25 / 83
25 いやいやまだ全然
しおりを挟む
羽深さんの柳眉が一瞬ピクッと上がった気がするが、改めてよく見てみても今はにこやかな笑顔だ。
気のせいだったのかな……。
「お、唐揚げも美味しいね~、うん」
ひとまず料理を褒めて様子を伺う姑息な僕だがしかし、そこは姑息な手段だけに何の解決にもなっていない。
「……」
そして羽深さんは無言の微笑みを称えているだけなのだがそれが逆に怖い。
ていうかよく考えたらなんで怖いんだろう。
殿上人の羽深さんからしたらエタヒニンのような存在と言えるこの僕が、誰と仲良くしようがしまいが気に留めるほどのこともない些末なことだ。
あれ……でもそう言えば、この前は曜ちゃんとのやりとりをきっかけになんだかおかしな雰囲気になっちゃったんだっけな……。
「返事……すれば? ジンピカちゃんでしょ」
あれ、バレバレですね……。
「ごめん、じゃあちょっといいかな。今日彼女のバンドとの練習の日なんだ」
と断りを入れると、羽深さんの目が一瞬大きく見開かれて驚いた様子だったが、特に何も言われなかったのでお言葉に甘えて曜ちゃんのトークを開いた。
そこにはいつもと変わらず美味しそうな手作り弁当の画像が貼られている。
そして……。
『今日もタクミくんはパン食べてるの?(´-ω-`)』
と一見なんということもないような質問が送られてきた。
まあ当初はそのつもりだったのだが、どういうわけか今日に限っては学校一の美少女の手作り弁当を一緒に食べているというイレギュラーな事態だ。
『うん、いつも通り』
しかし僕は嘘を吐いてしまった。
『そーなんだぁ(´-ω-`)
わたしが一緒の学校だったらお弁当作ってあげたかったなー(๑╹ω╹๑ )』
なんてかわいらしいことを言ってくれる。
嘘なのに……。
咄嗟に出てきた嘘に……。
曜ちゃんが見ていないのをいいことに……。
自分の吐いた嘘で胸の奥がじくじくと痛みだす。
ここで正直に事実を伝えることが正解とは思えない。
だけど嘘を吐いたという事実が重くのしかかってきて僕の良心を圧迫する。
僕はどうしてこんな最低の嘘つき野郎に成り下がっているんだろうか。
羽深さんも曜ちゃんも別に僕と付き合ってるってわけじゃない。
それなのにどちらに対してもまるで浮気をした男みたいな心情になっているのはどういうわけだ?
これも僕の磨きに磨かれたプロのDTならではの過剰な自意識の賜物だろうか。
「むぅ……こんなに頑張ってるのにまだリードされてるし……」
羽深さんの表情が少し険しくなって何かぶつくさ呟いている。
危険を察知した僕はすぐさまスマホから目を上げて羽深さんとのコミニュケーションに戻ろうとする。
「え? ごめん、リードって?」
「うぅん。独り言」
なんだ、独り言か……。何か尋常ならざる危機が一瞬纏わり付いてきたような気がしたんだが、気のせいでよかった……。ふぅ。
「ねぇ、拓実君。明日からまた一緒に学校行ってくれないかな?」
一瞬同意しかねて答えに窮したが、例の上目遣いだ。照れ臭そうに顔を赤らめてこれをやられるとどんな男だって死線を越えるのに躊躇しない。
「うん……いいよ……」
愚かだ……男って奴はよ……愚かな生き物だぜ……。だって羽深さんがかわいいんだもん。
もういい加減羽深さんは僕のこと好きってことで勘違いしてもよくね?
ダメですか!?
やっぱりプロのDTのチョロい勘違いですか!? ねぇっ? 誰か、教えてっ!?
もう泣きたいよ。
『今日の練習、緊張するなぁ┣¨キ(〃゚3゚〃)┣¨キ』
『大丈夫だよ、曜ちゃんなら』
『そーかなー*.+゚.(@´σωσ`).゚+.*』
『曜ちゃんの歌、いいと思うよ』
我ながら歯が浮きそうなことをいけしゃーしゃーと。これも曜ちゃんにだとスラスラ言えちゃうんだよな~、不思議と。
『ウレシイけど、わたしがドキドキしてるのは、ひさしぶりにタクミくんに会うからだヨ(*/∇\*)キャッ!!』
むふぉっ。
カワイィッ!
