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Act 2
11. 大型犬とハグ
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「ありがとな、健斗。ほんと、助かった。何か首がスース―するなぁって思ってたら、無いだろ。どこかで落としたんだって気付いたときは、血の気が引いたよ。捜しに行こうと思ってたところだったから、ほんと助かった。華子さんにも後でお礼を言っとかなきゃな」
皓一は健斗からお守りを受け取ると、首に掛けながらそう言った。
健斗は華子の助言に従って、皓一の妹や、過去のことには一切触れないことにした。
皓一の小さな妹はどうやら兄の傍にいるようだが、姿が見えたのはあの一度きりで、今は気配を感じることもできない。
それに健斗は「見える」だけで霊魂と会話を試みたことはない。例えそれが出来たとしても、皓一が記憶に蓋をして妹は生きていると思いこんでいるこの現状で、何が出来るだろう? 悔しいが、健斗は無力だった。過去を暴いたところで、皓一のためにできることは何一つないのだ。今は、まだ。
健斗は気持ちを切り替えて、今この瞬間の幸運をチャンスとして喜ぶことにした。
華子の言う通り、過去は変えられないが、未来は違う。皓一と一緒に生きて、彼を癒すことが叶うかもしれない未来を、健斗はやはり諦めることができなかった。
今、健斗は皓一と二人っきりだ。場所は事務所という個室。一つしかない扉は閉じている。つまり、絶好のチャンス。
健斗は盛大に鼻息を吹きながら、皓一に近づいた。
「お礼にハグしてください、皓一さん」
「へ……」
「本当はキスがいいけど、俺そこまであつかましくないので、ハグで手を打ちます!」
「……はあ……。そりゃ、ご丁寧にどうも……お気遣いいただいて……」
「さあ、どうぞ!」
健斗はバーンと両腕を広げて待ち構えた。
皓一は何となく、健斗って大型犬みたいだよなぁ……などと思って吹き出した。ピンと立てたフサフサの耳と、同じくフサフサの尻尾がブンブン振られて、おまけに口からハッハッという息遣いが聞こえてくるような気がした。
健斗は皓一が照れ笑いじゃなくて何か変なものを想像して笑っていることに勘付き、拗ねたように言った。
「何ですか、その笑い……やらしいなぁ……」
「悪い……ははは……なあ、おまえの前世、犬だったんじゃないか?」
「!! そうか! 俺、前世犬で、きっと皓一さんに大切に飼われてたんだ!! 懐いちゃうのも当たり前ですね! そういうわけで、ハグしてくだい!!」
「何がそういうわけだよ、あはははは……」
皓一は笑いながら、ハグくらいならいいか、と思い、健斗の背中に腕を回してギュッと抱きしめた。途端に、健斗の力強い腕がギュウッと抱きしめ返してくる。
「うおっ……待て、健斗、待て待て待て!」
「皓一さん、好きです!」
「わかった、わかったから!! 待て!! お座り!! 伏せ!! ハウス!!」
「しつこく犬扱いですか……もうちょっと、至福の時間を味わわせてくださいよ……」
健斗は皓一を離すと、傍の椅子にふてくされるように座り込んだ。
そして気を取り直し、皓一に尋ねた。
「最近、体の調子どうですか、皓一さん? どっか異常感じたり、しませんか?」
「異常? いいや、全然。調子いいぞ。あ、前に風邪気味だったときのこと、気にしてくれてるのか? 大丈夫、最近は絶好調だ。心配してくれて、ありがとな、健斗」
皓一の無邪気な笑顔に、健斗の胸は張り裂けそうなほど痛んだ。
(やっぱ……諦めるって……難しい。高羽に負けてるとしても……それでも……)
健斗はドキドキしながら、パソコンに向かって事務作業をし始めた皓一に、もう一度近付いた。髪に触るくらいなら、許されるかな……などと思いながら。
そのとき、机の上に置かれた皓一のスマホが鳴った。皓一はチラッとスマホに目をやったものの、何もせずに仕事を続けた。しかし明らかに、スマホを気にしている。
高羽からのメッセージでも届いたのだろう――そう思った健斗は諦めて、扉に向かいながら言った。
「じゃあ俺、品出しに戻りますね」
「あ……うん、ありがとな、健斗」
皓一のもとを去りながら、健斗はギリギリと奥歯を噛みしめた。
(あの宇宙人め、チート能力を使ってどっかから監視してるに違いない! クソッ!)
