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Act 2
22. 存在しない男――幻の彼氏 1
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皓一が真也と花見に行く約束をした日から、3日後のことだった。
和友スーパーで勤務中の皓一は、昼食を摂るために休憩室に入り、すぐに異変に気が付いた。休憩中の従業員からは緊迫した雰囲気が漂い、一台だけあるテレビから、リポーターの物々しい声が響いている。その場にいる誰もがその報道に釘付けだった。
「みんな、どうしたんだ? 何か、事件?」
何気ない口調でそう尋ねた皓一に、パート従業員の女性たちが一斉に口を開く。
「そうよ、事件、事件なのよ!!」
「この近くなのよ、皓ちゃん! 物騒だわぁ!」
「包丁を振り回した男が、手当たり次第に通行人を刺したって!!」
「え……」
ただならぬ雰囲気に、皓一は彼女たちとテレビの画面を注視した。近所で凶悪事件が現在進行形なら、和友スーパーとしては従業員や客を守るために対策を講じる必要がある。そう思いながら皓一がテレビを見ると、見覚えのある風景が映っていた。
皓一の血の気が、引いた。
それは丁度、真也の住むマンションの前の道路だったのだ。そこに何台もパトカーが停まり、物々しい雰囲気になっている。どうやら犯人は取り押さえられたらしいが、道端には点々と血が飛び散り、野次馬が大勢集まっていた。
「皓ちゃん、大丈夫? もしかしてこの辺り、知り合いが住んでる?」
女性の一人が皓一の様子に気付き、心配して声をかけてくる。
「うん……そう、そう、なんだ……」
「大変!! 電話してみたら? きっと、無事よ!!」
皓一はスマホを取り出し、真也の番号にかけた。しかしつながらない。コール音だけが、虚しく響く。皓一は不安を募らせ、女性たちに「ちょっと行ってみる」とだけ伝え、外に走り出た。
和友スーパーから真也のマンションまでは、直線距離で5~6kmくらい離れている。皓一は通勤に使っている自転車に乗り、猛烈にペダルを回転させた。
「きっと、無事だ。うん、無事に決まってる……あんなにムキムキな真也が、簡単に刺されるもんか……」
そう呟きながらも、不安な気持ちはどんどん加速した。
心臓がドッドッドッと音を立て、だんだん気分が悪くなってくる。
信号待ちの時間がやたらと長く感じられ、脚がガクガクと震え出す。
やっと真也のマンションに着いた頃には、皓一は全身に汗をびっしょりかいていた。付近には警察の立ち入り禁止のテープが張られていたが、幸い真也の部屋に続くオーナーズフロアの入り口は裏手にあるため、すんなり中に入ることが出来た。皓一は合鍵を使って真也の住まいに入ると、大声を張り上げて真也を呼んだ。
しかし返答はなく、どこにも真也はいない。
皓一は半ばパニック状態で、もう一度真也に電話をかけてみたが、やはり出ない。
不安が最高潮に達し、皓一は泣きながら叫んだ。
「真也、どこにいるんだよッ?! 真也、真也、真也、真也ッ!!」
和友スーパーで勤務中の皓一は、昼食を摂るために休憩室に入り、すぐに異変に気が付いた。休憩中の従業員からは緊迫した雰囲気が漂い、一台だけあるテレビから、リポーターの物々しい声が響いている。その場にいる誰もがその報道に釘付けだった。
「みんな、どうしたんだ? 何か、事件?」
何気ない口調でそう尋ねた皓一に、パート従業員の女性たちが一斉に口を開く。
「そうよ、事件、事件なのよ!!」
「この近くなのよ、皓ちゃん! 物騒だわぁ!」
「包丁を振り回した男が、手当たり次第に通行人を刺したって!!」
「え……」
ただならぬ雰囲気に、皓一は彼女たちとテレビの画面を注視した。近所で凶悪事件が現在進行形なら、和友スーパーとしては従業員や客を守るために対策を講じる必要がある。そう思いながら皓一がテレビを見ると、見覚えのある風景が映っていた。
皓一の血の気が、引いた。
それは丁度、真也の住むマンションの前の道路だったのだ。そこに何台もパトカーが停まり、物々しい雰囲気になっている。どうやら犯人は取り押さえられたらしいが、道端には点々と血が飛び散り、野次馬が大勢集まっていた。
「皓ちゃん、大丈夫? もしかしてこの辺り、知り合いが住んでる?」
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「うん……そう、そう、なんだ……」
「大変!! 電話してみたら? きっと、無事よ!!」
皓一はスマホを取り出し、真也の番号にかけた。しかしつながらない。コール音だけが、虚しく響く。皓一は不安を募らせ、女性たちに「ちょっと行ってみる」とだけ伝え、外に走り出た。
和友スーパーから真也のマンションまでは、直線距離で5~6kmくらい離れている。皓一は通勤に使っている自転車に乗り、猛烈にペダルを回転させた。
「きっと、無事だ。うん、無事に決まってる……あんなにムキムキな真也が、簡単に刺されるもんか……」
そう呟きながらも、不安な気持ちはどんどん加速した。
心臓がドッドッドッと音を立て、だんだん気分が悪くなってくる。
信号待ちの時間がやたらと長く感じられ、脚がガクガクと震え出す。
やっと真也のマンションに着いた頃には、皓一は全身に汗をびっしょりかいていた。付近には警察の立ち入り禁止のテープが張られていたが、幸い真也の部屋に続くオーナーズフロアの入り口は裏手にあるため、すんなり中に入ることが出来た。皓一は合鍵を使って真也の住まいに入ると、大声を張り上げて真也を呼んだ。
しかし返答はなく、どこにも真也はいない。
皓一は半ばパニック状態で、もう一度真也に電話をかけてみたが、やはり出ない。
不安が最高潮に達し、皓一は泣きながら叫んだ。
「真也、どこにいるんだよッ?! 真也、真也、真也、真也ッ!!」
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