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23 僕が意図したのはそうじゃないんですけど
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どうも羽深さんは勝手に一人で納得した様子だが、僕の状況としては大して変わっちゃいない。
蔑むようなゴミでも見るような目で見られていたのが、今日は珍獣でも見るような目に変わった程度だ。
羽深さんは褒められ慣れているだろうに、僕なんかからでも綺麗と言われたいものなのか。
あんなにちやほやされているというのに美女というのは業が深いものだ。
もっとも僕がうっかり超綺麗でかわいいと口を滑らせたくらいであんなにモジモジしちゃってるのを見ると、それもまたかわいらしいのだが。
学園のカーストの頂点に君臨する彼女がこんな状態になっていることに対して、少なからず僕が関わっているというのがクラスのみんなの見解のようだ。
一体僕がどんなマジックを使ったのかというのが彼女の取り巻きの目下の関心となっているらしい。
なんでも僕は、一説には稀代のジゴロということになっているそうで、セクハラ少年からほんの少しマシなジョブチェンジを果たしたらしい。
まったく……人の噂というのは勝手なものだよ。
ちなみに全部メグが面白がって僕にいちいち報告しに来たのだが。
昼休みに今日もパンを買おうと購買へ向かうと、奇妙なことに羽深さんがぴったりくっついてきた。
「あの……何か……?」
立ち止まって羽深さんに振り返り問いかけると、
「あ、誰かと思えば拓実君じゃなーい。ぐうぜーん!」
なんて白々しく言う。
「もしかして何か僕に用事では?」
一応こちらから水を向けて差し上げる。
「いや、用事というか……その……たまたま後ろを歩いてたみたいで……た、拓実君はどこへ行くところ?」
「僕はパンを買いに購買へ」
「あ、そーなんだー。拓実君、パンなんだー」
もちろん僕自身はパンではなくこれでも一応ヒューマンの部類に属するはずだが、意味は分かるので無粋な指摘をしたりしない。
羽深さんは相変わらずモジモジしている。
「あっ! そう言えば偶然なんだけど……たまたま今日はお弁当を二つ作ったんだぁ~。よ、よかったら拓実君、食べてくれると助かるなぁ~、なんて」
たまたま弁当二つ作ることなんてあるか、普通!?
いや、普通じゃないからあるのか……。
カーストトップともなると、やはり人知れず施しとかして回ってるのかな。
「い、いいの?」
「助かるな。じゃあ、一緒に食べようよ!」
「え?」
それはちょっとな。
ただでさえあの取り巻き連中は苦手なのだ。その上今僕は奴らから珍獣扱いで好奇の目で見られているのだからそれはご遠慮願いたい。
「拓実君……いっつもどこかに行って食べてるよね……そこで二人で食べたいなぁ……なんて」
なる。そう言うことであれば……と少し思いかけたが、この人と関わると結局僕はどん底に突き落とされるのがオチだ。
もう下手に関わるべきではないと僕の中の危機管理委員会が決定している。
「あの、羽深さん。提案は大変ありがたいのですが……僕のようなものが羽深さんに関わるのはどうもよくない気がします。施しは本当に魅力的な提案でしたが……僕ではなく別の人にするのがよいかと……」
せっかくのお誘いなのでなるべく丁重にお断りすると、羽深さんの顔がみるみる曇る。今にも泣き出しそうになって必死に涙を堪えているかのようにも見える。
あれ、何か酷いことを言ってしまったんだろうか。
「施しって……。嘘に決まってるじゃん」
「は?」
いきなり何を言いだすんだろうか。
あ、弁当くれるって言うの嘘だったとか?
ひでぇ。ちょっと喜んじゃったよ。まさかまた弄ぶ気だったのか?
「偶然二つもお弁当作るわけないでしょ!」
「あ……」
それね。やっぱり二つは作らないんだ……。
「拓実君に食べてもらおうと思って作ったに決まってるでしょ」
えぇ!? そんなこと決まってたっけ?
いつだ!? いつそんなこと決まったんだ?
