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迷走編
46話【off duty】戸叶 梨沙 26歳:新歓飲み会(藍原編)
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「それでは改めまして、戸叶先生、入局おめでとう! これからよろしく! カンパーイ!」
新病棟長ということで、新内科部長の西園寺先生から指名され、乾杯の発声を取る。金曜日の夜は、どうしても弾けちゃう。居酒屋の座敷で、みんな思い思いに飲み始めた。
「藍原せんせーい! よっ、新病棟長! これからもよろしくお願いしまっす!」
早速楓ちゃんがやってくる。……楓ちゃん、もう顔が赤いけど、大丈夫かしら? ペース速すぎない?
「よろしく、楓ちゃん。何かあったら助けてね」
「もちろんです!」
楓ちゃん、今日はとっても機嫌がいいみたい。ニコニコしながらあたしにすり寄ってくる。
「あたしね、藍原先生と友達になれて、すっごく幸せですぅ~」
「どうしたの急に、楓ちゃんてば」
「先生の知らないところで、いろいろあったんですよ~。あたし、基本的に女って信用してないんですけど、藍原先生だけは~、もう完璧に信頼しちゃいます! 大好きですぅ~」
うれしいけど、楓ちゃん、ちょっと酔っぱらいすぎじゃないかしら? そんな楓ちゃんの背後から、梨沙ちゃんが抱きついてきた。
「何ですか、愛の告白ですかぁ~? いやん、先生たちデキてるんですかぁ?」
おっと、ここに楓ちゃんよりハイペースで酔っぱらってる女子が……。梨沙ちゃん、顔色は全然変わってないけど、これ、さすがに酔っ払いのテンションよね?
「藍原先生に~、佐々木さんは~、渡しませんよぉ~?」
梨沙ちゃんは楓ちゃんを後ろから羽交い絞めにして、えいっと押し倒した。そのまま……
ぶちゅー。
「え……えええっ!?」
梨沙ちゃん! いくらなんでもそれはやりすぎでは!? ど、どうしていきなり楓ちゃんの唇奪っちゃうかしら!?
「うふふー、佐々木さんの唇、やらかい~」
こ、これはちょっと、たちの悪いタイプの酔っ払いでは?
「ひゃー、戸叶先生に唇奪われちゃいましたぁ」
楓ちゃん、大の字になったままケタケタ笑ってる。……まあ、本人たちが楽しんでるなら、いっか。梨沙ちゃんはチューだけして満足したのか、隣のテーブルに去っていった。
「楓ちゃん、大丈夫?」
一応聞いてみる。
「ふふ、大丈夫ですよ~、舌入ってませんから~」
そうか、さすがの楓ちゃんも、舌が入ったらアウトなのね。
そこに今度は看護師長の牧野さんが現れた。
「藍原先生。改めまして、よろしくお願いしますね」
牧野さんはいつもきちっとしていて、お酒の席でも酔っぱらったのを見たことがない。あたしも思わず背筋をただす。
「はいっ、至らない点もあるとは思いますが、がんばります」
「戸叶先生も入りましたし、研修医もたまに回ってくるし、これで先生も楽になりますね? どうです、戸叶先生は?」
「ええ、すごく優秀だと思いますよ。仕事も効率よくこなすタイプで。スタッフとも、早速打ち解けてるみたいで……」
いいながら、梨沙ちゃんを目で探して……愕然。り、梨沙ちゃんっ、何してんの!?
あたしの視線を楓ちゃんが追って、きゃー! とピンク色の悲鳴を上げる。梨沙ちゃんは隣のナース席の奥のほうで、あろうことか、小野くんに! 四つん這いになって、チューしてる!?
「梨沙ちゃん、ちょっとあなた、酔っ払い過ぎじゃない!?」
梨沙ちゃんはパッと離れると、にこ~っと笑った。
「だってぇ、佐々木さんだけにチューしたら、不公平じゃないですか~」
なんですかその、酔っ払い特有のへ理屈は! そのままナース席に突撃して、片っ端からチューしまくってる。もうナースの女性陣からは、歓声のような悲鳴のような声が湧き上がって。はっとして見ると、牧野さんが眉を吊り上げてわなわなと震えてる……。ま、まずいわ!
