人でなしの手懐け方

どてら

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六話

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 処刑前夜、何故かアーノルドに抱きかかえられたまま脱獄している。
俺一応捕虜なんだけど大丈夫なのか? いや大丈夫なわけないだろ。
「いい加減下ろせ」
「でもお前さん立てねぇだろ? この一ヶ月ろくに歩きもしなかった奴にいきなり動けなんて無茶言わねぇよ、いいから甘えてろって」
甘えるも何もこれからどうなるのか見えなくて不安なんだが。
「何処まで行く気だ?」
もしかして処刑所? 急遽今から執り行われる事になったのか?
「俺の屋敷」
「.......話が見えん」
されるがまま馬車に乗せられる。貴族用の高そうな馬車だ。豪華な外観と整えられた内装、これ囚人運ぶの為にあるやつじゃないよな。





鎖は外されたとはいえ手枷や衣服はそのまま。何処からどう見ても捕虜な俺に男の付き人らしい連中は何も言わず馬車を出している。腰掛けた座席は柔らかく沈むような感覚さえある。高級そうなのに汚れた俺なんかが使って怒られないのが不思議だ。

「取り敢えずあの息苦しい場所からはおさらば出来たな、牢獄なんてのは品がなくていけねぇ、お前さんもそう思うだろ?」
そう言われても困る。囚人にはお似合いじゃないのか。
「ろくに飯も食わせて貰えなかったらしいな。家に来たらたんまり食べさせてやるから安心しろ」
「.......おい」


「そろそろ説明しろ」
ガタンと、御者席から音がした。
「旦那様もしかして何の説明もなしに連れて来たんですか!?」
「おう、そんなもん後でいいだろ」
「それ拉致ですよ!!」
監禁されていた身としてはどちらもそう変わらない。

「俺は明日殺されるはずだが連れてきていいのか?」
「それ中止になったぞ」
あっさりと、いとも容易くそう告げられて俺は固まった。十八で終えるはずだった生涯に先が見えた瞬間だ。
「何故?」
冷静に考えて、そう聞き返す。
俺は捕虜だ。それもここゾルディア王国に多大な損害をもたらした死神って呼ばれてる男だぞ。そう簡単に死刑から免れるわけがない。国が許しても民が許さないはすだ。俺自身それでいいと思っている。エレイナ王国にも捨てられた身だ、こんな俺の命で償いにはならないだろうが晒せば安泰の声が上がるだろう、そう覚悟していたのに。

「殺してくれ、俺はそんなこと望んでいない」
俺の居場所は戦場だけだ。エレイナの敗戦が決まり終結した今、俺に生きている意味なんてない。
「お前の意見なんか聞くかよ、これは俺が決めたことだ。ノア、お前さんの生活はこれから俺が面倒見る。文句なんて言わせねぇ、黙ってアーノルド家に仕えて貰うぞ」
「アーノルド!? お前の家じゃないかふざけるな!!」
「ふざけてなんかいねぇよ至極真っ当だ。なぁケイト?」
「えぇまぁ」
曖昧に濁す従者。彼はケイトというらしい。
「従者なら主人の愚行を止めてくれ!」
縋るように叫ぶがケイトは馬を引いた体勢のままこちらを見ようともしない。
「私にどうにか出来るような御方じゃありませんので.......すみません」
謝らないでくれ。頼みの綱に手放され俺は肩を落とした。
「残念だったなぁ~そう気を落とすなって、可愛がってやるから」
「.......楽しそうだな」
「ん? 怒ってるのか?」
当たり前だ。
「こんな俺の無様さを見てさぞ楽しいだろうよ」
「の、ノア?」
「俺はエレイナの武器だ。捨てられたとはいえ俺がゾルディアの敵であることに変わりはない。そんな俺が敵将に捕まった挙句生ぬるい拷問を受け、殺されるどころか飼い殺しだと? 笑わせてくれる」
アーノルドが俺に暴力を振るわない理由が今やっと分かった。
「お前は面白がってただけなんだな。死神が絶望している姿は面白かったか? 捨てられた愚かな奴だと腹の底から笑っただろ? ならもう十分な筈だ。いい加減この馬鹿げた芝居はやめにしてくれ、もう一度言うぞアーノルド辺境伯、俺を殺せ」


俺を終わらせてくれ。


懇願に近い俺の話をアーノルドはただ呆然と聞いていた。
「お前さん何を勘違いしてるんだ?」
「旦那様のせいですよ、最初から説明していればこんな事になってないんです」

「早くしろ。出来ないならここで舌を噛み切っても」
「馬鹿やめろって!!」
慌てたアーノルドに止められ口を塞がれる。睨みを利かせ無言の圧力をかければアーノルドはため息をつきながら降参だと呟いた。

「お前さんを愚弄したわけじゃないんだ。気に障ったなら謝罪しよう」
「詫びを入れるなら腹でも斬ってみせろ」
「殺そうとするなよ。その、なんだ、俺はただ」
いつになく言葉に詰まりながらアーノルドは口にした。








「幸せにしてやりたいだけなんだ」

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