妄想女医・藍原香織の診察室

Piggy

文字の大きさ
上 下
176 / 309
迷走編

46話【off duty】戸叶 梨沙 26歳:新歓飲み会(藍原編)

しおりを挟む
「それでは改めまして、戸叶先生、入局おめでとう! これからよろしく! カンパーイ!」

 新病棟長ということで、新内科部長の西園寺先生から指名され、乾杯の発声を取る。金曜日の夜は、どうしても弾けちゃう。居酒屋の座敷で、みんな思い思いに飲み始めた。

「藍原せんせーい! よっ、新病棟長! これからもよろしくお願いしまっす!」

 早速楓ちゃんがやってくる。……楓ちゃん、もう顔が赤いけど、大丈夫かしら? ペース速すぎない?

「よろしく、楓ちゃん。何かあったら助けてね」
「もちろんです!」

 楓ちゃん、今日はとっても機嫌がいいみたい。ニコニコしながらあたしにすり寄ってくる。

「あたしね、藍原先生と友達になれて、すっごく幸せですぅ~」
「どうしたの急に、楓ちゃんてば」
「先生の知らないところで、いろいろあったんですよ~。あたし、基本的に女って信用してないんですけど、藍原先生だけは~、もう完璧に信頼しちゃいます! 大好きですぅ~」

 うれしいけど、楓ちゃん、ちょっと酔っぱらいすぎじゃないかしら? そんな楓ちゃんの背後から、梨沙ちゃんが抱きついてきた。

「何ですか、愛の告白ですかぁ~? いやん、先生たちデキてるんですかぁ?」

 おっと、ここに楓ちゃんよりハイペースで酔っぱらってる女子が……。梨沙ちゃん、顔色は全然変わってないけど、これ、さすがに酔っ払いのテンションよね?

「藍原先生に~、佐々木さんは~、渡しませんよぉ~?」

 梨沙ちゃんは楓ちゃんを後ろから羽交い絞めにして、えいっと押し倒した。そのまま……

 ぶちゅー。

「え……えええっ!?」

 梨沙ちゃん! いくらなんでもそれはやりすぎでは!? ど、どうしていきなり楓ちゃんの唇奪っちゃうかしら!?

「うふふー、佐々木さんの唇、やらかい~」

 こ、これはちょっと、たちの悪いタイプの酔っ払いでは?

「ひゃー、戸叶先生に唇奪われちゃいましたぁ」

 楓ちゃん、大の字になったままケタケタ笑ってる。……まあ、本人たちが楽しんでるなら、いっか。梨沙ちゃんはチューだけして満足したのか、隣のテーブルに去っていった。

「楓ちゃん、大丈夫?」

 一応聞いてみる。

「ふふ、大丈夫ですよ~、舌入ってませんから~」

 そうか、さすがの楓ちゃんも、舌が入ったらアウトなのね。
 そこに今度は看護師長の牧野さんが現れた。

「藍原先生。改めまして、よろしくお願いしますね」

 牧野さんはいつもきちっとしていて、お酒の席でも酔っぱらったのを見たことがない。あたしも思わず背筋をただす。

「はいっ、至らない点もあるとは思いますが、がんばります」
「戸叶先生も入りましたし、研修医もたまに回ってくるし、これで先生も楽になりますね? どうです、戸叶先生は?」
「ええ、すごく優秀だと思いますよ。仕事も効率よくこなすタイプで。スタッフとも、早速打ち解けてるみたいで……」

 いいながら、梨沙ちゃんを目で探して……愕然。り、梨沙ちゃんっ、何してんの!?
 あたしの視線を楓ちゃんが追って、きゃー! とピンク色の悲鳴を上げる。梨沙ちゃんは隣のナース席の奥のほうで、あろうことか、小野くんに! 四つん這いになって、チューしてる!?

「梨沙ちゃん、ちょっとあなた、酔っ払い過ぎじゃない!?」

 梨沙ちゃんはパッと離れると、にこ~っと笑った。

「だってぇ、佐々木さんだけにチューしたら、不公平じゃないですか~」

 なんですかその、酔っ払い特有のへ理屈は! そのままナース席に突撃して、片っ端からチューしまくってる。もうナースの女性陣からは、歓声のような悲鳴のような声が湧き上がって。はっとして見ると、牧野さんが眉を吊り上げてわなわなと震えてる……。ま、まずいわ!

