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Act 3
10. 死者の魂
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「ええと……イチャイチャしているところに邪魔して悪いんだけどね……お二人さん」
久我直が衣類一式を差し出しながら、ひとかたまりになっている皓一と真也に声をかけた。久我の傍には無表情のエリノアと、健斗が佇んでいる。健斗はしかめっ面を浮かべながらも、目のやり場に困って視線を彷徨わせていた。なぜ久我が地球人の衣類を手に持っているかといえば、真也は裸だからである。
真也が触手をしまいこみ、完全な地球人の姿で服を身に付けている間、エリノアはザッと真也に現状と今後の注意事項を説明した。
「――以上だ。何か質問は?」
「ない。感謝する、エリノア統制官」
「礼なら薬師寺健斗と久我直、それからあなたの『良心』に。前者二名は事態収拾に向け、献身的に協力してくれた。それからあなたの『良心』は、『良心』にしては珍しくあなたの赦免を申し出た。長い年月をあなたと共にした『良心』はあなたをよく把握しているため、今回の措置についても的確な判断材料を提示してくれた。
よって高羽、あなたを地球に放免し、無期限の滞在許可を出すが、くれぐれも行動には気を付け、規則を遵守すること。なお、詳細については後ほどあなたの『良心』から説明がある。――ところで、この10日あまりであなたはかなり弱っていたが、体調はどうだ?」
「最高に良い」
「……そのようだな。まったく……『番』持ちというのは、相変わらずチートだ。では私はこれで失礼するが、博士、あとをよろしく」
「はい。お任せを」
エリノアは頷くと、皓一と真也に会釈し、健斗の肩にポンと手を置いて微笑んでから、その場を辞した。
久我はコホンと一つ咳ばらいをすると、改めて高羽と皓一に向き合い口を開いた。
「二人ともおめでとう。『雨降って地固まる』とはこのことだね。再会直後で二人きりになりたいだろうけど、もう少し引き留めさせてくれ。せっかくこの研究所まで足を運んでくれたのだから、ちょっと試してほしいことがあるんだ」
久我はそう言って、別の部屋に一行を連れて行った。
八畳間ほどのその部屋の中央には、大きな円筒形の装置が置かれている。円筒を構成している素材は透明で、中は空っぽだった。その装置の床から1メートル付近の高さには、円筒をぐるりと包むようにキラキラした光の帯が巡っている。まるで土星の環のようなその部分のあちこちを指ではじきながら、久我は皓一に向かって説明を始めた。
「これは、自力で修復不可能になった体の各パーツを生成するための装置なんです。本来は医療用機器なんですが、薬師寺さんと相談して、今回は別の目的で利用してみることになりました。皓一さん、あなたの身に付けているお守りの中の、妹さんの骨片を貸してもらっていいですか」
皓一が僅かに戸惑いを見せたため、すかさず高羽が補足した。
「大丈夫だ。骨はスキャンにかけられるだけで、そのままの状態で残る」
それを聞くと皓一は安心して、お守り袋から骨のかけらを取り出した。
久我がその骨を光の帯の上に乗せると、辺りがまばゆく光り出し、筒の中が何かの液体で満たされていった。
「皓一さん、今この装置は骨片から妹さんの遺伝子データを読み取り、在りし日の肉体を再構築しているところです。
骨に宿っていた妹さんの魂は肉体の消滅から20年ほど経っているにもかかわらず、よく保ったと感心します。肉体が再構築すれば、微かに感じられる妹さんの魂は完全な依代を得て、一時的に再構築した肉体に宿り、会話が可能になると思われます」
皓一は驚いて目を見開いた。
「翠(みどり)と……会えるんですか?! 会って話せるんですか?!」
「ええ。ですが、10分ほどの時間しかありません。本来、死者の魂をかりそめの肉体に宿らせるのは重罪なのです。今回は特別に許可が下りましたが、二度目は無いと思ってください。
再構築した妹さんの体は約10分経過後、無に帰します。その後、魂は恐らくまた骨片に戻ると思われますが、もし妹さんの望みが皓一さんとの会話で叶えられた場合、この世に留まっている必要がなくなり、魂は循環の輪に戻って行くでしょう。どちらになるかは、分かりません。……そろそろです、皓一さん、こちらへ」
