【6/5完結】バンドマンと学園クイーンはいつまでもジレジレしてないでさっさとくっつけばいいと思うよ

星加のん

文字の大きさ
上 下
38 / 83

38 ちょうどいいモブ

しおりを挟む
「いや、それがさぁ。色々と事情があるみたいなんだよ」

「事情……?」

「そう。羽深さんってさ、いっつも取り巻きの連中がいるじゃん? あの連中が実は苦手らしいんだわ。それで連中に囲まれない時間が欲しくて早めの時間に登校するようになって、たまたま僕と一緒になることが多くてさ。そしたらなんだか昼休みもあいつらから抜け出したいとか言って僕と一緒に食べるって言い出したんだよ。弁当だって向こうが作ってくるって言ったんだからな」

 恥ずいからたまたまってことにする。
 一緒にいたくて早朝頑張って登校してるのバレたらイタい奴と思われるに違いない。

「ふーん……でもなんで楠木なんだ?」

「それな。正直そこは謎なんだけど、羽深さんも音楽好きでさ、僕が朝いっつも一人で音楽聴いてるから真似して聴いてるって言ってた。あともしかしたら僕が一人でも平気そうにしてるから何かヒントになると思ってるのかも」

 自分でも謎だが概ねそんなところじゃないかと思うんだ。

「ほぉー。つまりあれだ。楠木がぼっち道の師匠ってわけだな」

 なんか癪に触る言い方するな、こいつは。

「ぼっち道って言うなよ! ぼっちの求道者じゃないし、そもそもぼっちでもないからね!?」

 まったく。僕はモブだけどぼっちではないぞ。

「ふぅーん……」

「なんだよ?」

 メグは何かまだ言いたげに僕を横目にすがめている。

「いや別にぃ……。さすがだねーと思ってさ。お前モテないふりして昔から結構すげぇよな。時々こいつには敵わねぇーって思い知らされるんだよ、お前にはさ」

 さすがにそれは意味分かんないわ。

「バカ言ってんじゃねーよ。そんなわけないだろ。お前にだけは言われたくないっつーの」

 メグって奴は付き合い長いがホントにモテる男なのだ。深くは事情を知らないし知ろうとも思わないが、女を切らしたことがないというもっぱらの噂だ。

「ふんっ、言ってろよ。なんだか知らんがモブキャラ気取っておきながらちゃっかり大物釣り上げてるし。あーぁ、オレはじんさんあたり狙っちゃおうかなぁ~」

 んぬっ!?
 神さんっていうのは曜ちゃんのことだ。
 曜ちゃんとは付き合ってるわけじゃないがいい感じなのでヤツに持ってかれるのはちょっと……。
 いやしかし僕の本命は羽深さんなわけで、曜ちゃんのことを拘束する権利なんて当然僕にはないわけで……。うぅん……。

「なんだよ……えっ? お前ってまさか神さんも狙ってたりするの!? おいおい、マジかよぉ? 勘弁しろよぉっ」

「え、あっ、いや、そのぉっ……うーんと……」

 狙ってると言うか、曜ちゃんが結構グイグイ来るから満更でもないと言うか……。

「マジかヨォ~。クッソ、モブの皮を被った鬼畜だよなお前ってやつは本当によ! 二股とか許さんからな。どっちか譲れっ」

 鬼畜ってっ?
 酷い言いようだな、おい。

「おいっ。譲れとか人を物みたいに言うなよっ!」

「うるさいわ、この獣物がっ。……それで? 神さんとはどこまで行った?」

 獣物は心外だなぁ。
 ど、どこまで行ったってな、お前……。
 手すら握ってないっつーの。チクショー。
 プロのDT舐めんなっ。

「下品な訊き方すんなよ、お前は。曜ちゃんとはThreadするくらいだよ。この前初めてデートしたけど、映画観て美術館行っただけだぞ」

 な、なんだよ。そのジト目は……。

「曜ちゃん、ねぇ……まったくお前という奴は、いかにもモブですって雰囲気出しといて油断も隙もないよな!」

 は?
 むしろ油断と隙だらけですけど?
 意味分からんわ。

「雰囲気じゃねーよ。そのまんまモブ中のモブだろが。自分で言ってて悲しいくらいモブだわ」

「よく言うよまったく。羽深さんと言い神さんと言い美人中の美人じゃないかよ! この面食いが」

 そこはまぁ、不思議なところではあるがな。
 こっちが何かしたわけでもないし、向こうが勝手に来るんだよ。とか言ったら余計顰蹙買いそうだから言わないけど。

「でもまぁ、たまたま話しやすいんだかなんだか分かんないけど、恋愛抜きで遊ぶのにちょうどいい感じとか思われてるんじゃないのか? ほら、最近よくちょうどいいブスとか言うじゃん。ちょうどいいモブってことじゃないかな」

 言ってて悲しくなるけどその線が濃厚だと思っている。
 特に羽深さんの場合は。
 どう考えてもカーストトップの羽深さんが恋愛的な意味で僕に好意を持ってくれるはずがないもんな。
 ってマジで悲しくなるっての。

 結局仲良くなりたいっていうのは良くて友達的な意味か、現実的に考えればあの取り巻き連中から逃げるための一時的な避難所的な存在なのかもな……。

「何だか分かんねえけど、頼むぜ楠木。お前調子のいいことばっかやってるとバチが当たるぞ」

 うぐぅ。
 そこはおっしゃる通りで……ぐうの音も出ないっす。

「分かってるよ……」

 胸に刺さったメグの忠告の言葉を引き抜くこともできず、それしか言えなかった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

「南風の頃に」~ノダケンとその仲間達~

kitamitio
青春
合格するはずのなかった札幌の超難関高に入学してしまった野球少年の野田賢治は、野球部員たちの執拗な勧誘を逃れ陸上部に入部する。北海道の海沿いの田舎町で育った彼は仲間たちの優秀さに引け目を感じる生活を送っていたが、長年続けて来た野球との違いに戸惑いながらも陸上競技にのめりこんでいく。「自主自律」を校訓とする私服の学校に敢えて詰襟の学生服を着ていくことで自分自身の存在を主張しようとしていた野田賢治。それでも新しい仲間が広がっていく中で少しずつ変わっていくものがあった。そして、隠していた野田賢治自身の過去について少しずつ知らされていく……。

フラレたばかりのダメヒロインを応援したら修羅場が発生してしまった件

遊馬友仁
青春
校内ぼっちの立花宗重は、クラス委員の上坂部葉月が幼馴染にフラれる場面を目撃してしまう。さらに、葉月の恋敵である転校生・名和リッカの思惑を知った宗重は、葉月に想いを諦めるな、と助言し、叔母のワカ姉やクラスメートの大島睦月たちの協力を得ながら、葉月と幼馴染との仲を取りもつべく行動しはじめる。 一方、宗重と葉月の行動に気付いたリッカは、「私から彼を奪えるもの奪ってみれば?」と、挑発してきた! 宗重の前では、態度を豹変させる転校生の真意は、はたして―――!? ※本作は、2024年に投稿した『負けヒロインに花束を』を大幅にリニューアルした作品です。

乙男女じぇねれーしょん

ムラハチ
青春
 見知らぬ街でセーラー服を着るはめになったほぼニートのおじさんが、『乙男女《おつとめ》じぇねれーしょん』というアイドルグループに加入し、神戸を舞台に事件に巻き込まれながらトップアイドルを目指す青春群像劇! 怪しいおじさん達の周りで巻き起こる少女誘拐事件、そして消えた3億円の行方は……。 小説家になろうは現在休止中。

如月さんは なびかない。~片想い中のクラスで一番の美少女から、急に何故か告白された件~

八木崎(やぎさき)
恋愛
「ねぇ……私と、付き合って」  ある日、クラスで一番可愛い女子生徒である如月心奏に唐突に告白をされ、彼女と付き合う事になった同じクラスの平凡な高校生男子、立花蓮。  蓮は初めて出来た彼女の存在に浮かれる―――なんて事は無く、心奏から思いも寄らない頼み事をされて、それを受ける事になるのであった。  これは不器用で未熟な2人が成長をしていく物語である。彼ら彼女らの歩む物語を是非ともご覧ください。  一緒にいたい、でも近づきたくない―――臆病で内向的な少年と、偏屈で変わり者な少女との恋愛模様を描く、そんな青春物語です。

#消えたい僕は君に150字の愛をあげる

川奈あさ
青春
旧題:透明な僕たちが色づいていく 誰かの一番になれない僕は、今日も感情を下書き保存する 空気を読むのが得意で、周りの人の為に動いているはずなのに。どうして誰の一番にもなれないんだろう。 家族にも友達にも特別に必要とされていないと感じる雫。 そんな雫の一番大切な居場所は、”150文字”の感情を投稿するSNS「Letter」 苦手に感じていたクラスメイトの駆に「俺と一緒に物語を作って欲しい」と頼まれる。 ある秘密を抱える駆は「letter」で開催されるコンテストに作品を応募したいのだと言う。 二人は”150文字”の種になる季節や色を探しに出かけ始める。 誰かになりたくて、なれなかった。 透明な二人が150文字の物語を紡いでいく。

サンスクミ〜学園のアイドルと偶然同じバイト先になったら俺を3度も振った美少女までついてきた〜

野谷 海
恋愛
「俺、やっぱり君が好きだ! 付き合って欲しい!」   「ごめんね青嶋くん……やっぱり青嶋くんとは付き合えない……」 この3度目の告白にも敗れ、青嶋将は大好きな小浦舞への想いを胸の内へとしまい込んで前に進む。 半年ほど経ち、彼らは何の因果か同じクラスになっていた。 別のクラスでも仲の良かった去年とは違い、距離が近くなったにも関わらず2人が会話をする事はない。 そんな折、将がアルバイトする焼鳥屋に入ってきた新人が同じ学校の同級生で、さらには舞の親友だった。 学校とアルバイト先を巻き込んでもつれる彼らの奇妙な三角関係ははたしてーー ⭐︎毎日朝7時に最新話を投稿します。 ⭐︎もしも気に入って頂けたら、ぜひブックマークやいいね、コメントなど頂けるととても励みになります。 ※表紙絵、挿絵はAI作成です。 ※この作品はフィクションであり、作中に登場する人物、団体等は全て架空です。

処理中です...