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77 いやー、最高っ!
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何か演る前にすでに疲れた。
ライブの後に一大イベントが、ていうか二大イベント? が控えていてそのことでも頭が痛いというのに、羅門がライブ前にぶっ込んできた挑戦状みたいなカミングアウト。
大きくライフポイントを削られて今や風前の灯か虫の息か。
ライブ直前にテンション下げてくれんじゃないよ、まったくもう。
羽深さんって、前に一度羅門の誘い受けてデートしてたんだよなぁ。まぁ、時を同じくして僕も曜ちゃんとデートしてたわけなんだが。
もしかすると、羽深さんは羅門のこと悪からず思っているのかも?
いやいや、それだったら僕だって羽深さんとデートしたことあるし? 僕だって可能性は……いや、流石にそれはないか……。流石に冴えないモブだもんなぁ。ギターの奴って何かモテるし。
そもそも今日羽深さんが僕にする話って何なんだ?
はっ! ま、まさか羅門と付き合おうと思うから、これからはもう関わらないで欲しいとか、そういうことなのか?
うそぉ~ん。辛すぎだろ、それは流石にぃ……。
あー。考えれば考えるほど絶望的な見込みしか出てこなくて落ち込んだままスタイル・ノットのステージ本番を迎えることになった。
失礼ながら僕らの前のバンドの演奏は一切耳に入ってこなかった。
だって、それどころじゃなかったんだもん。羅門の爆弾投下のせいで。
真っ暗なステージでドラムスローンに腰を据える。
イヤホンを装着して手元のノートパソコンに同期用のデータを立ち上げる。
メンバー各人同士アイコンタクトを取って頷き合う。羅門はこっち見なかったし僕も見なかったけど。
一本のスポットライトがセンターの羽深さんを照らし出す。
「こんにちはーっ! スタイル・ノットですっ!」
途端に今までとは比べようのないくらいにオーディエンスが沸き立つ。初めて講堂内の観客席に目を向けてみれば、大入りで大歓声だ。そう言えば小さな箱やレコーディングスタジオでは何度も演ってるけど、この規模のライブは初めてかもなぁ。中学時代はバンドが空中分解してしまったし。
そんなことをぼんやり考えながらも、事前の打ち合わせ通り、一曲目の演奏をスタートさせる。同期用のパソコンの音源をスタートさせるのは僕の係だ。
演奏開始の合図となる二小節分のクリックが流れて一斉に、僕らスタイル・ノットのイカしたサウンドが講堂内を満たし始める。
事前に開設したWeTubeチャンネルも、羽深さんの宣伝効果と人気の本郷君のWeTubeやキコキコ動画のチャンネルにリンクを貼って宣伝してもらえたのもあって、学祭ライブに向けた宣伝としては上々の再生回数を記録していた。きっとその効果でみんな曲を知っていて、一曲目からもう場内総立ちで思い思いに踊っている。
その様子を目にして、僕はさっきまでの憂鬱な気分など吹き飛んでいた。
これだけの人数を自分たちが紡ぎ出すビートで踊らせているのだ。先生たちもノリノリで踊っている。
音楽バカの血が一気に沸騰する。
メグのベースが、突っかかるようなシンコペーションを奏で、僕の叩き出すビートが重なり合いシンクロしていく。
思わずメグの方に目をやれば、やはりメグもこちらを見ていて、ニヤリとお互いの意思を交換した。
僕は録音芸術、つまり微に入り細に入り徹底的に作り上げられたレコーディングアルバムのサウンドが好きだけど、ライブならではの良さっていうのも別にあって、こういうことだよなと今実感している。会場と演者が一体となって折りだされるグルーヴと言ったらいいんだろうか。この高揚感はレコーディングで得られるものとはまた違う気持ちよさだ。
一曲目の演奏が終了してDAWの演奏も停止する。
客席はもの凄い盛り上がりで歓声が上がっている。ほとんどが羽深さんやかなでちゃん、そしてメグ相手のものだ。そして動画サイトで有名な本郷君も結構人気があるようだ。
僕? そこは訊かないで欲しい。
羅門のことは知らん。
今日演奏予定の曲は全て一つのデータにまとめてあり、曲間にある程度の小節数分余裕を持って空けてある。
次の曲に備えて頭出ししておけば、あとは再生ボタンをクリックだけで曲がスタートする。
「今日はこんなにたくさんのみんなに来てもらえて、ららは感激してまーす!」
