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お友達になりましょう
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クロード・ダミアン、私は彼のことをアイザック程詳しく知らない。
前世で郁が躍起になりながら攻略しようと頑張っていたのは見ていたが肝心の攻略方法は謎に包まれたままだ。
頭の隅にかろうじて存在する違和感。クロードが正規攻略対象じゃない理由を私なりに考えてみたものの、それはあまりに乙女ゲームから外れているように思えて仕方ない。だから今の所は何故か主人公の女性に惚れなかった友情に熱いキャラというより他ない。
「友達、ですか」
そんな彼と友達。大丈夫なのだろうか?
ゲームでは唯一アイリーンを庇ってくれた相手だったがそれは決してアイリーンとクロードが友達だったからじゃない。というかゲーム内でのアイリーンには取り巻きは居ても友達なんていなかった。レベッカもそうだがゲームとは少しずつ関係性が違ってきている気がする、この変化が果たして良いものなのかは判断出来ないけれど。
「私はお兄様と違って他者に優しくありませんよ?」
アイザックの妹だからなんて気を使っているなら勘違いだ。アイザックはアイザック、私は私の思う通りに動いているのだから同情や遠慮を向けられるのは違う気がする。
「そりゃそうだろう」
キョトンと不思議そうに首を傾げてるクロードを見て私の方が驚かされた。
「俺は君の言動を見て、君と友達になりたいと思ったんだ。アイザックの妹だからじゃない。それにあんなお人好し他に何人もいてたまるか」
あぁ、なるほど。
アイザックとクロードが親友だった理由が分かった。彼は惑わされないのだ。
公爵家だからとか私が妾の子だからとか関係ない。クロードはクロードが見たものを信じ、彼が感じたものを大切にする。そんな在り方だからこそアイザックの行き過ぎた優しさにも普通に接していられるのだ。
「私は.......性格が良くありません」
自分でも何を口走っているのか分からない。せっかく好意的に見てくれているのだからそれを利用してしまえばいいのに、どうしてか私は誠実な人や素直な対応に弱いのだ。
正面から向き合われたら同じだけ正面で言い返してやりたくなる、優しくされたらそれ以上の優しさを返してあげたくなる。
「クロード様を利用するような真似をするかもしれません、なんと言っても貴方はあのアイザックお兄様の御友人ですから。でも、それでもいいのなら」
「構わない。そういうのは友達同士なら利用とは言わず協力と言うんだ、アイザックが言っていた」
協力か、いい言葉だ。
「友達になりましょうか」
正直クロードからの情報が得られるならこの上なくありがたい。
私やレベッカは所詮彼の友達にはなれず、どう近づいても性別の壁は超えられない。クロードから見える景色は私たちとはまた違ったものだろう。
アイザックに言いよる女性への牽制もしやすくなる。そうだ、いっそアイザック目当ての女性をクロード目当てに変えられれば.......。
「今よからぬ事を考えたな」
「気の所為ですよ」
勘のいいらしいクロードが疑わしい視線をこちらに向けてくる、ごめんて。
「私のことはアイリーンでいいですよ。レベッカもそう呼んでいるので」
私の提案にクロードは眉をピクリと動かして何とも言いたげな顔をした。何だろうか、不快だったのかな? それともアイリーン呼び以外が良かった?