皓一は緊張で震えながら、装置の前に立った。
久我直が衣類一式を差し出しながら、ひとかたまりになっている皓一と真也に声をかけた。久我の傍には無表情のエリノアと、健斗が佇んでいる。健斗はしかめっ面を浮かべながらも、目のやり場に困って視線を彷徨わせていた。なぜ久我が地球人の衣類を手に持っているかといえば、真也は裸だからである。
真也が触手をしまいこみ、完全な地球人の姿で服を身に付けている間、エリノアはザッと真也に現状と今後の注意事項を説明した。
「――以上だ。何か質問は?」
「ない。感謝する、エリノア統制官」
「礼なら薬師寺健斗と久我直、それからあなたの『良心』に。前者二名は事態収拾に向け、献身的に協力してくれた。それからあなたの『良心』は、『良心』にしては珍しくあなたの赦免を申し出た。長い年月をあなたと共にした『良心』はあなたをよく把握しているため、今回の措置についても的確な判断材料を提示してくれた。
よって高羽、あなたを地球に放免し、無期限の滞在許可を出すが、くれぐれも行動には気を付け、規則を遵守すること。なお、詳細については後ほどあなたの『良心』から説明がある。――ところで、この10日あまりであなたはかなり弱っていたが、体調はどうだ?」
「最高に良い」
「……そのようだな。まったく……『番』持ちというのは、相変わらずチートだ。では私はこれで失礼するが、博士、あとをよろしく」
「はい。お任せを」
エリノアは頷くと、皓一と真也に会釈し、健斗の肩にポンと手を置いて微笑んでから、その場を辞した。
久我はコホンと一つ咳ばらいをすると、改めて高羽と皓一に向き合い口を開いた。
「二人ともおめでとう。『雨降って地固まる』とはこのことだね。再会直後で二人きりになりたいだろうけど、もう少し引き留めさせてくれ。せっかくこの研究所まで足を運んでくれたのだから、ちょっと試してほしいことがあるんだ」
久我はそう言って、別の部屋に一行を連れて行った。
八畳間ほどのその部屋の中央には、大きな円筒形の装置が置かれている。円筒を構成している素材は透明で、中は空っぽだった。その装置の床から1メートル付近の高さには、円筒をぐるりと包むようにキラキラした光の帯が巡っている。まるで土星の環のようなその部分のあちこちを指ではじきながら、久我は皓一に向かって説明を始めた。
「これは、自力で修復不可能になった体の各パーツを生成するための装置なんです。本来は医療用機器なんですが、薬師寺さんと相談して、今回は別の目的で利用してみることになりました。皓一さん、あなたの身に付けているお守りの中の、妹さんの骨片を貸してもらっていいですか」
皓一が僅かに戸惑いを見せたため、すかさず高羽が補足した。
「大丈夫だ。骨はスキャンにかけられるだけで、そのままの状態で残る」
それを聞くと皓一は安心して、お守り袋から骨のかけらを取り出した。
久我がその骨を光の帯の上に乗せると、辺りがまばゆく光り出し、筒の中が何かの液体で満たされていった。
「皓一さん、今この装置は骨片から妹さんの遺伝子データを読み取り、在りし日の肉体を再構築しているところです。
骨に宿っていた妹さんの魂は肉体の消滅から20年ほど経っているにもかかわらず、よく保ったと感心します。肉体が再構築すれば、微かに感じられる妹さんの魂は完全な依代を得て、一時的に再構築した肉体に宿り、会話が可能になると思われます」
皓一は驚いて目を見開いた。
「翠(みどり)と……会えるんですか?! 会って話せるんですか?!」
「ええ。ですが、10分ほどの時間しかありません。本来、死者の魂をかりそめの肉体に宿らせるのは重罪なのです。今回は特別に許可が下りましたが、二度目は無いと思ってください。
再構築した妹さんの体は約10分経過後、無に帰します。その後、魂は恐らくまた骨片に戻ると思われますが、もし妹さんの望みが皓一さんとの会話で叶えられた場合、この世に留まっている必要がなくなり、魂は循環の輪に戻って行くでしょう。どちらになるかは、分かりません。……そろそろです、皓一さん、こちらへ」
皓一は緊張で震えながら、装置の前に立った。
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