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休息と仕事
【昼】歓迎会まであと少し
しおりを挟む「お疲れ様でしたー」
夜のシフト以外の人達と、サヨナラをする。ロッカールームには、僕一人。
この後は歓迎会だ。歓迎会の日のシフトの人間は、どうも少ないらしい。メインは『歓迎される人』だから、他の人達は、基本的にお客様と黒服だけだということ。
僕は初めて、歓迎会の場に立つ。自分は受けたことがないから。僕が入って暫くしてから、この制度が出来上がったらしい。
あまり詳しいことはわからないけど、みんなで『初めてを共有したい』という意見が、多く夜のお店に寄せられたようだ。
「……そんなモノを共有したいだなんて……趣味が悪いと思うんだけどな……」
俯き加減で、小さく呟いた。
この時の『初めて』には、何となく想像がついたから。お世話になっているから、悪くいうつもりはないのだけれど。
自分は嫌だな、と、そう思うだけだ。
予め用意されていた黒服に、ゆっくりと袖を通す。歓迎会が始まる時間までは、まだいくらか余裕があった。それに考えごとをしていると、つられて動作も遅くなる。
"どうしてあの二人は、このカフェで働こうと思ったんだろう……"
素朴な疑問だった。ここで働くキャスト達は、他の子達が働く理由を、お互いに知らないのだ。
だから、純粋に疑問が湧き出る。
"僕は他に、行くところもないしなぁ……"
恐らく、同じ理由の子もいるだろう。
"本当にユキトさんに身請けされたら、僕はもうここに通うこともない、んだよ、ね……?"
まだそうなるかは分からないが、そのことを考えたら顔が赤くなる。嬉しくて、何だか少し恥ずかしくもあって。
"いけない……まだ仕事はあるから、落ち着かなきゃ……"
フルフルと首を振り、着替えの続きを行う。
慣れない黒服。いつもあの部屋に入る時は、ほぼ何も身につけていない状態だ。いつも欲しいと思う布がふんだんに使われているのに、今のこの格好に違和感を感じた。
「なんだ、もう着替え終わっちまったか」
「あ、店長。お疲れさまです」
「おお、お疲れさん」
「おい、お前らも入ってこい」
店長に促されて、ウミとモエが部屋に入ってきた。
「着替えてなかったら、コイツらにあの部屋に入る時の格好、お前に見せてもらおうと思ったんだが」
「あ……すいません」
「いや、良い。物だけ教えてやってくれ。ロッカーに入れておいたから。着替えたら俺を呼べよ」
「分かりました」
アヤはそう答えると、二人に微笑んだ。
店長はじゃあな、と手を挙げて部屋を出た。
「鍵は、あるかな?」
「あ……はい」
「あります」
二人はゴソゴソと鍵を取り出す。
「……服については、聞いてる?」
「露出が多いと……」
「自分も、そう聞いてます」
「あはは、そっか……まぁ、間違ってはないんだけど、ね。……初めは見たら、ちょっとビックリしちゃうかもしれないけど……。取り敢えず、ロッカー開けてくれる?」
ロッカーを開けるように促すと、二人は頷いてからぎこちない動きで、それぞれ割り当てられたロッカーを開けた。
「うん、じゃあ、着替えようか」
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