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遠い国で
*2人だけのひととき_2
しおりを挟む反射的にゆあは謝罪した。『取り敢えず謝れば』といった口先だけのモノではなく、心からの謝罪だ。自分がまずい対応をしたことは理解していた。しっかりと疑うこともせず、自分に対して良い感情を持っていないだろう人へついて行ったのだ。行き先も告げず、今回一緒に行動しようと言っていた人にも連絡が入れられないままに。心のどこかで『それでも仲良くできれば』と、そう思っていた。普段は無理でも、せめてこの旅行中は当たり障りなく過ごせたら。あわよくば苦手意識も悪い印象も解けて普通の関係になれたら。しかしそれらはすべてゆあの希望なだけであり、春川には関係のないものだったことがよくわかっただけだった。
その事実を胸にハルトの顔を見ると、悲しくて悔しくて、ゆあは目に涙を浮かべていた。自分が悪い。浅はかで能天気な自分が。迷惑をかけた自分が。心配をかけてしまった自分が。
(な、泣いちゃだめだよ私……! 泣きたいのはきっと、栞ちゃんやハルトさんのほうなんだから……!)
ぐっと下唇を噛み、ゆあは下を向いた。泣いてはいけないと思うほどに涙が出てくる。同情してほしいわけでも、慰めてほしいわけでもないのに、この涙は邪魔だなとぼんやり考えていた。
「……大和さんと約束をしていたのに、勝手についていて行ったのは良くないね?」
「……うん」
「僕も心配したんだよ? 血相を変えて彼女部屋に来るんだから」
「……うん」
「話を聞いて、肝の冷える思いをしたよ。まさかどこかに行ってしまうなんて」
「ご、ごめんなさい」
「もっと危機感を持って行動してほしい」
「わかった」
「今のその格好もそうだよね? はぁ、本当に……」
大きな溜息を吐いて、ハルトはゆあをベッドへと押し倒した。
「誰にも会ってない? ここへ来るまでに」
「う、うん」
「嫌いじゃない……けど、場所を選んで着てほしいかな? そういう格好は。……例えば、どこにも出かけない、ずっと家にい2人でいるときとか」
伺いを立てるようにハルトの顔を見てみるも、影になって少しばかり暗く良く見えない。よくわかったのは、先ほどよりもさらに低くなった声の高さと、ゆっくりとした息遣いだった。
「ハ、ハルトさん? あの……っ!」
少しでも気持ちが伝わればと、勢いよく声を出したそのはなに耳元へと息を吹きかけられ、突然のことにゆあはピクリと身体を動かした。
「んっ、ふぅぅ、んんっ……。あっ、ま、待っ……」
「待たない。……少しは危機感持ったほうが良いと思うよ? それに、もしかしたら、君が思っているより僕も怒ってるんだってこのままだと伝わらないよね?」
「ご、ごめんなさ……っ、ん……ふ、ぁっ……」
耳元でピチャピチャと舌の這う音がしている。くすぐったくてもどかしい感覚。柔らく温かい舌から伝わる熱量と、掴まれた手首を握るハルトの手のひらに込められた力に、ゆあは『このまま終わることはないだろう』ことを無意識に悟っていた。
「僕は彼氏だし、ゆあだって子供じゃないんだから、この後どうなるかくらいわかってるよね?」
「……」
改めてそう問われると、わかっていても『わかっている』とは口に出せなかった。
「なにも言わないの?」
「えっと……」
「それとも、期待してる? これから起こることに」
「そ、そういうわけじゃ……」
「……もう少し、思慮深いと思ってたんだけどな。カフェとはいえ、国籍の違う女の子が1人で……ねぇ?」
「うぅ……っ、あっ、あぁ……っ……」
「あのお店、有名店みたいだね? 観光客も多いだろうし、女の子を狙ってナンパしに来る輩も多そうだ」
「ひゃぁ……っ!」
服の中に手首から離れたハルトの手が入る。ブラジャーもつけていないその肌に手のひら全体を載せると、ゆっくりと揉みしだいていった。
「可愛いんだよ? ゆあは。そこも、もう少し自覚を持ってほしいんだけど。……迎えに行ったとき、何人かの男がじっと君のほうを見ていたんだけど」
「そ、それは……っ、んん……あっ、あ……」
「騒いだから? 違うよ。みんなゆあのことが気になっていたんだ。女性としてね。……あわよくば、声をかけようと考えていたと思うよ?」
「そんな、わけ……っ……! いっ、あぁぁ……!」
乳首を詰めで優しく引っ掻く。そして親指と人差し指でギュッと摘まむとそのまま引っ張った。
「ほら、わかってない。僕がどれだけ心配していたのかも、自分が周りにどうみられているのかも」
「ち、ちが……っ……んんん――!!」
指先に一層力が入り、鈍い痛みにゆあは口を閉じて歯を噛んだ。
「やっぱり、ちゃんと学ぶべきだよね。そう思わない?」
ハルトはそうゆあに問いかけるも、口を閉じて目も閉じているゆあは、回答する気配がない。
「ちゃんと僕の言うこと聞いて? 勝手に1人で行かないで。他の男のことも見ないで。ずっと僕だけのゆあでいて。……ね?」
「んんん……!」
「ゆあの意見は尊重したいよ? ……だから、わかるよね? ゆあ」
今度はグリグリと指先で乳首を押す。擦るようなその動きに、ゆあは声を漏らしながらコクコクと頷いた。
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