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お店の裏側
【夜】見合ったペナルティ
しおりを挟む──。
「……この辺りで、黒服さんが来て……トリカイさんを連れてってくれたんです……」
「そう、だったんだね……」
おそらく、もっと早い段階で連れて行くことは可能だっただろう。……敢えて手を出させて、弁解不可能なルール違反の位置まで持って行ったに違いない。アヤはそう考えていた。
「……辛かったね。ごめん、こんなこと聞いちゃって……」
「いえ、大丈夫です。……話したら少し、スッキリしましたし……」
「それなら良かったけど……」
「あっ……あの、お店は……どうなりましたか? トリカイさん……は……」
「……店の人に怒られて、帰っていったよ。……だから、もう、大丈夫」
……嘘は吐いていない。怒られたのは本当だし、黒服三人に連れられて帰っていった、お店のどこかの部屋か、あるいは調教部屋に。
「そう、ですか……」
「他の人も言ってたけど、ルール違反だからさ、トリカイさんの。だから、ウミが気に病むことはないの。拒否したのは正しいことだよ。だから、ウミは間違っていない」
「アヤさん……」
ほっとしたのか、ウミは泣き腫らした顔でほほ笑んだ。よほど、心にきたに違いない。
「身体は大丈夫?」
「はい。最初はちょっと痛みましたけど、もう問題ないです」
コンコン――。
「あれ?」
「誰……ですかね……」
「……分からないな……でも、ここに来るならお店の人のはず……。……はい!」
訝しがりながらも、怯えるウミの代わりにアヤが返事をした。
ガチャ──。
「あー、すまねぇな。驚かせちまったか?」
「店長!」
ドアを開けたのは店長だった。後ろに二人、黒服もいる。
「アヤ、対応助かった。ウミは──」
「あっ、あの! 僕ならもう大丈夫です!」
「まぁ無理すんな。その気概だけ受け取っとくよ。しばらく休め、トラウマになって店に立てなくなったら、悲しむ客がいるだろ?」
「……すみません」
「謝るのはこっちの方だ。……悪かったな、そんな目に合わせちまって」
「……いえ。よ、夜のお店は、トラブルがあっても……その、おかしくないと思っていたので……」
「……一応報告しておくが、トリカイは出禁にした。だから、この店にはもう来ない。来たとしても、俺達が追っ払うから心配すんな」
「あ……ありがとうございます!」
「ウミはこの二人と帰れ。疲れただろ。……あとはアヤから話を聞いておく。構わないな?」
「あ、はいっ」
黒服達と一緒に、ウミが部屋を出た。代わりに店長が、アヤの隣へと座った。
「あの、何から話せば……」
「あー、ありゃ適当に言ったんだ」
「……え?」
「お前には部屋の話をしたからな。……トリカイは、正式に調教部屋送りになった」
「……そう、ですか……」
「出禁にはしたが、そんなことしなくてももう二度とこの店には来られないだろうな」
「……一生、あっちのお店ですか……?」
「あっちの店にも身請けの制度はある……が、碌な人生は送れないだろうな」
ドアの向こうをを見つめるように、店長は言った。
「ま、これ以上はウミの前ではトリカイの話はしない方がいいだろう。変な役回り頼んで悪かったな」
「僕は……別に……」
「明日の夜、お前のご主人様から予約が入ってる。時間までゆっくりするんだな」
チクリ、と心が痛む。この胸の痛みが何の痛みなのか、アヤにはよく分からなかった。
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