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遠い国で

社員旅行で待っていたのは……_4

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「ビュッフェだもんね、荷物、見てようか? ゆあ先に取りに行ってきて良いよ?」
「栞ちゃんこそお先にどうぞ?」
「あらあら。私が見ていても良いわよ? どうぞ?」

 春川のグループの1人が、ゆあと栞に声をかけた。

「あ、いえ、大丈夫です」
「荷物小さいし持って行こうか」
「……」

 申し出を断って、ゆあと栞は荷物を持って席を立った。

「……正直、なにされるかわかんないよね?」
「春川さん達には申し訳ないけど、うん……」

 離れた場所で、2人はヒソヒソと思ったことを話していた。

「100パーの善意だったら悪いけどさ……なんかちょっとニヤニヤしてたし、あんまり関わらないでおこう……」
「うん……」

 あまり春川のグループに良いイメージを持っていない2人は、できるだけ一緒に過ごすことに決めた。

 ――しかし、予定外の事態が起こる。

「……あら? 東条さん、アナタこんなところにいたの?」
「え? どうかしましたか?」

 一旦トイレのために栞と離れたゆあに、春川が声をかけた。

「さっき、大和さんがアナタのこと探していたわよ?」
「栞ちゃんが……?」
「えぇ。なんでも、時間限定のスイーツを食べに行きたいから、先に出てるわよって」
「えぇ!? そんなの初耳……」
「随分急いでたわよ? 色んな人に『東条さんに会ったら伝えておいてください!』って言っていたけど。てっきり、一緒に行く約束をしているのかと思ったのに」

(……もしかして、あのお店かな……?)

 ゆあには心当たりがあった。昨日の夜、2人で『停泊したら絶対に寄りたいお店だね』と話していたカフェだ。珍しいものが食べられるわけではなかったが、お店の内装とカトラリーが可愛くて、一度見てみたいと選んだお店。ちょうど、お昼に向けて時間限定のタルトが提供されることになっており、フルーツのたくさん載ったその大きなタルトを、2人で分けて食べようと話をしていたのだ。

「それってもしかして、このお店ですか?」

 ゆあは春川にホームページを見せた。

「あぁ、多分そこね。良いの? 行かなくて」
「え、なんで先に行っちゃったんだろう……? 2人で移動しようねって話してたのに……」
「私たちもそのお店に今から行くんだけど、良かったら一緒にどう? 小さなお店みたいだから、席の確保でもしたかったんじゃないかしら?」
「そっか……栞ちゃんに聞いてみなきゃ」
「早くいかないと置いていくわよ? アナタ1人でお店まで辿り着けるの?」
「え、あ、それは無理かも……」
「タクシー待たせてあるから、早くしなさい」
「はいっ!」

(もー……栞ちゃん、それならそうだって連絡ほしかったな……)

 少し納得がいかなかったものの、自分の思っていることと春川の発言が一致したため、ゆあは春川たちについて行くことに決めた。確かに、栞がお店へ籍の確保に向かったのなら、自分も急がないと待たせてしまうことになる。自分一人では迷ってしまうかもしれないが、同じお店に行こうとしている人が他にもいるなら心強い。たとえそれが、春川たちであってもだ。土地勘もない、言葉も完全に通じる自信がない場所で、1人で行動するにはゆあは不安だった。――まだ、春川たちと一緒に行動したほうが、仲がいいとは言えないが、知っている人間が側にいたほうが安心できる。
 春川たちの後をついて、一緒にタクシーへと乗り込んだ。タクシー内での会話は特になかったが『大和さんに連絡したら、やはり一人で行動しているようだった』と教えてくれた。その言葉にゆあはほっと胸を撫で下ろし、楽しみにしていたカフェへの到着を今か今かと待ちわびていた。

「――あら、着いたみたいね? あのお店じゃないかしら?」

 一軒の可愛らしいお店。テラス席も楽しめるように、お店の外にも席が用意されている。

「中にいるかもしれないわね。入りましょう」
「あ、はいっ」

 春川に促されて、ゆあはお店へ入った。通されたのは大きなソファが円形にテーブルを囲っている席で、だがしかしそこに栞の姿はない。

(あれ? お店にいると思ったけど、まだ来てないのかな? それとももしかして、別の席に座ってたりする?)

 ゆあはキョロキョロと辺りを見渡した。だが、見える範囲内に栞の姿は見えなかった。

(おかしいな……? 私たちよりも先に出たんだから、もう着いていてもおかしくないのに……)

「あら、どうかしたの?」
「あ、えっと、栞ちゃんがいないなと思って……」
「あら、本当? お店間違えてはないと思うのだけれど。私が連絡してみるから、アナタは他の子たちと一緒にメニュー頼んでなさい。私の分は、誰かと同じものを頼んでおいて?」
「わかりました……」

 心なしか強い口調に聞こえたが、差し出されたメニューに心を奪われ、大人しくソファに座った。

「きっとすぐ来るわよ」
「道が混んでいたから、ちょっと遅れているのかもね」
「もしかしたら、トイレに立っているのかもしれないし」

 席には、ゆあ含め4人が座っていた。春川が座っても、まだ1人分の余裕はある。ゆあはそこに栞が座ることを期待して待っていたが、注文も終えたころ戻ってきたのは春川だけだった。

「あの、栞ちゃんは……」
「それが、道が混んでいてまだ来れないそうよ。同じようにタクシーに乗ったみたいだけど、運転手がなれない人だったみたいね」
「そう、ですか……」
「しばらく待っていたらきっと来るわ。さ、座って注文が来るのを待ちましょう」
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