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Act 2
20. 深まる絆と記憶の靄 2
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「……この見た目は、作り物だ。…………皓一、俺は、化け物だ」
真也のその発言に戸惑い、皓一は僅かに眉根を寄せて問いかけた。
「……どういう、意味だそれ。作り物って……整形でもしたのか?」
「ああ……そんなところだ。本当の俺の姿を知れば、きっとおまえは……」
その先は言葉にならなかった。
苦痛に耐えているような表情で黙り込む真也の顔を見て、皓一もまた、言葉を失くした。
今、真也は重要なことを明かしてくれようとしているのだ。
今まで、知らなった真也の事実を。
胸の中に仕舞いこんでいる、痛みを。
皓一はそう感じ、姿勢を変えた。真也の太腿の間に正座をして座り込み、向かい合う。そして優しく真也の頬に手を添えた。
皓一は頭の中を整理しながら、ゆっくりと話し出した。
「真也、俺はおまえと一緒にいると……すごく楽しい。幸せで、どうにかなりそうなくらいだよ。人間は外見にこだわる馬鹿な生き物だし、俺も確かに、おまえのそのカッコイイ外見にほだされた。うん、正直に言うと、俺は今のおまえの外見が、すごく好みだ。……けど、もしこの先、おまえの外見が変わってしまったとしても、俺はやっぱりおまえを好きだと思う。俺を愛して傍にいてくれるおまえが、俺は大切なんだ。おまえと一緒にいると、なぜだかホッとする。俺は……目の前のおまえを……目玉焼きを今日初めて食べたおまえを、愛してるんだ」
「……皓一……」
潤む真也の目を捉えながら、皓一は真剣な口調で言った。
「だから、化け物なんて言うなよ。おまえがどんな姿でも、愛してるよ」
言ってから皓一は照れくささをごまかすように、ギュッと真也を抱きしめて呟いた。
「……恥ずかしいだろうが……言わせんな、馬鹿」
そのとき、突然真也が泣きだした。ボロボロと涙を零し、ウッウッと声を出しながら。
「ばっ……!なんで、泣くんだよ?!」
そう言った後に、皓一は真也が涙もろいことを思い出す。
(そうだった……こいつは、すぐ泣く。大きな図体をして涙もろいところが、ギャップ萌えでかえって可愛いんだよな……)
俺がそう設定したんだ、という言葉が頭の中にちらつき、皓一は眉をしかめた。
(え……何? 設定? ちょっと、待て……)
この感覚、以前にもあった――と、皓一は正体不明の不安を感じて身じろぎする。そこへ真也が涙を拭いながら声をかけた。
「皓一……そうだよ、俺が涙もろいのは、おまえのせいだ。だが、おまえがそう設定したからじゃない。おまえに会って、おまえの優しい感情に触れるたび、俺の心が涙を零すからだ。おまえへの愛おしさが溢れると、この体が勝手に反応して、目から水分を分泌させるんだ。止めることもできるだろうが、なぜだろうな……止めたくない。きっとこれはおまえへの、愛の証だからだ」
潤んだ目で皓一を見つめながら、真也は続けた。
「親の愛情を知らずに育ち、孤独を友とし、愛することを知らずに生きてきた俺が、初めて愛した存在……それが、おまえだ、皓一。俺がどんな姿でも構わないと、心の底から言ってくれる、おまえだ。そうだな……そうだった、おまえは地球人とは思えないほど、外見に対する偏見が薄い。初めて会ったときも、おぞましいと言える外見をしていた俺に、親切にしてくれた。おまえの個体紋に魅入られ、おまえの心を覗いたあの日から……俺はずっと、おまえに恋しているんだ」
皓一は真也の目を覗き込んでいるうちに、「設定」のことなどどうでもよくなり、ドキドキしながら真也の言葉に聞き入った。個体紋とかわけのわからない言葉を後で訊き返そうと思いながら、熱のこもった瞳で真也を見つめ、言葉の続きに耳を傾ける。
真也はうっとりするほど優しい笑顔を皓一に向けると、皓一の手をギュッと握りしめ、切なくなるほどいい声で、言葉を続けた。
「俺は運がいい。初めて愛した相手から、こんなにも愛されてる。だから皓一……おまえのためなら俺は、何でもしたい。花見以外でも、おまえがしたいと思うことは、どんな些細な事でも一緒に体験したい。俺はここで育ったのではないため、知らないことがたくさんある。書籍やネット上から知識を拾ってくることは出来るが、体験はできない。だから……」
真也は一旦言葉を区切り、皓一の目を覗いた。皓一は真剣な顔をして、静かに真也の次の言葉を待っている。真也は皓一の頬にそっと右手を添えると、再び口を開いた。
「だから、皓一、俺に教えてくれ。俺にいろんな体験を、させてくれ。おまえが知っていること、楽しかったこと、全部俺にも体験させてくれ。そうしてすべての感情を、おまえと共有したい」
皓一はこくこくと何度も頷いた。真也が過去のことや自分のことを話してくれたことが、心底嬉しかった。
「うん、うん、真也、一緒に、色んな体験をしよう。俺がしたことがあること、したことのないこと、色々しよう。まず、花見、だろ。それから夏になったら花火の上がるお祭りに行こう。色んな夜店が出るやつ。おまえ林檎飴、食べたことあるか?」
「ない」
「よし、じゃあ、食べような。待てよ……林檎飴なら、花見の屋台にだってきっとあるな。夏まで待つことない。うんうん。…………ん……?」
そこまで言って、皓一は「あれ?」と口を閉じた。
(真也と花見、したことあったよな? あれ……? どっか桜で有名な場所に、一緒に出掛けたような……それで、林檎飴、食べたような……それをブログに上げたような……。あれ? 俺の、勘違い?)
