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Act 1
24. 行きつけのラーメン屋
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「着いたぞ、ここが俺の行きつけのラーメン屋なんだ。中学のときの友人がやっててな……うまいし、こっちの注文をあれこれ聞いてくれるから、助かってる」
そのラーメン屋はいかにも個人経営の、こじんまりとした作りの店舗だった。一階部分が店仕様になった二階建てで、上の階のベランダから洗濯物が揺れているのが見える。店先には手入れの行き届いた花の鉢植えが並んでいて、女性客も入れそうな雰囲気が漂っている。
「いらっしゃい! お、皓一じゃねーか! よく来たな!」
店の引き戸を開けると、すかさず店主の威勢のいい声が飛ぶ。皓一の中学時代の同級生である店主は、短髪に刈り上げた頭に鉢巻きを締め、人好きのしそうな笑顔で二人を迎え入れた。店内にはカウンター席が8人分、テーブル席が4つ。テーブル席はすべて埋まっていて、運よくカウンター席が二席分空いていた。店に初めて来た健斗は、「へえ……」と感心した。お昼どきは過ぎ、もう14時半だというのになかなか繁盛している。昼頃に来たらきっと満席で、外には行列が出来ていただろう。
「よお、山っち。相変わらず繁盛してるな」
「おう、おかげさんでな! 何にする? いつものやつか?」
「うん、頼む。全部にんにく抜きで。健斗はどうする?」
「皓一さんと同じものを」
「え、いいのか? メニュー何も言ってないけど」
「いいんです。俺、嫌いなものあまりないし、皓一さんと同じものが食べたい」
皓一がためらっていると、二人のやり取りを聞いていた店主がニコニコしながら言った。
「じゃあ、二人前な! 毎度あり!」
しばらくして厨房から出てきた女性が、注文した料理を丁寧にカウンターテーブルに並べてくれた。皓一が親し気な口調で彼女に声を掛ける。
「ありがとう、舞さん。変わりない?」
「ええ、おかげさまで。皓ちゃんは? にんにく抜きってことは、今日は仕事ね? ということは、そちらは皓ちゃんのスーパーの店員さんかしら? 皓ちゃんが誰かを連れて来るなんて、珍しいわね」
女性は20代半ばから後半くらい、なかなかの美人で髪を後ろできっちりひとつに束ね、明るい笑顔で健斗に笑いかけた。
店の外側に花の鉢植えが飾ってあることや、店内が清潔感に溢れているのは彼女の功労ではないかと想像できた。
健斗は、「どうやら彼女は店主の奥さんだな」と察し、皓一が健斗を紹介するより前に、女性に会釈しながら名乗った。
健斗の礼儀正しさに感心しながら、女性は朗らかに言った。
「良かったね、皓ちゃん、とてもいい働き手さんがいて。あなたも、皓ちゃんとこでバイト出来るなんて、運がいいわ。力仕事もあって楽ではないけど、皓ちゃんとこのお店はみんな、人が本当にいいから、働きやすいでしょ?」
「はい。とてもいいです。俺、本当に運がいいって思いますよ。皓一さんは仕事の教え方も丁寧で、とても優しいし」
「あ、わかる~! 皓ちゃんたら、優し過ぎるくらいよね。そうそう、この間もね、うちの店先で困っていた女の子を……」
長くなりそうなおしゃべりに、厨房から店主の笑い声と言葉が飛んでくる。
「おおい、舞。料理が冷めちまうから、おしゃべりもほどほどにな~」
「あら、そうだった! ごめんなさい、ゆっくり食べて行ってね!」
舞が厨房に戻って行くと、健斗は目の前に並んだ料理の美味しそうな匂いを嗅ぎながら、箸を手に取った。皓一の「いつもの」メニューは味噌ラーメンと、鶏肉の唐揚げだった。唐揚げにはタルタルソールがたっぷりのせられていて、てんこ盛りの千切りキャベツが添えられている。
「お、うまそう……!!」
一気にテンションの上がった健斗を横目で見ながら、「良かった。嫌いなものじゃなそそうだな。ラーメンもこの唐揚げも絶品で、俺の一押しメニューなんだ。さ、パパッと食べて仕事に戻ろう」と言い、美味しそうに食べ始めた。健斗は皓一と一緒に食事ができる幸せを噛みしめながら、皓一おすすめメニューの美味しさに舌鼓を打った。
