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障害編
80話【off duty】佐々木 楓:「やっぱり、何かあったんだ?」(楓編)②
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……何それ。何それ、何それ。
聞いているうちに、めらめらと怒りが湧き上がってきた。
「それで、新條くんは、なんて?」
「酔っぱらっちゃって、断り切れなくて、ごめん、って……。梨沙ちゃんにどんどん飲まされて、断れる雰囲気じゃなかったって。それで、自分からする気はなかったのに、うっかり潰れて気がついたら、梨沙ちゃんのほうが……してきた、って……」
うそでしょ、戸叶先生のほうから? いや、悪いけど、新條くんがイケメンならまだわかるわよ? でも……新條くんでしょ? あの戸叶先生が、自分から新條くんに、手出すなんて、ある? ……まぁでも、新條くんから手を出すなんていうのも、ちょっと信じがたいけど。
「それで先生、今日ショックでお休みしたんだ? そうだよね、戸叶先生に、会わなきゃいけないもんね?」
「……ううん、今日は本当に、風邪。確かにね、ショックだったけど……仕事に、持ち込むわけにはいかないから。こんな私的な理由で、患者さんに迷惑かけるわけにはいかないもの。だけど、本当に昨夜から熱が出ちゃって」
そっか、あまりのショックで、熱が……。
「じゃあ、新條くんとは、喧嘩したまま?」
藍原先生は複雑な顔をした。
「喧嘩とかではなくて……。あたしは新條くんのいうことを信じてるし、今だって新條くんが好き。はじめは許せないって思ったけど、でも……やっぱり好きだから……たくさん体を綺麗にして、仲直りみたいなことは、した……」
そういった瞬間、先生のほっぺがぽっと赤く染まる。……あ、そういうこと? たくさん体を綺麗にして、そのまま風呂場かなんかで仲直りのえっちをしたわけね。だから風邪なんてひいちゃったのか。
「まだよくわからないけど、新條くんとは、元に戻れると、思ってる。でも……でもあたし、どうしても納得できなくて。どうして、梨沙ちゃんは新條くんにそんなこと……。梨沙ちゃんも、新條くんを好きになっちゃったってこと? でも、初めて会って1時間も経たずに、そんなことに。っていうかあたし、彼氏が新條くんだとか、お隣さんだとか、話したことないし。新條くんは、あたしにいわれたから梨沙ちゃんを部屋にあげたっていうの。でもあたし、そんなこといってないし……」
え? 先生、梨沙ちゃんに彼氏の話、してなかったの? ……それってつまり……。
「……先生。ごめん、それ話したの、あたしだ……」
「え?」
先生がぱっと顔をあげた。うわ、どうしよう。うっかりあたしが話したから、こんなことに……!?
「先生ごめん! あたし、戸叶先生に訊かれて、ついうっかりお隣さんが彼氏だって、話しちゃったの! どうしよう、あたしのせいだ……」
あたしが話してなければ……ああどうしよう、あたしのせいで、藍原先生が。一気に血の気が引いていくあたしを、藍原先生が慌てて慰めてくれた。
「ああっ、いいのよ楓ちゃん、それはいいの、どうせあたしも訊かれたら答えるような話だし。そんなこと知ったからって、こうなるなんて誰にも予想できないもの。でも……そういえば西園寺先生は、梨沙ちゃんに彼氏のこと話すなっていってて……どうしてかしら、梨沙ちゃんが新條くんを好きになるって、わかってたのかしら……」
藍原先生、やっぱりどうしても納得がいかないらしい。でも……わかる。素直で純粋な藍原先生にはわからなくても、あたしにはわかる。
「……先生。戸叶先生って、岡林先生や東海林先生と同期だよね?」
「ええ、そうだけど……」
「あたしが、確かめてあげる」
そういって、カバンから携帯を取り出す。途端に藍原先生が慌てだした。
「えっ、ちょっと待って、誰にかけるの!? り、梨沙ちゃんじゃないわよね!? あたし、まだ、心の準備が……!」
「違います。東海林先生。東海林先生なら、精神科だからどうせこの時間でも暇でしょ」
「そ、そういう言い方はどうかとは思うけど、え、勤務中なのに電話しちゃうの!?」
「大丈夫。東海林先生調子いいから、何でも話してくれますよ」
「待ってよ、だからってどうして東海林くんなの――」
藍原先生に説明するのもまどろっこしいから、無視して病院に電話。
『はい、M病院です』
「4階中央病棟のナースの佐々木です。精神科の東海林先生、お願いします」
3回のコールで、東海林先生が出た。
『楓さん! お久しぶりっす。どうしたんすか、こんな時間に外線で。急用っすか』