「女性を呼び捨てにしても大丈夫なのだろうか」
「そこですか」
結構考え方が古風というか堅物なんだな。
「私も最近知ったのですが呼び方を変えるだけでも親密度に違いが生まれるみたいですよ、お試しということでどうでしょう?」
「それならまぁ.......」
私自身友達は多い方じゃないのでよく分からないけどね。
「なら俺はクロードでいい。その、女性の友人は初めてなので至らない点もあると思うが」
「そこはお互い様でしょう」
気にしてたら進まない。
「分かった。その、あ、アイリーン」
「はいクロード」
何だろうかこのデジャブ。ブラウンといいこの世界の男性は少々照れ屋なところがあるようだ。そう考えればアイザックは実にスマートだったと今更ながら褒めたたえくなった。
「早速ですがクロード、最近お兄様に近づいてきた女性のことでお聞きしたいことが」
「もう少し余韻に浸らせてくれてもいいだろ」
それから私たちは主にアイザックのこと、そしてレベッカのことを話題に上げながら話に花を咲かせた。
「そういえば先日体調を崩したと聞いたが大丈夫だったか?」
「えぇ」
ダミアン家とは交流が深いのでクロードに聞けばベーカー家のことで何か分かるかもしれない。けど聞くって何を聞けばいいんだろう。直接的に「呪われた家系という言葉の意味について何かご存知ですか?」なんて聞いてしまっていいのだろうか?
「話を変えてしまうのですが、ベーカー家のことでダミアン家の方から何か言われてることはありませんか?」
結局回りくどい言い方になってしまう。
「いや特には.......そういえばお父様が俺とアイザックとの関係をあまり快く思ってない様子だったな」
やはりダミアン家の者は何かしら知っているのだ。しかしクロードに探りを入れたところでこれ以上は聞き出せそうにない。
「そうですか。ありがとうございます」
曖昧に礼を言ってその場は濁した。
クロードとアイザックが鍛錬に戻るとホクホクと満足気なレベッカが帰ってきた。
「アイザック様って素敵ね.......」
うっとりとそんな事を言うので私は苦笑しつつどんな話をしたのか耳を傾ける。
「そうだわ、言い忘れていましたけどファンクラブのことでアイリーンに話があったの!」
「どんな話?」
順調だって聞いてたけど何か問題が起きたのかな。レベッカは言いづらそうに声をひそめる。
「ワタシたちの作ったファンクラブと似たようなものが別の方に作られてそうなの」
別のファンクラブ? アイザックの非公式ファンクラブだろうか。
「それがカイス・ワイアット様のファンクラブらしくて」
「あー聞きたくないな~!!」
前世で郁が躍起になりながら攻略しようと頑張っていたのは見ていたが肝心の攻略方法は謎に包まれたままだ。
頭の隅にかろうじて存在する違和感。クロードが正規攻略対象じゃない理由を私なりに考えてみたものの、それはあまりに乙女ゲームから外れているように思えて仕方ない。だから今の所は何故か主人公の女性に惚れなかった友情に熱いキャラというより他ない。
「友達、ですか」
そんな彼と友達。大丈夫なのだろうか?
ゲームでは唯一アイリーンを庇ってくれた相手だったがそれは決してアイリーンとクロードが友達だったからじゃない。というかゲーム内でのアイリーンには取り巻きは居ても友達なんていなかった。レベッカもそうだがゲームとは少しずつ関係性が違ってきている気がする、この変化が果たして良いものなのかは判断出来ないけれど。
「私はお兄様と違って他者に優しくありませんよ?」
アイザックの妹だからなんて気を使っているなら勘違いだ。アイザックはアイザック、私は私の思う通りに動いているのだから同情や遠慮を向けられるのは違う気がする。
「そりゃそうだろう」
キョトンと不思議そうに首を傾げてるクロードを見て私の方が驚かされた。
「俺は君の言動を見て、君と友達になりたいと思ったんだ。アイザックの妹だからじゃない。それにあんなお人好し他に何人もいてたまるか」
あぁ、なるほど。
アイザックとクロードが親友だった理由が分かった。彼は惑わされないのだ。
公爵家だからとか私が妾の子だからとか関係ない。クロードはクロードが見たものを信じ、彼が感じたものを大切にする。そんな在り方だからこそアイザックの行き過ぎた優しさにも普通に接していられるのだ。
