隣のあいつはSTK

どてら

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社畜は今日も会社に行く

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「何ですかそれ、怖い話ですか?」
ただの実話だ。
「前から思っていましたが先輩の危機管理能力って死んでるんですか?」
「それ浅木にも言われた」
「浅木.......あぁストーカー男ですか、って何か仲良くなってません!?」
「なってない」
何て恐ろしい事を言うんだ。

 俺の後輩にあたる彼、宮本は入社以来何故か俺に懐いてくれた。我が社は生粋のブラック企業なので早々に消えていく後輩たちの背中を見送ってばかりいた俺には珍しい自分を慕ってくれる相手だったりする。
宮本は素直で優しい性格なので上司から何か言われたら断れないなんて洗礼を受けているのも見ていて自分と重ねてしまい放っておけない。

そんな宮本にはストーカー被害に合っている事を以前から話しているので、昼休みに(いつもは忙しくて取れないので凄く貴重だ)一緒に食事しながら昨日の事を話してみたのだ。

ストーカーが実は男で隣の住人だったこと、そいつの通報を一ヶ月だけ見送る約束をしたこと、あいつの飯がめちゃくちゃ美味いことを赤裸々に告白してみた。その途端宮本は顔を青ざめ何とも言えない複雑そうな表情を俺に向けた。

「通報一択ですよ。何なら僕が代わりにしましょうか?」
「待て、相手はストーカーとはいえ一度交わした約束を放棄しては男が廃る.......」
「そんな事で廃るなら男なんてやめた方がいいですよ!! 大体なんで約束なんかしちゃってるんですか、全体的にチョロいんですよ先輩は」
「チョロい言うな」
普段は優しい奴なんだが、時々熱くなると手がつけられないんだよな。
「しかもストーカー男なんでしょ? 先輩ヒョロいし力ないから押し倒されたらファイト一発ですよ、もう逃げられないでしょうね」
「お前結構下ネタ好きだよな」
ファイト一発とか久しぶりに聞いたぞ。

「俺には触れないって」
「倫理観狂ってるからストーカーしてるのにそんな奴の言葉鵜呑みにしちゃ駄目でしょ」
一理ある、というか正論でしかない。
「先輩が伊藤そののサイン会行けなくて凹んでたのは知ってますけど.......」
「あの日泣いたしな」
「どんだけショックだったんですか」
いっそ怪我でもして休もうかと本気で悩んだレベルだ。
「浅木はストーカーで変態で気持ち悪い発言多いが、俺の好みは俺より把握してて便利だぞ?」
「把握されてることに危機感抱いて下さいよ.......あの、まさかその弁当って」
「これか? 今朝起きたら用意されてた、多分浅木が作ったんだろうな」
キャラ弁って言ったか? 可愛らしい猫のキャラクターが描かれた彩のいい弁当になっている。正直食べるのが勿体ないくらいだ。残さず食べるけどな。
「先輩」
「ん? どうかしたか?」












「何か事件になったら僕がちゃんとインタビュー答えておきますからね」
「おい」



 
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