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彼氏と彼女

私が話したい人_5

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 「部屋が同じなのは、確か同期の子だって言ってたね?」
「うん! 栞ちゃん! ……あのね、彼女には、その、社長としてじゃなくて、私の彼氏として会ってほしいと思っていて……」
「……彼女がゆあの大切な人なのかな?」
「そうなの! ……私、そんなに友達多いほうじゃないから。学生時代の友人も、疎遠になってる子もいるし」
「じゃあ、彼女には、もう?」
「少しだけ、話をしたの。あっ! 別に、誰かに喋ったりとか栞ちゃんはしないから! 応援するって言ってくれたの」
「僕の社長としての評価は?」
「……堅物俺様社長?」
「これはこれは。手厳しいね。……もしかしてゆあもそう思ってた?」
「……うっ」
「ゆあも正直だね。誤魔化せばいいのに。……でも、間違ってないかもね」
「えっ?」
「ほしいものは意地でも手に入れるし、僕のモノが他の誰かに奪われるなんて許せないし。……特に、ゆあに関しては」
「ハルトさん?」
「僕よりも仲が良いのは妬けるなぁ」
「おっ、女の子だよ!?」
「性別は関係ないよ? 紹介されても良いけど、しっかりと僕のだって伝えないとね?」

 ハルトの視線がゆあに刺さる。優しく話しているはずなのに、どこか威圧するような空気がゆあの身体と心を絡めとる。じっと見つめるそのハルトの瞳を見つめ返すと、ゆあは腕を伸ばしてハルトを抱き締めた。

 ――こうして、社員旅行当日。大きなスーツケースに荷物をまとめたゆあは、一人空港へと向かった。

 「ゆあ! こっちこっち!」
「栞ちゃん! ……わお、凄い荷物」
「それはゆあも一緒じゃん。初日と最終日はホテル泊だし、あれもこれもって不安になって詰め込んでたら、どんどん増えてっちゃったけど」
「わかる。忘れ物とか心配してたら、いつの間にかこんな私も荷物になっちゃった」

 お互いがお互いの大きなスーツケースを見て笑った。出国してしまえばもう忘れ物を取りに戻ることはできない。国は違えど生活に必要なものは変わらない。お金とクレジットカードにとスマホ、それに貸し出されるWi-Fiさえあればなんとかなるだろうが、それでも『もし』を考えると、つい荷物を増やしがちである。

「ねぇゆあパスポート忘れてないよね?」
「さすがにそれはちゃんと持ってきてるよ!? 栞ちゃんこそ、普段電子決済ばっかりだけどクレジットカード持ってきた?」
「使わないだけでいつも財布に入れてるからね!? ま、みんな同じホテルに泊まるし、船に乗るまではみんな団体行動だし、もしなにか起こったとしても……まぁなんとかなるっしょ」
「……船、乗り遅れないように気を付けないとね」
「ちょっと、怖いこと言わないでよ……。なんかフラグが立った気がするんですけど」
「だって乗り遅れたら、出航しちゃうんだよ? 置いていかれちゃうんだよ?」
「よっぽど無計画かつ場当たりな行動しなきゃ大丈夫でしょ……」
「……だと良いんだけど」
「あー、ゆあはぼんやりしてることあるから、一人にならないようにね? ちょっと迷子になったら、誰にも気づかれないままま置いていかれそうなんだもん」
「ちょっ……ちょっと! 私そんなぼんやりしてないからね!?」
「いやいやー。どうだか」
「そういう栞ちゃんこそ『いろんなお店覗きたい!』『いろんなお土産買いたい!』ってあっちこっち行っちゃわないでよ?」
「空港でも船内でも買えるから大丈夫だもーん」

 面白がりながらも、心配そうに笑う栞に向かって、ゆあは向きになって反論した。お互い、真に思っていることは口にしない。

(……前みたいなことがないと良いけど)

「まだまだ時間あるから、集合時間になるまで遊びに行かない? あ、そういえば飲み物飲み切った? 液体はちゃんと……」
「もう! 栞ちゃんお母さんみたい。ちゃんと調べてます!」
「あはは、ついつい」
「確認はちゃんとできてる、ってことで、空港内ゆっくり見よう?」
「はーい」

 参加者の集合時刻までまだ余裕がある。チェックインと預け荷物の手続きを先に済ませ、2人は思い思いに空港の中を探索すると、休憩のためにカフェへ入る。

「ふあぁー! まだ出発してないのにちょっと疲れちゃった。ゆあ平気?」
「うん。普段空港ってそんなに来ることもないしさ。新鮮でこれはこれで楽しめてるし。栞ちゃんは?」
「私も! 空港だとちょっと雰囲気違うお店もあって面白いよね」
「外観とかメニューとか」
「そうそう! ……なんだけど、私達、もしかして集合するの早過ぎた?」
「そうかも? でも、このタイミングなら、機内に持ち込めるものなら忘れ物してても買えるし、行く前にゆっくりカフェで気持ち落ち着けることもできるし、私は早く来て良かったって思ってるよ」
「私もポジティブに考えよ! ……ねぇ英語話せないけど大丈夫かな」
「船内ならなんとかなるんじゃない? スマホあるし翻訳機能使えば大丈夫だと思ってる!」

 集合時刻までカフェで過ごすと、早めに出て2人は集合場所へと向かった。2人以外にも既に他の社員が到着しており、時間が経つにつれてチラホラとその人数も増えていく。しばらく順に増えていったその中には、春川とその周囲の人間の姿もあった。
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