「私は.......性格が良くありません」
自分でも何を口走っているのか分からない。せっかく好意的に見てくれているのだからそれを利用してしまえばいいのに、どうしてか私は誠実な人や素直な対応に弱いのだ。
正面から向き合われたら同じだけ正面で言い返してやりたくなる、優しくされたらそれ以上の優しさを返してあげたくなる。
「クロード様を利用するような真似をするかもしれません、なんと言っても貴方はあのアイザックお兄様の御友人ですから。でも、それでもいいのなら」
「構わない。そういうのは友達同士なら利用とは言わず協力と言うんだ、アイザックが言っていた」
協力か、いい言葉だ。
「友達になりましょうか」
正直クロードからの情報が得られるならこの上なくありがたい。
私やレベッカは所詮彼の友達にはなれず、どう近づいても性別の壁は超えられない。クロードから見える景色は私たちとはまた違ったものだろう。
アイザックに言いよる女性への牽制もしやすくなる。そうだ、いっそアイザック目当ての女性をクロード目当てに変えられれば.......。
「今よからぬ事を考えたな」
「気の所為ですよ」
勘のいいらしいクロードが疑わしい視線をこちらに向けてくる、ごめんて。
「私のことはアイリーンでいいですよ。レベッカもそう呼んでいるので」
私の提案にクロードは眉をピクリと動かして何とも言いたげな顔をした。何だろうか、不快だったのかな? それともアイリーン呼び以外が良かった?
「女性を呼び捨てにしても大丈夫なのだろうか」
「そこですか」
結構考え方が古風というか堅物なんだな。
「私も最近知ったのですが呼び方を変えるだけでも親密度に違いが生まれるみたいですよ、お試しということでどうでしょう?」
「それならまぁ.......」
私自身友達は多い方じゃないのでよく分からないけどね。
「なら俺はクロードでいい。その、女性の友人は初めてなので至らない点もあると思うが」
「そこはお互い様でしょう」
気にしてたら進まない。
「分かった。その、あ、アイリーン」
「はいクロード」
何だろうかこのデジャブ。ブラウンといいこの世界の男性は少々照れ屋なところがあるようだ。そう考えればアイザックは実にスマートだったと今更ながら褒めたたえくなった。
「早速ですがクロード、最近お兄様に近づいてきた女性のことでお聞きしたいことが」
「もう少し余韻に浸らせてくれてもいいだろ」
それから私たちは主にアイザックのこと、そしてレベッカのことを話題に上げながら話に花を咲かせた。
「そういえば先日体調を崩したと聞いたが大丈夫だったか?」
「えぇ」
ダミアン家とは交流が深いのでクロードに聞けばベーカー家のことで何か分かるかもしれない。けど聞くって何を聞けばいいんだろう。直接的に「呪われた家系という言葉の意味について何かご存知ですか?」なんて聞いてしまっていいのだろうか?
「話を変えてしまうのですが、ベーカー家のことでダミアン家の方から何か言われてることはありませんか?」
結局回りくどい言い方になってしまう。
「いや特には.......そういえばお父様が俺とアイザックとの関係をあまり快く思ってない様子だったな」
やはりダミアン家の者は何かしら知っているのだ。しかしクロードに探りを入れたところでこれ以上は聞き出せそうにない。
「そうですか。ありがとうございます」
曖昧に礼を言ってその場は濁した。
クロードとアイザックが鍛錬に戻るとホクホクと満足気なレベッカが帰ってきた。
「アイザック様って素敵ね.......」
うっとりとそんな事を言うので私は苦笑しつつどんな話をしたのか耳を傾ける。
「そうだわ、言い忘れていましたけどファンクラブのことでアイリーンに話があったの!」
「どんな話?」
順調だって聞いてたけど何か問題が起きたのかな。レベッカは言いづらそうに声をひそめる。
「ワタシたちの作ったファンクラブと似たようなものが別の方に作られてそうなの」
別のファンクラブ? アイザックの非公式ファンクラブだろうか。
「それがカイス・ワイアット様のファンクラブらしくて」
「あー聞きたくないな~!!」
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