健斗の思った通り、皓一のスマホには真也からのメッセージが入っていた。
皓一がいそいそしながら確認すると、『今夜会いたい。仕事が終わったらいつものパーキングに来い』とある。
明日は木曜日で和友スーパーの定休日のため、皓一も休みだ。それを見越して泊まりに来いと言っているのだろう。それもお誘いというよりは、すでに決定事項だ。
「強引だなぁ……俺が断るって言ったら、どうすんだろ、こいつ……」
そう言いながら、皓一は速攻真也にOKの返事をした。
皓一は健斗からお守りを受け取ると、首に掛けながらそう言った。
健斗は華子の助言に従って、皓一の妹や、過去のことには一切触れないことにした。
皓一の小さな妹はどうやら兄の傍にいるようだが、姿が見えたのはあの一度きりで、今は気配を感じることもできない。
それに健斗は「見える」だけで霊魂と会話を試みたことはない。例えそれが出来たとしても、皓一が記憶に蓋をして妹は生きていると思いこんでいるこの現状で、何が出来るだろう? 悔しいが、健斗は無力だった。過去を暴いたところで、皓一のためにできることは何一つないのだ。今は、まだ。
健斗は気持ちを切り替えて、今この瞬間の幸運をチャンスとして喜ぶことにした。
華子の言う通り、過去は変えられないが、未来は違う。皓一と一緒に生きて、彼を癒すことが叶うかもしれない未来を、健斗はやはり諦めることができなかった。
今、健斗は皓一と二人っきりだ。場所は事務所という個室。一つしかない扉は閉じている。つまり、絶好のチャンス。
健斗は盛大に鼻息を吹きながら、皓一に近づいた。
「お礼にハグしてください、皓一さん」
「へ……」
「本当はキスがいいけど、俺そこまであつかましくないので、ハグで手を打ちます!」
「……はあ……。そりゃ、ご丁寧にどうも……お気遣いいただいて……」
「さあ、どうぞ!」
健斗はバーンと両腕を広げて待ち構えた。
皓一は何となく、健斗って大型犬みたいだよなぁ……などと思って吹き出した。ピンと立てたフサフサの耳と、同じくフサフサの尻尾がブンブン振られて、おまけに口からハッハッという息遣いが聞こえてくるような気がした。
健斗は皓一が照れ笑いじゃなくて何か変なものを想像して笑っていることに勘付き、拗ねたように言った。
「何ですか、その笑い……やらしいなぁ……」
「悪い……ははは……なあ、おまえの前世、犬だったんじゃないか?」
「!! そうか! 俺、前世犬で、きっと皓一さんに大切に飼われてたんだ!! 懐いちゃうのも当たり前ですね! そういうわけで、ハグしてくだい!!」
「何がそういうわけだよ、あはははは……」
皓一は笑いながら、ハグくらいならいいか、と思い、健斗の背中に腕を回してギュッと抱きしめた。途端に、健斗の力強い腕がギュウッと抱きしめ返してくる。
「うおっ……待て、健斗、待て待て待て!」
「皓一さん、好きです!」
「わかった、わかったから!! 待て!! お座り!! 伏せ!! ハウス!!」
「しつこく犬扱いですか……もうちょっと、至福の時間を味わわせてくださいよ……」
健斗は皓一を離すと、傍の椅子にふてくされるように座り込んだ。
そして気を取り直し、皓一に尋ねた。
「最近、体の調子どうですか、皓一さん? どっか異常感じたり、しませんか?」
「異常? いいや、全然。調子いいぞ。あ、前に風邪気味だったときのこと、気にしてくれてるのか? 大丈夫、最近は絶好調だ。心配してくれて、ありがとな、健斗」
皓一の無邪気な笑顔に、健斗の胸は張り裂けそうなほど痛んだ。
(やっぱ……諦めるって……難しい。高羽に負けてるとしても……それでも……)
健斗はドキドキしながら、パソコンに向かって事務作業をし始めた皓一に、もう一度近付いた。髪に触るくらいなら、許されるかな……などと思いながら。
そのとき、机の上に置かれた皓一のスマホが鳴った。皓一はチラッとスマホに目をやったものの、何もせずに仕事を続けた。しかし明らかに、スマホを気にしている。
高羽からのメッセージでも届いたのだろう――そう思った健斗は諦めて、扉に向かいながら言った。
「じゃあ俺、品出しに戻りますね」
「あ……うん、ありがとな、健斗」
皓一のもとを去りながら、健斗はギリギリと奥歯を噛みしめた。
(あの宇宙人め、チート能力を使ってどっかから監視してるに違いない! クソッ!)
健斗の思った通り、皓一のスマホには真也からのメッセージが入っていた。
皓一がいそいそしながら確認すると、『今夜会いたい。仕事が終わったらいつものパーキングに来い』とある。
明日は木曜日で和友スーパーの定休日のため、皓一も休みだ。それを見越して泊まりに来いと言っているのだろう。それもお誘いというよりは、すでに決定事項だ。
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