58 / 309
妄想編
57話【off duty】新條 浩平:119番(藍原編)②
しおりを挟む
それから1時間くらい待っただろうか。家族用の待機室の扉が開いて、桜庭くんがやってきた。マスクを取り、笑顔を浮かべる。
「おう、藍原。おまえのお隣さん、落ち着いたよ」
「ほんと!?」
「ああ、おまえの見立て通り、緊張性気胸だった。心臓が圧排されて循環不全だったけど、すぐドレーンを入れて、今は肺もかなり膨らんだ。心不全も解除されて、血圧も100まで戻ったよ。意識も清明。話せるよ。会うか?」
「うん!」
桜庭くんについて、病室へ向かう。途中で、桜庭くんがあたしの背中を軽く叩いた。
「おまえの緊急処置、ばっちりだった。さすがだな。あの数分を時間稼ぎできていなかったら、ヤバかったかもしれない」
よかった。あれで、よかったんだ。すごくほっとする。
「新條さん、面会。藍原先生だよ」
新條くんが、ベッドの上でゆっくりと振り返った。鼻からは酸素を吸い、腕には点滴、胸には空気を抜くためのドレーンが入ってる。
「藍原先生が、たまたま君の部屋を訪ねて発見したらしいね? よかったね、藍原先生が見つけてくれなかったら、君、今頃死んでたよ。命の恩人だね」
そういって桜庭くんは去っていった。
「新條くん、大丈夫?」
そっと近づいて、隣に腰を下ろす。……新條くん、ひどい顔色をして、目もうつろだわ。可哀想に、まさか自分が死にかけるなんて、思いもしないわよね。
「ここ、M病院よ。わかる? あなたの部屋の鍵が開いててよかったわ。じゃないとあたし、気づかなかった」
布団の横からはみ出している、新條くんの冷えた手をそっと握る。
「……先生……藍原、先生……」
呻くように呟いて、新條くんがもそもそとあたしのほうを向こうとする。
「ああ、まだ動かなくていいわよ。胸に管も入ってるし、安静にしてないと――」
半分開いた目を、あたしに向ける。新條くんの手が、きゅっとあたしの手を握った。
「好き……」
「え?」
「先生、好き……」
途切れ途切れに、寝言でもいうように、新條くんが呟いた。
「おう、藍原。おまえのお隣さん、落ち着いたよ」
「ほんと!?」
「ああ、おまえの見立て通り、緊張性気胸だった。心臓が圧排されて循環不全だったけど、すぐドレーンを入れて、今は肺もかなり膨らんだ。心不全も解除されて、血圧も100まで戻ったよ。意識も清明。話せるよ。会うか?」
「うん!」
桜庭くんについて、病室へ向かう。途中で、桜庭くんがあたしの背中を軽く叩いた。
「おまえの緊急処置、ばっちりだった。さすがだな。あの数分を時間稼ぎできていなかったら、ヤバかったかもしれない」
よかった。あれで、よかったんだ。すごくほっとする。
「新條さん、面会。藍原先生だよ」
新條くんが、ベッドの上でゆっくりと振り返った。鼻からは酸素を吸い、腕には点滴、胸には空気を抜くためのドレーンが入ってる。
「藍原先生が、たまたま君の部屋を訪ねて発見したらしいね? よかったね、藍原先生が見つけてくれなかったら、君、今頃死んでたよ。命の恩人だね」
そういって桜庭くんは去っていった。
「新條くん、大丈夫?」
そっと近づいて、隣に腰を下ろす。……新條くん、ひどい顔色をして、目もうつろだわ。可哀想に、まさか自分が死にかけるなんて、思いもしないわよね。
「ここ、M病院よ。わかる? あなたの部屋の鍵が開いててよかったわ。じゃないとあたし、気づかなかった」
布団の横からはみ出している、新條くんの冷えた手をそっと握る。
「……先生……藍原、先生……」
呻くように呟いて、新條くんがもそもそとあたしのほうを向こうとする。
「ああ、まだ動かなくていいわよ。胸に管も入ってるし、安静にしてないと――」
半分開いた目を、あたしに向ける。新條くんの手が、きゅっとあたしの手を握った。
「好き……」
「え?」
「先生、好き……」
途切れ途切れに、寝言でもいうように、新條くんが呟いた。
0
お気に入りに追加
82
あなたにおすすめの小説
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話
矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」
「あら、いいのかしら」
夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……?
微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。
※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。
※小説家になろうでも同内容で投稿しています。
※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。
就職面接の感ドコロ!?
フルーツパフェ
大衆娯楽
今や十年前とは真逆の、売り手市場の就職活動。
学生達は賃金と休暇を貪欲に追い求め、いつ送られてくるかわからない採用辞退メールに怯えながら、それでも優秀な人材を発掘しようとしていた。
その業務ストレスのせいだろうか。
ある面接官は、女子学生達のリクルートスーツに興奮する性癖を備え、仕事のストレスから面接の現場を愉しむことに決めたのだった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる