんが、あろうことか拉致される現場を目撃してしまった。その車を追いかけているうちに何だか凄いカーチェイスになってしまったかと思えば、NPO法人の人間だと名乗る謎の人物に全部持ってかれたのだ。狐につままれたような話だ。
「それにしても、華名咲家ってやっぱ凄いんだなぁ……」
しみじみと噛みしめるようにして先生が呟く。
まあ、本当に華名咲家が動いたらこんなものではないだろうと思うが、ここは都合よく誤解したままでいていただこう。
こうして細野先生を巻き込んでの丹代さん救出劇は一旦幕を下ろした。
先生にはそれなりに活躍してもらったのだが、蓋を開けてみれば本当に活躍したのは十一夜君たちだったというのは相変わらずだ。
そのまま先生に自宅まで送り届けてもらった頃には、そろそろ夕食の準備が始まるかという時間になっていた。
そこにはさっきまでの非日常的なできごとなど、まるで嘘だったかのように和やかな日常が横たわっていた。
カーブが来る度に訪れる甲高いエンジン音と鋭い減速。その度に体が前方に放り出されるようになるが、先生が四点式と呼んでいたレーシングドライバーが絞めているようなごっついシートベルトはしっかりと体を捉えて離さない。
続け様に訪れる強烈な横Gに、今度は内臓ごとぶっ飛んで行きそうな気分だが、先生ご自慢のレカロ製フルバケットシートが体をまるごとすっぽりホールドして支えてくれる。
次第に二車の追いかけっこは白熱したカーバトルの様相を呈し、勢いタイヤは軋み、悲鳴を上げる。コーナーの頂点近づくに連れその音は最高潮となり、強烈な横Gから解放される頃にはエンジン音の高まりと強烈な縦Gがそれに取って代わる。
「くそぉ~、向こうもなかなかの腕前だな。生徒乗せてあまり本気出すわけにもいかんしな……。取り敢えず付いていくだけ付いて行ってみるか」
あれ、まだ本気出してなかったの? 意外と凄いんだなこの車……。
付いて行くだけと言いながらも、相変わらずのハイペースは変わらない。向こうの車もかなりのペースで逃げている。
九十九折れの峠道をどんどんと進むと、やがて頂上極まって道は下り始めた。
「国産四駆の性能もここまで進化しているのか。だがダウンヒルじゃこっちも負けてないぞ! ミッドシップの底力を見せてやる!」
あぁ、完全に目的が変わってきちゃってるな……。
しかし先生は自分の言葉に違わず、下りに入ってからペースはより一層上がったように感じる。軋むボディを受け止めるサスペンションは、しっかりとタイヤを路面に押し付け、四本のタイヤはあたかも食らい付くかのようように路面を捉えて離さない。
先生の駆るルノーは、ブラインドコーナーを抜ける度にじわじわと相手の車をとの距離を詰めて行く。
そうこうしているうちに、ついに相手の車がもう目と鼻の先まで近づいてきた。
「さあ追い詰めたぞ。ミッドシップ舐めんな!」
「先生、追い付いたのはいいけどどうするんですか?」
「んん? いや、特に考えてない!」
「えぇっ?」
まじかよ、勘弁してくれよ、ホント。
「取り敢えず付いてく! って、うわっ!」
先生が何かに驚いて奇声を発した。
その直後のことだ。猛烈なスピードで横滑りしながら、ルノーの横を追い越していく車があった。もうもうとタイヤの白煙を上げながら、その車は前のランサーまで追い抜いて先頭に出た。
「なんじゃー、あのインプレッサ? こっちだって結構なスピードで攻めてるのに派手なドリフト極めてあっさり追い抜いていきやがって!」
黒塗りのインプレッサは先頭に立つと少し速度を落とし、ランサーの行く手を阻むような動きをしている。
「今度はあのインプ、走行の邪魔をし始めたぞ? 何だか質の悪い走り屋に絡まれたかな……」
こちらもスピードを落とさざるを得なくなって、わたしとしては少しホッとしたが、先生はバトルが中断されてしまったことに少し不満そうだ。この人本懐を遂げる気なんて更々なかったんじゃなかろうな。
それからちょっとして、聖連ちゃんからメッセージが入った。
少し離れるようにという指示だ。
そうではないかと思っていたが、ド派手に追い抜いていったあの黒い車は、やはり十一夜君だったのだな。
この先に道幅が広くなっている急カーブがあり、そこで十一夜君は、敵の車をスピンさせるつもりだそうだ。
そんなことができるのかというのがまず驚きだが、それ以上に驚きなのが丹代さんも乗っているあの車をスピンさせようというその発想だ。
何と言ってもこの峠道。少し道を外れれば崖を真っ逆さま。かと言って反対側に待ち受けているのもそそり立つ壁。道を外せばどの道大事故。怪我は免れまい。
ところがそれを敢えてやろうという十一夜君。恐らく彼がやると言うからには完璧にやり遂げる目算が立っているということだろう。
「先生、何か危ないですよね。ちょっと距離を取った方がよくないですか?」
「おぉ、そうだな。何か向こうは危ない奴に絡まれてるようだ。巻き添え食ってちゃ本末転倒だ」
そう言うと先生はアクセルを緩め、あれよあれよという間に前方の車との距離が開いた。
それからブラインドコーナーを幾つか抜けると、正に十一夜君の思惑通り、敵の車がスピンして漸く収束しようかというところだった。
「うわっ!」
流石に驚いた様子の先生だが、車の操作は意外に冷静で、速度を緩めていたこともあり、スピンしている相手の車を巧く躱して路肩に寄せて停車した。
