たったの五文字

──……その五文字の中に、彼は何かを隠していて、私は何かを忘れている。


 物語の中のような錬金術師になることを夢見て、名門魔法学園に通う純真な少女、シェルタ。ひょんなことから騎士科の先輩である剣の天才、レクスと知り合い、彼が時折見せる寂し気な表情に惹かれていく。

「綺麗だとか、見え透いたお世辞はいーよ。魔法科の連中が見たら鼻で笑うようなもんでしょ。……言っとくけど、俺は騎士科で本分は剣だし、さっきのは気まぐれでやっただけだから。俺にとって魔法なんて、……何にも価値のあるものじゃ、ないし」

「え? ま、魔法、大好きなんじゃないんですか?」

「──、……なんで、」
 
 やがて念願叶い、レクスの恋人になることができたシェルタ。夢心地な日々を過ごしていたけれど、どうして彼が自分を選んでくれたのか分からず、徐々に不安が降り積もっていく。

「レ、レクス先輩……ぁ、あい、してる」

「ふ、耳まで真っ赤。すげぇ可愛い、……俺のシェルタ」

 レクスはシェルタにばかり言葉を求めるけれど、決して好きだとも、愛してるとも言ってはくれないし、触れようともしない。彼からの言葉が欲しいと、作戦を立てたシェルタは奮闘する。けれどそんなシェルタに、彼の様子は徐々におかしくなって──……

「……シェルちゃんに、触んないで」

「嫌だ、シェルちゃん……言ってよ、いつもみたいに、お願いだから……っ」

 たったの五文字を巡って、二人の想いはすれ違い、やがてその恋は思いもしない方向に転がり落ちていく。


「俺さ、ほんとの魔法使いには、なれなかったけど。……でも、俺だって、シェルちゃんのこと……ちゃんと、守れるよ。……だから」


 叶った恋と、置いてきた夢と、その裏側の誰かの痛みの話。

小説家になろう様、カクヨム様にも投稿しています。
 
24h.ポイント 7pt
171
小説 36,139 位 / 194,472件 恋愛 16,349 位 / 57,859件

あなたにおすすめの小説

【完結】失いかけた君にもう一度

暮田呉子
恋愛
偶然、振り払った手が婚約者の頬に当たってしまった。 叩くつもりはなかった。 しかし、謝ろうとした矢先、彼女は全てを捨てていなくなってしまった──。

ご安心を、2度とその手を求める事はありません

ポチ
恋愛
大好きな婚約者様。 ‘’愛してる‘’ その言葉私の宝物だった。例え貴方の気持ちが私から離れたとしても。お飾りの妻になるかもしれないとしても・・・ それでも、私は貴方を想っていたい。 独り過ごす刻もそれだけで幸せを感じられた。たった一つの希望

もう一度7歳からやりなおし!王太子妃にはなりません

片桐葵
恋愛
いわゆる悪役令嬢・セシルは19歳で死亡した。 皇太子のユリウス殿下の婚約者で高慢で尊大に振る舞い、義理の妹アリシアとユリウスの恋愛に嫉妬し最終的に殺害しようとした罪で断罪され、修道院送りとなった末の死亡だった。しかし死んだ後に女神が現れ7歳からやり直せるようにしてくれた。 もう一度7歳から人生をやり直せる事になったセシル。

もういいです、離婚しましょう。

うみか
恋愛
そうですか、あなたはその人を愛しているのですね。 もういいです、離婚しましょう。

結婚30年、契約満了したので離婚しませんか?

おもちのかたまり
恋愛
恋愛・小説 11位になりました! 皆様ありがとうございます。 「私、旦那様とお付き合いも甘いやり取りもしたことが無いから…ごめんなさい、ちょっと他人事なのかも。もちろん、貴方達の事は心から愛しているし、命より大事よ。」 眉根を下げて笑う母様に、一発じゃあ足りないなこれは。と確信した。幸い僕も姉さん達も祝福持ちだ。父様のような力極振りではないけれど、三対一なら勝ち目はある。 「じゃあ母様は、父様が嫌で離婚するわけではないんですか?」 ケーキを幸せそうに頬張っている母様は、僕の言葉にきょとん。と目を見開いて。…もしかすると、母様にとって父様は、関心を向ける程の相手ではないのかもしれない。嫌な予感に、今日一番の寒気がする。 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇ 20年前に攻略対象だった父親と、悪役令嬢の取り巻きだった母親の現在のお話。 ハッピーエンド・バットエンド・メリーバットエンド・女性軽視・女性蔑視 上記に当てはまりますので、苦手な方、ご不快に感じる方はお気を付けください。

私の知らぬ間に

豆狸
恋愛
私は激しい勢いで学園の壁に叩きつけられた。 背中が痛い。 私は死ぬのかしら。死んだら彼に会えるのかしら。

愛のゆくえ【完結】

春の小径
恋愛
私、あなたが好きでした ですが、告白した私にあなたは言いました 「妹にしか思えない」 私は幼馴染みと婚約しました それなのに、あなたはなぜ今になって私にプロポーズするのですか? ☆12時30分より1時間更新 (6月1日0時30分 完結) こう言う話はサクッと完結してから読みたいですよね? ……違う? とりあえず13日後ではなく13時間で完結させてみました。 他社でも公開

もう尽くして耐えるのは辞めます!!

月居 結深
恋愛
 国のために決められた婚約者。私は彼のことが好きだったけど、彼が恋したのは第二皇女殿下。振り向いて欲しくて努力したけど、無駄だったみたい。  婚約者に蔑ろにされて、それを令嬢達に蔑まれて。もう耐えられない。私は我慢してきた。国のため、身を粉にしてきた。  こんなにも報われないのなら、自由になってもいいでしょう?  小説家になろうの方でも公開しています。 2024/08/27  なろうと合わせるために、ちょこちょこいじりました。大筋は変わっていません。