「と、戸叶さんて、酔うとキス魔になるんですね……いやはや、要注意ですね。ああ、日常業務には差し支えありませんから、大丈夫です、師長!」
とりあえず、できる限りフォロー。お酒の席でのことだし、女子同士ならまあおふざけってことで処理できるけど、確かに、男の人にまでチューはまずいわ。それに、小野くんは確か妻子持ち……。
「ちょっと、小野くん、何でされるがままにチューされてんですか……師長がめちゃ怒ってますよ」
つつっと近づいて、小声で小野くんに一言。まさか、あんなに仏頂面で当たりの強い小野くんが、あっさり梨沙ちゃんとチューするなんて思わなかったし。小野くんはビールを飲みながら、いつものように涼しい顔で。
「何で俺が怒られるんすか。あっちが勝手にキスしてきたんだろ」
「そ、それはそうですけど、小野くん家庭持ちだし、男の人なんだから、阻止しようと思えば阻止できるじゃないですか」
すると小野くんは、ふっと鼻で笑った。
「別に、阻止するほどのことですか」
ええっ!? お、小野くんてば、そういう価値観の持ち主だったの!? い、意外だわ……! それはともかく、牧野師長が梨沙ちゃんをブラックリストに載せる前に、何とかしなきゃ……。梨沙ちゃんを探して振り返ると。
「ああっ! 梨沙ちゃん、そこはダメよっっ!」
慌てて止めに入るも、時すでに遅し。梨沙ちゃんは、反対の端っこでマイペースに飲んでいる、西園寺先生に駆け寄っていった!
「西園寺せんせーい! これからよろしくお願いしまーっす! はい、お近づきの印に、ちゅー……」
西園寺先生は日本酒片手にちらりと梨沙ちゃんを見やり。
「……何? 私とキスしたいの?」
ひゃああっ、ダメよ梨沙ちゃん! 西園寺先生のスイッチが、入っちゃったじゃないの!
ふらふらと近づいてくる梨沙ちゃんを見て、西園寺先生は日本酒を置くと。ぐいっと梨沙ちゃんの頭を引き寄せて、自分からキスをした!
「ひゃああっ、梨沙ちゃんっ、逃げてー!」
止めに入ろうとした瞬間。ふたりの間から、ぴちゃ、ちゅく、と淫らな音が漏れてきて……
「んんッ……ん、ふ……」
ああああッ、梨沙ちゃんの悩ましい声が……っ!! やだっ、どうして新歓コンパでこんな破廉恥な事態に!?
「さっ、西園寺先生っ、やりすぎですー!」
あたしは梨沙ちゃんを押し倒すように間に割り込んで、何とかふたりを引き離した。
「あら、藍原先生。邪魔しないでくれる?」
「いやいや、邪魔するところでしょう! まったく、内科部長になった人がっ、なに悪乗りしてるんですかっ!」
「あら、戸叶先生のほうからキスしたいっていうから~」
ああもう、この人まで小野くんと同じような言い訳を……!
とにかく! 梨沙ちゃんは、元気で賢くて可愛い子。だけど、酒癖が悪くて、酔うとキス魔になる。……これは覚えておかないと、大変なことになりそうね……。
新病棟長ということで、新内科部長の西園寺先生から指名され、乾杯の発声を取る。金曜日の夜は、どうしても弾けちゃう。居酒屋の座敷で、みんな思い思いに飲み始めた。
「藍原せんせーい! よっ、新病棟長! これからもよろしくお願いしまっす!」
早速楓ちゃんがやってくる。……楓ちゃん、もう顔が赤いけど、大丈夫かしら? ペース速すぎない?
「よろしく、楓ちゃん。何かあったら助けてね」
「もちろんです!」
楓ちゃん、今日はとっても機嫌がいいみたい。ニコニコしながらあたしにすり寄ってくる。
「あたしね、藍原先生と友達になれて、すっごく幸せですぅ~」
「どうしたの急に、楓ちゃんてば」
「先生の知らないところで、いろいろあったんですよ~。あたし、基本的に女って信用してないんですけど、藍原先生だけは~、もう完璧に信頼しちゃいます! 大好きですぅ~」
うれしいけど、楓ちゃん、ちょっと酔っぱらいすぎじゃないかしら? そんな楓ちゃんの背後から、梨沙ちゃんが抱きついてきた。
「何ですか、愛の告白ですかぁ~? いやん、先生たちデキてるんですかぁ?」
おっと、ここに楓ちゃんよりハイペースで酔っぱらってる女子が……。梨沙ちゃん、顔色は全然変わってないけど、これ、さすがに酔っ払いのテンションよね?
「藍原先生に~、佐々木さんは~、渡しませんよぉ~?」
梨沙ちゃんは楓ちゃんを後ろから羽交い絞めにして、えいっと押し倒した。そのまま……
ぶちゅー。
「え……えええっ!?」
梨沙ちゃん! いくらなんでもそれはやりすぎでは!? ど、どうしていきなり楓ちゃんの唇奪っちゃうかしら!?
「うふふー、佐々木さんの唇、やらかい~」
こ、これはちょっと、たちの悪いタイプの酔っ払いでは?
