隣のあいつはSTK

どてら

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社畜とSTKの半年間⑴

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 時間は半年前まで遡る。
当時俺は大学時代から付き合っていた彼女に振られ意気消沈中だった。

「私と仕事、どっちが大事なのよ!!」
ドラマにありがちな台詞を吐かれつい口が滑ってしまったのだ。
「.......分からない」
「っ!!」
激昴した彼女に水を浴びせられたことまでは覚えている。
「貴方のそういう所我慢できないの、別れましょう」
店を出て走り去っていく彼女を追いかけることも出来ず、俺は意気地無しだ。

分からないと答えたのは本心からだった。彼女は大事だ、大事にしたいと思っていた。対して仕事は俺にとって生きる為でしかなく好きか嫌いかで言われれば嫌いに当てはまるようなもの。そんなのと大事な彼女を比べた事がなくて「分からない」なんて口走ってしまった。結果その大事な彼女を傷つけたのだから本当に世話ないよな。
水浸しにしてしまった事を店員に詫びて、ふらふらと居酒屋を転々とし酔えるだけ酔って忘れようとした。そこから記憶が曖昧なんだ、浅木が俺を見かけたと言ったのは恐らくこの日の事だろう。だってそれ以来酒飲んでないからな。













 ストーキングされていると気づいたのはそれから少し経った後だ。最初はやけに視線を感じる、ぐらいの違和感だった。それでも俺は「疲れてんのかな?」「うつ症状かもしれない」みたいに悩んでもストーカーだなんて思いもしていなかった。

次に気づくきっかけになったのは自宅宛に届けられた公共料金の支払いが知らない間に済まされていた事だ。いつまで経っても届かない水道代やガス代の請求を不審に思って問い合せたところ「支払い済みですね」だとか。

俺はまず自身の記憶障害を疑った。ストレスで頭がイカれたのかもしれない。病院で診察して本当にそうだったら会社休めるな~なんて呑気に考えていたっけ。

結果、身体のどこにも異常は見られなかった。(栄養失調気味だと医師に注意されたぐらいだ)

決定打になったのは夜中に帰宅してきたら汚部屋だった自宅が綺麗に掃除されていた事。部屋を間違えたと慌てて表札を確認して目を丸くした、あれここ俺の家じゃねぇかって。


「それストーカーですよ」
後輩の宮本にありのまま相談するとそう告げられた。ストーカー、実感がわかなくて言葉だけが耳をすぎていく。
「俺にストーカーね~」
絶対趣味悪いなそいつ。
「警察に通報した方がいいですよ。このご時世何かと物騒なんですから」
「面倒臭い」
「またそんな事言って.......」
だが実際今の俺にそんな時間と余裕はない。
「それに被害届け出すにも被害が出てないしな」
部屋を片っ端から確認したが盗まれているものはおろか、冷蔵庫には新しい食材が置かれていたぐらいだ。ストーカーは部屋を丁寧に掃除した後俺の食生活改善を試みて買い足してくれたらしい。
「他人が勝手に部屋入ってるなんて気持ち悪いくないんですか?」
「気持ち悪いよそりゃ」
それよりもあの汚部屋に足を踏み入れるスペースが出来た感動の方がやや大きかっただけ。


「ストーカーにしては家庭力高いよな、尊敬する」
「反応間違ってると思います、危ない目に合ってからじゃ遅いんですよ!!」




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