上 下
8 / 61
アカズキン(狼×女主/狩人×女主/ヘタレ/擬人化/ロリ)

初めての場所_2

しおりを挟む

 目の前に出されたのは、ベーコンエッグとトースト。そして嗅いだことのある匂いの黄色い液体。恐らくコーンスープだろう。サラダボウルに乗せられた野菜達は瑞々しく、こんがりと焼かれたパンは、美味しそうな焦げ目の上にバターが乗っており、半分溶けたソレは非常に良い匂いを醸し出していた。

「オレンジジュースとミルク、どっちにする?」
「んー……オレンジジュース!」

 ノイは出来るだけ子どもっぽく、明るく喋るよう努めた。

「はい、どうぞ。……ミルクもきちんと飲まなきゃダメよ?」
「は、はぁい」
「もう……。昨日はよく眠れた?」
「えっ……ま、まぁまぁよ」
「そう? 気のせいかしら? 少し顔色が悪いように見えるのだけれど」
「き、きっ、気のせいよ! だから、うん! 心配しないで!」
「……なら良いのだけれど。夜更かしはダメよ?」
「分かってる! ……あー! お腹空いちゃった! いただきまーす!」

 微妙な空気を誤魔化すように、ノイ、は大袈裟に食事をし始めた。
 パリパリと音を立ててレタスを咀嚼し、トマトを嚙み潰す。パンはジャムも添えられていたが、敢えて塗らずにバターの風味を楽しんだ。

「あ、そうそう。ノエルにお願いがあるの。」
「なぁに? ……か、母さん」
「お母さんの姉さんのところに、あの葡萄酒と、パンを届けてくれないかしら? 熱で身体が自由に動かなくて、困っているみたいなの」
「姉さん? おばあちゃんじゃ、なくて?」
「何を言ってるの? おばあちゃんなら、この家にいるじゃない」
「……おやおや、みんな早いねぇ。おはよう」
「お母さん、おはよう」
「おはようノエル」
「おは、よう……」

 ノエルのお母さんに『お母さん』と呼ばれた老婆が、【おばあちゃん】であることは明らかだった。

"話が……違う……?"

 ノイの知っている赤ずきんは、おばあさんの元へ向かう筈だ。葡萄酒とパンを持って、途中で狼に会って花を摘むという道草を食い、おばあさんの元へ。その間に食べられて狼が成り代わり、お腹の中のおばあさんを助ける。
 登場人物は、赤ずきんとその母、おばあさんに狩人、そして狼だ。母親のお姉さんなど、存在しない。

"これ……勝手に話が出来上がってる……? もしくは、ウタが話を捻じ曲げている、か……"

 真実は分からない。が、どちらにしろ、赤ずきんとなったノイに選択肢は無い。その【お姉さん】とやらに、葡萄酒とパンを届けなければ。ノイにも本物のノエルにも、明日が来ないのだ。

"ケープだとか登場人物の一部だとか、細かいところは、忠実なのに、ね……"

「これが念のための住所よ。……と言っても、何度も行っているから平気かしら?」
「えっ、あっ、ちょうだい! そ、その、一応、ね。は、はは……」
「……変な子ね? まぁ良いわ。最近変な人が多いみたいだから。気をつけてちょうだい」
「えぇ、分かったわ。ご飯を食べ終わったら、すぐに行くから」

 ノイは、これからどう話を進めて行くか、キーパーソンとなるおばあちゃんが、母の姉に変わったことで、どう影響するのか、他の狼や狩人はどうなっているのか、考えを巡らせながらご飯を食べた。

「あ、そういえば……住所、って、森の奥じゃない、よね?」
「あらやだ、覚えていないの? 隣町じゃない、あんなに何度も行ったのに、忘れちゃった?」
「あ、はは。最近忘れっぽくて。あはは、はは」
「……まぁ、最近は行っていなかったものね、嫌がって。そういえば、どうして行くのを嫌がったの?」
「う、うーん……。その、気分じゃなかった……かも……?」

 誤魔化しきれたかどうかは怪しいところだが、急いで食べ進める。

"どうしよう、なんか、知っている話と全然違うんですけど!?"

 ノイは大きな不安を胸に抱えながら、母の姉の元へ向かう為の準備を始めた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

明智さんちの旦那さんたちR

明智 颯茄
恋愛
 あの小高い丘の上に建つ大きなお屋敷には、一風変わった夫婦が住んでいる。それは、妻一人に夫十人のいわゆる逆ハーレム婚だ。  奥さんは何かと大変かと思いきやそうではないらしい。旦那さんたちは全員神がかりな美しさを持つイケメンで、奥さんはニヤケ放題らしい。  ほのぼのとしながらも、複数婚が巻き起こすおかしな日常が満載。  *BL描写あり  毎週月曜日と隔週の日曜日お休みします。

私の愛する夫たちへ

エトカ
恋愛
日高真希(ひだかまき)は、両親の墓参りの帰りに見知らぬ世界に迷い込んでしまう。そこは女児ばかりが命を落とす病が蔓延する世界だった。そのため男女の比率は崩壊し、生き残った女性たちは複数の夫を持たねばならなかった。真希は一妻多夫制度に戸惑いを隠せない。そんな彼女が男たちに愛され、幸せになっていく物語。 *Rシーンは予告なく入ります。 よろしくお願いします!