羽深さんがオーディエンスに向けて何か言葉を発するたびに凄い歓声が沸き起こる。さすがカーストトップに君臨するクイーン。
「実は今日のこのライブに至るまでは、凄く練習してきて……あ、わたしバンドとか初めてだったからっ、それでメンバーのみんなに助けてもらいながら、やっとの思いで今日、この場に立つことができましたっ!」
沸き起こる歓声。場内を巻き込んで大きなうねりとなって最早会場全体がひとつのバンドになったみたいだ。
「次の曲は、このスタイル・ノットで一番最初にできた大切な曲です。 Dipped Low!」
次の曲のデータを走らせ同じように二小節のクリックを合図にして曲がスタートする。
この様子だと羽深さんも全然問題なさそうだ……ていうかバッチリだ。言うことないくらい。
オーディエンスもテンション爆上げでノリノリだし、僕らの方がむしろ観客にノセられているような錯覚さえ覚える。
最高のグルーヴだ。
THE TIMEのサウンドは、スタイリッシュという言葉が一番しっくりくるオシャレなサウンドだったが、それと比べると我がSTYLE NOTは、洒落てはいるがよりファンキーで踊れる感じだ。
実際このオーディエンスの盛り上がりっぷりを見ればそれも納得だろう。
曲間のMCは最小限で曲数を持ち時間ギリギリに詰め込んだ。一応六曲予定していたが、どんどん進んであっという間に最後の曲を迎える。
「ここまで勢いでダーーっと演ってきましたが、あっという間に、もう最後の曲の番になっちゃいました」
羽深さんのトークにオーディエンスから一斉に「えーーーっ」という不満そうな声が上がる。
「生徒会メンバーだからって自分のバンドだけ優遇処置とかできないしぃ」
「えぇーーーーっ」
いや、どの口が言ってるんだよ。このバンド出すために色々裏から手を回してたでしょうが。
「じゃあ最後の曲行くね! どうしてももっと聴きたかったら、アンコールをリクエストしてねっ! Mellow Brilliance Mellow」
っておーいっ。アンコールこっちからリクエストするバンド初めて見たわっ。
ま、いいわ。いよいよ一応建前上ラストの曲行くぞ。ポチッと。
DAWの再生ボタンをクリックすると同期演奏がスタートする。
最後の曲はミディアムスローの16ビートで羅門の作曲だ。しっとりしたテンポ感とメロウなコード感とメロディーなのだが、それでもやっぱり腰は揺れるというか、ビートに身を委ねたくなるような気持ちよさがある。
微妙な跳ね具合の僕のドラムに、メグのベースがぴったりハマる。スライドやダブルストップが美しい。
本郷君のギターフレーズがまたいい味で絶妙だ。何がって色々ホントに絶妙。
羅門のテレキャスはキレのいいリズムを刻む。
最高のバンドだ。きっと今頃親父たちも気持ち良くなってるに違いない。曜ちゃんも観てくれてるかな。
万感胸に迫る思いでこの曲の演奏中、ちょこっとだけオーディエンスが滲んで見えたのは内緒だ。
「どーもありがとーーっ! 愛してまーす!」
羽深さんの言葉を合図に一旦控え室に下がる。
「お疲れーっ」
お互いを労い合う言葉が飛び交う。他のバンドの人たちはもういなくなっていた。
「いやー、最高っ!」
橘さんが満面の笑顔でそう言って迎えてくれた。
「光旗君と楠木君の演奏の良さは前々から知ってたけど、他のメンバーもよかったねぇーっ。いやこんないいバンドなかなかないよなぁ」
ベタ褒めでくすぐったいが、こんな職人みたいなタイプのエンジニアから褒められて嬉しくないはずがない。数多のバンドを見てきてる人の評価なのだ。
メンバーは各自、汗を拭ったり水分を補給したりしている。
羽深さんが煽ったせいか、会場はアンコールを求める拍手がリズムのうねりとなってここまで届いている。
羽深さんはアンコールでやる曲の歌詞カードを見てチェックしている。
「さぁ、みんな。ホントのラスト、行ったりますか!」
メグの号令に、みんながオォーッと応じて、僕らは再びステージへ登った。
ライブの後に一大イベントが、ていうか二大イベント? が控えていてそのことでも頭が痛いというのに、羅門がライブ前にぶっ込んできた挑戦状みたいなカミングアウト。
大きくライフポイントを削られて今や風前の灯か虫の息か。
ライブ直前にテンション下げてくれんじゃないよ、まったくもう。
羽深さんって、前に一度羅門の誘い受けてデートしてたんだよなぁ。まぁ、時を同じくして僕も曜ちゃんとデートしてたわけなんだが。
もしかすると、羽深さんは羅門のこと悪からず思っているのかも?
