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Ⅱ 幽閉
30. 夜明け前の性急な繋がり(1)
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セラシャル葉の効能は抜群で、程なくレイの魔力は完全に回復していた。
昼間に眠りこけた上、魔力を完全に取り戻したレイは、当然ながらまったく眠くもならず、深夜を過ぎてもウロウロと、封印扉前の廊下を徘徊していた。
「遅いじゃないか……何してんだよ、あいつ……」
レイは魔王を待っていた。
いつもならとっくに来ている時間帯だが、待てど暮らせど、現れない。
(何かあったのか? ……いや、きっと仕事が終わらないんだろうな。昼間二度もここへ来たから、段取りが狂って……)
以前、魔王がちらっと明かしていたことを、レイは思い出した。この<最果ての間>に辿り着くには、複雑な迷路状の<霧の宮>を抜けた上、三つの封印扉を解呪しなくてはいけない。どれほどの手間と時間、そして労力が必要になるか、想像するに難くない。
レイはふと、ラルカの街の宿屋、『踊るイルカ亭』で、魔王と会った夜を思い出した。
――あれから2か月も経っていないというのに、もう何年も過去のような気がする。
あの夜、魔王は疲れきって、虚ろな目をしていた。
そしてレイの膝の上で寝息を立て、束の間の眠りに落ちた。
(あれは明らかに、何日もろくに寝てないという様子だったな……)
王様業が突然暇になるとは思えない。きっと今もあのときと同じように、魔王は多忙な日々を送っているに違いない。にもかかわらず、魔王は毎晩欠かさず、レイに会いに来る。そしてレイが目を覚ます頃には、もう<最果ての間>にはいない。
「あいつ……睡眠時間……とってるのか……? ここに来るのに、無理してるんじゃ……」
レイはぼそりと呟いた。
自業自得とは思うが、気になって仕方がない。
レイは封印扉前に座りこみ、ひたすら考え事をしながらぶつぶつと独り言を漏らしている。その様子を、シルファが少し離れたところから、心配げに見つめていた。
その後、明け方近くになって、やっと魔王が現れた。
思いがけずレイの出迎えを受けた魔王は、驚きと共に、大きく相好を崩した。
「レイ、待っていてくれたのか! 体は大丈夫なのか!?」
息も出来ないほどに強く抱きしめられ、レイは目眩を感じた。
――その心地よいともいえる目眩が、心因性であることを自覚しながら、レイは魔王の抱擁に身を任せた。
もう、自分に嘘はつけなかった。
魔王の匂いに包まれ、その腕に抱かれながら、レイはまたもや、込み上げてくる想いに涙腺が緩むのを感じ、慌てて魔王の抱擁を振り解いた。
「俺のことより、あんた、大丈夫なのか。……忙しいんだろ。無理してまで会いに来なくても……いいんだぜ……」
「おお……」
魔王は感極まったという表情で、震える手でレイの頬を撫でた。
「私の身を案じてくれるのか……。嬉しいぞ、レイ」
そう言うなり、いきなり唇を重ねてくる。
「やめろ!」
――シルファが見てる、と小声で付け加え、真っ赤になってうろたえているレイを、魔王は無造作に抱え上げた。
「では、二人きりになろう」
甘い囁きと共に、魔王の熱い息が耳元にかかり、抵抗しようとしたレイの体から、次第に力が抜けてゆく。
昼間に眠りこけた上、魔力を完全に取り戻したレイは、当然ながらまったく眠くもならず、深夜を過ぎてもウロウロと、封印扉前の廊下を徘徊していた。
「遅いじゃないか……何してんだよ、あいつ……」
レイは魔王を待っていた。
いつもならとっくに来ている時間帯だが、待てど暮らせど、現れない。
(何かあったのか? ……いや、きっと仕事が終わらないんだろうな。昼間二度もここへ来たから、段取りが狂って……)
以前、魔王がちらっと明かしていたことを、レイは思い出した。この<最果ての間>に辿り着くには、複雑な迷路状の<霧の宮>を抜けた上、三つの封印扉を解呪しなくてはいけない。どれほどの手間と時間、そして労力が必要になるか、想像するに難くない。
レイはふと、ラルカの街の宿屋、『踊るイルカ亭』で、魔王と会った夜を思い出した。
――あれから2か月も経っていないというのに、もう何年も過去のような気がする。
あの夜、魔王は疲れきって、虚ろな目をしていた。
そしてレイの膝の上で寝息を立て、束の間の眠りに落ちた。
(あれは明らかに、何日もろくに寝てないという様子だったな……)
王様業が突然暇になるとは思えない。きっと今もあのときと同じように、魔王は多忙な日々を送っているに違いない。にもかかわらず、魔王は毎晩欠かさず、レイに会いに来る。そしてレイが目を覚ます頃には、もう<最果ての間>にはいない。
「あいつ……睡眠時間……とってるのか……? ここに来るのに、無理してるんじゃ……」
レイはぼそりと呟いた。
自業自得とは思うが、気になって仕方がない。
レイは封印扉前に座りこみ、ひたすら考え事をしながらぶつぶつと独り言を漏らしている。その様子を、シルファが少し離れたところから、心配げに見つめていた。
その後、明け方近くになって、やっと魔王が現れた。
思いがけずレイの出迎えを受けた魔王は、驚きと共に、大きく相好を崩した。
「レイ、待っていてくれたのか! 体は大丈夫なのか!?」
息も出来ないほどに強く抱きしめられ、レイは目眩を感じた。
――その心地よいともいえる目眩が、心因性であることを自覚しながら、レイは魔王の抱擁に身を任せた。
もう、自分に嘘はつけなかった。
魔王の匂いに包まれ、その腕に抱かれながら、レイはまたもや、込み上げてくる想いに涙腺が緩むのを感じ、慌てて魔王の抱擁を振り解いた。
「俺のことより、あんた、大丈夫なのか。……忙しいんだろ。無理してまで会いに来なくても……いいんだぜ……」
「おお……」
魔王は感極まったという表情で、震える手でレイの頬を撫でた。
「私の身を案じてくれるのか……。嬉しいぞ、レイ」
そう言うなり、いきなり唇を重ねてくる。
「やめろ!」
――シルファが見てる、と小声で付け加え、真っ赤になってうろたえているレイを、魔王は無造作に抱え上げた。
「では、二人きりになろう」
甘い囁きと共に、魔王の熱い息が耳元にかかり、抵抗しようとしたレイの体から、次第に力が抜けてゆく。
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