妄想女医・藍原香織の診察室

Piggy

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妄想編

57話【off duty】新條 浩平:119番(藍原編)②

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 それから1時間くらい待っただろうか。家族用の待機室の扉が開いて、桜庭くんがやってきた。マスクを取り、笑顔を浮かべる。

「おう、藍原。おまえのお隣さん、落ち着いたよ」
「ほんと!?」
「ああ、おまえの見立て通り、緊張性気胸だった。心臓が圧排されて循環不全だったけど、すぐドレーンを入れて、今は肺もかなり膨らんだ。心不全も解除されて、血圧も100まで戻ったよ。意識も清明。話せるよ。会うか?」
「うん!」

 桜庭くんについて、病室へ向かう。途中で、桜庭くんがあたしの背中を軽く叩いた。

「おまえの緊急処置、ばっちりだった。さすがだな。あの数分を時間稼ぎできていなかったら、ヤバかったかもしれない」

 よかった。あれで、よかったんだ。すごくほっとする。

「新條さん、面会。藍原先生だよ」

 新條くんが、ベッドの上でゆっくりと振り返った。鼻からは酸素を吸い、腕には点滴、胸には空気を抜くためのドレーンが入ってる。

「藍原先生が、たまたま君の部屋を訪ねて発見したらしいね? よかったね、藍原先生が見つけてくれなかったら、君、今頃死んでたよ。命の恩人だね」

 そういって桜庭くんは去っていった。

「新條くん、大丈夫?」

 そっと近づいて、隣に腰を下ろす。……新條くん、ひどい顔色をして、目もうつろだわ。可哀想に、まさか自分が死にかけるなんて、思いもしないわよね。

「ここ、M病院よ。わかる? あなたの部屋の鍵が開いててよかったわ。じゃないとあたし、気づかなかった」

 布団の横からはみ出している、新條くんの冷えた手をそっと握る。

「……先生……藍原、先生……」

 呻くように呟いて、新條くんがもそもそとあたしのほうを向こうとする。

「ああ、まだ動かなくていいわよ。胸に管も入ってるし、安静にしてないと――」

 半分開いた目を、あたしに向ける。新條くんの手が、きゅっとあたしの手を握った。

「好き……」

「え?」

「先生、好き……」

 途切れ途切れに、寝言でもいうように、新條くんが呟いた。
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