滅びの序曲 希望の歌

たいよう一花

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1章 新しい住まい――魔界、王宮

8. レイ、嫉妬に身を焦がす

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今後一切 球技に参加禁止、その上、誰にも体を触らせるなと魔王から言い渡され、レイは渋面をつくった。そしてふと、ソドミラ大将軍の漏らした言葉を思い出し、レイは唇をとがらせながら不満気な声を出した。

「ずるいじゃないか……。俺に会う前とはいえ、あんたは、俺以外の誰かに、思う存分触らせていたくせに……。 俺は、あんた以外とああいうこと、したことないのにさ……。……あ、言っておくが、俺はもてなかったわけじゃ、ないぞ? ただ機会がなかっただけだ」

それは本当だった。レイは生まれ育った故郷の集落でも、時々兄に連れられて遊びに行く仙界でも、女の子に人気があった。しかし誰とも、深い関係に進むことはなかった。レイは知らなかったが、女の子の間では彼はアイドル的存在に祀り上げられていて、当人の知らないところでレイを対象とした不可侵条約が、彼女たちの間に結ばれていたのだ。簡単に言えば、<抜け駆け禁止>だ。魔王の言うように、恋愛感情については酷く鈍感なレイは、まったく気付いていなかったが。

「本当だぞ? もてなかった、わけじゃない。うん、多分……。あんたは……もててもてて、もて過ぎて、手あたり次第だったかもしれないけど……」

レイが口の中でモゴモゴと、何か言い訳めいたことを言っている意味が分からず、魔王は眉間にしわを寄せ、問いかけた。

「何のことだ?」

「聞いたぞ……。昔、女をとっかえひっかえしてたんだってな。ソドミラ大将軍の従妹とも、付き合ってたって? ……美人……だったらしいな?」

レイは魔王に抱き着いていた腕をほどくと、拗ねた表情で下から魔王を見上げた。初めて見せるその表情に、魔王の鼓動が跳ね上がり、下衣の中で欲望が滾るように熱を持ち、頭をもたげる。
魔王はごくりと唾を飲み込むと、弾む声でレイに問いかけた。

「もしかして、レイ……妬いているのか?」

レイの頬に、カッと熱が走る。

「誰が妬くか! この色情魔め! どすけべ! 変態!」

しまいこんでいたもやもやした気持ちが、噴火したマグマのように表面に昇ってきて、堰を切った。

「女たらし! 節操無し!! うう……ズルい……俺は、あんた以外、知らないのに……何人もの女が、あんたと………」

それ以上は声にならず、レイは言葉を詰まらせた。

――そうだ、俺は嫉妬しているのだ。

心の中でそう認めてしまうと、情けないドロドロした感情が、止め処なく溢れてきて、窒息してしまいそうだった。今まで感じたことのない苦しみが胸中に渦巻き、消化できない毒のように体中を暴れ回る。

唇をわななかせて俯いてしまったレイとは裏腹に、魔王は嬉々として顔を輝かせた。
過去の性的関係に嫉妬の炎を燃やすほど愛されているのだと思うと、歓喜に打ち震える。それと同時に、愛するものを悩ませている罪悪感に、さいなまれた。

「ああ、レイ、妬く必要など、一切ない。過去のあれは、単なる性欲処理だ。愛情などひとかけらもない、体の一機能を使った単純な運動だ。おまえに出会ってからは、その処理も一人で済ませていた。……私が、どんな淫らな想像をして、自分を慰めていたか、教えてやろうか……?」

魔王はレイの耳元でそう囁き、反射的に後ずさりしようとしたレイの臀部に腕を回した。引き締まった双丘を服の上から揉みしだき、首筋に舌を這わせながら先を続ける。

「この2年間……飢えた私が何度、おまえの淫らな姿を想像して、果てたと思う……? ある時は、一糸纏わぬおまえの裸体を想像し、あらわになったおまえの秘所を舐め回り、またある時は、一枚ずつ脱がせておまえの肌を露出させてゆくのを想像し、着衣のまま下半身だけを露出させて、おまえを犯すのを想像し、それから……」

しっとりと湿り気を帯びた重低音が、レイの耳元で繰り出され、ぞわぞわと体中を這い回る。まるで声と言葉で魔王に犯されているように感じ、下半身が熱くなるのを、止めることができない。

「も……いい、魔王、さ、触るな、やめろ、俺、我慢できなくなるっ……!」

レイは身を捩って魔王から逃れようとしたが、ますます強く拘束され、焦り出した。
魔王に連れ込まれたこの小部屋は、どうやら掃除道具などをしまい込む用具置き場らしく、今は無人だが、いつ誰が入ってくるか分からない。
そう思った矢先、薄い引き戸の向こうで、人の足音が近づいてきた。
魔王は対面姿勢のままレイを抱え上げると、部屋の奥まで静かに移動し、引き戸から死角になる道具棚の陰に入った。
王宮内では魔導術の制限がかかっており、ごく短い距離を瞬時に跳ぶ術は使えないため、物理的に移動するしかない。小部屋には窓はなく、ひとつしかない出入り口の前に、先程聞こえた足音がピタリと止まった。
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