食事が終わり職場に戻る道すがら、健斗は皓一に問いかけた。
「さっきの舞さん……でしたっけ、彼女が言ってた“困っていた女の子“って、何だったんですか?」
そのラーメン屋はいかにも個人経営の、こじんまりとした作りの店舗だった。一階部分が店仕様になった二階建てで、上の階のベランダから洗濯物が揺れているのが見える。店先には手入れの行き届いた花の鉢植えが並んでいて、女性客も入れそうな雰囲気が漂っている。
「いらっしゃい! お、皓一じゃねーか! よく来たな!」
店の引き戸を開けると、すかさず店主の威勢のいい声が飛ぶ。皓一の中学時代の同級生である店主は、短髪に刈り上げた頭に鉢巻きを締め、人好きのしそうな笑顔で二人を迎え入れた。店内にはカウンター席が8人分、テーブル席が4つ。テーブル席はすべて埋まっていて、運よくカウンター席が二席分空いていた。店に初めて来た健斗は、「へえ……」と感心した。お昼どきは過ぎ、もう14時半だというのになかなか繁盛している。昼頃に来たらきっと満席で、外には行列が出来ていただろう。
「よお、山っち。相変わらず繁盛してるな」
「おう、おかげさんでな! 何にする? いつものやつか?」
「うん、頼む。全部にんにく抜きで。健斗はどうする?」
「皓一さんと同じものを」
「え、いいのか? メニュー何も言ってないけど」
「いいんです。俺、嫌いなものあまりないし、皓一さんと同じものが食べたい」
皓一がためらっていると、二人のやり取りを聞いていた店主がニコニコしながら言った。
「じゃあ、二人前な! 毎度あり!」
しばらくして厨房から出てきた女性が、注文した料理を丁寧にカウンターテーブルに並べてくれた。皓一が親し気な口調で彼女に声を掛ける。
「ありがとう、舞さん。変わりない?」
「ええ、おかげさまで。皓ちゃんは? にんにく抜きってことは、今日は仕事ね? ということは、そちらは皓ちゃんのスーパーの店員さんかしら? 皓ちゃんが誰かを連れて来るなんて、珍しいわね」
女性は20代半ばから後半くらい、なかなかの美人で髪を後ろできっちりひとつに束ね、明るい笑顔で健斗に笑いかけた。
店の外側に花の鉢植えが飾ってあることや、店内が清潔感に溢れているのは彼女の功労ではないかと想像できた。
健斗は、「どうやら彼女は店主の奥さんだな」と察し、皓一が健斗を紹介するより前に、女性に会釈しながら名乗った。
健斗の礼儀正しさに感心しながら、女性は朗らかに言った。
「良かったね、皓ちゃん、とてもいい働き手さんがいて。あなたも、皓ちゃんとこでバイト出来るなんて、運がいいわ。力仕事もあって楽ではないけど、皓ちゃんとこのお店はみんな、人が本当にいいから、働きやすいでしょ?」
「はい。とてもいいです。俺、本当に運がいいって思いますよ。皓一さんは仕事の教え方も丁寧で、とても優しいし」
「あ、わかる~! 皓ちゃんたら、優し過ぎるくらいよね。そうそう、この間もね、うちの店先で困っていた女の子を……」
長くなりそうなおしゃべりに、厨房から店主の笑い声と言葉が飛んでくる。
「おおい、舞。料理が冷めちまうから、おしゃべりもほどほどにな~」
「あら、そうだった! ごめんなさい、ゆっくり食べて行ってね!」
舞が厨房に戻って行くと、健斗は目の前に並んだ料理の美味しそうな匂いを嗅ぎながら、箸を手に取った。皓一の「いつもの」メニューは味噌ラーメンと、鶏肉の唐揚げだった。唐揚げにはタルタルソールがたっぷりのせられていて、てんこ盛りの千切りキャベツが添えられている。
「お、うまそう……!!」
一気にテンションの上がった健斗を横目で見ながら、「良かった。嫌いなものじゃなそそうだな。ラーメンもこの唐揚げも絶品で、俺の一押しメニューなんだ。さ、パパッと食べて仕事に戻ろう」と言い、美味しそうに食べ始めた。健斗は皓一と一緒に食事ができる幸せを噛みしめながら、皓一おすすめメニューの美味しさに舌鼓を打った。
食事が終わり職場に戻る道すがら、健斗は皓一に問いかけた。
「さっきの舞さん……でしたっけ、彼女が言ってた“困っていた女の子“って、何だったんですか?」
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