前に十一夜君が被っていたのと同じような目出し帽を被った聖連ちゃんが降りてきて、恐らく中はパニック状態であろう敵の車に近づいていった。
聖連ちゃんの手にはまた怪しげな機械が握られており、ドアの方にそれを向けると、恐らくドアロックが外されたのだろう。素早くドアを開けた聖連ちゃんはスプレーを車中に振り撒いてまたすぐにドアを締めたかと思うと、持っていた機械を再びドアに向けた。
「こいつ何者だ? こっちに来ないだろうな、おい」
先生は不安を口にしながらも、丹代さんのことがあるので目を離せないでいるようだ。
聖連ちゃんは車の中を覗いて様子を確認してから、今度はこちらに近づいてきた。
慌てて先生はエンジンを始動して逃げようとする。
「待って、先生! この人は大丈夫だから、多分」
「え? だってなぁ、お前! あの……」
先生がまごまごしているうちに聖連ちゃんは既にここまで来ており、運転席側の窓をノックしている。
驚いた先生が固まっていると、聖連ちゃんは両手を上げてぶらぶら振って攻撃の意志がないことを示している。
「ほら、先生。大丈夫だって!」
先生は恐る恐ると言った感じで窓を開けた。体にかなり力が入っているようで強張っている。
「NPO法人オンズィエム・ニュイの聖連と申します」
目出し帽を脱いだ聖連ちゃんが、名刺を差し出して挨拶してきた。
今日の聖連ちゃんはメガネを外してメイクもしており、いつもより少し大人びた印象を受ける。
先生は取り敢えず名刺は受け取ったものの、相変わらず固まったままだ。
わたしが名刺を覗いたところ、『聖連明美』という偽名になっていた。こんなものまで用意しているとは手が込んでいる。
「実は華名咲様よりご連絡をいただきまして、駆け付けた次第です」
聖連ちゃんは至って真面目な顔をしてもっともらしく先生に説明しているが、なるほど、華名咲の名を使えばある意味何でもありだ。突飛なことでもそんなこともあり得るんじゃないかと思わせてしまう説得力がある。
「え、あ、はぁ~。そうですか……」
先生は助手席のわたしの方を向いて、そうなの? と目で訊ねている。その向こう側では聖連ちゃんがおちゃめにウィンクしている。
「先生、この人たちは華名咲の手の物です。ご心配なく。警察より頼りになりますから安心してください」
わたしとしてもアドリブで返すしかない。聖連ちゃんは先生の向こうで人の悪そうな笑みを浮かべている。
「丹代花澄さんの身柄はこちらで責任持って保護させていただきます」
「……あの車の連中は……?」
先生も恐る恐るという感じで聖連ちゃんに質問する。
「今一時的に眠らせてあります。暫くは起きないと思いますが、どういった素性の者たちなのか気に掛かりますので、取り調べの上しかるべき処置を取りたいと思います」
「丹代花澄は、これからどうなるんですか?」
「ご両親は国内にいらっしゃらないと伺っておりますので、一旦はわたくしどもの保有する保護施設で預からせていただきますが、他に身寄りの方がいらっしゃるようでしたらそちらに受け入れを打診させていただこうと思います。もっともまずはご本人のお話を伺ってからになりますがね」
先生は完全に呆気に取られた状態だったので、聖連ちゃんのもっともらしい説明に特に異議を唱えることもなかった。
お陰で聖連ちゃんもサクサクと仕事を進めることができたようで、丹代さんを拉致した連中の車を路側帯に寄せて、中で眠っている男どもを次々と縛り上げていった。それから一人ずつインプレッサの方へと男たちを運んでいたが、聖連ちゃんはさして苦労している様子もなく仕事を終えた。
その一連の手際の良さときたら、流石は十一夜君の妹と言わざるを得ない。やはり彼女も相当の鍛錬を積んでいるのだろう。
担任の細野先生がいる手前、流石に十一夜君は姿を現わさなかったが、インプレッサの運転手は彼だろう。聖連ちゃんはそのまま丹代さんを乗せた敵の車の運転席に乗り込み、やがて二台の車は去って行った。
一連のできごとの途中、何台かの車両が通り過ぎて行ったが、特に誰にも気に留められることはなかったようで、速度を緩めるような車はなかった。
茫然自失としていた先生がわれに返るには、それから暫く時間を要したが、気を取り戻すと、今見てきたことは夢じゃないよなと、二度ほどわたしに確認してきた。
「夢じゃありませんよ。丹代さんは救出されました」
先生の気持ちも分かる。突然、まさかいるはずのない丹代さんが、あろうことか拉致される現場を目撃してしまった。その車を追いかけているうちに何だか凄いカーチェイスになってしまったかと思えば、NPO法人の人間だと名乗る謎の人物に全部持ってかれたのだ。狐につままれたような話だ。
「それにしても、華名咲家ってやっぱ凄いんだなぁ……」
しみじみと噛みしめるようにして先生が呟く。
まあ、本当に華名咲家が動いたらこんなものではないだろうと思うが、ここは都合よく誤解したままでいていただこう。
こうして細野先生を巻き込んでの丹代さん救出劇は一旦幕を下ろした。
先生にはそれなりに活躍してもらったのだが、蓋を開けてみれば本当に活躍したのは十一夜君たちだったというのは相変わらずだ。
そのまま先生に自宅まで送り届けてもらった頃には、そろそろ夕食の準備が始まるかという時間になっていた。
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