【R18】マッチングアプリで弊社社長とマッチングされました!?

玄野クロ(星屑灯)

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遠い国で

社員旅行で待っていたのは……_2

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 ゆあと栞の2人はキャアキャアと声をあげてはしゃいでいる。そんな2人を、冷めた目でフンと鼻で笑いながら、春川が見つめていた。

「まずはいったん客室に向かってほしい。コンシェルジュがそれぞれつく。一般客室は本来ならつかないが、今回は白壁氏の厚意でつけてもらった。困ったことがあればなんでも聞くように。ただし、迷惑だけはは絶対にかけるなよ? いいな?」
「なにかあれば、それもアンケートに書いてくれると嬉しいかな? 今後の改善に必要なものならね」
「……絶対に迷惑をかけるな。我々だけではない。他の乗客ももちろんいるんだ。良いか? 日本人代表となってもおかしくないんだぞ? それぞれ、節度を持って常識ある行動をとるように」

 はしゃぐ一行の間を、ハルトのよく通る声が流れていく。一瞬、ピリッとした空気が一行を包んだが「はい!」と各々元気よく返事をすると、ハルトの表情が少し和らいだ気がして身体の力を抜いた。

「――こちらです、どうぞ」

 ゆあと栞がコンシェルジュに通されたのは、奥まったところにある客室だった。まだ部屋の中は、新しい建材や塗料の匂いが微かに漂っている。パリッとした真っ白なシーツがかけられたベッドは、一人で眠るには少し大きかった。

「……あれ? 2人部屋にしては大きいですね?」
「えぇ、この客室は、スタンダードのひとつ上のランクとなっています。なので、少し部屋が広めにとってあり、ベッドもご覧のように」
「なるほど」
「御社御一行様は、みなさまこのタイプのお部屋ですよ。できるだけくつろいでほしい、船旅の良さを味わってほしいと、白壁が申しておりました」
「えっ、そうなんですか?」
「はい。そして、気に入ったら今度はご自身で利用してほしいとも仰っていましたね」
「あはは、なかなかハードルが高いかもしれません」
「このような話、私の方からするのはあまりよくないのかもしれませんが、実は船旅って案外リーズナブルなんですよ?」
「船旅が、ですか……?」
「そうなんです。……一度、料金表を見てみてください。高いな、と思われたかもしれませんが、国内のランクが上のホテルに泊まったり、大きなテーマパークへ何泊もするのと比べて、時期やキャンペーンを狙えばずっと安く行けるんです」
「知らなかった……!」
「ですので、もし気に入ってくださったのなら、そういったプランも今後用意いたしますので是非ご確認ください」
「ありがとうございます!」
「ねぇゆあ、私もう既にまた来たい」
「栞ちゃんはちょっと早いね?」
「でもゆあだってそう思ってるでしょ?」
「……ちょっとある。だってお部屋もこんなに素敵なんだもん!」
「バルコニーにも出られますから、良かったら後で窓も開けてみてくださいね?」
「「はーい!」」
「そちらの電話から、私らコンシェルジュへ繋ぐこともできます。直通の番号も書いてありますので、確認しておいてくださいね」
「わかりました……と、お兄さん、ものすごく日本語お上手ですね……?」
「子どものころから、日本と母国を行ったり来たりしているんです。そして、縁あって今はこの会社に拾っていただきました。最初は苦労しましたが、今は日常会話には困らない程度になりましたよ」
「……日常会話どころか、もっとずっとお話しできそうですね……?」
「そう思っていただけたのなら、勉強を頑張った甲斐がありますね! 他のお部屋のコンシェルジュも、みな日本語が話せます。実際の運航ではそういうわけにもいかないことが多々ありますが……。今回は特別に、ですね」
「白壁さんの計らいですね」
「そういうことです」
「また直接お会いできれば、直接お伝えたいところなのですが。白壁さんに『ありがとうございます』とお伝えいただけますか?」
「承知いたしました。必ずお伝えしますね。……それでは、船内でごゆっくりお過ごしください。御社成瀬様から、船旅での注意点やスケジュールの載ったメモを預かっております。そちらの机に置いてありますので、一度ご一読を。なにか困ったこと、聞きたいことができましたら、遠慮なくご連絡ください。――失礼します。良い旅を」

 頭を下げて、コンシェルジュは部屋を後にした。

「……ふあぁぁ! ベッドおぉぉぉ!」
「ちょっと疲れたよねぇ」

 2人は両腕を広げてベッドへとダイブし、疲れた身体をグッと沈ませた。ギシリと軋む音を立てながら、洗い立ての真っ白なシーツがその身体を包んでいく。

「……私寝ちゃいそう」
「まだ早いよゆあ。このあとご飯食べに行かないとだし、参加するしないは置いておいてアクティビティと舞台の公演スケジュール確認しなきゃだし、ショップ見てお土産も買わなきゃだし、やらなきゃいけないことたくさんあるよ?」
「わかってるけどぉ……。なんか飛行機に乗ってたのとか眠れなかったのとか一気にきてる気がする」
「もー。じゃあ、30分くらい休憩する? アラームかけて寝ちゃえば?」
「そうしよっかなぁ……」
「私荷物整理したいし、社長のメモも見ておきたいから起きてるよ。ゆあ起きなかったら起こしてあげる」
「ううう……ありがとう……!」

 ゆあはアラームをセットすると、すぐに深い眠りについた。
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