いやいや、それだったら僕だって羽深さんとデートしたことあるし? 僕だって可能性は……いや、流石にそれはないか……。流石に冴えないモブだもんなぁ。ギターの奴って何かモテるし。
そもそも今日羽深さんが僕にする話って何なんだ?
はっ! ま、まさか羅門と付き合おうと思うから、これからはもう関わらないで欲しいとか、そういうことなのか?
うそぉ~ん。辛すぎだろ、それは流石にぃ……。
あー。考えれば考えるほど絶望的な見込みしか出てこなくて落ち込んだままスタイル・ノットのステージ本番を迎えることになった。
失礼ながら僕らの前のバンドの演奏は一切耳に入ってこなかった。
だって、それどころじゃなかったんだもん。羅門の爆弾投下のせいで。
真っ暗なステージでドラムスローンに腰を据える。
イヤホンを装着して手元のノートパソコンに同期用のデータを立ち上げる。
メンバー各人同士アイコンタクトを取って頷き合う。羅門はこっち見なかったし僕も見なかったけど。
一本のスポットライトがセンターの羽深さんを照らし出す。
「こんにちはーっ! スタイル・ノットですっ!」
途端に今までとは比べようのないくらいにオーディエンスが沸き立つ。初めて講堂内の観客席に目を向けてみれば、大入りで大歓声だ。そう言えば小さな箱やレコーディングスタジオでは何度も演ってるけど、この規模のライブは初めてかもなぁ。中学時代はバンドが空中分解してしまったし。
そんなことをぼんやり考えながらも、事前の打ち合わせ通り、一曲目の演奏をスタートさせる。同期用のパソコンの音源をスタートさせるのは僕の係だ。
演奏開始の合図となる二小節分のクリックが流れて一斉に、僕らスタイル・ノットのイカしたサウンドが講堂内を満たし始める。
事前に開設したWeTubeチャンネルも、羽深さんの宣伝効果と人気の本郷君のWeTubeやキコキコ動画のチャンネルにリンクを貼って宣伝してもらえたのもあって、学祭ライブに向けた宣伝としては上々の再生回数を記録していた。きっとその効果でみんな曲を知っていて、一曲目からもう場内総立ちで思い思いに踊っている。
その様子を目にして、僕はさっきまでの憂鬱な気分など吹き飛んでいた。
これだけの人数を自分たちが紡ぎ出すビートで踊らせているのだ。先生たちもノリノリで踊っている。
音楽バカの血が一気に沸騰する。
メグのベースが、突っかかるようなシンコペーションを奏で、僕の叩き出すビートが重なり合いシンクロしていく。
思わずメグの方に目をやれば、やはりメグもこちらを見ていて、ニヤリとお互いの意思を交換した。
僕は録音芸術、つまり微に入り細に入り徹底的に作り上げられたレコーディングアルバムのサウンドが好きだけど、ライブならではの良さっていうのも別にあって、こういうことだよなと今実感している。会場と演者が一体となって折りだされるグルーヴと言ったらいいんだろうか。この高揚感はレコーディングで得られるものとはまた違う気持ちよさだ。
一曲目の演奏が終了してDAWの演奏も停止する。
客席はもの凄い盛り上がりで歓声が上がっている。ほとんどが羽深さんやかなでちゃん、そしてメグ相手のものだ。そして動画サイトで有名な本郷君も結構人気があるようだ。
僕? そこは訊かないで欲しい。
羅門のことは知らん。
今日演奏予定の曲は全て一つのデータにまとめてあり、曲間にある程度の小節数分余裕を持って空けてある。
次の曲に備えて頭出ししておけば、あとは再生ボタンをクリックだけで曲がスタートする。
「今日はこんなにたくさんのみんなに来てもらえて、ららは感激してまーす!」
羽深さんがオーディエンスに向けて何か言葉を発するたびに凄い歓声が沸き起こる。さすがカーストトップに君臨するクイーン。
