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第三章 Hello, my friend
第59話 日曜はダメよ
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さて、十一夜君たちの調査によって、今まで誰も知ることのなかった須藤麻由美ちゃんについての幾つかの情報が得られている。
須藤家は麻由美ちゃんとご両親の三人家族だそうだ。親族経営の総合病院で、ご両親ともやはり医師として共働きをしている。
十一夜君は麻由美ちゃんのご両親の勤務ローテーション調査に少々時間が掛かってしまったと言っていたが、苦労の甲斐あって、日中誰も家にいない日を把握することができたそうだ。それで何と、学校をサボって須藤家に侵入するなんて大それた計画を立てているという。彼曰く、『仕事優先』だそうだ。大層なプロ意識というのか、立派な社会人というのか、色々ダメな気もするが、一高校生に過ぎないわたしには何も返す言葉がない。わたしもモデルみたいな仕事をさせてもらっているが、そっちはあくまで学業優先のバイトみたいなものだもんな。
聖連ちゃんの方はと言えば、麻由美ちゃんの通話記録から、通話の相手の特定ができないか探っていたそうだが、流石にそう簡単ではないらしい。
できないことではないそうだが、得られる情報の価値とコストが釣り合わなければ踏み切れないそうだ。つまり確実にコストに見合うだけの情報が得られると分かっている場合でなければやれないということらしい。それでコストを掛けずに情報を得る方法を模索中だそうだ。
確かにここまでの活動資金がどこから出ているのか、わたしはまったく知らないのだが、これだけの活動をするにはそれなりに大きなお金が動いているであろうことは想像に難くない。
そう言えば、以前十一夜君は依頼を受けて——自ら志願したとも言っていたが——調査していると言っていたことがあったな。
ということは依頼主がいて、当然お金はそこから出ているということになるのだろうな。
そして進藤君と義妹さん。
取り敢えず、思い余って進藤君に酷いことをしないように意識を抑える術をかけていると言っていた。
それに加えて、十一夜君は進藤君の義妹さんの靴に発信器を仕組んでいるそうだ。彼女を泳がせて組織との接触を調べているというが、これまでのところそれらしい行動はないらしい。尤も靴と言ったって、恐らく登下校でしか使わない靴なので、精々寄り道でもしてくれなければあまり成果は期待できない。
そういった具合に色々と網を張ってはいるようだが、まだ収穫はそれほどではないようだ。でもそういう地味な情報収集も馬鹿にできないのだそうだ。
今までのところの進捗状況をまとめるとこんな感じになるだろうか。
てっきりここから一気に物事が動いて、謎の核心へと迫ることができるのではないかと期待していたのだが、期待に反して事が大きく進展するようなことはなかった。
まるでスパイ映画を見ているかのような十一夜君たちの活躍振りだったが、映画のように二時間ちょっとで解決というわけにはいかないというのが現実だ。実際には地道な情報収集活動が延々と続くというのが普通だという。
そんな事をつらつらと考えているうちに、いつの間にかショートホームルームが終わったようで、皆が帰り支度を始めている。
その様子を見て漸くわたしも帰ろうとしたところで、細野先生から呼び止められた。
「あぁ、華名咲。ちょっといいか」
クラスメイトが次々に教室を出ていくのを尻目に、わたしは教壇脇の椅子に腰掛けている先生の元に近づく。
「何かありましたか? 先生」
「おぉ、悪い悪い。実はな、家のじっちゃんな」
「あぁ、はい。武蔵さんでしたっけ」
「うん、そうそう。その武蔵のじっちゃんな。元は有名な探偵でさ」
「え、そうだったんですか。だから先生、いっつもじっちゃんの名にかけてって言ってたんだ」