旦那様が多すぎて困っています!? 〜逆ハー異世界ラブコメ〜

ことりとりとん
恋愛
男女比8:1の逆ハーレム異世界に転移してしまった女子大生・大森泉 転移早々旦那さんが6人もできて、しかも魔力無限チートがあると教えられて!? のんびりまったり暮らしたいのにいつの間にか国を救うハメになりました…… イケメン山盛りの逆ハーです 前半はラブラブまったりの予定。後半で主人公が頑張ります 小説家になろう、カクヨムに転載しています

【全話挿絵】発情✕転生 〜何あれ……誘ってるのかしら?〜

墨笑
ファンタジー
『エロ×ギャグ×バトル+雑学』をテーマにした異世界ファンタジー小説です。 主人公はごく普通(?)の『むっつりすけべ』な女の子。 異世界転生に伴って召喚士としての才能を強化されたまでは良かったのですが、なぜか発情体質まで付与されていて……? 召喚士として様々な依頼をこなしながら、無駄にドキドキムラムラハァハァしてしまう日々を描きます。 明るく、楽しく読んでいただけることを目指して書きました。

美幼女に転生したら地獄のような逆ハーレム状態になりました

市森 唯
恋愛
極々普通の学生だった私は……目が覚めたら美幼女になっていました。 私は侯爵令嬢らしく多分異世界転生してるし、そして何故か婚約者が2人?! しかも婚約者達との関係も最悪で…… まぁ転生しちゃったのでなんとか上手く生きていけるよう頑張ります!

最愛の番~300年後の未来は一妻多夫の逆ハーレム!!? イケメン旦那様たちに溺愛されまくる~

ちえり
恋愛
幼い頃から可愛い幼馴染と比較されてきて、自分に自信がない高坂 栞(コウサカシオリ)17歳。 ある日、学校帰りに事故に巻き込まれ目が覚めると300年後の時が経ち、女性だけ死に至る病の流行や、年々女子の出生率の低下で女は2割ほどしか存在しない世界になっていた。 一妻多夫が認められ、女性はフェロモンだして男性を虜にするのだが、栞のフェロモンは世の男性を虜にできるほどの力を持つ『α+』(アルファプラス)に認定されてイケメン達が栞に番を結んでもらおうと近寄ってくる。 目が覚めたばかりなのに、旦那候補が5人もいて初めて会うのに溺愛されまくる。さらに、自分と番になりたい男性がまだまだいっぱいいるの!!? 「恋愛経験0の私にはイケメンに愛されるなんてハードすぎるよ~」

女性の少ない異世界に生まれ変わったら

Azuki
恋愛
高校に登校している途中、道路に飛び出した子供を助ける形でトラックに轢かれてそのまま意識を失った私。 目を覚ますと、私はベッドに寝ていて、目の前にも周りにもイケメン、イケメン、イケメンだらけーーー!? なんと私は幼女に生まれ変わっており、しかもお嬢様だった!! ーーやった〜!勝ち組人生来た〜〜〜!!! そう、心の中で思いっきり歓喜していた私だけど、この世界はとんでもない世界で・・・!? これは、女性が圧倒的に少ない異世界に転生した私が、家族や周りから溺愛されながら様々な問題を解決して、更に溺愛されていく物語。

男女比がおかしい世界にオタクが放り込まれました

かたつむり
恋愛
主人公の本条 まつりはある日目覚めたら男女比が40:1の世界に転生してしまっていた。 「日本」とは似てるようで違う世界。なんてったって私の推しキャラが存在してない。生きていけるのか????私。無理じゃね? 周りの溺愛具合にちょっぴり引きつつ、なんだかんだで楽しく過ごしたが、高校に入学するとそこには前世の推しキャラそっくりの男の子。まじかよやったぜ。 ※この作品の人物および設定は完全フィクションです ※特に内容に影響が無ければサイレント編集しています。 ※一応短編にはしていますがノープランなのでどうなるかわかりません。(2021/8/16 長編に変更しました。) ※処女作ですのでご指摘等頂けると幸いです。 ※作者の好みで出来ておりますのでご都合展開しかないと思われます。ご了承下さい。

処理中です...