妄想女医・藍原香織の診察室

Piggy

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恋愛編

37-1話【off duty】新條 浩平:遊園地(藍原編)④

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「ねえ先生、怖いの行ける?」
「え、怖いって、ジェットコースターじゃなくて?」
「じゃなくて、お化け屋敷とか」
「! それって、暗いやつよね? 無理無理無理」
「あはは、先生暗いの苦手なの? 可愛いね」

 そうじゃなくて……。暗いのはいいんだけど……暗いと、間違いなく、いろいろと、考えちゃうでしょ? 暗くて怖いなんて、そんな恋人同士のためにあるようなアトラクションは、あたしたちには不向きだと思うのよ!

「ねえ、俺がついてるからさ、行こうよ、あれ」

 新條くんが指さしたのは……乗り物型の、お化け屋敷。もちろん、二人乗り。

「ああっ、あれは、一番危険なやつだわ! 絶対無理なやつ!」

 さすがに、あれに乗るわけにはいかない! 暗くて怖くてふたりきりで、しかも逃げ場がない乗り物系で密着なんて、これはもう危険な予感しかしない! だって、何しても、誰にも見られないのよ……? ……いろいろ、したくなっちゃうじゃない? ……うん、危なすぎる、絶対回避しなきゃ!

「えー? じゃあさあ、あっちのお化け屋敷なら行ける?」

 今度は、歩いて進むタイプのお化け屋敷。……新條くん、そんなにお化け屋敷に入りたいの? どれだけ怖いもの好きなのかしら……。

「……あ、あれもちょっと……」
「大丈夫だよ。さっきのと違って真っ暗じゃないし、怖くなったらダッシュでクリアすれば」

 確かに、乗り物のよりは、いざというとき逃走できるけど……それでも……。

「ね、行こ!」

 ぐいと腕を引かれて、結局行くことになった。……あたし、本当は、怖いのも苦手。無事乗り切れるのかしら……。
 暖簾をくぐって、一歩中に入る。

「う……っ」

 新條くん、嘘ばっかり。普通に真っ暗じゃないの!
 ひゅ~どろどろ、ってありがちなBGMが流れてて、足元もおぼつかない中を進む。

「ちょっと、新條くん、どこ……?」

 ……怖い。ひとりぼっちになったような気がして、両手を前に伸ばす。

「ここだよ」

 すぐ前で、新條くんの声がした。洋服に触れた。

「お、置いていかないでよ?」

 服の端を掴んで、離れないようにする。そしたら……新條くんがその手を取って、自分の手の中に握った。手をつなぐ形になる。ドキッとした。新條くんの手は、温かくて、大きくて、安心感がある。
 手をつなぐのは、まずいわ。あたしたち付き合ってないし、お隣さんだし、患者さんだし。
 そう思ったけど、怖さには勝てなかった。結局、新條くんに手を引かれながら前へ進む。
 先のほうで、女の子たちの悲鳴が聞こえてきて、ビクッとする。何があるのかしら、そんなに怖いのかしら……? やだよー、もう何も見たくない。早く終わって……。
 大きな新條くんの背中を使って視界を遮断しながら進む。これなら安心。だと思ったのに……。

 ジャーーーン!

 すごい効果音とともに、あたしの真横から血だらけの幽霊が飛び出してきた!

「きゃああああっっ!」

 思わず新條くんの背中に抱きつく。

「うわっ、先生、どうしたの。大丈夫だよ、人形だよ」
「わ、わかってるけど、怖いものは怖いのよ!」
「ははは、先生、やっぱり可愛い」

 新條くんが笑いながら、うっかり彼の腰に回してしまったあたしの手に、自分の手を重ねた。

「先生、離れないでね?」
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