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55 うん、爆発しよう
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羽深さんはこの頃、授業の合間合間にもちょいちょい僕のところへやってくる。
そのせいで佐坂の歯軋りが聞こえてきそうな場面がしばしばあるのだが、知ってか知らずか、メグが大抵一緒なお陰でどうにか絡まれずに済んでいる。こういう時、カースト上位者が二人にモブ一人という構成だと何故だか変に絡まれずに済むようだ。佐坂みたいに絡んでくる輩の生態は理解し難いものだ。
「土曜日はついにバンドで初合わせだね。楽しみだなぁ。わたしバンドって初めてだし」
羽深さんはよほど嬉しいのだろう。こぼれ落ちるような笑顔が眩しい。うっかり見惚れてしまわないようにこっちは必死だ。
「キーボード、いい奴いないかねぇ」
「キーボードなぁ……あんま情報ないよなぁ、キーボードやる奴」
メグの伝手を駆使しても、まだキーボードプレイヤーが見つかっていないのだ。ピアノ経験者は多いので、キーボードをやれるという人はかなり多いのだが、実はバンドでキーボーディストをやるとなると、それだけでは不足を感じてしまう。
音楽はそのジャンルによって典型的な演奏スタイルというものがある。
◯◯マナーなんて呼ばれるのがそれにあたる。例えばソウル・マナーとか、ゴスペル・マナーといった具合だ。要は音楽の慣用句とか様式美みたいなものだ。
他の楽器にも言えることだが、そういったマナーに精通していて、適所でそういうフレージングやパターンをビシッと決められなくてはならない。それに一口にキーボードと言ってもいろんな楽器があり、それぞれに特徴的なボイシングやフレーズ、奏法があるわけだ。
僕らのバンドの場合はコード譜だけで、バンドのアレンジを聴きながらそれを自分で判断してやってもらう必要がある。バンドスコアがあって、楽譜を見てパートを覚えるといったタイプのコピーバンドではないからだ。
コードの繋げ方にもコツがあって、ピアノ経験者だからといって、コードのことなんかはまず知らないし、況してコード譜だけで最適なフレーズを弾くなんてことは普通無理なのだ。
まぁ今回の音源では、僕がキーボードを弾いているので、耳コピーできる人ならそのまんまコピーして弾けばいいんだけど、それも普通の人にはなかなか難しいだろう。
そんなわけで、僕らとやれるレベルのキーボードプレイヤーとなると意外に見つからない。
「まあ当面はオケでいいんじゃね?」
どうせパソコンとの同期演奏だ。僕が弾いたトラックを流せば音としては足りる。
「あ、そういえばかなでちゃんはどうよ? アレンジは固まってるんだし、楠木が譜面書いて渡せばそれで良くね?」
かなでちゃんというのは幼馴染で一年上の先輩だ。まあバンドでキーボードやってるし、そのバンドを僕とメグが手伝ったこともあるし、悪くはないと思うけど、譜面作るのめんどくさいなぁ。
「うーん……まあ悪くはないと思うけど……」
「何だよ。大方譜面作るの面倒くさいとか思ってんだろ?」
「バレたか」
メグには完全に見透かされていたようだ。今回作った六曲はキーボード類に関しては全部僕が弾いたのだ。だからそれを譜面化してかなでちゃんに渡せということだ。
「どんだけ付き合い長いと思ってんの? 分かるっつうの」
「うーん、そんならかなでちゃんに頼んでみるか」
「ちょっとちょっとっ! かなでちゃんですと!? ここに来ていきなり知らないキャラが出てきたんですけど、そのかなでちゃんとやらは拓実君の何なの?!」
出た。久々に出たなぁ、この羽深さん。
「僕の? まぁ、僕とは幼馴染?」
「お、幼馴染ですとぉっ!? ここに来て更なるライバル出現とは……まったくのノーマークだったわ……」
「ライバル? いや、メインボーカルの座はららちゃんで決まってるから心配いらないよ。あくまでキーボードだから。まあかなでちゃんにもバックコーラスくらいはお願いするかもだけど」
「むぅ……」
一応フォローしたつもりだけど、羽深さんは黙りこくっている。大丈夫だって言うのに……。まさかバックコーラスですらさせたくないのか?
メグの奴はそんな僕らを見てニヤニヤしている。何がおかしいんだよ、まったく。お前も何かフォロー入れろや。
「楠木ぃ」
「あ?」
「取り敢えずお前は爆発しとけな」
「はぁ?」
何言ってんだ、メグは? 意味が分からん。
「いいんだよ、取り敢えず爆発な。お前の鈍さは国宝級だな」
「いやマジで何言ってんの? 国宝爆発させるんじゃねーよ」
「ん、それもそうか。国宝じゃないから爆発しとけ」
「そこは譲らねーのな」
「ダメーッ。拓実君爆発断固反対っ!」
「あー、はいはい。もう好きにしてくれや、お二人さんは。付き合いきれん」
いやいや。爆発しろとか言う方が付き合いきれんわ。大体そういうのはリア充に対して言う言葉なんだよ。そんなことも知らんのかこいつは。これだからリア充って奴は。
「拓実君」
「ん、何?」
「ライブ本番では、むしろ爆発しようねっ!」
そう言って拳を強く握りしめる羽深さん。結局爆発するのか。ま、でもそういう意味ならいいか。
「うん、爆発しよう」
「あー、やっぱりお前ら二人とも爆発してろ、チキショーめ」
ん? つまり最終的には、爆発するって方向でまとまった……のか?
