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44 そういえば羽深さん、生徒会役員だったよね
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羽深さんが、あー、あーとか言いながら喉のコンディションを整えている。凄い。ここまで歌う気満々だとは少々驚きだ。本気だったんだ。
この美術館のパティオに置いてあるのはグランドピアノだが、フルコンと呼ばれる文字通りサイズも音量もフルコンサートサイズのピアノと比べるとコンパクトなものだ。とは言え普通の家庭で部屋に置くと結構な威圧感になるYA◯AHAのC3というピアノで、音量もこういう場で弾くには十分というか、ややオーバースペックかもしれないので大屋根(上蓋)は全閉にしてタッチも調整しながら弾かなければならない。
ポロンポロン軽く指慣らしがてら弾いていたら人が集まってくる。この前の人だなんて声もちらほら。この前の人とはボーカルが違うけども、なんて思いつつ羽深さんを見れば準備万端という感じでこちらをガン見している。
曜ちゃんはバンドでボーカルをやってるし、かなり音楽も勉強しているようで、この前みたいな急なセッションも十分こなせていた。だけどさすがに羽深さんはボーカリストってわけじゃないし、いきなりこういうセッションをしてもああは行かないだろう。
僕の方が羽深さんに合わせつつも要所要所はリードして行かなきゃならない。今日は気を引き締めてかからなくちゃ。正直この前のセッションはすごく楽しかったけど、今日は楽しむというより、羽深さんのお膳立てって感じかな。
指慣らしも終えて音がやめば、あたりには結構な人数が集まっていた。やはり先日見ていた人たちが覚えていて立ち止まってくれたのだろうか。
羽深さんに合図を送るようにして目配せすると、しっかり通じたようで頷き返された。
羽深さんが自主トレしてきたという『My favorite thing(わたしのお気に入り)』のイントロを奏で始めると、リズムに乗って羽深さんの体が愛らしく揺れる。
イントロの終わり、歌の始まりに向けてテンポを落としていく。歌の始まるタイミングに合わせてお互いの首がシンクロしながら大きくゆったりと上下する。この辺りの呼吸はバッチリいい歌い出しだ。
羽深さんのテンポや息遣いを感じ取って指先を同調させるように最新の注意を払いながらピアノを奏でる。
しかし羽深さん。なんて愛らしい歌声だ。声量がそんなにあるわけではないので、ピアノのタッチやボイシングにも細心の注意が必要だが、故に奏でられた柔和な音質は羽深さんの声にうまくフィットする。
これはこれで演奏の歓びが湧き上がり高揚を感じる。僕も羽深さんの声に合わせるようにして優しく字ハモ(あーとかうーとかじゃなく歌詞のあるハーモニー)をなぞる。
間奏に入るタイミングもバッチリだ。一度も合わせていないから曲の構成とか大丈夫かなと少し不安だが、今のところちゃんと合っている。
お、それどころかスキャットを入れてきたぞ。凄いな羽深さん。慣れてないと意外に照れたりして中途半端になりがちだけど、ちゃんとやれてる。それにしても天使の歌声だ。なんていうかな、変に歌い慣れていないところがピュアでいい方に出てる。
歌が終わると、この前みたいに拍手が沸き起こった。思っていたよりいいセッションができて正直驚いている。
羽深さんとしても一曲しか用意がないため、そそくさと逃げるようにしてその場を立ち去ることとなった。この後僕もライブがあるのでそろそろ準備にかかりたい。楽器や機材を搬入してセッティング、音出しと結構ライブ前にやることは多いのだ。
「どうだった?」
僕としては思ってたよりよかったが、やりたいと自主練までして臨んだ羽深さんはどうだったんだろう。思い通りにできただろうか気になる。
「ふぅ~、楽しかったぁ~。拓実君たちって、いっつもこんな楽しいことしてるんだぁ」
弾んだ声で楽しかったという羽深さんは心底楽しめたようだ。意外に心臓が強い。プロでもステージ・フライトに取り憑かれる人は少なくないというのに。
「ねぇ、拓実君……」
うわぁ、出たまたこの上目遣い。今度はどんな無茶振りされるんだろ。でも抗えないこのかわいさ。
「な、何かな……」
「わたし、拓実君と一緒にバンドやりたいな。ダメ?」
ってまた上目遣い。かわいいっ! それにしてもバンドだって? うーん、自分のバンドって、中学時代には一応所属してたバンドがあったこともあるけど、色々あってなぁ……もうバンドはやってないんだよなぁ。いや、だからそんな風に上目遣いされるとねぇ。
「あのね、文化祭まででもいいんだ。思い出に一緒にバンドできないかなぁ……」
「うーん、文化祭ねぇ。つってもさぁ、うちの学校って文化祭でライブ出られるの三年生限定なんだよね」
もっとも僕とメグは一年の時から三年生のバンドのいわゆるトラとして文化祭ライブに出演しているんだが、これはあくまでトラとしてだし、かなり特殊な事例だもんなぁ。
「知ってるけど、そこはわたしが裏から手を回してごにょごにょするし、大丈夫ってことで!」
「なんか言っちゃいけないこと言ったよ、さらっと今⁈」
そういえば羽深さん、生徒会役員だったよね。その権力発動する気満々か? マジでやりかねないからなこの人。
「うーん……」
