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アイリーンと攻略対象
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「却下」
「どうしてですか!?」
顔色一つ変えず無下なく言われ、ついアルフレッドに突っかかった。
「貴族の娘が剣術なんて許可するわけないだろう」
アイザックファンクラブ結成を企てて早数ヶ月、計画は順調でファンクラブ鉄の掟なんてものまで抜かりなく完成した。季節は肌寒い冬を迎え、もうすぐ私の誕生日だからとアルフレッドから提案があったのだ。曰く「何でも要望を言ってみなさい、可能な限りで叶えよう」と。だから私は前々から興味を抱いていた剣術の稽古に参加したい旨を伝えたのだが。
「剣士にだって女性はいるでしょう? その中に極小数ですが貴族だっているはずです」
むしろ金銭面的に余裕がある貴族にこそ剣術を学ぼうとする者が多いはずだ。
「もっと私が納得出来る理由を提示して下さい」
強気に出た私の態度にも動じず、アルフレッドはため息をつきながら口を開いた。
「向いてないんだよ、君に剣術は」
「はい?」
まだ剣を握ってすらいないんだが。眉を顰める私にアルフレッドは続ける。
「君のマナの性質は私とよく似ているんだ。そして私自身剣術及び激しい運動には向いてない、身体中にあるマナの消費が他より多くてね.......幼少期の身体に負担をかけてもろくな事にならない、だから却下だ」
まくし立てられた言葉を一言一句頭の中で読み解いていく。激しい運動が駄目? そんな風に感じたことないけどな。
「私のマナの性質なんていつ調べたんですか?」
「.......」
無言が回答というわけか。
ベーカー家に来てから検査らしいものは受けていない、私の意識のないうちに行われていたのか? いや可能性としてはベーカー家に来る前の方が高いな。まだクラリスと同居中の頃、アルフレッドを警戒していなかった私になら隙を着くことだって容易かったに違いない。
そしていよいよ気になるのは、アルフレッド本当にいつから私たちを監視していたんだろう、という事だ。
「.......でも、全く運動しないのも退屈です」
ただでさえ私の部屋は設備が異様に整った引きこもりの宝庫みたいになっているのに、自発的に運動しないとそのうち体型が変わってきそうだ。
「剣術に拘らなくてもいいだろう、アレは特別体力がいるからな。馬術なんてどうだ?」
馬!!
「本当にいいんですか!? よっしゃ~!!」
私は動物が好きだ。前世では殆ど触れ合えなかったけれど、特に馬は食べるのも触るのも大好きだったりする。あまりのはしゃぎっぷりにアルフレッドが少し困惑しているのも気にせず、私は胸を躍らせながら鼻歌交じりで約束ですよと取り付けた。
「き、君がまだ子供だということを今ようやく思い出したよ」
「こんな愛らしい娘つかまえといて何言ってるんですか」
クラリス似の美人だぞ。
「素に戻るのが早いね、分かった馬の手配はこちらでしておこう。今は季節柄寒さが厳しいから本格的に練習出来るのは春になってからだろう」
「今初めて貴方の存在に感謝しましたよ」
「馬でか.......」
アルフレッドの気落ちした態度すら気にならなかった。私は来る日に向け期待を思う存分膨らますのだった。
部屋までの足取りが軽い、アルフレッドと会話した後にこんな晴れやかな気分になるのはいつ以来だろう。自分の部屋につくと扉を開けて真っ先にベッドへダイブした。
「ご機嫌ですね、お嬢様」
「少々お行儀が悪いですが珍しいので放っておきましょう」
主人の事を考えそっとしてくれる従者がいるなんてなんと運のいい人間なんだ私は。
「お嬢様は機嫌悪いと裏工作に力を入れますから、この世の安寧の為放置が一番ですね」
「聞こえてますよルイ」
うちの失礼従者はいつも通りだ。
そういえば最近、ファンクラブの件や悪役令嬢の振りをするのに忙しくてこういった惰眠を取る機会がなかったな。
目を閉じながら高揚して冴えてしまった頭の中で私は考える。
