20 / 84
Act 1
20. 泣き虫の恋人
しおりを挟む
皓一はアナルセックスをしたことがない。もともと淡泊な性質のため、挿入無しのいわゆるバニラセックスで満足だった。皓一は、真也もそれで満足してるとばかり思いこんでいた。これまで、真也は一度もセックスに関して不満を漏らしたことが無かったのだから。
(真也は、最後までしたかったのか……?! それをずっと、我慢していたのか?)
そう思い、皓一は真也との5年間を振り返ってみた。
(あれ……? 俺……真也に手や口でしてもらったことはあるけど、俺は……真也のものをしたこと、あったっけ……? ええっ? 嘘だろ……そんなこと、あるか? 5年も、付き合ってるんだぞ……。あれ……?)
皓一は真也と過ごした日々の記憶を、必死でたぐり寄せた。しかし何もかもがボンヤリしていて、はっきり思い出せない。
黙り込んでしまった皓一の態度に不安を募らせたのか、真也が一層強く、皓一を抱きしめる――逃すまいと、するかのように。あまりにも強い抱擁に、皓一が痛みに悲鳴を上げ、絞り出すように声を発した。
「……痛い……骨、折れ……る……」
その言葉が終わるより早く、皓一の悲鳴を聞いた時点で、真也はパッと力を緩めた。そして慌てた様子で皓一の体中を撫でさする。
「すまない、すまない皓一。力を入れ過ぎた。どこを痛めた? 骨は……折れてないようだが……ヒビも……大丈夫か……筋肉は……腱は……血管は……」
「くわっ、ぐほっ、やめっ、こそばっ、ぎゃはははは、はぅぅっ!」
皓一の体を確かめる真也は真剣そのものだったが、それとは対照的に、皓一は笑い声を上げながら体をねじった。真也がさわさわと体中を触るので、くすぐったくてたまらなかったのだ。
どうやら大丈夫そうだと確信した真也は、溜息をついて言った。
「どこにも損傷した箇所はないな。皓一、痛みを与えてすまなかった……」
皓一の体を離すと、真也は見るからにシュンとして、リビングに据えられた高価そうなソファに腰かけた。大きな背中を丸めうなだれているその姿を見て、皓一はふいに、真也に対する愛おしさが止め処(ど)なく溢れ出してくるのを感じた。
真也の傍に近づいて彼を見たとき、皓一は驚いた。真也は、声を立てずに静かに泣いていたのだ。
「真也っ……! 泣いているのか……」
「泣いてない。目から勝手に水分が出てるだけだ。単なる生理作用だから、気にするな」
「それを泣いているというんだろうが!」
(そうだ――そういえば真也は涙もろかった。しまった、俺が泣かせたのか……)
皓一は途端に真也が可哀想になって、真也の傍に座り込むと、慰めるように彼の膝に手を乗せてさすった。
「ごめんな、真也、ごめん……。おまえとの暮らしを拒んだわけじゃ、ないんだ。今住んでる安アパートは職場まで歩いて5分という便利さだし、ついこの間 更新料を払ったばかりだし、第一、こんな豪華なマンションに引っ越して恋人と同棲するなんて言ったら、和おじさんがすごく心配するだろ。いくら俺がゲイだって知ってるって言ってもさ……相手がおまえじゃ、俺が騙されているんじゃないかって、おじさんはものすごく気をもむに決まってる……」
「どうして相手が俺じゃ、気をもむんだ?」
「どうしてって、そりゃおまえ、分かるだろ? おまえみたいな男前のセレブがさ、普通なら俺みたいな何の取柄もない地味な男と付き合うわけがない」
「おまえは自己評価が低すぎる。……だが、おまえのそういう、自分の魅力に無頓着なところも、愛しく思う。……たとえ、俺がおまえからもらう愛より、俺のおまえに対する愛の方がはるかに多く、その差が天文学的数字でもな……」
ぐすっ、と真也が鼻をすする。その泣きべそをかいている子供みたいな表情が可愛くて、皓一は胸を高鳴らせた。いわゆるこれが「ギャップ萌え」ってやつか、などと思いながら。真也みたいな完璧な大人の男性が、恋人の前でぐすぐす泣くなんて、誰も想像だにしないだろう。
「泣くなよ……。俺、ここに住むのはためらいがあるけど、ちょくちょく遊びに来るよ。それに、次の俺の連休は泊まり込みでデート旅行だろ? 楽しみだな、な? 一日中、二人一緒にいられる。そうだ、海沿いのホテル、取れそうか? 調べといてくれるって言ってたよな? あ、もちろん無理そうなら、海沿いじゃなくてもいいぞ? おまえと一緒にいられるなら、どこだっていいんだ」
