やさぐれ令嬢は高らかに笑う

どてら

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サラ・フィッツの日常⑵

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  街に出ると手当り次第茶っぱを探し回っていきます。


「ほうじ? 何だそれ冷やかしなら帰ってくれ」


「聞いたことないねぇ。この国の人間なら紅茶か珈琲一択だろう? お嬢さんさては異国の人?」


「そんなのより今日入ったコレどう? 一発で気持ち良くなるんだけど~」



 途中絶対危ない類の茶葉を勧められながらも頑なに断り続けました。手がかりらしいものはありません.......やはりこの国には無いのでしょうか。落ち込んでいる私を見兼ねた店員が溜息混じりに答えてくれます。
「メルーナの店ならあるかもな」
「メルーナですか?」
そんな店聞いたことありませんけど?
「茶葉専門店じゃねぇからな。あそこは店主が変わりもんで他領地の珍品集めてんだよ、確か新しい茶葉を手に入れたって話耳にしたような無かったような」
「それ本当ですか!?」
ここに来てようやく希望が見えて参りました。えぇ長かったですとも。早速そのメルーナという店の場所を教えてもらいそちらに走ります。息も絶え絶えになりながらようやく着いたので乱れた髪を整える必要がありました。

こんな事ならお嬢様と一緒に私も運動していれば良かったですね。普段の仕事で走り込みなんてないので汗かいてしまいましたよ。
「ごめんください」
「はーい。いらっしゃいませ」

奥から出てきたのは若い男性。背筋が伸びていてとても姿勢がよろしいですね。髪は私より暗めの茶色でしょうか? 瞳の色はエメラルドですが細目でよく見えません。

店内を見渡せば異国のカップや怪しげな絨毯、奇妙な男のお面まで本当に色々なものが置かれています。

「あの、こちらにほうじ茶なるものは置いているでしょうか?」
最後の頼みの綱です。恐る恐る質問すれば男性は目を丸くして私を見つめてきます。何でしょう? そんなに見られると居心地悪いのですが、って近いです近いです!!

「あ、あの」
「すみませんよく知っていたなと驚きまして」
「はぁ」
「安心してください。ほうじ茶に限らず緑茶を新しく数種類入手したところなので」
あるんですか!?
半ば諦めていたのでこれは天が私に味方したようです!!

「こちらに置いてるのが端から前茶・深蒸し茶・抹茶・茎茶・玉露・かぶせ茶・玄米茶.......」
「ちょっと待ってください!! 今メモをとりますので」
こんなに沢山種類があるなんて、お嬢様きっと泣いて喜びますね。(泣きはしませんでしょうが)

「ふふっ、あっすみませんつい」
慌てふためく様子を笑われてしまいました。お恥ずかしいです。
「でもまさかあるだなんて思ってませんでした。本当に助かります」
「緑茶はこの国ではあまり知られてませんからね。ここにあるのは全て最近ワイアット領から流れてきたものなんです。あそこは他国と貿易が盛んですから」
へぇ~そうだったんですね。

あれ? ということはワイアット家に行けばお嬢様ほうじ茶飲めたのでは?

自分の努力が無に帰りそうな発想を慌てて消し去ります。



「はいこちらがほうじ茶になります」
「あり、がとうごさいます」
会計を済まして急いで帰ろうとする私を店員さんが引き止めました。

「紅茶と緑茶はいれ方違いますがご存知ですか?」
「えっ!? そうなんですか!!」
てっきりいつも通りお出しすればいいものだと。
「紅茶とは醗酵度が違うので美味しいと感じる基準も変わってくるんですよ」
何とっ!!
せっかくお嬢様に内緒でご用意しようとしたのにそこまで頭が回りませんでした。

「よろしければお教えしますが」
「助かります!」
救世主ですよ本当に。ありがたやーありがたやー(この拝み方はお嬢様に教えて頂きました)。

店員さんの教え方は凄く分かりやすく、メモを取っている私を待つようにゆっくり説明してくれます。
「要はお湯の温度と抽出時間の違いですね。他に何か分からない点はありますか?」
「そうですね.......これの保管法なんですが」
何から何まで本当に親切な方です。ふいにお嬢様から言われた言葉を思い出しました。



────本当に悪い人というのは往々にして善良に見えるものですよ。


.......うちのお嬢様はやはり少しやさぐれすぎかもしれませんね。

茶葉の説明が終わると今度こそ店を出ようと、ってあれ?

「すみませんコレは頼んでいませんが」
「あぁそちらはサービスですよ」
茶葉には可愛い花柄のラッピングに赤いリボンまで付いています。もう一つ買った急須まで包んで頂いて手が込んでますね。
「プレゼントじゃないかと思ったので、余計なお世話でしたか?」
「いいえそんな!」
お嬢様これ見たらどんな反応しますかね。思わず顔がにやけてしまいます。
「.......」
「私の顔に何か?」
「お綺麗でしたのでつい見蕩れてしまいました」
まぁ! お世辞まで上手なんて流石商売人ですね。
「それからコレもどうぞ」
「これは?」
筒状の陶器みたいですが。
「湯呑みです。緑茶にはこれだと相場で決まっているらしいですよ」
「これに入れるんですね」
追加料金を支払おうとしたら断られてしまいました。
「次また来て頂けるならそれで充分です。ほらうち知名度ないので?」
そういうものでしょうか?
「それと私のことはユエルとお呼びください。一応メルーナの店主やっております」
いたずらっ子みたいな笑顔でとんでもないことを打ち明けた店主もといユエル様は私の両手を握って顔を近づけてきました。
「サラ・フィッツです。あの、また来ます」

それだけ言って逃げるように帰りましたとも。この歳であまり恋愛経験ないので殿方にああいう素振りをされるだけで気恥ずかしくなってしまいます、情けないですね。









 お嬢様は私がプレゼントしたほうじ茶を心から喜んで下さいました。
「えっあるの!? ここの世界観本当イマイチ理解出来ないんだけど万々歳、流石サラ!! でかしましたね、貴方って人は本当に最高過ぎますよ」
早速ルイも入れて三人でお茶会しましたよ。今度アイザック様もお誘いするそうです。いずれブラウン様も誘ってお嬢様との仲を取り持ちたい所ですね。
「まさか湯呑みでお茶を飲める日が来るとは.......あ~美味しい」
しみじみとするお嬢様。これで少しでも日頃の疲れを癒して貰えればいいですね。

「ちょっと苦い気も」
「それはルイがまだお子様なんですよ」
「でもよく見つけましたね。この辺に取り扱ってる店なんてありました?」
「それがですね────」

お嬢様に今日あったことを細かく話しました。次行く時はきっとお嬢様も行きたがるでしょうし。勿論あの笑顔が素敵なユエル様についてもお話しましたよ。



「.......春か~」
「もう夏になりますけど?」


私の疑問には答えずお嬢様は温かい眼差しを私に向けながらお茶を啜っていました。
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