やさぐれ令嬢は高らかに笑う

どてら

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ファンクラブの作り方

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 アイザックとクロードが仲良く庭を駆け回っている間、私はレベッカと二人きりになった。
「楽しそうですわねお兄様達」
「えぇ」
レベッカは自分の兄がアイザックと仲睦まじくしているのを見るのが好きらしく顔が緩んでいる。
「レベッカ様はアイザックお兄様のことが好きなんですか?」
「へぇ!?」
私の直球な質問に目を丸くするレベッカ。
「す、好きとかそういうのではなくて、ただワタシはアイザック様のことを心より尊敬して」
顔を真っ赤にしているが嘘ではなさそうだ。まぁこの歳の子に恋愛感情と憧れの違いを理解しろと言う方が無理だろう、いっそ信じたフリでもしてみるか。
「そうだったんですね! ホッとしました」
キョトン顔のレベッカに私はこれ幸いと話を持ちかける。
「実はレベッカ様に頼みがありまして」
「頼み、ですか?」
「はい。アイザックお兄様のことで」
アイザックとクロードが聞いていない隙を見て切り出す。


「アイザックお兄様のファンクラブ、というのを作ろうと思っているのです」
「ふぁん? 何ですのそれは?」
「後援会の砕けた言い方です。ファン、つまり愛好家達の集いという意味を持っておりまして.......」
レベッカは素直に私の話に耳を傾ける。


アイザック・ベーカーのファンクラブ設立。これにより得られるメリットは数多くある。まず、無数に言いよるアイザックファンに規則を作らせそれを守ってもらうことで節度のある対応が見込めるのだ。
一、アイザックには迷惑をかけない。
一、抜けがけは禁止。
一、アイザックの気持ちを何よりも尊重するべし。

こういったルールを設けておけば、後は守ることで「ファンクラブ会員としての誇り」が持てるようになる。今まで遠巻きでしかアイザックを眺められなかった少女たちも「自分たちの行いがアイザック様のためになっている」そう思えることで気持ち的にも向上するだろう。

要はアイザックの取り巻きたちにはお互いを監視していて欲しいのだ、誰かが面倒事を起こさないよう、誰もがアイザックの為に動けるようにする為の作戦だった。
気分は新人アイドルの育成に魂を燃やすマネージャーだ。しかし実際アイザックが本気を出して人を虜にしようとすればファンクラブでは済まないだろう、宗教ができる。


「.......という感じなのですが」
「素晴らしいですわ!! アイザック様を想う皆で力を合わせて一致団結するわけですね」
まぁ良い言い方をすればそうだ。
「レベッカ様にも是非その筆頭として参加して欲しくて」
「ワタシでいいのですか?」
レベッカなら家柄的にも他から文句を言われにくい。それに彼女は今現在取り巻きを従えているのだ、彼女がファンクラブに入れば自ずと皆入るだろう。後は芋ずる式である。
「勿論」
微笑む私の目論見等知らずレベッカは心底楽しげに笑った。
「ありがとうございます、アイリーン様の期待に応えられるようこのレベッカ誠心誠意尽くさせて頂きますわ!!」
是非頑張ってくれ。私はレベッカに彼女が知る中でアイザックを思い仲間になってくれそうな人物をピックアップして知らせて貰えるよう交渉し始めた。これで彼の交友関係や令嬢達の立ち位置が少しは分かるだろう。



「それにしても本当にアイリーン様はアイザック様のこと大好きなんですね」
ふいに優しい眼差しを向けられながらそんな事を振られた。
「えぇ.......あの人程優しさにこだわる方を知らないので、未熟ながらも支えられればと思っております」
予想外の質問に、つい本音が零れた。



 私は前世でろくに家族関係を築けなかった。疎まれ避けられ私自身興味を持っていなかった。だから郁のように誰かを心より大切だと思える、そんな感情に憧れを抱いていたのかもしれない。私の大切な人はいつだって私の傍から離れていってしまう。お礼を言えないまま最期まで一緒に居てくれた郁。孝行なんて何も出来ず離れてしまったクラリス。これは私のエゴだろう、自己満足だっていい、私は今度こそ私を大切に思ってくれる人へ何か返したいのだ。

アイザックは私をベーカー家に迎え入れてくれた。それに、アイザックはかつて郁の惚れた相手だった。私が必要以上に肩入れする理由なんてそれだけで十分すぎるぐらいだ。

「互いを思い支え合う兄妹愛ですわね。アイザック様とアイリーン様、素敵です。.......はぁ、アイリーン様が男性ならもっと甘味なのに」
「えっ何か言いましたか?」
「いいえ!! ただの独り言ですわ」
何かとんでもない独り言を聞いた気がするが、耳にノイズが入り混じるみたいに遮られてしまった。


「ではファンクラブの方は後ほど。詳細が決まり次第報告致しますので」
「分かりましたわ.......あの」
「何か?」
急にモジモジと身体をくねらせるレベッカ。お花でも摘みに行きたいのだろうか?
「れ、レベッカって呼んでくださらないかしら? 敬語もとってしまいましょうよ! そのアイリーン様さえよければ、友達に。ほらワタシたちせっかく同い歳なんですし」
しどろもどろになりながらも声を絞り出したレベッカに私は反応が遅れた。

アイリーンとしてはなるべきじゃないかもしれない。ゲーム中のアイリーンとレベッカは悪役令嬢とその取り巻きだった。ならこのまま一戦引いた関係を保ち利用出来るところだけ利用するべきだろう。でも。


───────じゃあ栞って呼んでいい? 



───────だって友達になった方がもっと楽しくなると思うから!






 友達なんて彼女以外いらないと思っていたのにな。



「ご不快なら無理にとは」
「構いませんよ」
「へ?」
レベッカの驚愕する顔に頬を緩ませつつも私はいつも通り返した。
「私ことはアイリーンで。よろしくね、レベッカ」
かつての友達は今どうしているのだろう。なんだか無性に会いたくなってしまった。




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