「まあな。自分にもその名探偵の血が流れてると思うと、この事件、何としても解決しなくてはって気になったもんさ。て言うか解決できるって思ったんだがな。ところが知っての通り、それがどうにも行き詰まりでさぁ。それでじっちゃんにちょっと相談してみたんだよ」
「はぁ、元名探偵の武蔵さんに……」
「そうだ。よかったら華名咲、じっちゃんに一度会ってもらえるかな」
「はぁ? わたしが先生のじっちゃんにですか?」
それはまた藪から棒な話だなぁ、随分と。
「うん。じっちゃんが何故かえらく興味を持ってな。会わせろってうるさいんだよ。一度言い出すと聞かない性格でさ。悪いけど頼むよ」
何だかなぁ。何だって先生のじっちゃんにわたしが会わなきゃならないんだか。正直言って面倒臭い話を持ち込まれた感が否めない。
しかし名探偵だったと言ったな。考えてみると、もしそれが本当なら何か役立つことだってあるかもしれないな。
「う~ん、まあ、いいですけど……」
「そうか、じゃあ早速だけど、日曜日でいいかな。詳細はまた連絡するから」
「え、明後日ですか? また急だなぁ……」
「悪いな、空けられないか?」
「いや、まあ空いてはいますけど……」
「よかった。じゃあ頼むな。じっちゃんが詳しい話を聞きたいからってうるさいもんでさ。でも、じっちゃんが手伝ってくれれば絶対役に立つことは請け合うよ」
先生は多少強引な感じで押し込んできたが、わたしに対して申し訳ないという気持ちもあるようで、絶対役に立つからと強調してきた。
そこまで言われちゃ、しょうがないなぁ。
「分かりました」
先生が教室を出ていくと、入れ替わるように忘れ物を取りに来たアホの坂田君が現れた。
「おぉ、忘れ物をしたことを恨めしく思いつつ戻ってきましたが、こんな運命のいたずらが! これは僕たちを結びつけるための神のお導きなのですね! 華名咲さん、今度の日曜日に……」
「無理! じゃあね、坂田君」
いつもの調子の坂田君の言葉は遮って、教室を後にした。
「名探偵細野武蔵さん……か」
現時点では先生のじっちゃんがどの程度助けになるのか図りかねて、わたしは呪文でも唱えるようにして小さくそう呟いてから、秋菜が待つ校門へと向かったのだった。
須藤家は麻由美ちゃんとご両親の三人家族だそうだ。親族経営の総合病院で、ご両親ともやはり医師として共働きをしている。
十一夜君は麻由美ちゃんのご両親の勤務ローテーション調査に少々時間が掛かってしまったと言っていたが、苦労の甲斐あって、日中誰も家にいない日を把握することができたそうだ。それで何と、学校をサボって須藤家に侵入するなんて大それた計画を立てているという。彼曰く、『仕事優先』だそうだ。大層なプロ意識というのか、立派な社会人というのか、色々ダメな気もするが、一高校生に過ぎないわたしには何も返す言葉がない。わたしもモデルみたいな仕事をさせてもらっているが、そっちはあくまで学業優先のバイトみたいなものだもんな。
聖連ちゃんの方はと言えば、麻由美ちゃんの通話記録から、通話の相手の特定ができないか探っていたそうだが、流石にそう簡単ではないらしい。
できないことではないそうだが、得られる情報の価値とコストが釣り合わなければ踏み切れないそうだ。つまり確実にコストに見合うだけの情報が得られると分かっている場合でなければやれないということらしい。それでコストを掛けずに情報を得る方法を模索中だそうだ。
確かにここまでの活動資金がどこから出ているのか、わたしはまったく知らないのだが、これだけの活動をするにはそれなりに大きなお金が動いているであろうことは想像に難くない。
そう言えば、以前十一夜君は依頼を受けて——自ら志願したとも言っていたが——調査していると言っていたことがあったな。
ということは依頼主がいて、当然お金はそこから出ているということになるのだろうな。
そして進藤君と義妹さん。
取り敢えず、思い余って進藤君に酷いことをしないように意識を抑える術をかけていると言っていた。
