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誕生日会⑴
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アイザックの誕生日パーティはベーカー家の領地でも群を抜いた広さと豪華さを誇る舞踏会会場で行われることになっている。朝早くからサラに叩き起され、ドレスやら靴やらひとしきり選ばされた後死ぬかと思うような着付けを施された。
「殺す気ですか.......」
「何をこのくらいで、ほらお次はルイですよ」
「自分もですか!?」
ルイは珍しく表情を変え驚いている。護衛として私の傍に使えるんだから正装に着替えるのは当たり前だろう。
サラの洗礼を受けた後は馬車に揺られて小一時間。見えてきた、というより大きすぎて全貌が見えないんだが。派手な外観はいかにも貴族様御用達といった造りで何処も彼処も高そうな壺やら絵画やらが飾ってある。
「大丈夫ですかルイ?」
「目が.......目が」
ムスカかよ、なんて、ツッコミはこの世界じゃ通じない。
ルイは胸元から取り出したうさぎのピン留めを付けた。何故今!?
「る、ルイそれ」
「お嬢様から頂いたお守りです。これがあれば人目など気になりません.......多分」
その格好で付けてたら余計目立つと思うけど。ただでさえ顔立ちだけならかなり整っているのだ、それが可愛らしいピン留めなんか付けていたら珍妙な目で見られそうなものだが。
そういえばこの世界の住人は瞳にも彩りがある。ルイは吸い込まれそうなスカーレット、サラはエバーグリーン。ブラウンは名前の通り、アイザックやアルフレッドはペリドット。リリアンは確かブルーだった気がする。それに比べて私は真っ黒、髪も瞳も漆黒だ。なんと言うか転生したのに面白みがないな。
一人唸る私にルイが眩そうに呟いた。
「お嬢様見てください、クジャクの行列です」
「張り倒されますよ」
天然発言は時に災いの元となる。ルイが指した方向には煌びやからドレスを見に纏い、見てる方が痛くなるような装飾を髪に付け巻き上げている。彼女たち、将来抜け毛に悩まされないだろうか。
「お嬢様はあの中に混ざらないんですか?」
「私が混ざるとルイも一緒に来る羽目になりますよ」
「それは.......厳しいですね」
私たちは横目で彼女たちを素通りし、中へ静かに入っていく。案内役の男性に持ってきたプレゼントを渡し中へ進んでいく。後で使用人が危険物が紛れていないかチェックするためだろう、プレゼントには宛名書きもしてあるので大丈夫。
会場には既に大勢の人が押しかけしきりに笑い声が飛び交っていた。当然だが私の歓迎会の時とは規模が違う、次期公爵の誕生日とはそうも大切なものなんだろうか。私はただアイザックを祝いたいという気持ちしか持ち合わせていないのでその辺がよく分からない。
「お嬢様、自分はそろそろ限界なので消えますね」
「言うと思ってましたよ」
これは別につらいから死にます、という自殺宣言ではない。人混みに酔ったから可視化出来なくなるほど透明化していますね、という意味だ。
「何かあれば名を呼んで下さい」
すっと消えていったルイを羨ましいと思いながらも、私はだだっ広い会場で一人になってしまいどうするか考えていた。
「アイリーン!!」
人の群れの中心から優しい声がかけられた。振り返るとアイザックがこちらに走り寄って来ている。
「来てくれたんだねアイリーン」
「勿論ですよ。誕生日おめでとうございます」
不自然に思われないよう周りを観察する。
「リリアン様は?」
「お母様は日頃お世話になっている方へ挨拶しに行っているよ.......だからこの前のようにはならない」
私が怯えていると思ったのだろうか? 安心させるよう柔らかい口調でそう言ったアイザックは優雅な抱擁をしてきた。これは親しい間柄の相手に対する挨拶みたいなものだ。背中をぽんぽんと叩き安堵させてくれるアイザックに胸の内が温まるのを感じた。この子本当にいい子だ。
「僕はこれで、じゃあねアイリーン。また後で」
これが二人っきりならアイリと呼んでくれただろうに勿体ない。刹那の幸せを噛み締めながら豪華に飾られた食事へとつられて行った。今日のお目当てはアイザックの笑顔だったのでもうここに用はない。どうせ後でアルフレッドに連行され挨拶回りさせられるだろうから英気を養っておかないと。
テーブルに乗っているのは牛や豚、七面鳥といった様々な肉や見事に捌かれた魚料理、ここが中世ヨーロッパではなくゲームの世界なんだと頷いてしまう、だって調理方法が日本で見た事のあるものばかりなんだから。