この世界はゲームの中だ、今更そこに疑念は抱かない。クルセント学園と呼ばれる王立学校に入学した主人公が繰り広げる三年間を舞台に様々なキャラクターと青春をおくる恋愛シュミレーションゲーム『君が為~恋を贈る学園』通称君恋。私自身がプレイをしたことは無いが大まかな情報なら持っている。
正規攻略対象は全員で四人。今のところ面識があるのはアイザックとブラウン、裏ルートで攻略出来るらしいクロード。後の二人は名前だけ耳にしたカイス・ワイアット、ハワード・ランドルフだ。
カイスは何やらアルフレッドと因縁のあるワイアット家の一人息子でゲーム内では小悪魔やら計算高い歳下キャラとして有名だった。
ハワード・ランドルフはゲーム内での攻略対象最年長、教師という立場の謎多き人物。確か主人公が才を発揮した魔法学に精通した勤勉な男だった気がする。
アイザック、ブラウン、クロードはこの際関わらない方が難しいだろうから諦めよう。しかし後の二人はまだアイリーンと出会ってすらない、学園に入学後否応にも関係を持つことになるが少なくとも今は放置でいいだろう。これ以上の面倒事は避けたい。
「よし、絶対関わらないからな!」
「お嬢様、そういえばワイアット家より招待状が届いておりますが」
言った側から何してくれるんだ。私が枕に顔をうずくめ嘆いていると、サラが興奮気味にもう一通手に持ち上げた。
「ブラウン様からも来てますよ~」
ブラウン.......。私は渋々身体を起こして手紙を開封する。
──────この前言っていた家庭教師がものすごく変なヤツで面白いから今度紹介してやる、別にお前のためじゃないけどな!
相変わらず汚い字だ。あと妙にまどろっこしい。
──────先生はハワード・ランドルフっていうんだけど一部では天才で有名らしいぞ、どうだスゴいだろ!?
私は無言で手紙を閉じた。
「平穏は何処に」
「疲れで壊れてますね」
「お嬢様そんなに情熱的な内容でしたか!? 固まってないで教えて下さいな!!」
「どうしてですか!?」
顔色一つ変えず無下なく言われ、ついアルフレッドに突っかかった。
「貴族の娘が剣術なんて許可するわけないだろう」
アイザックファンクラブ結成を企てて早数ヶ月、計画は順調でファンクラブ鉄の掟なんてものまで抜かりなく完成した。季節は肌寒い冬を迎え、もうすぐ私の誕生日だからとアルフレッドから提案があったのだ。曰く「何でも要望を言ってみなさい、可能な限りで叶えよう」と。だから私は前々から興味を抱いていた剣術の稽古に参加したい旨を伝えたのだが。
「剣士にだって女性はいるでしょう? その中に極小数ですが貴族だっているはずです」
むしろ金銭面的に余裕がある貴族にこそ剣術を学ぼうとする者が多いはずだ。
「もっと私が納得出来る理由を提示して下さい」
強気に出た私の態度にも動じず、アルフレッドはため息をつきながら口を開いた。
「向いてないんだよ、君に剣術は」
「はい?」
まだ剣を握ってすらいないんだが。眉を顰める私にアルフレッドは続ける。
「君のマナの性質は私とよく似ているんだ。そして私自身剣術及び激しい運動には向いてない、身体中にあるマナの消費が他より多くてね.......幼少期の身体に負担をかけてもろくな事にならない、だから却下だ」
まくし立てられた言葉を一言一句頭の中で読み解いていく。激しい運動が駄目? そんな風に感じたことないけどな。
「私のマナの性質なんていつ調べたんですか?」
「.......」
無言が回答というわけか。
ベーカー家に来てから検査らしいものは受けていない、私の意識のないうちに行われていたのか? いや可能性としてはベーカー家に来る前の方が高いな。まだクラリスと同居中の頃、アルフレッドを警戒していなかった私になら隙を着くことだって容易かったに違いない。
そしていよいよ気になるのは、アルフレッド本当にいつから私たちを監視していたんだろう、という事だ。
「.......でも、全く運動しないのも退屈です」
ただでさえ私の部屋は設備が異様に整った引きこもりの宝庫みたいになっているのに、自発的に運動しないとそのうち体型が変わってきそうだ。
「剣術に拘らなくてもいいだろう、アレは特別体力がいるからな。馬術なんてどうだ?」
馬!!
