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一章:借金を抱えた少女と人懐っこい吸血鬼の場合
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しおりを挟むミケさんの家に来てから数日、私は近所のスーパーに買い出しに行っては、ご飯を作り家の掃除をする……まるで専属の家政婦のような日々を送っていた。
過ごしやすさを聞かれた時に、
「家政婦みたいで毎日楽しくて充実してます!
やりくりをするのも楽しいです」
と、そうミケさんに告げると、ミケさんは少しだけ照れ臭そうに
「家政婦っていうより……、……」
と何かを言いかけて、途中でやめてしまった。
ーーーーー
そんなある朝のこと。
「今日は茜にこれを着て欲しいんだけど」
朝食を終えた私に、ミケさんは紙袋を渡した。
覗き込めば中にはセーラー服が入っていた。
「……ミケさん、まさか」
「……なんかあらぬ誤解をしてそうだから早めにネタバラシするけど。
コスプレじゃ無いからね?」
そう言ってミケさんはそばにあった段ボールから、カバンや教科書など、およそ学生生活で使うありとあらゆるものを取り出した。
「これって……」
「このマンションから少し歩いたところに高校あるでしょ?そこに編入してもらおうかなって」
「え……い、良いんですか?」
年齢で言えば、私はこの春から高校二年生だ。
中学までは義務教育だったから、叔父叔母の支援がなくても通えていたけれど(制服や教材は先輩のお下がりをもらったりしてやりくりしていた)、高校はそうもいかないので諦めていた。
「でも編入試験受けてないのに……」
「大抵のことはお金でどうにかなるからね。
それに、そこまで勉強に熱心な学校ってわけでも無いから今からでもついていけると思うよ」
「……っ、あ、ありがとうございます……!」
本当は、高校生活に憧れていた。
借金も抱えているからと、諦めてしまっていたけれど、まさかこんな形で行けるようになるとは思わなかった。
「いえいえこちらこそ。
本当はもっと早く編入させてあげたかったんだけど。ちょっと保護者手続きで時間がかかっちゃって、ごめんね」
「ミケさんが謝ることは何も無いです!
あ、あの、制服着てみてもいいですか?」
「もちろんどうぞ」
ミケさんに何度もぺこぺこ頭を下げながら一旦自室に戻って私は制服に着替えた。
中学校はブレザーだったから、セーラー服を着るのは初めてだ。
黒の地に、赤のリボンが映えてとても可愛らしい。
くるりと回れば、スカートが綺麗に翻ってとても嬉しくなる。
「着替えた?」
ノックの音がして、外からミケさんが問いかけてくる。
「はい、サイズもぴったりです」
「見てもいい?」
「ど、どうぞ……」
改めて問われるとなんだか気恥ずかしくて、私は小さな声で返事をした。
入ってくるなりミケさんはうんうんと仕切りに頷いた。
「とっても似合ってるよ」
「ありがとうござい……」パシャッ
お礼を言いかけた時シャッター音が聞こえた。
見れば、ミケさんが一眼レフをこちらに構えていた。
「あの、何して……」パシャッ「……」
「いや、記念にと思って。あんまりにも可愛いから」
「……ミケさんはすぐそういうこと言う」
「本心だからね」
カメラを構えながら一切の迷いなくミケさんは答えた。
ミケさんとの生活に私が慣れてきた頃から、ミケさんは頻繁に可愛いと告げるようになった。
料理をしていても掃除をしていても。
最近はすれ違うたびに言ってくるものだから、もうこれは彼の挨拶なのだと思って受け流すことにしている。
「……ミケさんも一緒に写真にうつってくれませんか?」
私の写真をとってばかりいても仕方がないのではと思ってそう提案すれば、ミケさんはちょっと驚いたようにカメラから目を離して、いいの?と聞いた。
「いいも何も、私だけの写真がいっぱいあっても仕方ないと思うんですが」
それにカメラも、私を被写体にするよりミケさんを被写体にする方が嬉しいんじゃ無いだろうか。美しさ的に。
そんなわけで2人で一緒に撮った写真は私のスマホにも送ってもらった。
私の横に立ったミケさんは本当に嬉しそうに微笑んでいて、私もミケさんの横で安心したように笑っていて。
いい写真だなぁと素直に思える写真だった。
ーーーーー
「ミケさーん、入りますよ?」
夜ご飯ができたのでミケさんを呼びにきたが、ノックをしても返事がないので恐る恐る部屋に入った。
ミケさんはパソコンなどをつけっぱなしのまま、机に突っ伏して眠っていた。
「……」
ミケさんが眠っているのを見るのは初めてだったので、思わず抜き足差し足で近づいて、その顔をじっと観察してしまう。
(うわ、まつげ長い……髪さらっさらだし、肌綺麗だし……)
吸血鬼だからこんなに綺麗に整った容姿なんだろうか。
それともミケさんが特別整った容姿なんだろうか。
「……」
私はそっとスマホを取り出して、シャッター音を立てずに眠るミケさんの顔を思わず撮ってしまった。
許可なく寝顔を取るなんて、自分がとんでもなく変態的に思えたけれど、結局その写真は消すことができなかったのだった。
ミケさんが私の写真をたくさん撮っていた時の気持ちが、なんとなくわかるような気がした。
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