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護衛という名の監視役
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サラと同時期にアルフレッドから紹介され私と行動を共にすることになった男がいる。
「お嬢様、段差にはお気をつけ下さい」
「エスコートというより介護ですね」
藍色の髪を無造作に伸ばしすっかり隠れてしまった顔と野暮ったい眼鏡。全体的に陰湿なイメージを漂わせているのが新しく私の護衛役になったルイだ。出会った当初からサラに髪を切れと言っているのに、どうも人の視線が苦手らしく今のスタイルを崩そうとしない。サラが鉄仮面ならルイは無表情って感じだ。
「旦那様の命により本日からお嬢様をお守り致します」
「可愛い娘が心配で夜しか眠れなくてね、凄腕と評判の彼を雇ったんだ」
全く私の心配をしていないアルフレッドが護衛だと寄越してきたこの男。どの角度で見ても凄腕とは思えないが.......。護衛役とは名義上でようは私がアルフレッドに対し余計なことをしでかさないよう見張る監視役というのが本当のところだろう、ルイもボディーガードというよりスパイだと思えば納得がいく。
「信用ないな私」
アルフレッド暗殺計画を企てていたのが勘づかれたのか、非常に残念だ。
ルイ、という名前は私が即興で彼に付けてやったものだ。名前を聞けばその時々に応じて適当に名乗ってきたので自分には名前がないなんて物悲しいことを言い出した為、少し頭を捻り付けてあげた。
ルイ。漢字にするなら類か累だろうか。類なら仲間という意味がある、これからよろしくねなんて意味を込めているのだ。累には確か巻き添えをくらう、って意味があった。ベーカー家のいざこざに巻き込んでごめんなさいという私なりの謝罪だ。
「よし、ルイにしよう」
「はぁ。まぁそれでいいです」
当人が気に入っているかどうかは定かじゃないが。
「お嬢様、お茶が入りました」
ルイが頭を抱える私を気遣って紅茶をいれてくれた。サラが横目で見ているので礼儀作法に乗っ取り口をつける。
「.......不味い」
「すみません、淹れ方がよく分からなくて」
なら何故淹れたんだ。サラが失礼、と呟きお茶の味見をする。
「これはひどいですね、作法がなっていません」
サラに睨まれても平然としているルイは自分でも口をつけてみて「確かに不味いですね」と零した。天然というべきかなんと言うべきか、マイペースなんだよなこの男。
「ルイには何か特技がありますか?」
こいつは言い方を変えればアルフレッドからの刺客とも言える、危険視するに越したことはない。
「暗殺、ですかね」
めちゃくちゃ危険人物だった。サラが顔を青くして今にも倒れそうだ。
「自分の魔法属性は陰ですから目くらましや隠密が特技になります」
「目くらまし?」
ルイは頷くと小声でなにか唱え、すっと足元から消えていった。
「おお~!!」
この世界に来て初めて目のあたりにする魔法だ、どちらかといえばマジックに近いが姿を眩ませられるのは確かに隠密としてかなり有効だろう。忍者みたいでかっこいい!!
「見直しましたルイ、ただの変人じゃなかったんですね」
この魔法を使えば忍び込んで寝首を搔く、なんてことにも使えるだろう。それで暗殺か。物騒だが私にとって武器になるかもしれない。雇い主のアルフレッドではなくこちら側に引き込めないものか。
「ですからお嬢様の敵討ちは任せてください」
「その前に守って欲しいですけどね」
この天然を懐柔するのは骨が折れそうだ。
サラとルイ、私の付き人が固定になって暫くが経った。今まで立ち代りしていた使用人が見慣れた顔ぶれになるだけでこうもストレスが半減されるとは予想外だ。
サラは礼儀作法にうるさいが基本しっかり者で話も筋が通っている、物知りな一面もありこの世界について質問すれば素早く答えてくれるところも好ましい。
ルイは身なりこそだらしないが腕は確からしいので今のところは文句を言うまい。リリアンのこともあり、先行きが不安だった私にとって案外ありがたい人材かもしれない。
こうして二人を並べて考えるとアルフレッドは結果的に私が得をする人物を選んでいるようだ、あの男が何を考えているのかいまいち掴めないが大方駒としての質を上げたいとかその辺だろう。
アイリーン・ベーカーになって半年が過ぎた今、差し迫った課題は一つ。
「お兄様への誕生日プレゼントが思いつかない.......」
季節は春を迎えアイザックの誕生日は記憶が正しければ五月の頭。ここに来て初めて私に優しくしてくれた恩人に何か返すチャンスなのに一向に妙案が思いつかず悩んでいた。
「街に出たい」
一応カタログは手元にあるんだが実物を見て選びたいのだ。
「アルフレッド様からの許可が必要でごさいます」
「許可が出たら行ってもいいんですか?」
「その時は自分が付き従いますよ」
ルイが胸を張ってみせる、絶妙に頼りないんだよな。
アルフレッドからの許可か.......。ふと私は思い出した、あの男にはリリアンの一件で借りを作っておいたはずだ。
「お父様にお願いしてきます!」
可愛らしく優雅に、甘えた盛りの子供が父親にねだるような仕草でゆすってやろう。
「あの歳で悪人面とはお嬢様の将来が心配ですね」
「やめなさいルイ、それ以上は聞きたくないわ」
