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お店の裏側
【夜】初めての気持ち
しおりを挟む「モエ君は、飲み物は何が好きかな?」
「え……と……こ、コーヒー……牛乳が好き、です……」
言い終わるまでにどんどんと声が小さくなる。その姿を見てあまりの可愛さにプッと吹き出しそうになるのを堪えながら、アヤは黒服にコーヒー牛乳を注文した。
そして、オオダカはそのまま黒服にモエの指名を告げる。客の人数に比べて、今日のキャストは多い。一人くらい大目についても問題ないと判断され、そのままモエはオオダカの席についた。
“これ絶対にモエ……オオダカさんのこと気にしてる……よね!?”
初々しい反応。何度かモエと一緒に昼も夜も店に出たことはあったが、こんな反応を見せるのは初めてだった。太腿をもじもじと擦り合わせ、手のひらをぎゅっと握って俯いて座っている。
「モエ君、チョコレート以外に食べたいものはあるかい?」
「いっ……いいえ! チョコレートで! 十分れすっ……!」
“あ、緊張し過ぎで噛んだ”
――モエがこんな姿を見せるなんて。
“絶対……好き……だよね?”
もしかしたら、ユキトさんがアヤにそうしたように、モエはオオダカに一目惚れしたのかもしれない。であるならば、オオダカの気持ち次第ではあるが、悪い目には合わないだろう。博愛主義や異性にしか興味がなければもうどうしようもないが、そうでないのならば一考の価値はある。
“……二人がくっついたら……なんてね”
ぼんやりとそんなことを考える。
「アヤ! ご主人様がいらっしゃったぞ」
「――あ、はい!」
ユキトが店へと入る。待ち望んでいた時間だ。
「すみませんオオダカさん。僕、もう行かなきゃ……」
「あぁ、彼だね。行ってらっしゃい」
「また後でお願いします!」
「もちろん」
「モエ、オオダカさんのお相手を」
「は……はいっ……!」
緊張のためか。アヤがいなくなることが分かり、モエはガチガチに固まっていた。
「……オオダカさん、凄く良い人だから。いつものモエで大丈夫だよ。安心して、ね?」
「え……?」
「なんなら、ちょっと大胆に出ても、受け入れてくれる大人、だよ?」
「えっあっ……アヤさん……!?」
そっと耳打ちしてウインクすると、アヤは顔を真っ赤にしたモエをオオダカの元に置いて、ユキトの元へと向かった。
「あっ……もう……」
「どうしたのかな?」
「いっ、いえ、なんでも、ない、です……」
シュン、と、一瞬で大人しくなる。
「あっ……あ……! オ、オオダカ……さんは……このくじ、やったことありますか……?」
「あぁ、フォーチューンクッキーかい?」
モエが指さしたのは、メニューのフォーチュン・クッキー。本来であれば占いのような言葉が中の紙に書かれていたが、この店では違っていた。
「中に紙が入ってるって、面白いですよね。……どうやって入れるんだろう?」
「まだ生地が熱いうちに紙を入れて、この写真の形に折りたたむんだよ」
「そうなんですね!? 凄い、オオダカさん、何でも知ってる!」
「褒められているようで嬉しいね。ありがとう。……そうだ、注文してみるかい?」
「良いんですか……?」
「折角だからね。ひとつづつ頼もう」
「はい!」
注文してすぐに出てきたのは、可愛らしいクッキーだった。
「好きな方を選ぶと良い。齧ったら、中の紙を出して開いてごらん」
モエは一つ選ぶと、軽く振ってみた。紙の音だろうか。クッキーはカラカラと鳴っている。
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