「本当にいいんですか!? よっしゃ~!!」
私は動物が好きだ。前世では殆ど触れ合えなかったけれど、特に馬は食べるのも触るのも大好きだったりする。あまりのはしゃぎっぷりにアルフレッドが少し困惑しているのも気にせず、私は胸を躍らせながら鼻歌交じりで約束ですよと取り付けた。
「き、君がまだ子供だということを今ようやく思い出したよ」
「こんな愛らしい娘つかまえといて何言ってるんですか」
クラリス似の美人だぞ。
「素に戻るのが早いね、分かった馬の手配はこちらでしておこう。今は季節柄寒さが厳しいから本格的に練習出来るのは春になってからだろう」
「今初めて貴方の存在に感謝しましたよ」
「馬でか.......」
アルフレッドの気落ちした態度すら気にならなかった。私は来る日に向け期待を思う存分膨らますのだった。
部屋までの足取りが軽い、アルフレッドと会話した後にこんな晴れやかな気分になるのはいつ以来だろう。自分の部屋につくと扉を開けて真っ先にベッドへダイブした。
「ご機嫌ですね、お嬢様」
「少々お行儀が悪いですが珍しいので放っておきましょう」
主人の事を考えそっとしてくれる従者がいるなんてなんと運のいい人間なんだ私は。
「お嬢様は機嫌悪いと裏工作に力を入れますから、この世の安寧の為放置が一番ですね」
「聞こえてますよルイ」
うちの失礼従者はいつも通りだ。
そういえば最近、ファンクラブの件や悪役令嬢の振りをするのに忙しくてこういった惰眠を取る機会がなかったな。
目を閉じながら高揚して冴えてしまった頭の中で私は考える。
この世界はゲームの中だ、今更そこに疑念は抱かない。クルセント学園と呼ばれる王立学校に入学した主人公が繰り広げる三年間を舞台に様々なキャラクターと青春をおくる恋愛シュミレーションゲーム『君が為~恋を贈る学園』通称君恋。私自身がプレイをしたことは無いが大まかな情報なら持っている。
正規攻略対象は全員で四人。今のところ面識があるのはアイザックとブラウン、裏ルートで攻略出来るらしいクロード。後の二人は名前だけ耳にしたカイス・ワイアット、ハワード・ランドルフだ。
カイスは何やらアルフレッドと因縁のあるワイアット家の一人息子でゲーム内では小悪魔やら計算高い歳下キャラとして有名だった。
ハワード・ランドルフはゲーム内での攻略対象最年長、教師という立場の謎多き人物。確か主人公が才を発揮した魔法学に精通した勤勉な男だった気がする。
アイザック、ブラウン、クロードはこの際関わらない方が難しいだろうから諦めよう。しかし後の二人はまだアイリーンと出会ってすらない、学園に入学後否応にも関係を持つことになるが少なくとも今は放置でいいだろう。これ以上の面倒事は避けたい。
「よし、絶対関わらないからな!」
「お嬢様、そういえばワイアット家より招待状が届いておりますが」
言った側から何してくれるんだ。私が枕に顔をうずくめ嘆いていると、サラが興奮気味にもう一通手に持ち上げた。
「ブラウン様からも来てますよ~」
ブラウン.......。私は渋々身体を起こして手紙を開封する。
──────この前言っていた家庭教師がものすごく変なヤツで面白いから今度紹介してやる、別にお前のためじゃないけどな!
相変わらず汚い字だ。あと妙にまどろっこしい。
──────先生はハワード・ランドルフっていうんだけど一部では天才で有名らしいぞ、どうだスゴいだろ!?
私は無言で手紙を閉じた。
「平穏は何処に」
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「お嬢様そんなに情熱的な内容でしたか!? 固まってないで教えて下さいな!!」
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