「東海林先生。ちょっと訊きたいことがあるんですけど、今、こっそり話せます?」
『えっ、なになにっ、内緒話!? いいよいいよ、何でもいいっすよ!』
途端に興味津々で場所を変える様子の東海林先生。やっぱり食いつきがいいし、やっぱり暇なんだ。
『……どうしたんすか』
「先生、戸叶先生と同期ですよね?」
『そうっすけど。戸叶の話?』
「……戸叶先生が、藍原先生の彼氏に、手ぇ出した」
『ええええっ!? ま、マジっすか!? え、凛太郎くんにですか!?』
は? 凛太郎くん? ……って、確か、画家の林さんのおつきの? なんでここに凛太郎くんが登場するの。
「違いますよ。凛太郎くんじゃなくて、藍原先生の彼氏」
『え、それ、凛太郎くんじゃないんすか? 戸叶がそういってましたけど。うわ、マジかあいつ、すげぇ藍原先生の彼氏に興味津々だとは思ってたけど、まさか本当に手ぇ出すとはなあ……嘘だろ、だって直属の上司じゃん?』
むむ? 凛太郎くんはさておき、気になる言い方。
「最初から、興味津々だったんだ?」
『うん。あいつ、人のモノ欲しがる癖があって、学生時代もよく女友達の彼氏寝とって修羅場になってたから。いやでもさあ、ふつう自分の医局の先輩の彼氏には手ぇ出さないっしょ。ああでも、凛太郎くんだったら欲しくなっても仕方ないかぁ』
……なるほどね。全部、つながった。凛太郎くんの話は初耳だけど、藍原先生の元カレにも手を出したっぽいし、それが不発だったから、今度はあたしから仕入れた情報で、先生の彼氏を……。とうとう目的を達して、今朝はあんなに上機嫌で。
「……東海林先生。今の話、秘密にしといてくださいよ?」
『えーっ、じゃあさあ、口止め料に今度合コンセッティングしてくださいよ~』
「はいはい、また今度」
電話を切って、藍原先生の顔を見る。先生、不安そうな壊れそうな顔であたしをじっと見てる。
……ムカつく。ゲキレツにムカついてきた。戸叶先生。明るくて社交的で、ちょっと垣根が低すぎると思ってたけど、それどころじゃなかった。最悪だ。女の敵じゃん。あたしが一番嫌いなタイプ。
「楓ちゃん……何かわかったの?」
あたしは藍原先生の手を握りしめた。
聞いているうちに、めらめらと怒りが湧き上がってきた。
「それで、新條くんは、なんて?」
「酔っぱらっちゃって、断り切れなくて、ごめん、って……。梨沙ちゃんにどんどん飲まされて、断れる雰囲気じゃなかったって。それで、自分からする気はなかったのに、うっかり潰れて気がついたら、梨沙ちゃんのほうが……してきた、って……」
うそでしょ、戸叶先生のほうから? いや、悪いけど、新條くんがイケメンならまだわかるわよ? でも……新條くんでしょ? あの戸叶先生が、自分から新條くんに、手出すなんて、ある? ……まぁでも、新條くんから手を出すなんていうのも、ちょっと信じがたいけど。
「それで先生、今日ショックでお休みしたんだ? そうだよね、戸叶先生に、会わなきゃいけないもんね?」
「……ううん、今日は本当に、風邪。確かにね、ショックだったけど……仕事に、持ち込むわけにはいかないから。こんな私的な理由で、患者さんに迷惑かけるわけにはいかないもの。だけど、本当に昨夜から熱が出ちゃって」
そっか、あまりのショックで、熱が……。
「じゃあ、新條くんとは、喧嘩したまま?」
藍原先生は複雑な顔をした。
「喧嘩とかではなくて……。あたしは新條くんのいうことを信じてるし、今だって新條くんが好き。はじめは許せないって思ったけど、でも……やっぱり好きだから……たくさん体を綺麗にして、仲直りみたいなことは、した……」
そういった瞬間、先生のほっぺがぽっと赤く染まる。……あ、そういうこと? たくさん体を綺麗にして、そのまま風呂場かなんかで仲直りのえっちをしたわけね。だから風邪なんてひいちゃったのか。
「まだよくわからないけど、新條くんとは、元に戻れると、思ってる。でも……でもあたし、どうしても納得できなくて。どうして、梨沙ちゃんは新條くんにそんなこと……。梨沙ちゃんも、新條くんを好きになっちゃったってこと? でも、初めて会って1時間も経たずに、そんなことに。っていうかあたし、彼氏が新條くんだとか、お隣さんだとか、話したことないし。新條くんは、あたしにいわれたから梨沙ちゃんを部屋にあげたっていうの。でもあたし、そんなこといってないし……」
え? 先生、梨沙ちゃんに彼氏の話、してなかったの? ……それってつまり……。
「……先生。ごめん、それ話したの、あたしだ……」
「え?」
先生がぱっと顔をあげた。うわ、どうしよう。うっかりあたしが話したから、こんなことに……!?
