幻想彼氏

たいよう一花

文字の大きさ
上 下
76 / 84
Act 3

10. 死者の魂

しおりを挟む
「ええと……イチャイチャしているところに邪魔して悪いんだけどね……お二人さん」

久我直が衣類一式を差し出しながら、ひとかたまりになっている皓一と真也に声をかけた。久我の傍には無表情のエリノアと、健斗が佇んでいる。健斗はしかめっ面を浮かべながらも、目のやり場に困って視線を彷徨わせていた。なぜ久我が地球人の衣類を手に持っているかといえば、真也は裸だからである。
真也が触手をしまいこみ、完全な地球人の姿で服を身に付けている間、エリノアはザッと真也に現状と今後の注意事項を説明した。

「――以上だ。何か質問は?」

「ない。感謝する、エリノア統制官」

「礼なら薬師寺健斗と久我直、それからあなたの『良心』に。前者二名は事態収拾に向け、献身的に協力してくれた。それからあなたの『良心』は、『良心』にしては珍しくあなたの赦免を申し出た。長い年月をあなたと共にした『良心』はあなたをよく把握しているため、今回の措置についても的確な判断材料を提示してくれた。
よって高羽、あなたを地球に放免し、無期限の滞在許可を出すが、くれぐれも行動には気を付け、規則を遵守すること。なお、詳細については後ほどあなたの『良心』から説明がある。――ところで、この10日あまりであなたはかなり弱っていたが、体調はどうだ?」

「最高に良い」

「……そのようだな。まったく……『番』持ちというのは、相変わらずチートだ。では私はこれで失礼するが、博士、あとをよろしく」

「はい。お任せを」

エリノアは頷くと、皓一と真也に会釈し、健斗の肩にポンと手を置いて微笑んでから、その場を辞した。
久我はコホンと一つ咳ばらいをすると、改めて高羽と皓一に向き合い口を開いた。

「二人ともおめでとう。『雨降って地固まる』とはこのことだね。再会直後で二人きりになりたいだろうけど、もう少し引き留めさせてくれ。せっかくこの研究所まで足を運んでくれたのだから、ちょっと試してほしいことがあるんだ」

久我はそう言って、別の部屋に一行を連れて行った。
八畳間ほどのその部屋の中央には、大きな円筒形の装置が置かれている。円筒を構成している素材は透明で、中は空っぽだった。その装置の床から1メートル付近の高さには、円筒をぐるりと包むようにキラキラした光の帯が巡っている。まるで土星の環のようなその部分のあちこちを指ではじきながら、久我は皓一に向かって説明を始めた。

「これは、自力で修復不可能になった体の各パーツを生成するための装置なんです。本来は医療用機器なんですが、薬師寺さんと相談して、今回は別の目的で利用してみることになりました。皓一さん、あなたの身に付けているお守りの中の、妹さんの骨片を貸してもらっていいですか」

皓一が僅かに戸惑いを見せたため、すかさず高羽が補足した。

「大丈夫だ。骨はスキャンにかけられるだけで、そのままの状態で残る」

それを聞くと皓一は安心して、お守り袋から骨のかけらを取り出した。
久我がその骨を光の帯の上に乗せると、辺りがまばゆく光り出し、筒の中が何かの液体で満たされていった。

「皓一さん、今この装置は骨片から妹さんの遺伝子データを読み取り、在りし日の肉体を再構築しているところです。
骨に宿っていた妹さんの魂は肉体の消滅から20年ほど経っているにもかかわらず、よく保ったと感心します。肉体が再構築すれば、微かに感じられる妹さんの魂は完全な依代を得て、一時的に再構築した肉体に宿り、会話が可能になると思われます」

皓一は驚いて目を見開いた。

「翠(みどり)と……会えるんですか?! 会って話せるんですか?!」

「ええ。ですが、10分ほどの時間しかありません。本来、死者の魂をかりそめの肉体に宿らせるのは重罪なのです。今回は特別に許可が下りましたが、二度目は無いと思ってください。
再構築した妹さんの体は約10分経過後、無に帰します。その後、魂は恐らくまた骨片に戻ると思われますが、もし妹さんの望みが皓一さんとの会話で叶えられた場合、この世に留まっている必要がなくなり、魂は循環の輪に戻って行くでしょう。どちらになるかは、分かりません。……そろそろです、皓一さん、こちらへ」

皓一は緊張で震えながら、装置の前に立った。
しおりを挟む
感想 17

あなたにおすすめの小説

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

わるいむし

おととななな
BL
新汰は一流の目を持った宝石鑑定士である兄の奏汰のことをとても尊敬している。 しかし、完璧な兄には唯一の欠点があった。 「恋人ができたんだ」 恋多き男の兄が懲りずに連れてきた新しい恋人を新汰はいつものように排除しようとするが…

壁乳

リリーブルー
BL
俺は後輩に「壁乳」に行こうと誘われた。 (作者の挿絵付きです。)

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

4人の兄に溺愛されてます

まつも☆きらら
BL
中学1年生の梨夢は5人兄弟の末っ子。4人の兄にとにかく溺愛されている。兄たちが大好きな梨夢だが、心配性な兄たちは時に過保護になりすぎて。

【完結】ぎゅって抱っこして

かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。 でも、頼れる者は誰もいない。 自分で頑張らなきゃ。 本気なら何でもできるはず。 でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。

鬼上司と秘密の同居

なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳 幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ… そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた… いったい?…どうして?…こうなった? 「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」 スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか… 性描写には※を付けております。

処理中です...