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十二話
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アーノルド邸に来て一週間が経とうとしていた。体調も戻り、今日からこの屋敷の使用人として働かせて貰える。俺は今まで国に仕えていたものの誰か特定の人物に仕えた経験はない。というより今まで基地以外で過ごしてきた期間が短すぎて屋敷の仕事内容なんて想像つかなかった。だから目の前のコレも世間では当たり前なのかもしれない恐怖に震えていたんだ。
「これを着ろと? 見た所女性物にだと思いますが」
黒を基調としたワンピースに白のレースが控えめに飾られている、どう見ても男の俺に着せる物じゃない。
「お前さん線が細いから似合うと思うぞ」
褒められた気がしない。似合ってたまるかと怒りさえ沸いてきてアーノルドを睨みつけた。一応ここの主は彼、セオ・アーノルドなので形ばかりの敬語を使い呼び方も様付けへと変えている。
「ケイトさんは普通の使用人服でしたよね」
「誰があいつの女装見たいんだよ」
やっぱり女装じゃないか!!
「着ませんよこんなの!! 嫌がらせですかそうなんですね、幸せ云々言ってたくせに結局俺の事恨んでるんでしょう!?」
「嫌がらせじゃねぇよ俺の趣味だ」
「尚悪い!!」
アーノルドと口論していればいつまでも部屋から出てこない俺を心配したらしいケイトさんが戸を叩いて中へ入ってきた。
「何してるんですか、って旦那様.......それは?」
「ノアの制服に決まってるだろ」
「そういうのセクハラって言うらしいですよ。部下に一番嫌われるやつです」
嫌われる、という言葉に反応したのかアーノルドの動きが固まった。バツ悪そうに咳払いをして何かを誤魔化すと取り繕った笑顔であの女性衣服を後ろに隠した。
「じょ、冗談だってノア」
「.......」
「ほらもう既に信用問題に関わってます、自業自得ですね。旦那様ノアくんの“ 本当の”制服は?」
「こっちだ」
あからさまに肩を落としているアーノルド。いくら嫌だったとはいえ流石に主人に向かってあの物言いは失礼だったかもしれない。でも、今さら謝るのはおかしい気もして俺は黙りを決め込んだ。
「全く喧嘩するならもっと分かりやすくして下さいよ」
「喧嘩なんてしてねぇよ!!」
「そうですね~旦那様が一方的に余計な事してただけでもんね」
「やめろ泣くぞ!?」
これがゾルディアの狂犬と恐れられた男の姿か。怒りを通り越して呆れてしまう。
「はぁ.......俺も(貴方のからかいに一々腹を立てて)悪かったので怒ってませんよ」
「ノア!」
感涙を漏らしながら抱きついてこようとするアーノルドを咄嗟に避けた。
「ここは和解のハグだろ!?」
「母国にそういった風習はなかったのですみません」
「大丈夫です。ゾルディアにもない風習なので」
アーノルドの距離感が近すぎるのはゾルディアの土地柄ではないのか。急にご機嫌になったアーノルドは俺の頭に顎を乗せて楽しそうに鼻歌を歌っている。
「アーノルド様」
「仲直りの印にせめてアーノルド呼びはやめてくれないか?」
「旦那様」
「おっそれいいな。何ならご主人様でもいいぞ」
「旦那様、また怒られますよ」
でもまぁそれくらいなら別に。
「ご主人様?」
アーノルドに触れられていた頭部からゆっくり彼の温もりが消えていく。不思議に思って振り返るとアーノルドは膝を抱えていた。
「えっ、ご主人様お腹でも痛いんですか!?」
ご主人様と何度も肩を揺らし反応を確かめようとするがアーノルドは死んだように動かない。
「ノアくん一回それやめようか。うちの旦那様が使い物にならなくなる」
結局ケイトさんからの禁止令が出て俺はアーノルドを旦那様と呼ぶことに落ち着いた。
「二人きりの時はセオでいいぞ」
「善処します」
「これを着ろと? 見た所女性物にだと思いますが」
黒を基調としたワンピースに白のレースが控えめに飾られている、どう見ても男の俺に着せる物じゃない。
「お前さん線が細いから似合うと思うぞ」
褒められた気がしない。似合ってたまるかと怒りさえ沸いてきてアーノルドを睨みつけた。一応ここの主は彼、セオ・アーノルドなので形ばかりの敬語を使い呼び方も様付けへと変えている。
「ケイトさんは普通の使用人服でしたよね」
「誰があいつの女装見たいんだよ」
やっぱり女装じゃないか!!
「着ませんよこんなの!! 嫌がらせですかそうなんですね、幸せ云々言ってたくせに結局俺の事恨んでるんでしょう!?」
「嫌がらせじゃねぇよ俺の趣味だ」
「尚悪い!!」
アーノルドと口論していればいつまでも部屋から出てこない俺を心配したらしいケイトさんが戸を叩いて中へ入ってきた。
「何してるんですか、って旦那様.......それは?」
「ノアの制服に決まってるだろ」
「そういうのセクハラって言うらしいですよ。部下に一番嫌われるやつです」
嫌われる、という言葉に反応したのかアーノルドの動きが固まった。バツ悪そうに咳払いをして何かを誤魔化すと取り繕った笑顔であの女性衣服を後ろに隠した。
「じょ、冗談だってノア」
「.......」
「ほらもう既に信用問題に関わってます、自業自得ですね。旦那様ノアくんの“ 本当の”制服は?」
「こっちだ」
あからさまに肩を落としているアーノルド。いくら嫌だったとはいえ流石に主人に向かってあの物言いは失礼だったかもしれない。でも、今さら謝るのはおかしい気もして俺は黙りを決め込んだ。
「全く喧嘩するならもっと分かりやすくして下さいよ」
「喧嘩なんてしてねぇよ!!」
「そうですね~旦那様が一方的に余計な事してただけでもんね」
「やめろ泣くぞ!?」
これがゾルディアの狂犬と恐れられた男の姿か。怒りを通り越して呆れてしまう。
「はぁ.......俺も(貴方のからかいに一々腹を立てて)悪かったので怒ってませんよ」
「ノア!」
感涙を漏らしながら抱きついてこようとするアーノルドを咄嗟に避けた。
「ここは和解のハグだろ!?」
「母国にそういった風習はなかったのですみません」
「大丈夫です。ゾルディアにもない風習なので」
アーノルドの距離感が近すぎるのはゾルディアの土地柄ではないのか。急にご機嫌になったアーノルドは俺の頭に顎を乗せて楽しそうに鼻歌を歌っている。
「アーノルド様」
「仲直りの印にせめてアーノルド呼びはやめてくれないか?」
「旦那様」
「おっそれいいな。何ならご主人様でもいいぞ」
「旦那様、また怒られますよ」
でもまぁそれくらいなら別に。
「ご主人様?」
アーノルドに触れられていた頭部からゆっくり彼の温もりが消えていく。不思議に思って振り返るとアーノルドは膝を抱えていた。
「えっ、ご主人様お腹でも痛いんですか!?」
ご主人様と何度も肩を揺らし反応を確かめようとするがアーノルドは死んだように動かない。
「ノアくん一回それやめようか。うちの旦那様が使い物にならなくなる」
結局ケイトさんからの禁止令が出て俺はアーノルドを旦那様と呼ぶことに落ち着いた。
「二人きりの時はセオでいいぞ」
「善処します」
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