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第三章 Hello, my friend

第56話 君の名は

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「詳しいことは分からないけど、何か凄いね」

 そう、分かる人には分かるのだろうが、わたしにとっては専門用語をつらつらと並べられたところで、何か凄いのだろうなということくらいしか分からない。
 聖連ちゃんは満足そうに頷いて、続きを話し始めた。

「それが、パソコンにはそれほど目ぼしい情報はありませんでした。恐らく小まめに削除しているのだと思います。でも同じネットワーク内にスマホがありましたので、そちらのデータをごっそりいただきました」

 Wi-Fiに繋がっているスマホのハッキングはプロの手に掛かれば非常に簡単だという話は聞いたことがある。正にそれを聖連ちゃんがやってみせたということなのだろう。プロだからな。

「それで、何を掴んだ?」

 そう訊く十一夜君は、聖連ちゃんが何らかの重要な手掛かりに辿り着いていると確信しているように見える。

「まず通話記録。進藤杏奈との通話記録がありました。他にも通話記録がありますが、相手が誰なのかが不明なのでそこは要調査です。あと、画像の中に例の祭壇らしきものを見つけました。進藤杏奈とは、その宗教なのか何なのかまだ不明ですが、そちら方面での繋がりと見て間違いないと思います。あ、それとアドレス帳やLINEの登録も一通りチェックしてみたんですが、丹代花澄の名前は見つかりませんでしたので、今のところ直接的な繋がりはなさそうです。ただ、丹代花澄の電話番号やメアド等は特定できていませんので、まだ確定的ではありませんが」

 聖連ちゃんのスマホハッキングではかなりのデータを入手できたようだが、今のところその中に然程さほど有用な情報は見出だせていないようだ。

「聖連、このリストの中に、女教皇と接触がある者がいないか当たってみてもらえないか」

 そう言って十一夜君が聖連ちゃんに差し出したのは、以前わたしが十一夜君に渡したリストだった。それはFacebookで丹代さんと繋がっていた、そしてわたしにも所縁ゆかりのある人達のグループをリストアップしたメモだ。

「分かった。やってみるね」

 聖連ちゃんはメモを受け取ると、暫し眺めてからスマホで写真を撮った。きっと十一夜君が前にやっていた文字データ化というのをやっているのだろう。
 メモを十一夜君に返すと、聖連ちゃんはまたパソコンに向かう。
 十一夜君は顎に手をやりその様子を窺っている。
 わたしはやることがないので、抹茶エスプーマ善哉を食べた。
 それにしても、もしリストの中の人達が女教皇と繋がっているとしたら、これは結構大変なことだ。わたしが振った人がこぞって怪しい組織に関わっていることになるわけだ。もしそんなことになっているとしたら夢見が悪いじゃないか。

「名前で検索してみましたが、該当者なしですね~」

 聖連ちゃんの結果報告にがっかりしたようなホッとしたような……。
 しかし十一夜君はまだ顎に手を当てたまま何かを思案しているみたいだ。何か引っ掛かっているのだろうか?

「聖連、進藤杏奈のパソコンやスマホのデータに全タロットカード名に関係したものがないか調べたか?」

「うん、ファイル名、ファイル内テキスト、アドレス帳、全部検索済みだよ。タロットカードって七十八枚もあるって知ってた? 結構大変だったのに無駄骨でがっかりだったよ~」

 十一夜君の問い掛けを受けての聖連ちゃんのがっかりした様子もまたかわいい。
 ……って、そんなこと考えてる場合じゃないよな。

「七十八枚か……まさか各カードに対応して敵が七十八人もいたりしないだろうな……」

 十一夜君の言う通りだ。そんなにぞろぞろ怪しい相手がいたら本当にやばいんじゃなかろうか。次から次にそんなのに襲われでもしたら……想像しただけで怖気が走る。

「あっ」

「何だ、聖連?」

 聖連ちゃんが突然何か思い付いたのか思い出したのか、またパソコンをカチャカチャやりだした。

「うん、パソコンやスマホのメーラーじゃなくて、ウェブメール使ってたら、ウェブ上にメールやアドレス帳があるかもしれないじゃん。うっかりしてたよ、も~。今ウェブメールのアカウントとパスワード捜してま~す」

 こういう軽い調子のときの聖連ちゃんはやってのける。まだほんの短い付き合いだけど、その中で見てきた聖連ちゃんは、こういうときこそ冷静で集中力を発揮できる状態だ。

「はい、ありませんでした~。あはは」

 ……わたしの勘違いだったようだ。もっともまだほんの短い付き合いしかないからな。見誤ったって仕方あるまいよ……。

「結局、進藤杏奈と女教皇が関係していると分かっただけだったか。ちょっと手掛かりとしては薄かったね……」

 顎に手を当てたまま軽く項垂れる十一夜君。

「まだそうがっかりしたもんでもないと思うよ、圭ちゃん」

「え? まだ何かあるの?」

「スマホから女教皇の名前とGPS情報をゲットできるじゃないの」

 微笑みをたたえた聖連ちゃんは相変わらずかわいいけど不気味だ。

「そうか! 聖連、そういうのは早く言いなよ」

 十一夜君は少し不満げな調子でそう言うが、その顔は希望を得て明るいように見えた。

「うふふふ。だって圭ちゃん、お楽しみは最後に取っておくタイプでしょ? 昔から」

 ほほぉ、十一夜君はあれだ、好きなおかずは最後に食べるタイプなのかな。

「よし、聖連。女教皇の実名とGPS情報をこっちに転送して」

「ほい、了解」

 直後、十一夜君のスマホに着信する。
 スマホを操作して画面を確認した十一夜君の表情が少し強張った。

「これは……」

 どうしたのだろうかと気になり、わたしも十一夜君のスマホを覗き込んで驚いた。

「麻由美ちゃん……?」
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