はてさて、どうしたものか。さっきのセッションではなかなかいい感じだった。正直悪くない出来栄えだった。と言うかむしろ良かったんだよなぁ……。
うぅむ……。ちょっと魅力的、いやかなり魅力的かも……。
この美術館のパティオに置いてあるのはグランドピアノだが、フルコンと呼ばれる文字通りサイズも音量もフルコンサートサイズのピアノと比べるとコンパクトなものだ。とは言え普通の家庭で部屋に置くと結構な威圧感になるYA◯AHAのC3というピアノで、音量もこういう場で弾くには十分というか、ややオーバースペックかもしれないので大屋根(上蓋)は全閉にしてタッチも調整しながら弾かなければならない。
ポロンポロン軽く指慣らしがてら弾いていたら人が集まってくる。この前の人だなんて声もちらほら。この前の人とはボーカルが違うけども、なんて思いつつ羽深さんを見れば準備万端という感じでこちらをガン見している。
曜ちゃんはバンドでボーカルをやってるし、かなり音楽も勉強しているようで、この前みたいな急なセッションも十分こなせていた。だけどさすがに羽深さんはボーカリストってわけじゃないし、いきなりこういうセッションをしてもああは行かないだろう。
僕の方が羽深さんに合わせつつも要所要所はリードして行かなきゃならない。今日は気を引き締めてかからなくちゃ。正直この前のセッションはすごく楽しかったけど、今日は楽しむというより、羽深さんのお膳立てって感じかな。
指慣らしも終えて音がやめば、あたりには結構な人数が集まっていた。やはり先日見ていた人たちが覚えていて立ち止まってくれたのだろうか。
羽深さんに合図を送るようにして目配せすると、しっかり通じたようで頷き返された。
羽深さんが自主トレしてきたという『My favorite thing(わたしのお気に入り)』のイントロを奏で始めると、リズムに乗って羽深さんの体が愛らしく揺れる。
イントロの終わり、歌の始まりに向けてテンポを落としていく。歌の始まるタイミングに合わせてお互いの首がシンクロしながら大きくゆったりと上下する。この辺りの呼吸はバッチリいい歌い出しだ。
羽深さんのテンポや息遣いを感じ取って指先を同調させるように最新の注意を払いながらピアノを奏でる。
しかし羽深さん。なんて愛らしい歌声だ。声量がそんなにあるわけではないので、ピアノのタッチやボイシングにも細心の注意が必要だが、故に奏でられた柔和な音質は羽深さんの声にうまくフィットする。
これはこれで演奏の歓びが湧き上がり高揚を感じる。僕も羽深さんの声に合わせるようにして優しく字ハモ(あーとかうーとかじゃなく歌詞のあるハーモニー)をなぞる。
間奏に入るタイミングもバッチリだ。一度も合わせていないから曲の構成とか大丈夫かなと少し不安だが、今のところちゃんと合っている。
お、それどころかスキャットを入れてきたぞ。凄いな羽深さん。慣れてないと意外に照れたりして中途半端になりがちだけど、ちゃんとやれてる。それにしても天使の歌声だ。なんていうかな、変に歌い慣れていないところがピュアでいい方に出てる。
歌が終わると、この前みたいに拍手が沸き起こった。思っていたよりいいセッションができて正直驚いている。
羽深さんとしても一曲しか用意がないため、そそくさと逃げるようにしてその場を立ち去ることとなった。この後僕もライブがあるのでそろそろ準備にかかりたい。楽器や機材を搬入してセッティング、音出しと結構ライブ前にやることは多いのだ。
「どうだった?」
僕としては思ってたよりよかったが、やりたいと自主練までして臨んだ羽深さんはどうだったんだろう。思い通りにできただろうか気になる。
「ふぅ~、楽しかったぁ~。拓実君たちって、いっつもこんな楽しいことしてるんだぁ」
弾んだ声で楽しかったという羽深さんは心底楽しめたようだ。意外に心臓が強い。プロでもステージ・フライトに取り憑かれる人は少なくないというのに。
「ねぇ、拓実君……」
うわぁ、出たまたこの上目遣い。今度はどんな無茶振りされるんだろ。でも抗えないこのかわいさ。
「な、何かな……」
「わたし、拓実君と一緒にバンドやりたいな。ダメ?」
ってまた上目遣い。かわいいっ! それにしてもバンドだって? うーん、自分のバンドって、中学時代には一応所属してたバンドがあったこともあるけど、色々あってなぁ……もうバンドはやってないんだよなぁ。いや、だからそんな風に上目遣いされるとねぇ。
「あのね、文化祭まででもいいんだ。思い出に一緒にバンドできないかなぁ……」
「うーん、文化祭ねぇ。つってもさぁ、うちの学校って文化祭でライブ出られるの三年生限定なんだよね」
もっとも僕とメグは一年の時から三年生のバンドのいわゆるトラとして文化祭ライブに出演しているんだが、これはあくまでトラとしてだし、かなり特殊な事例だもんなぁ。
「知ってるけど、そこはわたしが裏から手を回してごにょごにょするし、大丈夫ってことで!」
「なんか言っちゃいけないこと言ったよ、さらっと今⁈」
そういえば羽深さん、生徒会役員だったよね。その権力発動する気満々か? マジでやりかねないからなこの人。
「うーん……」
はてさて、どうしたものか。さっきのセッションではなかなかいい感じだった。正直悪くない出来栄えだった。と言うかむしろ良かったんだよなぁ……。
うぅむ……。ちょっと魅力的、いやかなり魅力的かも……。
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