真也のその発言に戸惑い、皓一は僅かに眉根を寄せて問いかけた。
「……どういう、意味だそれ。作り物って……整形でもしたのか?」
「ああ……そんなところだ。本当の俺の姿を知れば、きっとおまえは……」
その先は言葉にならなかった。
苦痛に耐えているような表情で黙り込む真也の顔を見て、皓一もまた、言葉を失くした。
今、真也は重要なことを明かしてくれようとしているのだ。
今まで、知らなった真也の事実を。
胸の中に仕舞いこんでいる、痛みを。
皓一はそう感じ、姿勢を変えた。真也の太腿の間に正座をして座り込み、向かい合う。そして優しく真也の頬に手を添えた。
皓一は頭の中を整理しながら、ゆっくりと話し出した。
「真也、俺はおまえと一緒にいると……すごく楽しい。幸せで、どうにかなりそうなくらいだよ。人間は外見にこだわる馬鹿な生き物だし、俺も確かに、おまえのそのカッコイイ外見にほだされた。うん、正直に言うと、俺は今のおまえの外見が、すごく好みだ。……けど、もしこの先、おまえの外見が変わってしまったとしても、俺はやっぱりおまえを好きだと思う。俺を愛して傍にいてくれるおまえが、俺は大切なんだ。おまえと一緒にいると、なぜだかホッとする。俺は……目の前のおまえを……目玉焼きを今日初めて食べたおまえを、愛してるんだ」
「……皓一……」
潤む真也の目を捉えながら、皓一は真剣な口調で言った。
「だから、化け物なんて言うなよ。おまえがどんな姿でも、愛してるよ」
言ってから皓一は照れくささをごまかすように、ギュッと真也を抱きしめて呟いた。
「……恥ずかしいだろうが……言わせんな、馬鹿」
そのとき、突然真也が泣きだした。ボロボロと涙を零し、ウッウッと声を出しながら。
「ばっ……!なんで、泣くんだよ?!」
そう言った後に、皓一は真也が涙もろいことを思い出す。
(そうだった……こいつは、すぐ泣く。大きな図体をして涙もろいところが、ギャップ萌えでかえって可愛いんだよな……)
俺がそう設定したんだ、という言葉が頭の中にちらつき、皓一は眉をしかめた。
(え……何? 設定? ちょっと、待て……)
この感覚、以前にもあった――と、皓一は正体不明の不安を感じて身じろぎする。そこへ真也が涙を拭いながら声をかけた。
「皓一……そうだよ、俺が涙もろいのは、おまえのせいだ。だが、おまえがそう設定したからじゃない。おまえに会って、おまえの優しい感情に触れるたび、俺の心が涙を零すからだ。おまえへの愛おしさが溢れると、この体が勝手に反応して、目から水分を分泌させるんだ。止めることもできるだろうが、なぜだろうな……止めたくない。きっとこれはおまえへの、愛の証だからだ」
潤んだ目で皓一を見つめながら、真也は続けた。
「親の愛情を知らずに育ち、孤独を友とし、愛することを知らずに生きてきた俺が、初めて愛した存在……それが、おまえだ、皓一。俺がどんな姿でも構わないと、心の底から言ってくれる、おまえだ。そうだな……そうだった、おまえは地球人とは思えないほど、外見に対する偏見が薄い。初めて会ったときも、おぞましいと言える外見をしていた俺に、親切にしてくれた。おまえの個体紋に魅入られ、おまえの心を覗いたあの日から……俺はずっと、おまえに恋しているんだ」
皓一は真也の目を覗き込んでいるうちに、「設定」のことなどどうでもよくなり、ドキドキしながら真也の言葉に聞き入った。個体紋とかわけのわからない言葉を後で訊き返そうと思いながら、熱のこもった瞳で真也を見つめ、言葉の続きに耳を傾ける。
真也はうっとりするほど優しい笑顔を皓一に向けると、皓一の手をギュッと握りしめ、切なくなるほどいい声で、言葉を続けた。
「俺は運がいい。初めて愛した相手から、こんなにも愛されてる。だから皓一……おまえのためなら俺は、何でもしたい。花見以外でも、おまえがしたいと思うことは、どんな些細な事でも一緒に体験したい。俺はここで育ったのではないため、知らないことがたくさんある。書籍やネット上から知識を拾ってくることは出来るが、体験はできない。だから……」
真也は一旦言葉を区切り、皓一の目を覗いた。皓一は真剣な顔をして、静かに真也の次の言葉を待っている。真也は皓一の頬にそっと右手を添えると、再び口を開いた。
「だから、皓一、俺に教えてくれ。俺にいろんな体験を、させてくれ。おまえが知っていること、楽しかったこと、全部俺にも体験させてくれ。そうしてすべての感情を、おまえと共有したい」
皓一はこくこくと何度も頷いた。真也が過去のことや自分のことを話してくれたことが、心底嬉しかった。
「うん、うん、真也、一緒に、色んな体験をしよう。俺がしたことがあること、したことのないこと、色々しよう。まず、花見、だろ。それから夏になったら花火の上がるお祭りに行こう。色んな夜店が出るやつ。おまえ林檎飴、食べたことあるか?」
「ない」
「よし、じゃあ、食べような。待てよ……林檎飴なら、花見の屋台にだってきっとあるな。夏まで待つことない。うんうん。…………ん……?」
そこまで言って、皓一は「あれ?」と口を閉じた。
(真也と花見、したことあったよな? あれ……? どっか桜で有名な場所に、一緒に出掛けたような……それで、林檎飴、食べたような……それをブログに上げたような……。あれ? 俺の、勘違い?)
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