虹の月 貝殻の雲

たいよう一花

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Ⅱ 幽閉

9. 二度目の交わり(1)

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魔力を使い果たし、無防備に眠りについたことを、レイは後悔した。

「魔王……!」

夜半過ぎ、気付いたときにはもう遅く、既に裸に剥かれ、魔王に組み敷かれている状態だった。
抵抗しようとしたが、手足が重く、自由に動かない。
どうやら緩い束縛の術が、手足にかけられているようだ。動かすことはできるが、力がこもらず、わずかな動作にも息が上がる。

「暴れるな、レイ。……この間は、悪かった。二度とあのような乱暴はしない。だから……どうか私を拒まないでくれ」

「勝手なことを言うな!」

――無理やり攫われ、閉じ込められているというのに、その上、黙って体を差し出せというのか。

レイは激しい怒りと共に、あの夜受けた苦痛と恐怖を思い出し、肌を粟立たせた。

「やめろ! 俺に触るな! いやだ、いやだ、いやだっ!」

繰り返される拒絶の言葉に、魔王は悲しげに顔を歪ませ、レイの頬を両手で包みこんだ。そしてなだめるように優しく、唇を重ね合わせる。

「や……めろ…! んっ……んんっ……!」

レイはこぶしを固めると、渾身の力を込めて魔王の胸を打った。しかし術によって体の動きを制限されているため、こぶしは弱々しくコツンと当たったに過ぎない。
力で抗うのを諦め、魔導術を使って振り払おうとしたが、昼間に魔力を消費し過ぎたせいか、満足に術を振るうことも叶わない。
どうすることもできず、レイは心中で悲鳴を上げた。

(いやだ……いやだ……いやだ!いやだ!いやだっ!!)

陵辱の記憶がレイの脳裏に鮮やかに甦り、あのとき死を感じ取った心が、再び襲い掛かってきた脅威に、激しい拒否反応を示す。

レイの恐怖を肌で感じながら、魔王は後悔と自責の念に駆られた。
愛する者をこれほど怯えさせているのは、他ならぬ自分自身なのだ。
そう思うといたたまれず、魔王は何とかレイをなだめようと、優しい口付けを繰り返した。
ついばむようにそっと吸い上げ、軽く舌を這わせて唾液を絡ませる。そうして徐々に力を込め、互いの唇が濡れそぼる頃には、息が上がるほど、深く唇を合わせていた。

「はっ……あっ……んんっ……ふ……!」

レイはぞくぞくと体を震わせた。

(くそっ……! まただ……)

口付けひとつで、反応してしまう体。
疼くような熱を帯び、体の中心で欲望が頭をもたげ出す。

それに気付いた魔王は、レイの頬から右手を離し、首筋から胸へ、胸から腹へと、ゆっくりと弄りながら指を這わせた。
魔王の愛撫を受け、敏感な体が反応してしまうのを、レイには止めようがなかった。

「はっ……! あぁっ! ……ん……んぅっ!」

合わさった唇の隙間から、甘い喘ぎ声が漏れる。

やがて魔王の指が、レイのへその上を通過し、硬くなり始めた局部へと到達した。根元部分の丸い膨らみを、やんわりと掴んだ後、そのまま指を滑らせるように、竿の裏筋を刺激しながら先端部分へと向かう。

「はぁっ! あっ、ぅくっ……! さわ……んなっ! んんん!」

唇を解放せず、なおもしつこく吸い続けながら、魔王はその大きな手の中にレイ自身をすっぽり包むと、ゆっくりとしごき始めた。

「ぁあっ……! ん、んん! ん、くぅっ!」

レイの目じりに溜まっていた涙が、つっ、と耳の方へと滑り落ちてゆく。それが悔し涙なのか、快楽からにじみ出たものなのか、自分でも、もう分からない。
魔王に引き出されてゆく欲望が、体全体に甘い痺れを伝達し、快感に支配された頭から、思考能力を奪ってゆく。

「あぁっ……あっ……はぁっ……はぁっ、んくっ……んぅ!」

「レイ……ああ、レイ、愛してる……」

口付けの合間に、何度も魔王の囁きが繰り返される。
混じり合った互いの唾液が口元を濡らし、ゆっくりとレイの首筋を伝い降りていった。
愛してる、と囁かれる度、レイの胸がざわざわと騒ぎ出す。

(俺は……俺は……)

戸惑いながら、レイは薄目を開けて、魔王の顔をぼんやりと見つめた。

(応えたい……のか? この男の……想いに……)

痛みに似た切ない感情が、胸中に渦巻き、出口を求めて喘いでいた。

「愛してる……レイ」

魔王の赤い双眸が、レイの視線を捉えた。
その瞬間、レイの鼓動が跳ね上がり、額の一点がカッと燃えるように疼き出した。

「あっ…! ……つぅっ! うっ、んん!」

それと同時に、魔王の手の中で休みなく刺激を受けていたものが、勢いよく白濁した液体をほとばしらせる。

「あっ、ああっ! くっ!」

びくびくと体を痙攣させ、すべてを吐き出した後、レイはぐったりとシーツに身を沈め、息を弾ませながら快楽の余韻に浸った。
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