虹の月 貝殻の雲

たいよう一花

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照明をすべて落とした部屋の中、天蓋付きの豪華な寝台の上。
筋骨逞しく大柄な魔族の男が、まだ少年の域を出たばかりの人間の青年を、組み敷いていた。
それはまるで、しなやかな若鹿が、金のたてがみの巨大な獅子に、屠られているかのようだった。

ねっとりとした暗闇に絡みつくように、二人の男の荒い息遣いが響く。
青年の上に覆いかぶさり、自身の欲望を深く彼に埋め込みながら、男は荒い息の合間に囁いた。

「レイ……今夜こそ、いい返事を……聞かせてくれ。私の申し出を受け入れ……私の妻に………なってくれるな?」

レイ、と呼ばれた青年は、固く閉じていた目を開き、うめき声と共にたった一言、返事を吐き出す。

「嫌だ」

レイのまなじりから、生理的に滲んだ涙が一筋、零れ落ちる。
その涙を魔族の男は舐めとり、そのまま長い舌を唇へと這わせると、たった今、男の望まぬ言葉を吐き出した口をふさぎ、深く唇を重ね合わせた。

「んっ…ん……。ふ……うぅ……ん……ああ」

長い、激しい口付けに、レイが呼吸を求めて喘ぎだす。男の執拗な口付けから逃れるために抵抗を試みるが、あっさりと封じられ、なおも激しく唇を吸われ続けた。

「やめてくれ……ん、んんっ……ま、おう………魔王、もう、やめてくれ!」

魔王、と呼ばれた男は、口づけを中断すると、レイの耳元で囁いた。

「いつまで抵抗を続けるつもりだ? レイ、おまえは私の妻になるために生まれてきた。運命に抗うなど無駄なことはやめて、身も、心も、魂も、私に委ねるがいい」

抵抗を封じるために掴んでいたレイの両手を離すと、魔王はレイの黒髪を愛おし気に指に絡ませる。

「美しい髪だな…今のように短髪も魅力的だが、私の妃になったら、のばしてもらうぞ。おまえはそのままでも十分美しいが、着飾れば月の女神も嫉妬するほど美形の妃となるだろう。金の装飾の髪飾りが、長い黒髪にさぞかし映えるであろうな」

うっとりと想像にふける魔王をよそに、レイは冷たい声で言い放つ。

「俺は妃になんかならない。髪は俺の好きにする。短い方が、俺の稼業では手入れが簡単だ」

魔王はため息をつき、

「まったく強情なやつだ……。おまえの体は、私とのつながりで、こんなにも高ぶっているというのに」

そう言いながら、大きな手のひらでレイの屹立した男根を包み、濡れそぼった先端を親指で刺激しつつ、もう一方の手で竿の部分をこすりはじめる。

途端にレイは体を震わせ、声をあげた。

「うっ……ああ! やめろ、触るな……あっ、くそっ!このっ……変態王!」

「この私に向かって、そのような悪態を放っておきながら許されるのは、この世でただおまえひとりだ。なぜだか分かるか?………知っているだろうが、何度でも言ってやる……」

レイの髪に、額に、唇に口付けを繰り返しながら、魔王は囁いた。

「私がおまえを、愛しているからだ」

――声までもが、レイを蹂躙じゅうりんし、犯す。

魔王の深い低音に、優しく全身を嬲られているかのように感じ、レイはその身を震わせた。
拒絶の意志とは裏腹に、魔王の執拗な口付けが額に落ちると、体中がわななき、形容しがたい切ない思いが、溢れて飛び出してきそうだった。

(なんで……こんなことになったんだ………なんで俺は、友人だと思っていた魔王こいつと………こんなことになっているんだ………)

魔王にさらわれてから、何度も答えのない疑問を繰り返してきた。

さらわれ、城の一角に幽閉され、毎晩体をつなげる行為を強制され、もう十日が経とうとしている。

何度も何度も、考えずにいられなかった。どこかで何かを間違えたのかと。

魔王と過ごした、まだ友人だった日々の、あまたの出来事を何度も掘り返す。そこにもしかしたら、現状を脱却するすべがあるかもしれないと。

(あの日…ラルカの街で……魔王の求婚を、もっと上手に断っていたら………何か変わっていただろうか………)

ひと月半ほど前のこと、人間界のラルカの街での出来事を、レイは思い返していた――。
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