「と、戸叶さんて、酔うとキス魔になるんですね……いやはや、要注意ですね。ああ、日常業務には差し支えありませんから、大丈夫です、師長!」

 とりあえず、できる限りフォロー。お酒の席でのことだし、女子同士ならまあおふざけってことで処理できるけど、確かに、男の人にまでチューはまずいわ。それに、小野くんは確か妻子持ち……。

「ちょっと、小野くん、何でされるがままにチューされてんですか……師長がめちゃ怒ってますよ」

 つつっと近づいて、小声で小野くんに一言。まさか、あんなに仏頂面で当たりの強い小野くんが、あっさり梨沙ちゃんとチューするなんて思わなかったし。小野くんはビールを飲みながら、いつものように涼しい顔で。

「何で俺が怒られるんすか。あっちが勝手にキスしてきたんだろ」
「そ、それはそうですけど、小野くん家庭持ちだし、男の人なんだから、阻止しようと思えば阻止できるじゃないですか」

 すると小野くんは、ふっと鼻で笑った。

「別に、阻止するほどのことですか」

 ええっ!? お、小野くんてば、そういう価値観の持ち主だったの!? い、意外だわ……! それはともかく、牧野師長が梨沙ちゃんをブラックリストに載せる前に、何とかしなきゃ……。梨沙ちゃんを探して振り返ると。

「ああっ! 梨沙ちゃん、そこはダメよっっ!」

 慌てて止めに入るも、時すでに遅し。梨沙ちゃんは、反対の端っこでマイペースに飲んでいる、西園寺先生に駆け寄っていった!

「西園寺せんせーい! これからよろしくお願いしまーっす! はい、お近づきの印に、ちゅー……」

 西園寺先生は日本酒片手にちらりと梨沙ちゃんを見やり。

「……何? 私とキスしたいの?」

 ひゃああっ、ダメよ梨沙ちゃん! 西園寺先生のスイッチが、入っちゃったじゃないの!
 ふらふらと近づいてくる梨沙ちゃんを見て、西園寺先生は日本酒を置くと。ぐいっと梨沙ちゃんの頭を引き寄せて、自分からキスをした!

「ひゃああっ、梨沙ちゃんっ、逃げてー!」

 止めに入ろうとした瞬間。ふたりの間から、ぴちゃ、ちゅく、と淫らな音が漏れてきて……

「んんッ……ん、ふ……」

 ああああッ、梨沙ちゃんの悩ましい声が……っ!! やだっ、どうして新歓コンパでこんな破廉恥な事態に!?

「さっ、西園寺先生っ、やりすぎですー!」

 あたしは梨沙ちゃんを押し倒すように間に割り込んで、何とかふたりを引き離した。

「あら、藍原先生。邪魔しないでくれる?」
「いやいや、邪魔するところでしょう! まったく、内科部長になった人がっ、なに悪乗りしてるんですかっ!」
「あら、戸叶先生のほうからキスしたいっていうから~」

 ああもう、この人まで小野くんと同じような言い訳を……!
 とにかく! 梨沙ちゃんは、元気で賢くて可愛い子。だけど、酒癖が悪くて、酔うとキス魔になる。……これは覚えておかないと、大変なことになりそうね……。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

妻がヌードモデルになる日

矢木羽研
大衆娯楽
男性画家のヌードモデルになりたい。妻にそう切り出された夫の動揺と受容を書いてみました。

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

就職面接の感ドコロ!?

フルーツパフェ
大衆娯楽
今や十年前とは真逆の、売り手市場の就職活動。 学生達は賃金と休暇を貪欲に追い求め、いつ送られてくるかわからない採用辞退メールに怯えながら、それでも優秀な人材を発掘しようとしていた。 その業務ストレスのせいだろうか。 ある面接官は、女子学生達のリクルートスーツに興奮する性癖を備え、仕事のストレスから面接の現場を愉しむことに決めたのだった。

♡ちょっとエッチなアンソロジー〜おっぱい編〜♡

x頭金x
大衆娯楽
♡ちょっとHなショートショート詰め合わせ♡

スカートの中、…見たいの?

サドラ
大衆娯楽
どうしてこうなったのかは、説明を省かせていただきます。文脈とかも適当です。官能の表現に身を委ねました。 「僕」と「彼女」が二人っきりでいる。僕の指は彼女をなぞり始め…

♡ちょっとエッチなアンソロジー〜アソコ編〜♡

x頭金x
大衆娯楽
♡ちょっとエッチなショートショートつめあわせ♡

小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話

矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」 「あら、いいのかしら」 夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……? 微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。 ※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。 ※小説家になろうでも同内容で投稿しています。 ※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。

処理中です...