隣のあいつはSTK

どてら

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社畜の休日⑵

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 ホラー映画は結構好きだ。怖がっている登場人物達を眺めながら自分は安全圏にいるのだという安心感が心地いい。
「咲也くん変な楽しみ方してるね、そういう所も可愛い」
「俺はお前のそういう所キモイと思ってるけどな」
こいつ俺関係なら取り敢えず可愛いって言い出すよな。もはや名前すら愛でる対象だなんていうから病気だと思う。
「いい病院見つかるといいな」
「何で憐れんでるの!?」
理由が分からないうちはストーカーだよお前。


 映画館の暗がりに何となくほっと一息つく。落ち着くんだよなこういう場所。
「ヤラシイ気分になるよねこういう場所」
「お前とはもう来ねぇよ」
危険人物にも程がある、って今更か。選んだ映画はミステリー。謎解きとか好きなんだよ、最後まで考えても犯人が分からないので純粋に楽しめる。
「僕こういう犯人当て得意だよ?」
「絶対耳打ちすんなよ。したら追い出す」

浅木とは映画ですら楽しめるのか不安だ。













「最っ高だったな!!」
「そうだね。特に田中がチェーンソー持って犯人追い詰めるシーン迫力あったよね」
「むしろあいつが現行犯だったけどな」
推理要素は勿論のことアクションあり、恋愛あり血飛沫ありの派手な二時間だった。いつの間にか食べきっていたポップコーンの容器を捨て、人混みの波に乗りながら外へ出ていく。


「あっちょっと待ってて」
浅木は一言断ってからパンフレットやらグッズやらを買って帰ってきた。
「お前そういうの集めるタイプ?」
「今日は特別だよ。だって咲也くんと初めて出かけた記念だからね」
「浅木.......」
少し照れた浅木に温かい眼差しを向ける。

「次はないから大事にするんだぞ」
「あれ!? ここトキメキポイントじゃないの!!」
残念ながら成人男性に言われても可愛いとは思わない。浅木はあからさまに肩を落とした。
「咲也くんってチョロいように見えて身持ち固いよね」
「チョロいとか言うな」
俺の共通認識かそれ!?


興奮しきった俺たちは映画の話で盛り上がりながら近所を彷徨くことにした。道中目に入った書店に思わず胸が高鳴る。
「なぁ、本屋寄ってもいいか?」
「いいよ。僕も見たいものあるし」
どうして映画を見た後って小説読みたくなるんだろうな~。妙な高揚感のままに手当り次第面白そうな本を捲っていく。
「浅木は何が見たいんだ?」
「咲也くんが楽しそうに本を選んでるところかな」
「お前そんな事しなくてもいつも俺の事盗み見てるだろ」
「見るだけじゃなくて聞いてるよ」
一回、一回でいい。通報させてくれ。



店内の中心、一番目立つ所には我らが伊藤その先生の最新刊がカラー付きのPOPと一緒に並べられている。流石売れ筋ランキング常に上位をキープしてる作家だけある。

「やっぱり凄いな伊藤先生」
「.......咲也くんはそんなに伊藤そののこと好きなの?」
「好きだ」
飾り気もないけれどそう答えた。途端浅木が不貞腐れたような顔をする。そんな暗い顔出来たんだなお前。
「そんな事言われたら妬いちゃう」
「報告せんでいい」
勝手に丸焦げになっててくれ。
「他に好きな作家とかいないの?」
好きな.......そうだな。あちこちの棚を見渡してようやく見つけた一冊を浅木に見せた。
「この人の話は結構好きかな」
深見影郎先生。有名なホラー作家なんだが何せホラーのジャンル自体需要が独特なのでイマイチ話題に上がりにくかったりする。



「出てくる主人公いい感じに頭おかしくて、ネチネチした怖さと後味の悪いラストが読んでて「俺なんでこれ読んでしまったんだろう」っていう後悔に繋がる、そんな話を書いてるんだよな~。.......浅木?」
何故か顔を真っ赤にした浅木が無言で俺を睨んでいる。怒らせるようなことしたか?
「結構好きって、それって」
「まぁ一番は伊藤先生だけど」










「そう、だよね」
浅木の残念そうな声が耳に残って離れなかった。
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