くっそ、やっべ。超やべこれ。
とはいえ、今は羽深さんがすぐ横にいるわけであるし、心の中をさらけ出すわけにはいかない。
僕は鉄壁の鉄面皮を貼り付けて表情筋を殺し何食わぬ顔で内心の悶絶を隠した。
「そんな顔されると傷つくなぁ……」
「え……」
「拓実君っていっつも、わたしと一緒にいるよりジンピカちゃんとThreadしてる方が嬉しそう。そういうの傷つくよ……」
隠せてませんでした。
「いや、その……」
なんつうか気まずい。
「ねぇ……ひょっとして拓実君とジンピカちゃんは、付き合ってるの?」
「っ!? いやいやまだ全然そんな段階じゃっ! 付き合ってないです! そんなっ、違いますって!」
一応いい感じかなと思ったりもするけれど、今度の日曜日に初デートだけど、だけど僕の想い人は羽深さんなのだ。
正直気持ちが揺れまくってなくはないが、当の羽深さんを目の前にしてまさか曜ちゃんといい感じだなんて口が裂けても言えるわけがない。
言ってて段々サイテーなことしてる気がしてきた……。
胸の奥がじくじくと痛む。
「まだ……か。いい感じに進展してるんだ……」
なぜ分かったしっ!?
エスパーか!? エスパーなのか!?
くっ……さっきからどういうわけかバレバレだ。
「じゃあ、明日から毎日お弁当を作ってきます。異論は認めません!」
えぇ!? じゃあって? 今の話の流れでどう繋がったの?
そりゃ逆にありがたいくらいだけど……。
えぇっ?
一体何が起こっているのだろう。
ただ羽深さんは、両手を強く握りしめて何か決意を胸に秘めたような強い眼差しで僕を見据えていた。
気のせいだったのかな……。
「お、唐揚げも美味しいね~、うん」
ひとまず料理を褒めて様子を伺う姑息な僕だがしかし、そこは姑息な手段だけに何の解決にもなっていない。
「……」
そして羽深さんは無言の微笑みを称えているだけなのだがそれが逆に怖い。
ていうかよく考えたらなんで怖いんだろう。
殿上人の羽深さんからしたらエタヒニンのような存在と言えるこの僕が、誰と仲良くしようがしまいが気に留めるほどのこともない些末なことだ。
あれ……でもそう言えば、この前は曜ちゃんとのやりとりをきっかけになんだかおかしな雰囲気になっちゃったんだっけな……。
「返事……すれば? ジンピカちゃんでしょ」
あれ、バレバレですね……。
「ごめん、じゃあちょっといいかな。今日彼女のバンドとの練習の日なんだ」
と断りを入れると、羽深さんの目が一瞬大きく見開かれて驚いた様子だったが、特に何も言われなかったのでお言葉に甘えて曜ちゃんのトークを開いた。
そこにはいつもと変わらず美味しそうな手作り弁当の画像が貼られている。
そして……。
『今日もタクミくんはパン食べてるの?(´-ω-`)』
と一見なんということもないような質問が送られてきた。
まあ当初はそのつもりだったのだが、どういうわけか今日に限っては学校一の美少女の手作り弁当を一緒に食べているというイレギュラーな事態だ。
『うん、いつも通り』
しかし僕は嘘を吐いてしまった。
『そーなんだぁ(´-ω-`)
わたしが一緒の学校だったらお弁当作ってあげたかったなー(๑╹ω╹๑ )』
なんてかわいらしいことを言ってくれる。
嘘なのに……。
咄嗟に出てきた嘘に……。
曜ちゃんが見ていないのをいいことに……。
自分の吐いた嘘で胸の奥がじくじくと痛みだす。
ここで正直に事実を伝えることが正解とは思えない。
だけど嘘を吐いたという事実が重くのしかかってきて僕の良心を圧迫する。
僕はどうしてこんな最低の嘘つき野郎に成り下がっているんだろうか。
羽深さんも曜ちゃんも別に僕と付き合ってるってわけじゃない。
それなのにどちらに対してもまるで浮気をした男みたいな心情になっているのはどういうわけだ?