そのせいで佐坂の歯軋りが聞こえてきそうな場面がしばしばあるのだが、知ってか知らずか、メグが大抵一緒なお陰でどうにか絡まれずに済んでいる。こういう時、カースト上位者が二人にモブ一人という構成だと何故だか変に絡まれずに済むようだ。佐坂みたいに絡んでくる輩の生態は理解し難いものだ。
「土曜日はついにバンドで初合わせだね。楽しみだなぁ。わたしバンドって初めてだし」
羽深さんはよほど嬉しいのだろう。こぼれ落ちるような笑顔が眩しい。うっかり見惚れてしまわないようにこっちは必死だ。
「キーボード、いい奴いないかねぇ」
「キーボードなぁ……あんま情報ないよなぁ、キーボードやる奴」
メグの伝手を駆使しても、まだキーボードプレイヤーが見つかっていないのだ。ピアノ経験者は多いので、キーボードをやれるという人はかなり多いのだが、実はバンドでキーボーディストをやるとなると、それだけでは不足を感じてしまう。
音楽はそのジャンルによって典型的な演奏スタイルというものがある。
◯◯マナーなんて呼ばれるのがそれにあたる。例えばソウル・マナーとか、ゴスペル・マナーといった具合だ。要は音楽の慣用句とか様式美みたいなものだ。
他の楽器にも言えることだが、そういったマナーに精通していて、適所でそういうフレージングやパターンをビシッと決められなくてはならない。それに一口にキーボードと言ってもいろんな楽器があり、それぞれに特徴的なボイシングやフレーズ、奏法があるわけだ。
僕らのバンドの場合はコード譜だけで、バンドのアレンジを聴きながらそれを自分で判断してやってもらう必要がある。バンドスコアがあって、楽譜を見てパートを覚えるといったタイプのコピーバンドではないからだ。
コードの繋げ方にもコツがあって、ピアノ経験者だからといって、コードのことなんかはまず知らないし、況してコード譜だけで最適なフレーズを弾くなんてことは普通無理なのだ。
まぁ今回の音源では、僕がキーボードを弾いているので、耳コピーできる人ならそのまんまコピーして弾けばいいんだけど、それも普通の人にはなかなか難しいだろう。
そんなわけで、僕らとやれるレベルのキーボードプレイヤーとなると意外に見つからない。
「まあ当面はオケでいいんじゃね?」
どうせパソコンとの同期演奏だ。僕が弾いたトラックを流せば音としては足りる。
「あ、そういえばかなでちゃんはどうよ? アレンジは固まってるんだし、楠木が譜面書いて渡せばそれで良くね?」
かなでちゃんというのは幼馴染で一年上の先輩だ。まあバンドでキーボードやってるし、そのバンドを僕とメグが手伝ったこともあるし、悪くはないと思うけど、譜面作るのめんどくさいなぁ。
「うーん……まあ悪くはないと思うけど……」
「何だよ。大方譜面作るの面倒くさいとか思ってんだろ?」
「バレたか」
メグには完全に見透かされていたようだ。今回作った六曲はキーボード類に関しては全部僕が弾いたのだ。だからそれを譜面化してかなでちゃんに渡せということだ。
「どんだけ付き合い長いと思ってんの? 分かるっつうの」
「うーん、そんならかなでちゃんに頼んでみるか」
「ちょっとちょっとっ! かなでちゃんですと!? ここに来ていきなり知らないキャラが出てきたんですけど、そのかなでちゃんとやらは拓実君の何なの?!」
出た。久々に出たなぁ、この羽深さん。
「僕の? まぁ、僕とは幼馴染?」
「お、幼馴染ですとぉっ!? ここに来て更なるライバル出現とは……まったくのノーマークだったわ……」
「ライバル? いや、メインボーカルの座はららちゃんで決まってるから心配いらないよ。あくまでキーボードだから。まあかなでちゃんにもバックコーラスくらいはお願いするかもだけど」
「むぅ……」
一応フォローしたつもりだけど、羽深さんは黙りこくっている。大丈夫だって言うのに……。まさかバックコーラスですらさせたくないのか?
メグの奴はそんな僕らを見てニヤニヤしている。何がおかしいんだよ、まったく。お前も何かフォロー入れろや。
「楠木ぃ」
「あ?」
「取り敢えずお前は爆発しとけな」
「はぁ?」
何言ってんだ、メグは? 意味が分からん。
「いいんだよ、取り敢えず爆発な。お前の鈍さは国宝級だな」
「いやマジで何言ってんの? 国宝爆発させるんじゃねーよ」
「ん、それもそうか。国宝じゃないから爆発しとけ」
「そこは譲らねーのな」
「ダメーッ。拓実君爆発断固反対っ!」
「あー、はいはい。もう好きにしてくれや、お二人さんは。付き合いきれん」
いやいや。爆発しろとか言う方が付き合いきれんわ。大体そういうのはリア充に対して言う言葉なんだよ。そんなことも知らんのかこいつは。これだからリア充って奴は。
「拓実君」
「ん、何?」
「ライブ本番では、むしろ爆発しようねっ!」
そう言って拳を強く握りしめる羽深さん。結局爆発するのか。ま、でもそういう意味ならいいか。
「うん、爆発しよう」
「あー、やっぱりお前ら二人とも爆発してろ、チキショーめ」
ん? つまり最終的には、爆発するって方向でまとまった……のか?
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