やさぐれ令嬢は高らかに笑う

どてら

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天然か人工か

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 私の顔立ちはアイザックにもアルフレッドにも似ていない。クラリスにそっくりらしいが彼女は悪人顔ではなかった、なら突然変異だろうか? 少なくとも私の周りには微笑んだだけで泣かれるような人はいなかった。

「本当に、ごめんなさい!! .......許して」
か細い声で嗚咽混じりに零される。確かに多少脅すつもりで名前聞いたけど泣かなくてもいいだろ、私が悪いみたいだ.......いや悪いのかな?
悩みあぐねている私と泣きじゃくる少女に周囲が混乱の眼差しを向けてくる。傍から見れば私がいじめているように映るよな。


「何アレ」
「ほらあのワガママ令嬢がまた何かしたのよ」

「招待されてる身で本当に自分勝手よね」
「可哀想に泣いてしまって.......」

「カイス様のご好意を、なんて人なのかしら」


少女が狙ったのはレベッカだったんだろう。アイザックファンクラブの表向きの代表はレベッカだ、彼女にちょっかいをかけるつもりでドレスにジュースを零し気分を害すつもりだった。

私がレベッカを庇うなんて予想外のことが起こらなければ、の話。

 そりゃいくらアイザックとカイスのファン同士が敵対しているとはいえアイザックの妹、しかも公爵令嬢に喧嘩ふっかけるなんて無謀な真似するつもりなかったに違いない。運が悪かったな、私もだけど。






どうにか穏便に済ませたい私にレベッカが助け舟を出してくれた。
「アイリーンドレスが汚れてしまったわね、濡れたままじゃ気持ち悪いでしょ? 少し休ませて貰ったら?」
「それもそうですね」
ナイスレベッカ!!
「貴方も泣かないで。怪我はありませんか? 足を滑らせた様子でしたが捻ったりは?」
「だ、大丈夫です」
「なら良かった。すみませんカース侯爵、部屋を一つお借りできますか?」
「構わないよ。カイス、案内して差し上げなさい」
あっ、その気遣いは結構です。
そんな断りを言うわけにも行かず私はオロオロと怯える少女に背を向いてカイスと二人奥の間に消えていった。













 汚れてしまったドレスに目を向ける。幸い今日の色合いは葡萄ジュースを目立たせないものなので私自身特に気に止めてないんだが、帰ったらサラに怒られそうなのが難点。

カイスに通された部屋を使い、借りたタオルで少しでも染みた汚れを落とそうと擦り付ける。カイスには支度が整うまで部屋の前で待っておいて欲しいと頼んだので、ようやく息を落ち着けた。
「ふぅ~」
「すみませんお嬢様、自分が庇っていれば」
姿を消していたルイが唐突に謝罪してきた。
「私が勝手にしたことなので気にしないで下さい」
あの場でルイも私が割って入るなんて予想してなかっただろう。動けなくても仕方ない。むしろルイがいきなり現れて怪奇現象になる方が面倒だった。

「お詫びに自分も葡萄ジュース頭から被ってきましょうか?」
「そんなヤクザみたいなこと言いませんよ」
もっと堅気の発想してくれ。

「ではその汚れどうされますか? 替えのドレスを今から準備するのは難しそうですが」
「ルイのジャケット借りてもいいですか?」
上から羽織ればぶかぶかだが汚れは隠せる。
「はぁ.......何でしたら自分がお嬢様のドレスを代わりに着ますが」
「誰得ですか」
そんな落とし前の付け方聞いたことない。





「アイリーンさん、ドレス大丈夫でしたか?」
ドア越しにカイスから聞かれ私は慌ててルイに目くらましをするよう伝えると返事をした。
「ええ。もう大丈夫です」
「入ってもいいでしょうか?」
「構いませんよ」
扉を開けて入ってきたカイスは何故か肩を落としていた。
「ごめんなさい.......せっかくアイリーンさんにも楽しんで欲しくて招待したのに」
「そんな! カイス様のせいじゃありませんから.......」
いやこいつのせいか?

「アイリーンさんはお優しいのですね。さっきの、ボク見てたんです。レベッカ様を庇われたところ」
「あぁ。あれは別に」
私が好きでしたことだ。今日の出陣(?)のためにおめかしして頑張ろうとしていたレベッカに水を差したくなかったから。

「それなのにみんなアイリーンさんが悪い、みたいなこと言っていて」
聞こえたな~それ。
「ぼ、ボクは分かってますから!! アイリーン様が悪くないって、本当はお優しい方だって」
「カイス様.......」
「温かくて誰よりも賢くてまるで、天使のような」
アイザックのことかな?

「そんな素敵な女性だってボクは知ってますから」
私が知らないなそんな人。カイスはどういう訳か私を熱っぽい目でみながら近づいてくる。子供のうちから歯の浮くような台詞、将来はゲーム通りモテるだろう。
「ボクだけがアナタを分かってあげられます」

ん?









「ボクと結婚してくれませんかアイリーンさん」
「嫌ですけど」



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