これも僕の磨きに磨かれたプロのDTならではの過剰な自意識の賜物だろうか。
「むぅ……こんなに頑張ってるのにまだリードされてるし……」
羽深さんの表情が少し険しくなって何かぶつくさ呟いている。
危険を察知した僕はすぐさまスマホから目を上げて羽深さんとのコミニュケーションに戻ろうとする。
「え? ごめん、リードって?」
「うぅん。独り言」
なんだ、独り言か……。何か尋常ならざる危機が一瞬纏わり付いてきたような気がしたんだが、気のせいでよかった……。ふぅ。
「ねぇ、拓実君。明日からまた一緒に学校行ってくれないかな?」
一瞬同意しかねて答えに窮したが、例の上目遣いだ。照れ臭そうに顔を赤らめてこれをやられるとどんな男だって死線を越えるのに躊躇しない。
「うん……いいよ……」
愚かだ……男って奴はよ……愚かな生き物だぜ……。だって羽深さんがかわいいんだもん。
もういい加減羽深さんは僕のこと好きってことで勘違いしてもよくね?
ダメですか!?
やっぱりプロのDTのチョロい勘違いですか!? ねぇっ? 誰か、教えてっ!?
もう泣きたいよ。
『今日の練習、緊張するなぁ┣¨キ(〃゚3゚〃)┣¨キ』
『大丈夫だよ、曜ちゃんなら』
『そーかなー*.+゚.(@´σωσ`).゚+.*』
『曜ちゃんの歌、いいと思うよ』
我ながら歯が浮きそうなことをいけしゃーしゃーと。これも曜ちゃんにだとスラスラ言えちゃうんだよな~、不思議と。
『ウレシイけど、わたしがドキドキしてるのは、ひさしぶりにタクミくんに会うからだヨ(*/∇\*)キャッ!!』
むふぉっ。
カワイィッ!
くっそ、やっべ。超やべこれ。
とはいえ、今は羽深さんがすぐ横にいるわけであるし、心の中をさらけ出すわけにはいかない。
僕は鉄壁の鉄面皮を貼り付けて表情筋を殺し何食わぬ顔で内心の悶絶を隠した。
「そんな顔されると傷つくなぁ……」
「え……」
「拓実君っていっつも、わたしと一緒にいるよりジンピカちゃんとThreadしてる方が嬉しそう。そういうの傷つくよ……」
隠せてませんでした。
「いや、その……」
なんつうか気まずい。
「ねぇ……ひょっとして拓実君とジンピカちゃんは、付き合ってるの?」
「っ!? いやいやまだ全然そんな段階じゃっ! 付き合ってないです! そんなっ、違いますって!」
一応いい感じかなと思ったりもするけれど、今度の日曜日に初デートだけど、だけど僕の想い人は羽深さんなのだ。
正直気持ちが揺れまくってなくはないが、当の羽深さんを目の前にしてまさか曜ちゃんといい感じだなんて口が裂けても言えるわけがない。
言ってて段々サイテーなことしてる気がしてきた……。
胸の奥がじくじくと痛む。
「まだ……か。いい感じに進展してるんだ……」
なぜ分かったしっ!?
エスパーか!? エスパーなのか!?
くっ……さっきからどういうわけかバレバレだ。
「じゃあ、明日から毎日お弁当を作ってきます。異論は認めません!」
えぇ!? じゃあって? 今の話の流れでどう繋がったの?
そりゃ逆にありがたいくらいだけど……。
えぇっ?
一体何が起こっているのだろう。
ただ羽深さんは、両手を強く握りしめて何か決意を胸に秘めたような強い眼差しで僕を見据えていた。
0
お気に入りに追加
10
あなたにおすすめの小説
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
乙男女じぇねれーしょん
ムラハチ
青春
見知らぬ街でセーラー服を着るはめになったほぼニートのおじさんが、『乙男女《おつとめ》じぇねれーしょん』というアイドルグループに加入し、神戸を舞台に事件に巻き込まれながらトップアイドルを目指す青春群像劇! 怪しいおじさん達の周りで巻き起こる少女誘拐事件、そして消えた3億円の行方は……。
小説家になろうは現在休止中。
セーラー服美人女子高生 ライバル同士の一騎討ち
ヒロワークス
ライト文芸
女子高の2年生まで校内一の美女でスポーツも万能だった立花美帆。しかし、3年生になってすぐ、同じ学年に、美帆と並ぶほどの美女でスポーツも万能な逢沢真凛が転校してきた。
クラスは、隣りだったが、春のスポーツ大会と夏の水泳大会でライバル関係が芽生える。
それに加えて、美帆と真凛は、隣りの男子校の俊介に恋をし、どちらが俊介と付き合えるかを競う恋敵でもあった。
そして、秋の体育祭では、美帆と真凛が走り高跳びや100メートル走、騎馬戦で対決!
その結果、放課後の体育館で一騎討ちをすることに。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる