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Act 1
22. 昼休憩
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明日から連休、つまり一泊旅行だ。そのことが頭から離れず、皓一は朝からウッキウキ♪で仕事をしていた。
鼻歌を歌い、スキップしそうな勢いでバックヤードのカートラックを片付けている皓一に、パートの女性たちが生温かい視線を送っていたが、本人はまるで気付いていない。女性たちがニマニマしながら、皓一にずばり「明日デート?」と訊こうとしたとき、和友スーパーの店長、和(かず)おじさんが皓一に声をかけた。
「おおい、皓ちゃん、おまえまた昼も食べずに働き通しだろ! 今すぐ昼休憩行っといで。そうだ、健ちゃんもまだだったよな? 一緒に行っといで! うまいもん食ってこいよ~」
今日は平日の水曜日だが、大学が春休み中の健斗は朝からバイトに入っていた。
健斗は働き者で、長期の休み期間や授業の入っていない日は、朝からバイトに入っていることが多い。シフトを組んでいる皓一が、「学校行きながらこんなに働いて大丈夫か? 休みをどっかに入れないと、体に毒だぞ」と心配するほどに。
パートの女性たちが「きっと彼女が10人くらいいて、バイト代は女の子に貢いですぐなくなっちゃうのよ」などと噂する中、皓一は健斗がせっせと金を稼ぐ本当の理由を知っていた。最近になって健斗自身が、皓一に話してくれたのだ。親から早く自立したいから、その資金をためていると。それを聞いて家に何か問題があるのだろうかと皓一は心配したが、家族仲は良好らしい。
「俺、ゲイだってこと、家族の誰にも話したことないんです」
近くのラーメン屋に行くという皓一についてきた健斗は、道すがら皓一に打ち明けてきた。
「でも二つ違いの妹は、何となく勘付いていそうなんですよね……何も言わず、黙っていてくれていますが」
「妹さんがいるのか。健斗の家族は、何人?」
「6人家族です。両親と、兄と俺と、妹が二人」
「いいな、賑やかだな」
「賑やか過ぎですよ。特に妹二人」
「いいじゃないか、可愛いだろうな、健斗の妹さん。おまえに似てるのか?」
「下の妹はよく似てると言われますね。皓一さんは……一人っ子ですか?」
「いや……妹が一人いる。でも子どもの頃別れたきり、もうずっと会ってないんだ。両親を亡くして、俺は和おじさんに引き取られて、妹は別の家庭に引き取られたんだよ」
「そうなんですか……」
静かに相槌だけ打った健斗の気配から、皓一は彼が気を遣っていることに気付いた。
先を聞きたいが、皓一が過去に触れられたくないと思っているならそっとしておこう……そういう、優しい気遣いに。皓一は健斗に柔らかく微笑んだ。そして何となく、健斗になら話してもいい、という気になった。もう長い間誰にも話さずに封印していた家族のことを。
鼻歌を歌い、スキップしそうな勢いでバックヤードのカートラックを片付けている皓一に、パートの女性たちが生温かい視線を送っていたが、本人はまるで気付いていない。女性たちがニマニマしながら、皓一にずばり「明日デート?」と訊こうとしたとき、和友スーパーの店長、和(かず)おじさんが皓一に声をかけた。
「おおい、皓ちゃん、おまえまた昼も食べずに働き通しだろ! 今すぐ昼休憩行っといで。そうだ、健ちゃんもまだだったよな? 一緒に行っといで! うまいもん食ってこいよ~」
今日は平日の水曜日だが、大学が春休み中の健斗は朝からバイトに入っていた。
健斗は働き者で、長期の休み期間や授業の入っていない日は、朝からバイトに入っていることが多い。シフトを組んでいる皓一が、「学校行きながらこんなに働いて大丈夫か? 休みをどっかに入れないと、体に毒だぞ」と心配するほどに。
パートの女性たちが「きっと彼女が10人くらいいて、バイト代は女の子に貢いですぐなくなっちゃうのよ」などと噂する中、皓一は健斗がせっせと金を稼ぐ本当の理由を知っていた。最近になって健斗自身が、皓一に話してくれたのだ。親から早く自立したいから、その資金をためていると。それを聞いて家に何か問題があるのだろうかと皓一は心配したが、家族仲は良好らしい。
「俺、ゲイだってこと、家族の誰にも話したことないんです」
近くのラーメン屋に行くという皓一についてきた健斗は、道すがら皓一に打ち明けてきた。
「でも二つ違いの妹は、何となく勘付いていそうなんですよね……何も言わず、黙っていてくれていますが」
「妹さんがいるのか。健斗の家族は、何人?」
「6人家族です。両親と、兄と俺と、妹が二人」
「いいな、賑やかだな」
「賑やか過ぎですよ。特に妹二人」
「いいじゃないか、可愛いだろうな、健斗の妹さん。おまえに似てるのか?」
「下の妹はよく似てると言われますね。皓一さんは……一人っ子ですか?」
「いや……妹が一人いる。でも子どもの頃別れたきり、もうずっと会ってないんだ。両親を亡くして、俺は和おじさんに引き取られて、妹は別の家庭に引き取られたんだよ」
「そうなんですか……」
静かに相槌だけ打った健斗の気配から、皓一は彼が気を遣っていることに気付いた。
先を聞きたいが、皓一が過去に触れられたくないと思っているならそっとしておこう……そういう、優しい気遣いに。皓一は健斗に柔らかく微笑んだ。そして何となく、健斗になら話してもいい、という気になった。もう長い間誰にも話さずに封印していた家族のことを。
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