そう言いながら皓一は真也の膝の上に向かい合わせになって座り、恋人の首に手を添え、チュ、と唇に軽くキスをした。
少し機嫌が直ったのか、真也は涙を拭うと微笑んで答えた。
「海沿いのホテルなら、もう予約完了した。ちょうどキャンセル待ちが出たところをキープできた。すごくいい部屋だぞ……きっと気に入る」
そう言い終えると、真也は今度は自分の方から、皓一と唇を重ねた。
「ん……」
最初は優しく軽く揉みこむように。やがて互いの唇が濡れてくると、真也は舌を絡ませ、深く情熱的に皓一の唇を貪り始めた。
「んん……っ、ちょ、待て……真也……その辺で……」
離れようとする皓一を真也はソファに押し倒し、上から覆いかぶさってなおも激しく唇を蹂躙する。
「皓一、皓一……愛してる……」
真也の男らしい色気に満ちた低い声。そのキスの合間の囁きは、うっとりするほどに甘い響きで皓一の耳を犯す。
(真也は、最後までしたかったのか……?! それをずっと、我慢していたのか?)
そう思い、皓一は真也との5年間を振り返ってみた。
(あれ……? 俺……真也に手や口でしてもらったことはあるけど、俺は……真也のものをしたこと、あったっけ……? ええっ? 嘘だろ……そんなこと、あるか? 5年も、付き合ってるんだぞ……。あれ……?)
皓一は真也と過ごした日々の記憶を、必死でたぐり寄せた。しかし何もかもがボンヤリしていて、はっきり思い出せない。
黙り込んでしまった皓一の態度に不安を募らせたのか、真也が一層強く、皓一を抱きしめる――逃すまいと、するかのように。あまりにも強い抱擁に、皓一が痛みに悲鳴を上げ、絞り出すように声を発した。
「……痛い……骨、折れ……る……」
その言葉が終わるより早く、皓一の悲鳴を聞いた時点で、真也はパッと力を緩めた。そして慌てた様子で皓一の体中を撫でさする。
「すまない、すまない皓一。力を入れ過ぎた。どこを痛めた? 骨は……折れてないようだが……ヒビも……大丈夫か……筋肉は……腱は……血管は……」
「くわっ、ぐほっ、やめっ、こそばっ、ぎゃはははは、はぅぅっ!」
皓一の体を確かめる真也は真剣そのものだったが、それとは対照的に、皓一は笑い声を上げながら体をねじった。真也がさわさわと体中を触るので、くすぐったくてたまらなかったのだ。
どうやら大丈夫そうだと確信した真也は、溜息をついて言った。
「どこにも損傷した箇所はないな。皓一、痛みを与えてすまなかった……」
皓一の体を離すと、真也は見るからにシュンとして、リビングに据えられた高価そうなソファに腰かけた。大きな背中を丸めうなだれているその姿を見て、皓一はふいに、真也に対する愛おしさが止め処(ど)なく溢れ出してくるのを感じた。
真也の傍に近づいて彼を見たとき、皓一は驚いた。真也は、声を立てずに静かに泣いていたのだ。
「真也っ……! 泣いているのか……」
「泣いてない。目から勝手に水分が出てるだけだ。単なる生理作用だから、気にするな」
「それを泣いているというんだろうが!」
(そうだ――そういえば真也は涙もろかった。しまった、俺が泣かせたのか……)
皓一は途端に真也が可哀想になって、真也の傍に座り込むと、慰めるように彼の膝に手を乗せてさすった。
「ごめんな、真也、ごめん……。おまえとの暮らしを拒んだわけじゃ、ないんだ。今住んでる安アパートは職場まで歩いて5分という便利さだし、ついこの間 更新料を払ったばかりだし、第一、こんな豪華なマンションに引っ越して恋人と同棲するなんて言ったら、和おじさんがすごく心配するだろ。いくら俺がゲイだって知ってるって言ってもさ……相手がおまえじゃ、俺が騙されているんじゃないかって、おじさんはものすごく気をもむに決まってる……」
「どうして相手が俺じゃ、気をもむんだ?」
「どうしてって、そりゃおまえ、分かるだろ? おまえみたいな男前のセレブがさ、普通なら俺みたいな何の取柄もない地味な男と付き合うわけがない」
「おまえは自己評価が低すぎる。……だが、おまえのそういう、自分の魅力に無頓着なところも、愛しく思う。……たとえ、俺がおまえからもらう愛より、俺のおまえに対する愛の方がはるかに多く、その差が天文学的数字でもな……」
ぐすっ、と真也が鼻をすする。その泣きべそをかいている子供みたいな表情が可愛くて、皓一は胸を高鳴らせた。いわゆるこれが「ギャップ萌え」ってやつか、などと思いながら。真也みたいな完璧な大人の男性が、恋人の前でぐすぐす泣くなんて、誰も想像だにしないだろう。