「そもそもわたし、普段はお弁当自分で作ってないし……」
そう言ってなぜか恨めしそうに僕を睨む羽深さん。
そうだったのか。普段は弁当作らないのね。
「拓実君には迷惑をかけちゃって本当に申し訳無く思ってるし、だけど拓実君わたしのことを無視するし、Threadにも全然既読つかないし、どうにかして仲直りできないかと思って頑張ったのっ! ちょっとは察しろにぶちんっ!」
羽深さんは意外なことを言って俯いている。
羽深さんの必死の訴えに胸が痛む。
僕はもう関わるのが嫌でひたすら無視していたから、そのせいで彼女にこんな顔をさせちゃって胸が痛んだ。
しかし女の子……てか特に羽深さんって……分かりにくいなぁ……。
僕は照れつつ左手を差し出した。
そういうことならありがたく羽深さんの手作り弁当をいただかないわけには行くまい。
羽深さんがさっきから両手で持っている二人分の弁当が入っているらしい包み、僕がお持ちしようじゃないですか。
しかし羽深さんは何を勘違いしたのか頬を赤らめて僕が差し出した左手を握り返した。
え、あの……。僕が意図したのはそうじゃないんですけど……。
しかしそれを指摘するのも羽深さんが気まずい思いをすることになるだろうし、無粋な気もする。
結局僕も耳まで真っ赤にしてそのまま彼女の手を引いて僕の隠れ家——校庭の植樹の下へと彼女の手を引いて移動したのだった。
蔑むようなゴミでも見るような目で見られていたのが、今日は珍獣でも見るような目に変わった程度だ。
羽深さんは褒められ慣れているだろうに、僕なんかからでも綺麗と言われたいものなのか。
あんなにちやほやされているというのに美女というのは業が深いものだ。
もっとも僕がうっかり超綺麗でかわいいと口を滑らせたくらいであんなにモジモジしちゃってるのを見ると、それもまたかわいらしいのだが。
学園のカーストの頂点に君臨する彼女がこんな状態になっていることに対して、少なからず僕が関わっているというのがクラスのみんなの見解のようだ。
一体僕がどんなマジックを使ったのかというのが彼女の取り巻きの目下の関心となっているらしい。
なんでも僕は、一説には稀代のジゴロということになっているそうで、セクハラ少年からほんの少しマシなジョブチェンジを果たしたらしい。
まったく……人の噂というのは勝手なものだよ。
ちなみに全部メグが面白がって僕にいちいち報告しに来たのだが。
昼休みに今日もパンを買おうと購買へ向かうと、奇妙なことに羽深さんがぴったりくっついてきた。
「あの……何か……?」
立ち止まって羽深さんに振り返り問いかけると、
「あ、誰かと思えば拓実君じゃなーい。ぐうぜーん!」
なんて白々しく言う。
「もしかして何か僕に用事では?」
一応こちらから水を向けて差し上げる。
「いや、用事というか……その……たまたま後ろを歩いてたみたいで……た、拓実君はどこへ行くところ?」
「僕はパンを買いに購買へ」
「あ、そーなんだー。拓実君、パンなんだー」
もちろん僕自身はパンではなくこれでも一応ヒューマンの部類に属するはずだが、意味は分かるので無粋な指摘をしたりしない。
羽深さんは相変わらずモジモジしている。
「あっ! そう言えば偶然なんだけど……たまたま今日はお弁当を二つ作ったんだぁ~。よ、よかったら拓実君、食べてくれると助かるなぁ~、なんて」
たまたま弁当二つ作ることなんてあるか、普通!?
いや、普通じゃないからあるのか……。
カーストトップともなると、やはり人知れず施しとかして回ってるのかな。
「い、いいの?」
「助かるな。じゃあ、一緒に食べようよ!」
「え?」
それはちょっとな。
ただでさえあの取り巻き連中は苦手なのだ。その上今僕は奴らから珍獣扱いで好奇の目で見られているのだからそれはご遠慮願いたい。
「拓実君……いっつもどこかに行って食べてるよね……そこで二人で食べたいなぁ……なんて」
なる。そう言うことであれば……と少し思いかけたが、この人と関わると結局僕はどん底に突き落とされるのがオチだ。
もう下手に関わるべきではないと僕の中の危機管理委員会が決定している。
「あの、羽深さん。提案は大変ありがたいのですが……僕のようなものが羽深さんに関わるのはどうもよくない気がします。施しは本当に魅力的な提案でしたが……僕ではなく別の人にするのがよいかと……」
せっかくのお誘いなのでなるべく丁重にお断りすると、羽深さんの顔がみるみる曇る。今にも泣き出しそうになって必死に涙を堪えているかのようにも見える。
あれ、何か酷いことを言ってしまったんだろうか。
「施しって……。嘘に決まってるじゃん」
「は?」
いきなり何を言いだすんだろうか。
あ、弁当くれるって言うの嘘だったとか?
ひでぇ。ちょっと喜んじゃったよ。まさかまた弄ぶ気だったのか?
「偶然二つもお弁当作るわけないでしょ!」
「あ……」
それね。やっぱり二つは作らないんだ……。
「拓実君に食べてもらおうと思って作ったに決まってるでしょ」
えぇ!? そんなこと決まってたっけ?
いつだ!? いつそんなこと決まったんだ?
「そもそもわたし、普段はお弁当自分で作ってないし……」
そう言ってなぜか恨めしそうに僕を睨む羽深さん。
そうだったのか。普段は弁当作らないのね。
「拓実君には迷惑をかけちゃって本当に申し訳無く思ってるし、だけど拓実君わたしのことを無視するし、Threadにも全然既読つかないし、どうにかして仲直りできないかと思って頑張ったのっ! ちょっとは察しろにぶちんっ!」
羽深さんは意外なことを言って俯いている。
羽深さんの必死の訴えに胸が痛む。
僕はもう関わるのが嫌でひたすら無視していたから、そのせいで彼女にこんな顔をさせちゃって胸が痛んだ。
しかし女の子……てか特に羽深さんって……分かりにくいなぁ……。
僕は照れつつ左手を差し出した。
そういうことならありがたく羽深さんの手作り弁当をいただかないわけには行くまい。
羽深さんがさっきから両手で持っている二人分の弁当が入っているらしい包み、僕がお持ちしようじゃないですか。
しかし羽深さんは何を勘違いしたのか頬を赤らめて僕が差し出した左手を握り返した。
え、あの……。僕が意図したのはそうじゃないんですけど……。
しかしそれを指摘するのも羽深さんが気まずい思いをすることになるだろうし、無粋な気もする。
結局僕も耳まで真っ赤にしてそのまま彼女の手を引いて僕の隠れ家——校庭の植樹の下へと彼女の手を引いて移動したのだった。
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