「肉~魚~あぁ最高だ」
若干冷めてしまっているが美味しい。クラリスにもいつか食べさせてあげたいな、今頃ひもじい思いをしてないか心配だ。ルイも隠れてないで姿を見せれば食べられただろうに、勿体ない。
「ちょっとアナタ!!」
これでアイザックが横に居てくれたらどれだけ楽しい晩餐になっただろう。アルフレッドは、いいや。
「ちょっと聞きなさいよ!?」
これタッパーで持って帰ってもいいだろうか。サラに言えば家でも作ってくれそうな気がする。
「ちょっと聞いてよ! お願いだからこっち見て!!」
切実に頼まれ振り向くとそこには色とりどりの髪をした少女達が前ならえのポーズを決めて立っている。一歩前に突き出すような形で立っている少女のコバルトブルーに輝いた瞳がこちらを捕らえている。
「何か?」
「アナタ何者よ! さっきアイザック様と親しくしてたみたいだけど、勘違いしないでよね、アイザック様はアナタなんかのこと好きじゃないんだから!!」
勘違いしないでよね、なんて台詞をブラウン以外で聞くことになるとは。この次はべ、別にアナタの為じゃないんだから、かな。そうか~私の為に注意してくれてるのか。
「何よその目、何なのよ!!」
涙目な少女は縦に巻いた髪を振りながら私の元へ寄ってくる。背は私より高いが子供であることは変わらない、動じない私を見て困った顔で眉を下げてしまった。
「わ、ワタシの名前はレベッカ・ダミアンよ!! 思い知った!?」
何を知ればいいんだろう。後ろの取り巻きも首を傾げているじゃないか、落ち着け。
レベッカ.......あぁゲーム内で主人公を虐めていた一人か。確かアイリーンの取り巻きだったはずだがその前は彼女が仕切っている側だったらしい。ホワイトブロンドの髪を可愛らしく巻いた彼女はアイザックにベタ惚れで、アイリーンに近づくことで妹公認の婚約者になろうと奮闘していたみたいだが主人公にあっさり奪われてしまった。そして嫌がらせの連発である、アイリーンと結託し悪事のオンパレード。最期は確かアイリーン同様悲惨な末路になっていた気がする、詳しく知らないんだよな。
「レベッカ様でしたか。いつも兄がお世話になっております」
とりあえず微笑みかける。
「へぇっ? 兄?」
この人分かりやすくていいな。私はアルフレッドみたいな腹に一物ありそうな人よりこういった露骨な人物の方が好きだ。
「はい、申し遅れました。私はアイリーン・ベーカー。アイザック・ベーカーの妹にございます」
「殺す気ですか.......」
「何をこのくらいで、ほらお次はルイですよ」
「自分もですか!?」
ルイは珍しく表情を変え驚いている。護衛として私の傍に使えるんだから正装に着替えるのは当たり前だろう。
サラの洗礼を受けた後は馬車に揺られて小一時間。見えてきた、というより大きすぎて全貌が見えないんだが。派手な外観はいかにも貴族様御用達といった造りで何処も彼処も高そうな壺やら絵画やらが飾ってある。
「大丈夫ですかルイ?」
「目が.......目が」
ムスカかよ、なんて、ツッコミはこの世界じゃ通じない。
ルイは胸元から取り出したうさぎのピン留めを付けた。何故今!?
「る、ルイそれ」
「お嬢様から頂いたお守りです。これがあれば人目など気になりません.......多分」
その格好で付けてたら余計目立つと思うけど。ただでさえ顔立ちだけならかなり整っているのだ、それが可愛らしいピン留めなんか付けていたら珍妙な目で見られそうなものだが。
そういえばこの世界の住人は瞳にも彩りがある。ルイは吸い込まれそうなスカーレット、サラはエバーグリーン。ブラウンは名前の通り、アイザックやアルフレッドはペリドット。リリアンは確かブルーだった気がする。それに比べて私は真っ黒、髪も瞳も漆黒だ。なんと言うか転生したのに面白みがないな。
一人唸る私にルイが眩そうに呟いた。
「お嬢様見てください、クジャクの行列です」
「張り倒されますよ」
天然発言は時に災いの元となる。ルイが指した方向には煌びやからドレスを見に纏い、見てる方が痛くなるような装飾を髪に付け巻き上げている。彼女たち、将来抜け毛に悩まされないだろうか。
「お嬢様はあの中に混ざらないんですか?」
「私が混ざるとルイも一緒に来る羽目になりますよ」
「それは.......厳しいですね」
私たちは横目で彼女たちを素通りし、中へ静かに入っていく。案内役の男性に持ってきたプレゼントを渡し中へ進んでいく。後で使用人が危険物が紛れていないかチェックするためだろう、プレゼントには宛名書きもしてあるので大丈夫。