「泣くなよ……。俺、ここに住むのはためらいがあるけど、ちょくちょく遊びに来るよ。それに、次の俺の連休は泊まり込みでデート旅行だろ? 楽しみだな、な? 一日中、二人一緒にいられる。そうだ、海沿いのホテル、取れそうか? 調べといてくれるって言ってたよな? あ、もちろん無理そうなら、海沿いじゃなくてもいいぞ? おまえと一緒にいられるなら、どこだっていいんだ」
そう言いながら皓一は真也の膝の上に向かい合わせになって座り、恋人の首に手を添え、チュ、と唇に軽くキスをした。
少し機嫌が直ったのか、真也は涙を拭うと微笑んで答えた。
「海沿いのホテルなら、もう予約完了した。ちょうどキャンセル待ちが出たところをキープできた。すごくいい部屋だぞ……きっと気に入る」
そう言い終えると、真也は今度は自分の方から、皓一と唇を重ねた。
「ん……」
最初は優しく軽く揉みこむように。やがて互いの唇が濡れてくると、真也は舌を絡ませ、深く情熱的に皓一の唇を貪り始めた。
「んん……っ、ちょ、待て……真也……その辺で……」
離れようとする皓一を真也はソファに押し倒し、上から覆いかぶさってなおも激しく唇を蹂躙する。
「皓一、皓一……愛してる……」
真也の男らしい色気に満ちた低い声。そのキスの合間の囁きは、うっとりするほどに甘い響きで皓一の耳を犯す。
10
お気に入りに追加
387
あなたにおすすめの小説
【完結】別れ……ますよね?
325号室の住人
BL
☆全3話、完結済
僕の恋人は、テレビドラマに数多く出演する俳優を生業としている。
ある朝、テレビから流れてきたニュースに、僕は恋人との別れを決意した。
イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?
すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。
翔馬「俺、チャーハン。」
宏斗「俺もー。」
航平「俺、から揚げつけてー。」
優弥「俺はスープ付き。」
みんなガタイがよく、男前。
ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」
慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。
終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。
ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」
保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。
私は子供と一緒に・・・暮らしてる。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
翔馬「おいおい嘘だろ?」
宏斗「子供・・・いたんだ・・。」
航平「いくつん時の子だよ・・・・。」
優弥「マジか・・・。」
消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。
太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。
「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」
「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」
※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。
※感想やコメントは受け付けることができません。
メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。
楽しんでいただけたら嬉しく思います。
お客様と商品
あかまロケ
BL
馬鹿で、不細工で、性格最悪…なオレが、衣食住提供と引き換えに体を売る相手は高校時代一度も面識の無かったエリートモテモテイケメン御曹司で。オレは商品で、相手はお客様。そう思って毎日せっせとお客様に尽くす涙ぐましい努力のオレの物語。(*ムーンライトノベルズ・pixivにも投稿してます。)
【連載再開】絶対支配×快楽耐性ゼロすぎる受けの短編集
あかさたな!