「ひゃー、戸叶先生に唇奪われちゃいましたぁ」
楓ちゃん、大の字になったままケタケタ笑ってる。……まあ、本人たちが楽しんでるなら、いっか。梨沙ちゃんはチューだけして満足したのか、隣のテーブルに去っていった。
「楓ちゃん、大丈夫?」
一応聞いてみる。
「ふふ、大丈夫ですよ~、舌入ってませんから~」
そうか、さすがの楓ちゃんも、舌が入ったらアウトなのね。
そこに今度は看護師長の牧野さんが現れた。
「藍原先生。改めまして、よろしくお願いしますね」
牧野さんはいつもきちっとしていて、お酒の席でも酔っぱらったのを見たことがない。あたしも思わず背筋をただす。
「はいっ、至らない点もあるとは思いますが、がんばります」
「戸叶先生も入りましたし、研修医もたまに回ってくるし、これで先生も楽になりますね? どうです、戸叶先生は?」
「ええ、すごく優秀だと思いますよ。仕事も効率よくこなすタイプで。スタッフとも、早速打ち解けてるみたいで……」
いいながら、梨沙ちゃんを目で探して……愕然。り、梨沙ちゃんっ、何してんの!?
あたしの視線を楓ちゃんが追って、きゃー! とピンク色の悲鳴を上げる。梨沙ちゃんは隣のナース席の奥のほうで、あろうことか、小野くんに! 四つん這いになって、チューしてる!?
「梨沙ちゃん、ちょっとあなた、酔っ払い過ぎじゃない!?」
梨沙ちゃんはパッと離れると、にこ~っと笑った。
「だってぇ、佐々木さんだけにチューしたら、不公平じゃないですか~」
なんですかその、酔っ払い特有のへ理屈は! そのままナース席に突撃して、片っ端からチューしまくってる。もうナースの女性陣からは、歓声のような悲鳴のような声が湧き上がって。はっとして見ると、牧野さんが眉を吊り上げてわなわなと震えてる……。ま、まずいわ!
「と、戸叶さんて、酔うとキス魔になるんですね……いやはや、要注意ですね。ああ、日常業務には差し支えありませんから、大丈夫です、師長!」
とりあえず、できる限りフォロー。お酒の席でのことだし、女子同士ならまあおふざけってことで処理できるけど、確かに、男の人にまでチューはまずいわ。それに、小野くんは確か妻子持ち……。
「ちょっと、小野くん、何でされるがままにチューされてんですか……師長がめちゃ怒ってますよ」
つつっと近づいて、小声で小野くんに一言。まさか、あんなに仏頂面で当たりの強い小野くんが、あっさり梨沙ちゃんとチューするなんて思わなかったし。小野くんはビールを飲みながら、いつものように涼しい顔で。
「何で俺が怒られるんすか。あっちが勝手にキスしてきたんだろ」
「そ、それはそうですけど、小野くん家庭持ちだし、男の人なんだから、阻止しようと思えば阻止できるじゃないですか」
すると小野くんは、ふっと鼻で笑った。
「別に、阻止するほどのことですか」
ええっ!? お、小野くんてば、そういう価値観の持ち主だったの!? い、意外だわ……! それはともかく、牧野師長が梨沙ちゃんをブラックリストに載せる前に、何とかしなきゃ……。梨沙ちゃんを探して振り返ると。
「ああっ! 梨沙ちゃん、そこはダメよっっ!」
慌てて止めに入るも、時すでに遅し。梨沙ちゃんは、反対の端っこでマイペースに飲んでいる、西園寺先生に駆け寄っていった!
「西園寺せんせーい! これからよろしくお願いしまーっす! はい、お近づきの印に、ちゅー……」
西園寺先生は日本酒片手にちらりと梨沙ちゃんを見やり。
「……何? 私とキスしたいの?」
ひゃああっ、ダメよ梨沙ちゃん! 西園寺先生のスイッチが、入っちゃったじゃないの!
ふらふらと近づいてくる梨沙ちゃんを見て、西園寺先生は日本酒を置くと。ぐいっと梨沙ちゃんの頭を引き寄せて、自分からキスをした!
「ひゃああっ、梨沙ちゃんっ、逃げてー!」
止めに入ろうとした瞬間。ふたりの間から、ぴちゃ、ちゅく、と淫らな音が漏れてきて……
「んんッ……ん、ふ……」
ああああッ、梨沙ちゃんの悩ましい声が……っ!! やだっ、どうして新歓コンパでこんな破廉恥な事態に!?
「さっ、西園寺先生っ、やりすぎですー!」
あたしは梨沙ちゃんを押し倒すように間に割り込んで、何とかふたりを引き離した。
「あら、藍原先生。邪魔しないでくれる?」
「いやいや、邪魔するところでしょう! まったく、内科部長になった人がっ、なに悪乗りしてるんですかっ!」
「あら、戸叶先生のほうからキスしたいっていうから~」
ああもう、この人まで小野くんと同じような言い訳を……!
とにかく! 梨沙ちゃんは、元気で賢くて可愛い子。だけど、酒癖が悪くて、酔うとキス魔になる。……これは覚えておかないと、大変なことになりそうね……。
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