「実は今日のこのライブに至るまでは、凄く練習してきて……あ、わたしバンドとか初めてだったからっ、それでメンバーのみんなに助けてもらいながら、やっとの思いで今日、この場に立つことができましたっ!」
沸き起こる歓声。場内を巻き込んで大きなうねりとなって最早会場全体がひとつのバンドになったみたいだ。
「次の曲は、このスタイル・ノットで一番最初にできた大切な曲です。 Dipped Low!」
次の曲のデータを走らせ同じように二小節のクリックを合図にして曲がスタートする。
この様子だと羽深さんも全然問題なさそうだ……ていうかバッチリだ。言うことないくらい。
オーディエンスもテンション爆上げでノリノリだし、僕らの方がむしろ観客にノセられているような錯覚さえ覚える。
最高のグルーヴだ。
THE TIMEのサウンドは、スタイリッシュという言葉が一番しっくりくるオシャレなサウンドだったが、それと比べると我がSTYLE NOTは、洒落てはいるがよりファンキーで踊れる感じだ。
実際このオーディエンスの盛り上がりっぷりを見ればそれも納得だろう。
曲間のMCは最小限で曲数を持ち時間ギリギリに詰め込んだ。一応六曲予定していたが、どんどん進んであっという間に最後の曲を迎える。
「ここまで勢いでダーーっと演ってきましたが、あっという間に、もう最後の曲の番になっちゃいました」
羽深さんのトークにオーディエンスから一斉に「えーーーっ」という不満そうな声が上がる。
「生徒会メンバーだからって自分のバンドだけ優遇処置とかできないしぃ」
「えぇーーーーっ」
いや、どの口が言ってるんだよ。このバンド出すために色々裏から手を回してたでしょうが。
「じゃあ最後の曲行くね! どうしてももっと聴きたかったら、アンコールをリクエストしてねっ! Mellow Brilliance Mellow」
っておーいっ。アンコールこっちからリクエストするバンド初めて見たわっ。
ま、いいわ。いよいよ一応建前上ラストの曲行くぞ。ポチッと。
DAWの再生ボタンをクリックすると同期演奏がスタートする。
最後の曲はミディアムスローの16ビートで羅門の作曲だ。しっとりしたテンポ感とメロウなコード感とメロディーなのだが、それでもやっぱり腰は揺れるというか、ビートに身を委ねたくなるような気持ちよさがある。
微妙な跳ね具合の僕のドラムに、メグのベースがぴったりハマる。スライドやダブルストップが美しい。
本郷君のギターフレーズがまたいい味で絶妙だ。何がって色々ホントに絶妙。
羅門のテレキャスはキレのいいリズムを刻む。
最高のバンドだ。きっと今頃親父たちも気持ち良くなってるに違いない。曜ちゃんも観てくれてるかな。
万感胸に迫る思いでこの曲の演奏中、ちょこっとだけオーディエンスが滲んで見えたのは内緒だ。
「どーもありがとーーっ! 愛してまーす!」
羽深さんの言葉を合図に一旦控え室に下がる。
「お疲れーっ」
お互いを労い合う言葉が飛び交う。他のバンドの人たちはもういなくなっていた。
「いやー、最高っ!」
橘さんが満面の笑顔でそう言って迎えてくれた。
「光旗君と楠木君の演奏の良さは前々から知ってたけど、他のメンバーもよかったねぇーっ。いやこんないいバンドなかなかないよなぁ」
ベタ褒めでくすぐったいが、こんな職人みたいなタイプのエンジニアから褒められて嬉しくないはずがない。数多のバンドを見てきてる人の評価なのだ。
メンバーは各自、汗を拭ったり水分を補給したりしている。
羽深さんが煽ったせいか、会場はアンコールを求める拍手がリズムのうねりとなってここまで届いている。
羽深さんはアンコールでやる曲の歌詞カードを見てチェックしている。
「さぁ、みんな。ホントのラスト、行ったりますか!」
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