会場には既に大勢の人が押しかけしきりに笑い声が飛び交っていた。当然だが私の歓迎会の時とは規模が違う、次期公爵の誕生日とはそうも大切なものなんだろうか。私はただアイザックを祝いたいという気持ちしか持ち合わせていないのでその辺がよく分からない。
「お嬢様、自分はそろそろ限界なので消えますね」
「言うと思ってましたよ」
これは別につらいから死にます、という自殺宣言ではない。人混みに酔ったから可視化出来なくなるほど透明化していますね、という意味だ。
「何かあれば名を呼んで下さい」
すっと消えていったルイを羨ましいと思いながらも、私はだだっ広い会場で一人になってしまいどうするか考えていた。
「アイリーン!!」
人の群れの中心から優しい声がかけられた。振り返るとアイザックがこちらに走り寄って来ている。
「来てくれたんだねアイリーン」
「勿論ですよ。誕生日おめでとうございます」
不自然に思われないよう周りを観察する。
「リリアン様は?」
「お母様は日頃お世話になっている方へ挨拶しに行っているよ.......だからこの前のようにはならない」
私が怯えていると思ったのだろうか? 安心させるよう柔らかい口調でそう言ったアイザックは優雅な抱擁をしてきた。これは親しい間柄の相手に対する挨拶みたいなものだ。背中をぽんぽんと叩き安堵させてくれるアイザックに胸の内が温まるのを感じた。この子本当にいい子だ。
「僕はこれで、じゃあねアイリーン。また後で」
これが二人っきりならアイリと呼んでくれただろうに勿体ない。刹那の幸せを噛み締めながら豪華に飾られた食事へとつられて行った。今日のお目当てはアイザックの笑顔だったのでもうここに用はない。どうせ後でアルフレッドに連行され挨拶回りさせられるだろうから英気を養っておかないと。
テーブルに乗っているのは牛や豚、七面鳥といった様々な肉や見事に捌かれた魚料理、ここが中世ヨーロッパではなくゲームの世界なんだと頷いてしまう、だって調理方法が日本で見た事のあるものばかりなんだから。
「肉~魚~あぁ最高だ」
若干冷めてしまっているが美味しい。クラリスにもいつか食べさせてあげたいな、今頃ひもじい思いをしてないか心配だ。ルイも隠れてないで姿を見せれば食べられただろうに、勿体ない。
「ちょっとアナタ!!」
これでアイザックが横に居てくれたらどれだけ楽しい晩餐になっただろう。アルフレッドは、いいや。
「ちょっと聞きなさいよ!?」
これタッパーで持って帰ってもいいだろうか。サラに言えば家でも作ってくれそうな気がする。
「ちょっと聞いてよ! お願いだからこっち見て!!」
切実に頼まれ振り向くとそこには色とりどりの髪をした少女達が前ならえのポーズを決めて立っている。一歩前に突き出すような形で立っている少女のコバルトブルーに輝いた瞳がこちらを捕らえている。
「何か?」
「アナタ何者よ! さっきアイザック様と親しくしてたみたいだけど、勘違いしないでよね、アイザック様はアナタなんかのこと好きじゃないんだから!!」
勘違いしないでよね、なんて台詞をブラウン以外で聞くことになるとは。この次はべ、別にアナタの為じゃないんだから、かな。そうか~私の為に注意してくれてるのか。
「何よその目、何なのよ!!」
涙目な少女は縦に巻いた髪を振りながら私の元へ寄ってくる。背は私より高いが子供であることは変わらない、動じない私を見て困った顔で眉を下げてしまった。
「わ、ワタシの名前はレベッカ・ダミアンよ!! 思い知った!?」
何を知ればいいんだろう。後ろの取り巻きも首を傾げているじゃないか、落ち着け。
レベッカ.......あぁゲーム内で主人公を虐めていた一人か。確かアイリーンの取り巻きだったはずだがその前は彼女が仕切っている側だったらしい。ホワイトブロンドの髪を可愛らしく巻いた彼女はアイザックにベタ惚れで、アイリーンに近づくことで妹公認の婚約者になろうと奮闘していたみたいだが主人公にあっさり奪われてしまった。そして嫌がらせの連発である、アイリーンと結託し悪事のオンパレード。最期は確かアイリーン同様悲惨な末路になっていた気がする、詳しく知らないんだよな。
「レベッカ様でしたか。いつも兄がお世話になっております」
とりあえず微笑みかける。
「へぇっ? 兄?」
この人分かりやすくていいな。私はアルフレッドみたいな腹に一物ありそうな人よりこういった露骨な人物の方が好きだ。
「はい、申し遅れました。私はアイリーン・ベーカー。アイザック・ベーカーの妹にございます」
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