それに加えて、十一夜君は進藤君の義妹さんの靴に発信器を仕組んでいるそうだ。彼女を泳がせて組織との接触を調べているというが、これまでのところそれらしい行動はないらしい。尤も靴と言ったって、恐らく登下校でしか使わない靴なので、精々寄り道でもしてくれなければあまり成果は期待できない。
そういった具合に色々と網を張ってはいるようだが、まだ収穫はそれほどではないようだ。でもそういう地味な情報収集も馬鹿にできないのだそうだ。
今までのところの進捗状況をまとめるとこんな感じになるだろうか。
てっきりここから一気に物事が動いて、謎の核心へと迫ることができるのではないかと期待していたのだが、期待に反して事が大きく進展するようなことはなかった。
まるでスパイ映画を見ているかのような十一夜君たちの活躍振りだったが、映画のように二時間ちょっとで解決というわけにはいかないというのが現実だ。実際には地道な情報収集活動が延々と続くというのが普通だという。
そんな事をつらつらと考えているうちに、いつの間にかショートホームルームが終わったようで、皆が帰り支度を始めている。
その様子を見て漸くわたしも帰ろうとしたところで、細野先生から呼び止められた。
「あぁ、華名咲。ちょっといいか」
クラスメイトが次々に教室を出ていくのを尻目に、わたしは教壇脇の椅子に腰掛けている先生の元に近づく。
「何かありましたか? 先生」
「おぉ、悪い悪い。実はな、家のじっちゃんな」
「あぁ、はい。武蔵さんでしたっけ」
「うん、そうそう。その武蔵のじっちゃんな。元は有名な探偵でさ」
「え、そうだったんですか。だから先生、いっつもじっちゃんの名にかけてって言ってたんだ」
「まあな。自分にもその名探偵の血が流れてると思うと、この事件、何としても解決しなくてはって気になったもんさ。て言うか解決できるって思ったんだがな。ところが知っての通り、それがどうにも行き詰まりでさぁ。それでじっちゃんにちょっと相談してみたんだよ」
「はぁ、元名探偵の武蔵さんに……」
「そうだ。よかったら華名咲、じっちゃんに一度会ってもらえるかな」
「はぁ? わたしが先生のじっちゃんにですか?」
それはまた藪から棒な話だなぁ、随分と。
「うん。じっちゃんが何故かえらく興味を持ってな。会わせろってうるさいんだよ。一度言い出すと聞かない性格でさ。悪いけど頼むよ」
何だかなぁ。何だって先生のじっちゃんにわたしが会わなきゃならないんだか。正直言って面倒臭い話を持ち込まれた感が否めない。
しかし名探偵だったと言ったな。考えてみると、もしそれが本当なら何か役立つことだってあるかもしれないな。
「う~ん、まあ、いいですけど……」
「そうか、じゃあ早速だけど、日曜日でいいかな。詳細はまた連絡するから」
「え、明後日ですか? また急だなぁ……」
「悪いな、空けられないか?」
「いや、まあ空いてはいますけど……」
「よかった。じゃあ頼むな。じっちゃんが詳しい話を聞きたいからってうるさいもんでさ。でも、じっちゃんが手伝ってくれれば絶対役に立つことは請け合うよ」
先生は多少強引な感じで押し込んできたが、わたしに対して申し訳ないという気持ちもあるようで、絶対役に立つからと強調してきた。
そこまで言われちゃ、しょうがないなぁ。
「分かりました」
先生が教室を出ていくと、入れ替わるように忘れ物を取りに来たアホの坂田君が現れた。
「おぉ、忘れ物をしたことを恨めしく思いつつ戻ってきましたが、こんな運命のいたずらが! これは僕たちを結びつけるための神のお導きなのですね! 華名咲さん、今度の日曜日に……」
「無理! じゃあね、坂田君」
いつもの調子の坂田君の言葉は遮って、教室を後にした。
「名探偵細野武蔵さん……か」
現時点では先生のじっちゃんがどの程度助けになるのか図りかねて、わたしは呪文でも唱えるようにして小さくそう呟いてから、秋菜が待つ校門へと向かったのだった。
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