やさぐれ令嬢は高らかに笑う

どてら

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『閑話』サラ・フィッツの日常

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 朝起きればまず外の天気を確認しています。雨が降っていれば洗濯物が乾きませんし何よりお嬢様がこれ幸いと引きこもろうとするから要注意です。
今日はとても天気がいいので午後から乗馬の訓練が出来るよう手配しておきましょうか。

お嬢様用の朝食準備を整えるとお嬢様の部屋にお持ちします。本来は食堂で召し上がるのが一番ですが、この家の正妻リリアン様とお嬢様が遭遇しては困るのでわざわざ時間をずらすか、こうして自室で摂るようにお嬢様が気をつかっているのです。
「おはようございますお嬢様」
「.......おはようございます」
寝起きのお嬢様は少し頭が回っていらっしゃらないのか返事が遅れます。そんなお姿は愛らしい子供そのもので思わず口元が緩んで.......いけませんね、しっかり叱らないと。
「お嬢様早く顔を洗って身支度を整えて下さいませ」
「はぁい」
「あとルイ、貴方も目が半開きになってますよ」
「これは生まれつきです」
適当なことを言うルイにも顔を洗わせます。全く手のかかる子が二人もいる気分です!
 私と同じ時期にお嬢様へお仕えすることになったルイという若い男。出会った当初は何を考えているのか分かりづらく、一緒に居て気まずいこともありましたが今では弟のような存在です。
「ほら二人とも、早く朝食にしますよ!!」
世話のかかる子達ですね。




 お嬢様は悪役令嬢? というものになる為日々奮闘しているようです。アイザック様が笑って過ごせるよう自ら泥を被り汚名を広め、そこまでしてでも守りたいものがあるなんて.......私には理解出来ませんでしたが当人が満足している現状私からは何も言えません。
「あらサラじゃない? またあのワガママ令嬢の為に身を粉にして働いてるの?」
例え誰に何と言われようとも。

「はぁ~何も分かってない方はお気楽でいいですね。貴方たちもさっさと仕事に戻ったらどうですか?」
ベーカー家の使用人には大きくわけて四つの派閥があります。アルフレッド派、アイザック派、リリアン派、アイリーン派。アイリーン派は私とルイしかいませんがそれぞれ多くの人数を抱えており敵対派閥の人間と遭遇したら嫌味の応酬が勃発するのです。これが非常に面倒くさい、あらお嬢様の口癖が移ったかしら?

 お嬢様のやっている事は理解出来ないけれど私の役目はお嬢様を支えること、こんな方々相手にしてる暇はございません。私にその気がないのを察したのか不貞腐れながらも皆仕事に戻っていきます。何だかんだ仕事終わらせないといけないので大忙しですからね。


「お嬢様が乗馬の練習している間に終わらせましょう!!」
そう意気込んでベッドメイキングや部屋の掃除を始めます。お嬢様は普段から身綺麗な方で部屋自体も綺麗なんですが偶におかしな物がよく落ちているのです。



それは私がお仕えしだしてからまだ日の浅い時のこと。お嬢様のベッドの下に何やら隠れているのが見え内心ドキリとしました。
以前、同業の者にベッドの下といえば卑猥なモノを隠すスペースだと聞いていたからでした。まだ幼いお嬢様が卑猥なモノを隠してるだなんて!! 
「そんな、うちのお嬢様に限って.......」


信じられない面持ちのままそれを取り上げてみれば、何とも難しそうな書物が出てきました。他領地のことやベーカー家関連のこと、後は雑学書の類い。お嬢様の歳では到底読めないものばかりでどうしてそんなものをお嬢様が隠し持っているのか謎は深まるばかりです。気になってお嬢様に直接問い詰めました。
「あぁアレですか。ほら子供って自分の身に不相応だと分かっていても真似だけしようとすることがあるでしょう? こういったいかにも小難しい本を開いて読んでいる自分という遊び、つまり格好をつけているだけですよ。子供らしいでしょう?」
そこまで自己分析する子供が居てたまりますか、と反論したかったんですが実際目の前にいるので何も言えませんでした。
全くなんて高度な遊びを嗜んでいるんでしょうかうちのお嬢様は!!




 お嬢様はとても頭がいいです。午前中は基本勉学の時間ですが嫌がることも無くいつも素直に机に向かっています。勉強が嫌いじゃないなんて素晴らしいですね。

私が一教えれば百を学びます。私が教えてないことまで学んでます。
「ここの領地って攻め込まれた時大変そうですね」
地理の勉強をしながらこんなことまで考えています、恐るべしです。
「あっ、もし敵に明け渡すならここの領地がいいですね」
「この山からなら奇襲をかけれる可能性が」
「この国落とすなら貿易妨害が効果的でしょうか」
本当にどこから拝借したお知恵なのか時々怖いとすら思えてきますよ。




 お嬢様の好きなものはアイザック様、そして本人曰く正直な方。ですのできっと婚約者のブラウン様とは将来的に仲睦まじい夫婦になれると信じています。後は乗馬に読書、手紙を書くのも好きみたいです。食べ物で言うなら魚や肉、色なら黒色だとか。

お嬢様の嫌いもとい苦手なものはアルフレッド様(本人談)。裏がありそうな人物。甘いもの。ボランティア活動(?)。過度な運動といったところでしょうか。




 そんなお嬢様が最近よくボヤくのです。

「ほうじ茶が飲みたい」
ほうじ? 聞いた事のない銘柄です。
「どんな物なんですか?」
「お茶っ葉なんですが紅茶とはまた違ってて.......まぁここには無いでしょうけど」
どうやらお嬢様の以前住んでいた故郷にはあるらしいのです。ワガママだ卑劣だと噂されるお嬢様ですが実際には自分のことにはあまり関心を向けないお方なので欲を口にすること自体珍しかったりします。



聞いたことも見たこともありませんが、お嬢様の言っていた緑茶の葉をどうにか入手して差し上げたい。
「お嬢様、サラは今から街に出てまいります」
「急ですね? ならついでに民間の情報誌を」
「行ってまいります!!」
余計なものには目もくれません。
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