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遠い国で
*2人だけのひととき_3
しおりを挟むハルトの言葉には熱がこもっている。それに、どこか焦っているような、強引でいて懇願するような、言葉では表しづらいような感情が混ざっているような気がした。それがどんな感情であれ、安易にNOということはできず、ゆあにはYESと答えるほか道はなかった。
「……素直で可愛いよ、ゆあ」
「……んっ、んぅ……ふ、うぅ……」
優しく笑ったあと、ハルトはゆあの唇にキスをした。ゆっくりと舌を口内へと進ませて、ゆあの舌をなぞる。そして舌を絡ませて吸い付き、ピクピクと反応するゆあの身体を自分の身体を押し当てて逃げられないようにベッドとの間に挟んだ。ギリギリのラインを選んでいるのだろ。重さはさほど感じないが、圧は感じるような密着度である。
「時間も遅いから、もう僕の部屋には誰も来ない。……ゆあだって、戻らなくても怒られないでしょ?」
栞の顔を思い浮かべながら、ゆあは頷いた。彼女はきっと怒らない。朝帰りしたってそのまま受け入れてくれるはずだ。ハルトの元へは、栞が送り出したのだから、帰ってこなくてもなにも言わないだろう。
「それじゃあ、遠慮なく」
ハルトはゆあの服に手をかけると、そのまま脱がせ始めた。既にたくし上げられていたワンピースの裾は、ゆあ自身の手伝いもあり簡単に脱がされていく。
「……少し厚手で良かったね? 動くとよく身体のラインが見えるから。」
特に身体のラインを気にしたつもりはなかった。『もしかしたら船内や部屋が空調の加減で寒いかもしれない』と思って少し厚手の生地にしただけだった。元々はこれを着て船内を歩く予定はなく、部屋の外に出る予定もなかった。そう考えて、ゆあはまた『しまった』と思った。うっかりなのだ。うっかり、この格好で出てきてしまった。周りの目を考えていなかったし、ハルトがどう思うかも考えずに着ていたのだ。もっと言えば部屋を出るとき栞はトイレに入っていたから、このワンピースに対する彼女の意見も聞いていない。……もし、栞がこのワンピースで部屋の外に出ようとするゆあを見たら、なにか声をかけていたのだろうか。
「そういうところだよ? 危機感がないの」
「……なにも、言い返せません……」
「『男はオオカミ』って言わない? 僕は別に、彼氏だから良いんだけど。……婚約者って言ったほうが良いかな?」
「ハルトさん……」
「……ちょっとだけね? ゆあの困っている顔を見たかっただけ。あとは身をもって学べば良いと思うよ?」
目が合っても、合わなくてもハルトはニコニコと優しい笑みをゆあに向けていた。裏表のなさそうな、屈託のない笑顔。
「あ……」
なにか言いかけてその後なにも出ないまま、その口はハルトの唇によって再度塞がれていた。
「口、あけて?」
少し戸惑ったものの、ゆあは言われた通りに口を開いた。小さく開かれた唇の奥に舌が見える。その舌の根元を探るように、ハルトが自分に舌をあてがう。最初のキスよりもずっと激しく力強いその動きと息遣いに、おずおずと舌を伸ばすと絡み合うように動かした。どこか急かすような、感触を楽しむようなハルトの舌の動きを受け入れて、ゆあは両腕をハルトの首へと回した。その動きにピクリと身体を動かして、一瞬舌の動きをハルトは止めたが、またすぐに貪るような動きを示した。『遠慮はしない』――そういうことだろう。
(……ごめんなさい……ハルトさん……栞ちゃん……)
心の中でゆあは謝っていた。ハルトの唇が離れ、その顔が見えた今。既に栞には何度も部屋で謝っていたが、栞は逆にゆあに謝っていた。『1人にすすべきではなかった』と。ゆあは当然その言葉に反論している。悪いのは自分で、栞が悪いのではないと。仲たがいをしたわけでもなく、2人はそのあとすっかり元通りの態度になり、旅行の話をずっとしていた。お互いもう話は蒸し返さないようにと思っていたが、どうしても栞本人がいないところでは思い返してしまう。それでも、こんなときに思い出すモノでもないと、ゆっくりと呼吸をしてハルトの目を見る。
「もう、1人でどっかに行ったりしないから……」
「……そうしてくれると助かるよ」
わだかまりを溶かすように、指先を絡める。お互いの手は温かくそれぞれに熱が伝わっていった。ハルトがゆあの頬へ自分の頬をくっつけると、ゆあもお返しをするように頬を擦りつける。背中へ両腕を滑り込ませ、ハルトはゆあを抱き締めた。
(……温かいなぁ……)
ハルトから感じるぬくもりに、ゆあはようやく安堵した。彼の怒りはもっともだと思っていた。そして、自分のことを深く心配したうえでの言葉や行動であるともよくわかっていた。
「……まだ初日だけど、旅行の感想を聞かせてくれるかい?」
「もちろん! あのね、ハルトさんと一緒に行きたいお店があるの! 栞ちゃんと話していて、ここが良いんじゃないかって」
「へぇ、どんな店?」
「えっと、お肉が美味しいんだって! あとね、お酒もオリジナルのカクテルを作ってくれたり、スイーツも充実していて……」
「……ふふっ、それはゆあが入りたいお店じゃなくて?」
「……うっ。それはある、かもしれないけど……!」
「あはは、良いよ、行こうか。……大和さんも誘えば良いんじゃない? 僕はたまたま店の前を通りかかったことにするから。君の望むフルで食事の時間を取れるかわからないからね。それでも良ければだけど」
「それはいいの! 少しでも一緒にいられたら……」
「大和さんにもしっかりお礼をしたいからね。彼女も誘ってほしい」
「うん!」
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「私、入って良いの?」
「白壁にはもう話を通してある。時間さえ先に指定してもらえれば、貸し切りで使ってもらって構わないと」
「……私も白壁さんにお礼しなきゃ……」
「……僕から伝えておく」
「え、でも、直接言ったほうが……」
「僕から伝えておくから。……良いね?」
「わ、わかった……」
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