BL
※全話おとな向けな内容です。
こちらの短編集は
絶対支配な攻めが、
快楽耐性ゼロな受けと楽しい一晩を過ごす
1話完結のハッピーエンドなお話の詰め合わせです。
不定期更新ですが、
1話ごと読切なので、サクッと楽しめるように作っていくつもりです。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
書きかけの長編が止まってますが、
短編集から久々に、肩慣らししていく予定です。
よろしくお願いします!
愛され末っ子
西条ネア
BL
本サイトでの感想欄は感想のみでお願いします。全ての感想に返答します。
リクエストはTwitter(@NeaSaijou)にて受付中です。また、小説のストーリーに関するアンケートもTwitterにて行います。
(お知らせは本編で行います。)
********
上園琉架(うえぞの るか)四男 理斗の双子の弟 虚弱 前髪は後々左に流し始めます。髪の毛の色はご想像にお任せします。深い赤みたいなのアースアイ 後々髪の毛を肩口くらいまで伸ばしてゆるく結びます。アレルギー多め。その他の設定は各話で出てきます!
上園理斗(うえぞの りと)三男 琉架の双子の兄 琉架が心配 琉架第一&大好き 前髪は後々右に流します。髪の毛の色はご想像にお任せします。深い緑みたいなアースアイ 髪型はずっと短いままです。 琉架の元気もお母さんのお腹の中で取っちゃった、、、
上園静矢 (うえぞの せいや)長男 普通にサラッとイケメン。なんでもできちゃうマン。でも弟(特に琉架)絡むと残念。弟達溺愛。深い青色の瞳。髪の毛の色はご想像にお任せします。
上園竜葵(うえぞの りゅうき)次男 ツンデレみたいな、考えと行動が一致しないマン。でも弟達大好きで奮闘して玉砕する。弟達傷つけられたら、、、 深い青色の瞳。兄貴(静矢)と一個差 ケンカ強い でも勉強できる。料理は壊滅的
上園理玖斗(うえぞの りくと)父 息子達大好き 藍羅(あいら・妻)も愛してる 家族傷つけるやつ許さんマジ 琉架の身体が弱すぎて心配 深い緑の瞳。普通にイケメン
上園藍羅(うえぞの あいら) 母 子供達、夫大好き 母は強し、の具現化版 美人さん 息子達(特に琉架)傷つけるやつ許さんマジ。
てか普通に上園家の皆さんは顔面偏差値馬鹿高いです。
(特に琉架)の部分は家族の中で順列ができているわけではなく、特に琉架になる場面が多いという意味です。
琉架の従者
遼(はる)琉架の10歳上
理斗の従者
蘭(らん)理斗の10歳上
その他の従者は後々出します。
虚弱体質な末っ子・琉架が家族からの寵愛、溺愛を受ける物語です。
前半、BL要素少なめです。
この作品は作者の前作と違い毎日更新(予定)です。
できないな、と悟ったらこの文は消します。
※琉架はある一定の時期から体の成長(精神も若干)がなくなる設定です。詳しくはその時に補足します。
皆様にとって最高の作品になりますように。
※作者の近況状況欄は要チェックです!
西条ネア
神官、触手育成の神託を受ける
彩月野生
BL
神官ルネリクスはある時、神託を受け、密かに触手と交わり快楽を貪るようになるが、傭兵上がりの屈強な将軍アロルフに見つかり、弱味を握られてしまい、彼と肉体関係を持つようになり、苦悩と悦楽の日々を過ごすようになる。
(誤字脱字報告不要)
イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?
すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。
「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」
家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。
「私は母親じゃない・・・!」
そう言って家を飛び出した。
夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。
「何があった?送ってく。」
それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。
「俺と・・・結婚してほしい。」
「!?」
突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。
かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。
そんな彼に、私は想いを返したい。
「俺に・・・全てを見せて。」
苦手意識の強かった『営み』。
彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。
「いあぁぁぁっ・・!!」
「感じやすいんだな・・・。」
※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。
※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。
それではお楽しみください。すずなり。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる