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彼氏と彼女

私が話したい人_2

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 栞が話してくれた内容は、お局――春川がハルトに対して、チャットツールのダイレクトメッセージ機能を使って、個人的なメッセージを送っているという話だった。社内でのコミュニケーションや、作業を円滑に進めるために全社員がチャットツールを利用している。スマホでもアプリを入れれば使うことができるため、客先へ出向している社員や、出張中の社員はよくスマホから利用している。
 セキュリティ面の心配はあるかもしれないが、今のところインシデントもアクシデントも起こっておらず、順調に使用歴を延ばしていた。情報漏洩することがなければ、私用で使うことも黙認されている。……が、春川のように個人の連絡先を知らない異性への連絡ツールとして使う者も少なからず存在している。
 相手方からの相談があれば対処するが、無ければそのままになることも多く、利用方法やツール自体については現状運用についての話し合いの場が設けられていた。権限のある者が検索すれば、誰がなにを誰に送ったかまでわかるが、今はまだそこまでは至っていない。

 結論から言えば、ハルトは一切返信はおろかその他反応は示していなかった。既読かどうかはわからないようになっており、故意に無視しているのか単純に気づいていないのか、相手である春川にはわからないでいた。わからないからこそ、返事がないことに対して『仕事が忙しいから』『特別扱いがバレないように』『見ているが丁寧に返信しようといつも考えている』と、実際にはあり得ない想像をしながらこの後も返信はこないのにメッセージを打ち続けていた。
 ハルトのユーザーアカウントは、他の社員と同じようにツール上で検索すれば見つかるし、メッセージやチャットの相手として登録することもできる。だが、必要な連絡はメールや電話で行っており、予定の管理も別のアプリを使用しているため、ハルトはほとんどの場合このチャットツールを利用していなかった。春川はそのことを知らない。初期の運用確認以来、誰もハルトにこのツールを利用してメッセージを送っていなかったため、実質プロジェクト間の連絡や総務の連絡用になっているこのツールのメッセージをハルトが利用していないと、知らないのだから春川に教えようもない。

「返事なくてもめげずに送ってるらしいよ? 怒られないのが不思議だよね」
「……もしかして、そういうの多かったりして?」
「どうだろうねぇ。春川さんマジだから、少なくともその周囲はないと思うけど。……バレたら邪魔するなってめちゃくちゃ怒られそうじゃん? 他の部署とか死者は知らないけどさ……」
「憧れ、なのかなぁ……」
「あー、わかる。そうかも。社長顔も良いし、話しかたはちょっと威圧的だけど、俺様系社長ってアリじゃない? 見た目良くてお金持ってれば」
「栞ちゃん、社長のこと好きなの?」

 あははと笑いながらそんな話をする栞を見て、思わずゆあは思ったことを口にしていた。少しだけ、不安そうに。

「えー? 別に? いや、多分だけど、仮に互いに興味があるとか付き合ったとしても、全然趣味とか合わなさそうだもん! だから見てるだけじゃない? イイ男は目の保養……って。もしかして、ゆあ社長のこと好きなの?」
「えっ!?」
「えっ!? 私がえって思わず言っちゃうわ。ゆあならこう、ふんわりしてるしでも芯は強いし、社長とお似合いだったりして」
「えっ、えっ……」
「……そんなにしどろもどろにならなくても? ……えっ?」
「あっ、そのっ」
「はっ? あ、えぇ?」

 ワタワタと焦りながら、それでも次の言葉が出てこないゆあを見て、栞は困惑しながらも訝しんだ。

「……もしかして、なにかあったのって、社長関連……?」
「え、っと……それは……」
「……社長と付き合ってたりして……?」
「えっ!?」

 一際大きな声で反応すると、自分の声の大きさに驚いてゆあは俯いた。耳まで赤くなってきた気もしている。

「……ウソ。付き合ってんの!?」
「ちょっ、まっ、待って! シィー!!」
「ウソウソウソ! えっ、おめでとう!! マジ? あの堅物俺様社長と!?」
「また、また説明するから!!」

 前のめりになってグイグイと話を詰める栞に、ゆあはタジタジになっていた。

「大丈夫! 私は味方だから! ……ザマァ春川! アンタじゃゆあには勝てないよー!!」

 そんなことを言いながら、ガッツポーズを取る栞はなんだか憎めなかった。

「詳しい話また聞かせてよ! ウチでお酒飲みながらでもいいし、どっかいいお店あったらそこ行っても良いし!」
「う、うん」
「はぁ、良いなーゆあ。玉の輿かぁ」
「そういうつもりはなかったんだけど……」
「あー、ゴメン! わかってるのよ。わかってるんだけど、そういうのもちょっと羨ましいなって」
「それにホラ、結婚するかどうかなんて、まだわかんないし」
「いや、するでしょ。だって社長だよ? どうせ『早く身を固めろ』とか『孫の顔を見せろ』てせかされてるって。まぁまぁ自社社員なら評判も聞けるわけだし、社長の仕事についても理解ありそうだってことで良い線なんじゃないの? ……お父さん、本社社長でしょ? 遺伝子って凄いよね、父親も普通にナイスミドルじゃん。歳重ねても変わらないよきっと。はぁぁぁ、すごい!」
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