「先生ごめん! あたし、戸叶先生に訊かれて、ついうっかりお隣さんが彼氏だって、話しちゃったの! どうしよう、あたしのせいだ……」
あたしが話してなければ……ああどうしよう、あたしのせいで、藍原先生が。一気に血の気が引いていくあたしを、藍原先生が慌てて慰めてくれた。
「ああっ、いいのよ楓ちゃん、それはいいの、どうせあたしも訊かれたら答えるような話だし。そんなこと知ったからって、こうなるなんて誰にも予想できないもの。でも……そういえば西園寺先生は、梨沙ちゃんに彼氏のこと話すなっていってて……どうしてかしら、梨沙ちゃんが新條くんを好きになるって、わかってたのかしら……」
藍原先生、やっぱりどうしても納得がいかないらしい。でも……わかる。素直で純粋な藍原先生にはわからなくても、あたしにはわかる。
「……先生。戸叶先生って、岡林先生や東海林先生と同期だよね?」
「ええ、そうだけど……」
「あたしが、確かめてあげる」
そういって、カバンから携帯を取り出す。途端に藍原先生が慌てだした。
「えっ、ちょっと待って、誰にかけるの!? り、梨沙ちゃんじゃないわよね!? あたし、まだ、心の準備が……!」
「違います。東海林先生。東海林先生なら、精神科だからどうせこの時間でも暇でしょ」
「そ、そういう言い方はどうかとは思うけど、え、勤務中なのに電話しちゃうの!?」
「大丈夫。東海林先生調子いいから、何でも話してくれますよ」
「待ってよ、だからってどうして東海林くんなの――」
藍原先生に説明するのもまどろっこしいから、無視して病院に電話。
『はい、M病院です』
「4階中央病棟のナースの佐々木です。精神科の東海林先生、お願いします」
3回のコールで、東海林先生が出た。
『楓さん! お久しぶりっす。どうしたんすか、こんな時間に外線で。急用っすか』
「東海林先生。ちょっと訊きたいことがあるんですけど、今、こっそり話せます?」
『えっ、なになにっ、内緒話!? いいよいいよ、何でもいいっすよ!』
途端に興味津々で場所を変える様子の東海林先生。やっぱり食いつきがいいし、やっぱり暇なんだ。
『……どうしたんすか』
「先生、戸叶先生と同期ですよね?」
『そうっすけど。戸叶の話?』
「……戸叶先生が、藍原先生の彼氏に、手ぇ出した」
『ええええっ!? ま、マジっすか!? え、凛太郎くんにですか!?』
は? 凛太郎くん? ……って、確か、画家の林さんのおつきの? なんでここに凛太郎くんが登場するの。
「違いますよ。凛太郎くんじゃなくて、藍原先生の彼氏」
『え、それ、凛太郎くんじゃないんすか? 戸叶がそういってましたけど。うわ、マジかあいつ、すげぇ藍原先生の彼氏に興味津々だとは思ってたけど、まさか本当に手ぇ出すとはなあ……嘘だろ、だって直属の上司じゃん?』
むむ? 凛太郎くんはさておき、気になる言い方。
「最初から、興味津々だったんだ?」
『うん。あいつ、人のモノ欲しがる癖があって、学生時代もよく女友達の彼氏寝とって修羅場になってたから。いやでもさあ、ふつう自分の医局の先輩の彼氏には手ぇ出さないっしょ。ああでも、凛太郎くんだったら欲しくなっても仕方ないかぁ』
……なるほどね。全部、つながった。凛太郎くんの話は初耳だけど、藍原先生の元カレにも手を出したっぽいし、それが不発だったから、今度はあたしから仕入れた情報で、先生の彼氏を……。とうとう目的を達して、今朝はあんなに上機嫌で。
「……東海林先生。今の話、秘密にしといてくださいよ?」
『えーっ、じゃあさあ、口止め料に今度合コンセッティングしてくださいよ~』
「はいはい、また今度」
電話を切って、藍原先生の顔を見る。先生、不安そうな壊れそうな顔であたしをじっと見てる。
……ムカつく。ゲキレツにムカついてきた。戸叶先生。明るくて社交的で、ちょっと垣根が低すぎると思ってたけど、それどころじゃなかった。最悪だ。女の敵じゃん。あたしが一番嫌いなタイプ。
「楓ちゃん……何かわかったの?」
あたしは藍原先生の手を握りしめた。
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