幻想彼氏

たいよう一花

文字の大きさ
上 下
65 / 84
Act 2

22. 存在しない男――幻の彼氏 1

しおりを挟む
皓一が真也と花見に行く約束をした日から、3日後のことだった。

和友スーパーで勤務中の皓一は、昼食を摂るために休憩室に入り、すぐに異変に気が付いた。休憩中の従業員からは緊迫した雰囲気が漂い、一台だけあるテレビから、リポーターの物々しい声が響いている。その場にいる誰もがその報道に釘付けだった。

「みんな、どうしたんだ? 何か、事件?」

何気ない口調でそう尋ねた皓一に、パート従業員の女性たちが一斉に口を開く。

「そうよ、事件、事件なのよ!!」
「この近くなのよ、皓ちゃん! 物騒だわぁ!」
「包丁を振り回した男が、手当たり次第に通行人を刺したって!!」

「え……」

ただならぬ雰囲気に、皓一は彼女たちとテレビの画面を注視した。近所で凶悪事件が現在進行形なら、和友スーパーとしては従業員や客を守るために対策を講じる必要がある。そう思いながら皓一がテレビを見ると、見覚えのある風景が映っていた。

皓一の血の気が、引いた。

それは丁度、真也の住むマンションの前の道路だったのだ。そこに何台もパトカーが停まり、物々しい雰囲気になっている。どうやら犯人は取り押さえられたらしいが、道端には点々と血が飛び散り、野次馬が大勢集まっていた。

「皓ちゃん、大丈夫? もしかしてこの辺り、知り合いが住んでる?」

女性の一人が皓一の様子に気付き、心配して声をかけてくる。

「うん……そう、そう、なんだ……」

「大変!! 電話してみたら? きっと、無事よ!!」

皓一はスマホを取り出し、真也の番号にかけた。しかしつながらない。コール音だけが、虚しく響く。皓一は不安を募らせ、女性たちに「ちょっと行ってみる」とだけ伝え、外に走り出た。
和友スーパーから真也のマンションまでは、直線距離で5~6kmくらい離れている。皓一は通勤に使っている自転車に乗り、猛烈にペダルを回転させた。

「きっと、無事だ。うん、無事に決まってる……あんなにムキムキな真也が、簡単に刺されるもんか……」

そう呟きながらも、不安な気持ちはどんどん加速した。
心臓がドッドッドッと音を立て、だんだん気分が悪くなってくる。
信号待ちの時間がやたらと長く感じられ、脚がガクガクと震え出す。
やっと真也のマンションに着いた頃には、皓一は全身に汗をびっしょりかいていた。付近には警察の立ち入り禁止のテープが張られていたが、幸い真也の部屋に続くオーナーズフロアの入り口は裏手にあるため、すんなり中に入ることが出来た。皓一は合鍵を使って真也の住まいに入ると、大声を張り上げて真也を呼んだ。

しかし返答はなく、どこにも真也はいない。

皓一は半ばパニック状態で、もう一度真也に電話をかけてみたが、やはり出ない。

不安が最高潮に達し、皓一は泣きながら叫んだ。

「真也、どこにいるんだよッ?! 真也、真也、真也、真也ッ!!」
しおりを挟む
感想 17

あなたにおすすめの小説

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

お客様と商品

あかまロケ
BL
馬鹿で、不細工で、性格最悪…なオレが、衣食住提供と引き換えに体を売る相手は高校時代一度も面識の無かったエリートモテモテイケメン御曹司で。オレは商品で、相手はお客様。そう思って毎日せっせとお客様に尽くす涙ぐましい努力のオレの物語。(*ムーンライトノベルズ・pixivにも投稿してます。)

【完結】別れ……ますよね?

325号室の住人
BL
☆全3話、完結済 僕の恋人は、テレビドラマに数多く出演する俳優を生業としている。 ある朝、テレビから流れてきたニュースに、僕は恋人との別れを決意した。

