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お店の裏側
【夜】知らなかったこと@身を落とす
しおりを挟む店長は今日一番の大きな溜息を吐くと、ホールへと向かった。すべてのキャストは端に移動し、客達には頭を下げて今日のところは帰宅してもらう。……こちらはもちろん、後日のフォローも忘れないように。
仕方ない、こちらは大丈夫だから気にしないで、と、一人また一人と帰っていく客をよそに、一人だけ黒服に囲まれて身動きの取れない男性がいた。
「――どうかされましたか? トリカイ様――」
余所行きの声で店長が声をかける。
「……なんだよコレ。さっさと離せよ!」
黒服の男が一人、トリカイと呼ばれた男性の背後に回り、両脇から羽交い絞めにしていた。トリカイの身長は、そんなに大きくないだろうか。黒服の男が大きいのかもしれないが、筋肉質でガタイの良さもあり、黒服とトリカイの体格は大人と子供ほどの差があるように見受けられた。
「……落ち着いて、お話をお聞かせ願えますか?」
「は? この状態で、落ち着けると思ってるの?」
「……離して差し上げて」
「……承知いたしました」
黒服がトリカイの身体をゆっくりと解放する。待ちきれないとばかりにトリカイは腕を振り払うと、着ていた服を整えて店長を睨みつけた。
「――あのさぁ、俺は【客】なわけ。こんな扱いして、平気だと思ってるの?」
「申し訳ございませんトリカイ様。当店の人間が、何か失礼なことをしましたでしょうか?」
「はぁ? 今! まさに! でしょ!?」
「まずは、こちらへお座りください。――誰か、トリカイ様の好むお酒を。何本でも良い」
「かしこまりました」
酒、の言葉に気をよくしたのか、トリカイは店長が促したソファーへドカッと座った。足を組み、ふんぞり返って難しい顔をしている。
「お客様のお見送りがすべて終わったら、他はキャストを帰して」
――これから何が起こるのか、黒服達は知っている。まるで予定されていた出来事のように、彼等は滞ることなく仕事をこなしていった。
「……失礼いたしましたトリカイ様。……当店のキャストが、何か粗相でも致しましたか?」
届いた酒をグラスに注ぐ。そのままサーブしてトリカイの様子を伺った。
「あー……もうちょっとさぁ? 愛想があっても良いと思うわけよ」
「……それは、ウミ、のことでしょうか?」
「そう、あの新人ね」
「……申し訳ありません。まだ、夜の仕事に不慣れな部分がありまして……」
「だからさぁ、俺が直々に指導してやるって言ってんのに! 拒否するんだよアイツ」
「それはそれは……失礼いたしました。……ちなみに、どのような内容か、お聞きしても?」
「仕込んでやるからさ、おとなしくしてりゃ良いのよ」
「……もし、そちらがご希望でしたら、是非キープを……」
「いやいや、そういうのは要らないのよ。俺の都合のいい時に、都合よく動いてくれれば。なのにさぁ」
「トリカイ様、当店のルールはご存じでしょうか?」
「俺常連よ? 当たり前じゃん。……はぁ、失礼じゃない?」
饒舌になったトリカイは、目の前に置かれた酒を一気に飲み干した。
「こっちも金払ってるわけだし、ホイホイこっちの言うこと全部聞いてりゃいいのに」
「しかし……」
黒服の一人が耳打ちする。
「……手をあげられるのは……」
「教育的指導、ってやつ? あれくらい当たり前でしょ? 自分達だってやってんじゃないの?」
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