二人して頭を抱えるなんてすっかり仲良くなったものだ。私は従者二人に手を振って悪魔の住み着く部屋へ向かったのだった。
「お嬢様、段差にはお気をつけ下さい」
「エスコートというより介護ですね」
藍色の髪を無造作に伸ばしすっかり隠れてしまった顔と野暮ったい眼鏡。全体的に陰湿なイメージを漂わせているのが新しく私の護衛役になったルイだ。出会った当初からサラに髪を切れと言っているのに、どうも人の視線が苦手らしく今のスタイルを崩そうとしない。サラが鉄仮面ならルイは無表情って感じだ。
「旦那様の命により本日からお嬢様をお守り致します」
「可愛い娘が心配で夜しか眠れなくてね、凄腕と評判の彼を雇ったんだ」
全く私の心配をしていないアルフレッドが護衛だと寄越してきたこの男。どの角度で見ても凄腕とは思えないが.......。護衛役とは名義上でようは私がアルフレッドに対し余計なことをしでかさないよう見張る監視役というのが本当のところだろう、ルイもボディーガードというよりスパイだと思えば納得がいく。
「信用ないな私」
アルフレッド暗殺計画を企てていたのが勘づかれたのか、非常に残念だ。
ルイ、という名前は私が即興で彼に付けてやったものだ。名前を聞けばその時々に応じて適当に名乗ってきたので自分には名前がないなんて物悲しいことを言い出した為、少し頭を捻り付けてあげた。
ルイ。漢字にするなら類か累だろうか。類なら仲間という意味がある、これからよろしくねなんて意味を込めているのだ。累には確か巻き添えをくらう、って意味があった。ベーカー家のいざこざに巻き込んでごめんなさいという私なりの謝罪だ。
「よし、ルイにしよう」
「はぁ。まぁそれでいいです」
当人が気に入っているかどうかは定かじゃないが。
「お嬢様、お茶が入りました」
ルイが頭を抱える私を気遣って紅茶をいれてくれた。サラが横目で見ているので礼儀作法に乗っ取り口をつける。
「.......不味い」
「すみません、淹れ方がよく分からなくて」
なら何故淹れたんだ。サラが失礼、と呟きお茶の味見をする。
「これはひどいですね、作法がなっていません」
サラに睨まれても平然としているルイは自分でも口をつけてみて「確かに不味いですね」と零した。天然というべきかなんと言うべきか、マイペースなんだよなこの男。
「ルイには何か特技がありますか?」
こいつは言い方を変えればアルフレッドからの刺客とも言える、危険視するに越したことはない。
「暗殺、ですかね」
めちゃくちゃ危険人物だった。サラが顔を青くして今にも倒れそうだ。
「自分の魔法属性は陰ですから目くらましや隠密が特技になります」
「目くらまし?」
ルイは頷くと小声でなにか唱え、すっと足元から消えていった。
「おお~!!」
この世界に来て初めて目のあたりにする魔法だ、どちらかといえばマジックに近いが姿を眩ませられるのは確かに隠密としてかなり有効だろう。忍者みたいでかっこいい!!
「見直しましたルイ、ただの変人じゃなかったんですね」
この魔法を使えば忍び込んで寝首を搔く、なんてことにも使えるだろう。それで暗殺か。物騒だが私にとって武器になるかもしれない。雇い主のアルフレッドではなくこちら側に引き込めないものか。
「ですからお嬢様の敵討ちは任せてください」
「その前に守って欲しいですけどね」
この天然を懐柔するのは骨が折れそうだ。
サラとルイ、私の付き人が固定になって暫くが経った。今まで立ち代りしていた使用人が見慣れた顔ぶれになるだけでこうもストレスが半減されるとは予想外だ。
サラは礼儀作法にうるさいが基本しっかり者で話も筋が通っている、物知りな一面もありこの世界について質問すれば素早く答えてくれるところも好ましい。
ルイは身なりこそだらしないが腕は確からしいので今のところは文句を言うまい。リリアンのこともあり、先行きが不安だった私にとって案外ありがたい人材かもしれない。
こうして二人を並べて考えるとアルフレッドは結果的に私が得をする人物を選んでいるようだ、あの男が何を考えているのかいまいち掴めないが大方駒としての質を上げたいとかその辺だろう。
アイリーン・ベーカーになって半年が過ぎた今、差し迫った課題は一つ。
「お兄様への誕生日プレゼントが思いつかない.......」
季節は春を迎えアイザックの誕生日は記憶が正しければ五月の頭。ここに来て初めて私に優しくしてくれた恩人に何か返すチャンスなのに一向に妙案が思いつかず悩んでいた。
「街に出たい」
一応カタログは手元にあるんだが実物を見て選びたいのだ。
「アルフレッド様からの許可が必要でごさいます」
「許可が出たら行ってもいいんですか?」
「その時は自分が付き従いますよ」
ルイが胸を張ってみせる、絶妙に頼りないんだよな。
アルフレッドからの許可か.......。ふと私は思い出した、あの男にはリリアンの一件で借りを作っておいたはずだ。
「お父様にお願いしてきます!」
可愛らしく優雅に、甘えた盛りの子供が父親にねだるような仕草でゆすってやろう。
「あの歳で悪人面とはお嬢様の将来が心配ですね」
「やめなさいルイ、それ以上は聞きたくないわ」
二人して頭を抱えるなんてすっかり仲良くなったものだ。私は従者二人に手を振って悪魔の住み着く部屋へ向かったのだった。
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