愛され末っ子

西条ネア
BL
本サイトでの感想欄は感想のみでお願いします。全ての感想に返答します。 リクエストはTwitter(@NeaSaijou)にて受付中です。また、小説のストーリーに関するアンケートもTwitterにて行います。 (お知らせは本編で行います。) ******** 上園琉架(うえぞの るか)四男 理斗の双子の弟 虚弱 前髪は後々左に流し始めます。髪の毛の色はご想像にお任せします。深い赤みたいなのアースアイ 後々髪の毛を肩口くらいまで伸ばしてゆるく結びます。アレルギー多め。その他の設定は各話で出てきます! 上園理斗(うえぞの りと)三男 琉架の双子の兄 琉架が心配 琉架第一&大好き 前髪は後々右に流します。髪の毛の色はご想像にお任せします。深い緑みたいなアースアイ 髪型はずっと短いままです。 琉架の元気もお母さんのお腹の中で取っちゃった、、、 上園静矢 (うえぞの せいや)長男 普通にサラッとイケメン。なんでもできちゃうマン。でも弟(特に琉架)絡むと残念。弟達溺愛。深い青色の瞳。髪の毛の色はご想像にお任せします。 上園竜葵(うえぞの りゅうき)次男 ツンデレみたいな、考えと行動が一致しないマン。でも弟達大好きで奮闘して玉砕する。弟達傷つけられたら、、、 深い青色の瞳。兄貴(静矢)と一個差 ケンカ強い でも勉強できる。料理は壊滅的 上園理玖斗(うえぞの りくと)父 息子達大好き 藍羅(あいら・妻)も愛してる 家族傷つけるやつ許さんマジ 琉架の身体が弱すぎて心配 深い緑の瞳。普通にイケメン 上園藍羅(うえぞの あいら) 母 子供達、夫大好き 母は強し、の具現化版 美人さん 息子達(特に琉架)傷つけるやつ許さんマジ。 てか普通に上園家の皆さんは顔面偏差値馬鹿高いです。 (特に琉架)の部分は家族の中で順列ができているわけではなく、特に琉架になる場面が多いという意味です。 琉架の従者 遼(はる)琉架の10歳上 理斗の従者 蘭(らん)理斗の10歳上 その他の従者は後々出します。 虚弱体質な末っ子・琉架が家族からの寵愛、溺愛を受ける物語です。 前半、BL要素少なめです。 この作品は作者の前作と違い毎日更新(予定)です。 できないな、と悟ったらこの文は消します。 ※琉架はある一定の時期から体の成長(精神も若干)がなくなる設定です。詳しくはその時に補足します。 皆様にとって最高の作品になりますように。 ※作者の近況状況欄は要チェックです! 西条ネア

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

同僚に密室に連れ込まれてイケナイ状況です

暗黒神ゼブラ
BL
今日僕は同僚にごはんに誘われました

【完結】極貧イケメン学生は体を売らない。【番外編あります】

紫紺(紗子)
BL
貧乏学生をスパダリが救済!?代償は『恋人のフリ』だった。 相模原涼(さがみはらりょう)は法学部の大学2年生。 超がつく貧乏学生なのに、突然居酒屋のバイトをクビになってしまった。 失意に沈む涼の前に現れたのは、ブランドスーツに身を包んだイケメン、大手法律事務所の副所長 城南晄矢(じょうなんみつや)。 彼は涼にバイトしないかと誘うのだが……。 ※番外編を公開しました(10/21) 生活に追われて恋とは無縁の極貧イケメンの涼と、何もかもに恵まれた晄矢のラブコメBL。二人の気持ちはどっちに向いていくのか。 ※本作品中の公判、判例、事件等は全て架空のものです。完全なフィクションであり、参考にした事件等もございません。拙い表現や現実との乖離はどうぞご容赦ください。 ※4月18日、完結しました。ありがとうございました。

幸せの温度

本郷アキ
BL
※ラブ度高めです。直接的な表現もありますので、苦手な方はご注意ください。 まだ産まれたばかりの葉月を置いて、両親は天国の門を叩いた。 俺がしっかりしなきゃ──そう思っていた兄、睦月《むつき》17歳の前に表れたのは、両親の親友だという浅黄陽《あさぎよう》33歳。 陽は本当の家族のように接してくれるけれど、血の繋がりのない偽物の家族は終わりにしなければならない、だってずっと家族じゃいられないでしょ? そんなのただの言い訳。 俺にあんまり触らないで。 俺の気持ちに気付かないで。 ……陽の手で触れられるとおかしくなってしまうから。 俺のこと好きでもないのに、どうしてあんなことをしたの? 少しずつ育っていった恋心は、告白前に失恋決定。 家事に育児に翻弄されながら、少しずつ家族の形が出来上がっていく。 そんな中、睦月をストーキングする男が現れて──!?

処理中です...